第13話 銀の羽


「イッッテェ――!はぁ???」


パジーが憤慨した。


「何勝手に抜いてんだよ!」

「ほっほ」

「ほっほじゃねぇ!一から十までおかしいだろこいつ!俺やだ!」


パジーがナイラの肩から離れ、警戒心剥き出しで老人から離れた別の階段へ避難する。

老人はほっほと笑いながら元いた場所に腰掛けると、シバたちを見上げて言った。


「それで、お兄さんたちこそ、こんな場所で何をしてるの」

「本職たちは今日起きた事件の――」

「シバ!」


パジーの鋭い声が後方から飛んできた。


「……散歩です!」

「随分地味な散歩コースだね」


老人は酒瓶を手に取り、グッと呷る。


「しかし、人の歩まない道にこそ面白い発見があるものだよ」

「格言っぽい……」ナイラが呟く。

「目を覚ませ、サボリバイトの戯言だ。なぁ、もう行こうぜ」


パジーは疲れたように言った。なるべく早く去りたがっているのが声色でわかる。


「最後に、昨日今日は何か変なもの見ませんでした?午前中とか、それ以外の時間でもいいんですけど」

「いやぁ、特に。……あぁ、だけどこんなもの拾ったよ。綺麗だろう?あげんよ?」


カンが、鳥たちの間から銀色に光る何かをシバに渡した。

それは……羽だった。

異様に光沢があり、掌の大きさを超えるほど立派だ。


シバがしげしげと観察してから顔を上げた。


「これ、どういう鳥ですか?」

「いやぁ、知らんよ。少なくとも、ここら辺に飛ぶ鳥じゃあないね」


シバはパジーのことをじっと見る。


「俺のどこにそんな色があんだよ。大きさも全然違うだろ」パジーが不機嫌そうに返す。


すると、シバは突然周囲を歩き回り始めた。

脈絡もなく、空を見上げ、床を見下ろす。その動作を繰り返す。


「おーい、おかしいのが伝染したか?」


パジーが声をかけても、振り向きもしない。聞こえていないようだ。


数分の間そうしており、ナイラとパジーが心配し始めた頃、突然シバは地面に伏せ、床の一点を凝視しながら叫んだ。


「二人とも!これ、血じゃないですか?」

「あぁ?」


パジーとナイラが近寄る。

シバは黒いタイルの一枚を指差している。


「ここの小さい染みです。ほとんど乾いてるけど、まだ新しい」


そう言いながら彼がその小さな点に触れると、指の腹に赤い液体がわずかに付着した。


「本当だ」隣で跪いたナイラがシバの指を見て呟く。

「お前よく気づくな。床と同色で、しかもたった一滴だぞ」ダズが舌を巻く。

「この血、もしかして本職と一緒に転けたときですかね?唇を切ったとか」


シバが二人を見て言う。


「怪我をしてる可能性はあるよ。悪い事してるときほど、不測の事態が起こるものだから。……経験上」


ナイラが最後の一言を小声で付け足す。

シバは座り込んだまま、次はカンから受け取った銀の羽をジロジロと眺め始めた。


「この羽も大きすぎませんか?大型の猛禽類以上です」

「それなんだよ。あるとしたら作り物か、あるいは」


パジーが心底嫌そうに顔を顰めた。


「俺らと同類か……」

「鳥類系のミックスが飛んで逃げた、ってこと?」


ナイラが訝しがる。


「だとしても、もし犯人が一人なら、被害者の体重を支えきれないはずだよ。すごいトレーニングを積んだ人でも、落下のスピードを殺し続けて、真下に軟着陸するのがせいぜいだと思う」


三人は顔を見合わせると、同時に床の端から下界を見下ろした。

天空から見る木々や家はアマチュア模型のように小さい。


シバが前方の地上を指差して言った。


「あの広い草原は……ファームですかね?」

「あー、恐らくそうだな。ゴマつぶみてぇなのは飼われてる動物だろう」


パジーは若干の期待を孕んだ声で言った。


「……目撃者がいるかもな」

「なら行ってみますか。ファームならちょうど用もありますし」

「そうだな。他に手がかりもねぇし」


薄い糸だが、手がかりを得た。

シバは立ち上がると、カンに羽を返しに行きながら言った。


「カンさんのお陰で、次の行き先が決まりました」

「そうかい。まぁ散歩するなら見どころのある場所の方がいいしね。こんな裏口にいるのは焼き鳥好きのババァくらいさ」

「……え?ババァ?」

「何も聞いてない何も聞いてない!早く行くぞ!」


パジーに背を押され、一行はその場を後にした。



――――――――――――――――――――


次話、あきらかになにか隠してるやつが登場します。





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