第14話 ファーマーズハウス


三人が地上に再び降り立った頃には、西の空が赤く染まり始めていた。


ホテル・アクィラの裏から見下ろした広大な草原は、来てみると、市街地からずっと離れた場所にあった。

きっと一時間もしないうちに、辺りは漆黒の闇に包まれるのだろう。


草原には、果てが見えないほど大きく張り巡らされた柵と、ぽつんと建つたった一件のログハウスがあった。


シバがドアをノックすると、中から男性の返事が聞こえる。ドスドスと家を揺らすような足音が近づいてきて、扉が開く。

髭面の熊のような男がエプロン姿でそこにいた。部屋からは温かな料理の匂いがする。どうやら晩御飯の準備をしているようだ。


「おや、どちらさん?店ならちょうどさっき閉めたところでね」


彼は鷹揚に三人に伝える。


「警察です。少しお聞きしたいことがありまして」

「うぇ?」彼は目をぱちくりさせて言った。「脱税なんてしてませんよ」

「なんかボロが出そうじゃねぇか」


パジーが悲しそうな顔をした。


「いえ、捜査中の事件について、何か見聞きした方を探してまして」

「あぁ、そうなんですね。よかった」

「あー、それと伝話鳥貸してくれ。閉店した後にすまんが」


パジーが当然のように話し出すと、髭面の彼はひっくり返らんばかりに驚いた。


「えぇっ!鳥が鳥を借りる⁉」

「うるせぇな!いいだろ別に!」

「は、はい。わかりましたけど。……メスの方がいいですかね?」

「俺はお見合いしに来たんじゃねぇ」


パジーが不貞腐れるのを彼は驚嘆した顔で見ていたが、やがて家の中にいる誰かに声をかけた。


「ルルちゃん!お客さんだから少し出てくるよ!」


返事は返ってこなかったが、彼は何事もなかったかのように三人に振り向いて言った。


「じゃあ、ご案内しますね。こちらです」



   ◇



「伝話鳥って、何」


店主のヤマトが飼育小屋の扉を開けている間、ナイラが尋ねる。

すると、シバとパジーが勢いよく振り向いた。


「お前知らんのか!」パジーが驚く。

「え、うん……」

「伝話鳥は、話した内容を覚えて、繰り返すように訓練された鳥のことです。行き先はペアになってる専用のボールを使って覚えさせれば、もう片方がある場所まで行ってくれます」

「へぇ、手間がかかるね」

「便利ですよ?」

「……やっぱお前、空育ちなんだな」


パジーが唐突に呟く。

すると、ナイラは俯いて黙ってしまった。


「え、じゃあお金持ちじゃないですか!」シバが大声で叫ぶ。

「そうとは限らねぇよ」パジーがナイラの表情を伺いながら言う。「空にも色々ある」


空育ちと言われた瞬間から、ナイラの顔はサッと青ざめていた。

そんな彼女を刑事の目で眺めながら、パジーが先ほどの伝話鳥の説明に付け足しをする。


「あのな、地上には共鳴器みたいな高価なものはそうそうねぇんだよ。メッセージを伝えるには、直接会うか、手紙か、伝話鳥か、この三択。その中なら、伝話鳥が一番早くて便利だから、地上の人間はよく使うんだ」

「そうなんだ」

「こっちに擬態したいなら、覚えとけ」

「うん……」


小屋が開くと、動物の匂いが辺り一面を席巻した。

ヤマトに続いて、中に進む。


「さて、どの種類にしますか?速達伝話鳥か、普通のか……、うわッ――!」


突然、ヤマトが声を上げた。

目の前の大きな鳥小屋で、鳥たちが木でできた格子に取りつき、シバに向かって羽を広げたり鳴き喚いていた。

まるで、全員がシバに向かってアピールしているかのようだ。


「どうしたどうした。そんなに興奮して」

ヤマトが驚きながら鳥たちを宥めようとしている。


「またお前か?」

パジーがシバを振り向くと、シバが頭をかいて苦笑いした。


「本職、なぜか動物に好かれるんですよね。あ、種類は普通のでお願いします。予算ないので」


飼育小屋には、伝話鳥の他にも、たくさんの動物たちが住んでいた。

主には乗り物としてや荷運び用としてなど、人の役に立つための動物たちだ。


ヤマトが鳥小屋から持ってきたのは、小さなサイズの伝話鳥だった。シバの手に掴ませると、彼はつぶらな瞳を誇らしげに光らせてシバを見る。

選ばれなかった伝話鳥たちは、嫉妬でギャーギャーと大騒ぎして醜い有様だった。


「餌等は全て持たせていますから、ただ伝言を覚えさせて飛ばせば大丈夫です」

「ありがとうございます」


その時、


キューッ――!


床から聞き慣れない鳴き声がした。



――――――――――――――――――――


次話、あまりにも不憫なことになります。





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