第32話 現場急行


時刻は再び十四時。


二十四時間ぶりに三人はホテル・アクィラへ辿り着いた。


空の旅の間中爆睡していた三人は、タクシーの扉が開くや否や駆け出し、ドアマンが慌てて開けるのを突っ切って、フロントに突撃した。


「い、如何なさいました?」


フロントマンが後ろに仰け反りながら尋ねる。

パジーがフロントの上に着陸すると、警察手帳を引っ張り出して口火を切った。


「警察だ。昨日の事件で人を探してるんだが、ここのスタッフの……」


と言った途端、パジーが顔を歪めた。


「くそ、名前も顔もしらねェじゃねぇか!」

「この声です!この声の人いますよね⁉」


シバが自分の口を指差しながら伝える。


「あー、マヤのことでしょうか?確かにお声がそっくりで……」

「そいつ、今どこにいる?どこ担当だ」

「……少々お待ちください」


フロントマンは事務室へ引っ込んだが、すぐに戻ってきた。

大変遺憾という気持ちを表情で表す仕草が板についていた。


「生憎ですが、マヤは本日出勤しておりません……」

「出勤してないだぁ?」


パジーが叫ぶ。


「申し訳ありません。無断欠勤でして、こちらでも連絡もついておらず……」

「なら、住所を教えてもらえますか?」


ナイラが動じずに頼んでから、二人に向き合って言った。


「昨日私たちに接触してきたくらいだもん。まだここにいる方が不自然」


もう一度事務室に戻ったフロントマンは、住所が書いたメモを持って戻ってきた。

シバが受け取ったそれを全員で覗き込む。


「イズミ東区レンズシード……」


ナイラが小さく呟く。


「クソッ、トンボ返りかよ!」


パジーが再び悪態をついた。


「しかも、レンズシードってかなりの田舎じゃないですか?確か、最寄りのゴンドラで降りても、そこから車で一時間はかかります」


シバが焦って言った。


「仕方ねぇだろ、行くしかねぇ。撤収だ野郎ども!」

「行ってらっしゃいませ……」


 恐縮しながら頭を下げるフロントマンに、シバが手を振って言った。


「ご協力ありがとうございました!」



   ◇



シバたちが目的の場所まで急行している間にも、窓の外の日はみるみる傾き、赤みを帯びていく。


まるで世界がタイムリミットを見える形にして、嘲笑っているかのよう。

三人は地上でタクシーに乗り込むと、人々が家路につく中を逆走し、人気のない方向へ向かった。


タクシーの窓を開けると、徐々に自然の匂いが強くなっていく。

街を抜け、森を抜け、ようやく現れた広大な丘には、一軒の家、というより小屋がその頂上に建っていた。


「本当に田舎だったね。途中からすれ違う人もいなくなった」


ナイラが車を降りながら感嘆する。


「足がねぇと帰れなくなるな。おっちゃん、ここで待っててくれ。二十分程度で戻ってくる」

「あいよぅ」


気前の良い返事をする運転手を丘の裾野付近で置いて、三人は外に出た。


小屋は木造の瀟洒な作りだが、周りの原っぱは生えっぱなし。

脇に積まれた薪は痛み切り、道具は錆び、人の住んでいる雰囲気はしない。


シバが小屋の前に立ち、二人の用意が整うのを待つ。

パジーが上に飛び立って、裏口や横からの脱走に備える。


ナイラもシバから離れたところで、一瞬ヘッドホンを外し、物音を確認してから、シバに頷く。


シバが小屋の扉をドンドンと強くノックした。


「すいませーん!」


返事はない。

が、すぐにギィと苦しむような音を立ててドアが開いた。


その先にいたのは、シバとどことなく顔立ちの似た男だった。

額には医療用ガーゼが貼られている。怪我をしているようだ。


「どちら様」


どこか陰気ながら、彼の口からはシバと瓜二つな声が出た。


「リート・マヤさんですね。警察です」

「警察……?」


彼は突然、バカにしたように笑い始めた。



――――――――――――――――――――


次話、マヤと対峙します。





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