第17話 教皇様


そのとき、玄関の方からコンコンとドアを叩く音がした。


「おや、またお客さんかな。少し待ってて下さいね」


ヤマトは子供部屋を開けっぱなしにして、玄関に向かっていった。

その後、十秒もしない内に、彼の素っ頓狂な叫び声が家中に響いた。


「えっ!メルク様⁉どうして我が家に……!」


何事だろう。


三人が小部屋の扉から見てみると、浅い灰色のローブを着た男女が玄関前に立っていた。


三十前後の背の高い男と、その後ろに控える妙齢の女性。彼女は尺のようなものを手にしている。


シバが息を呑んだ。


「そんなまさか……!」

「なんだ?誰だあれ?」


パジーが頭をひねる。


「教皇メルク様!ハコガラ教の創始者ですよ!」

「あー、あれが例の」


パジーが納得したように羽を叩いた。


「ホンモノ初めて見たわ。そこそこいい男だな」


「私も名前は知ってる。近所の人が礼拝に行くから」

「え、二人とも礼拝行ってないんですか⁉」


シバが驚愕の表情をすると、パジーとナイラが顔を見合わせた。


「うん、刑務所にいたからよくわかんない」ナイラが率直に答える。

「俺はフワッとした物にはもう関わんねえって決めてんだ」パジーは含みのある言い方をした。


「そうですか……。よく効くのに……」


シバが残念そうにしている間、玄関では、彼らとヤマトの会話が続いていた。


「先日、西区本部の司祭から、ヤマトさんのお悩みを聞きまして」

「いや、確かにお話はしましたが、まさかメルク様がここまでいらっしゃるとは……。とにかく、お入りください。小さな家ですが」


メルクと呼ばれた男は家に上がると、小部屋の先のシバたちに目を止めた。


「おや、ご家族の方ですか?娘さんと二人暮らしと聞いたのですが」

「いえ、こちらは警察さんで」

「えぇっ⁉」


その瞬間、


パァン――!


メルクは後ろの女性に尺で思い切り尻を叩かれた。

一同が目を点にする。


「イタタ……。いえ、お気になさらず。修行の一環なので」

「ケツバット修行なんて聞いたことねぇぞ……」パジーが呟く。


メルクは、オドオドしながら頭を下げた。


「警察の皆さん、お勤めご苦労様です。本日はどのようなご用件でいらっしゃったのですか?例えば、わ、私を捕まえに来たとか――ッオォウ!」


再び女性に尻を叩かれる。


「なんだよ、なんか思い当たることがあるのか?」

「おや、鳥のお方。いえ、そうではないのですが……」


メルクが頭を掻くと、後ろの女性があっけらかんと答えた。


「メルク様はとても臆病で繊細なのです。人がぶつかってくればこちらが謝ってしまう。警察と目が合えば何か法に触れてしまったに違いないと考える……」


「お前、一番偉いんだろ?そんなナヨナヨしてていいのかよ」

「私は創設者ですが、ただの未熟な人間ですから……」


メルクが尻をさすりながら、どこか儚い、自嘲気味の苦笑いを見せた。


「そういう自分を変えるため、動揺するたびにこうして叩いてもらっている次第なんですが、いや、お恥ずかしい」


「あの女の人、どういう立場……?」ナイラが面食らいながらシバに囁く。

「中央本部の司教ハルネリア様です」シバはうっとりとした顔で言った。「メルク様の補佐をよくしてる方で、ナンバーツーと言われてます」


「そちらは、何かの捜査で?」ハルネリアが物腰柔らかにシバに聞く。

「はい、昨日の誘拐――むぐっ!」


シバの口がナイラとパジーに抑えられた。が、手遅れだった。



――――――――――――――――――――


次話、教皇の特殊能力を紹介します。





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