第3話 雨

 朝6時。


 目覚ましが鳴る。


 俺はむくりと起きる。


 身支度を整えて朝食を作り、家族が出かけるのを横目に俺は7時半には家を出る。


 家を出た後すぐに江島と合流する。


 別に頼んだわけでもないのにこいつはいつも俺にくっついている。


 しばらく天気とか今日の授業の事とか他愛のない話をする。


 江島は可愛いし、実際他の男子に告白されたこともある。


 その時は俺に相談された。


 俺はなんかむかつくから断ればいいときっぱりと言った。


 それからというもの、こいつは俺と一緒に登下校と昼食を食べている。


 学校ではこいつと俺の関係を揶揄する声もあるが、別にこいつとはそういう関係じゃない。


 腐れ縁だ、腐れ縁。


 でもなんかなぁ。


 「ん?なんだ、私の顔になんかついているのか?」


 「お前、俺と一緒にいて飽きないか?」


 「別に?」

 

 「他の女子と話せばいいだろ」

 

 「私クラスの女子とは会話が合わないんだよね」


 俺があーと生返事しようか微妙なところなので変に間延びした声で返事をする。

 

 「化粧とかファッションとか別に興味ないし、私にはバスケとお前がいればいいさ」


 そうやって屈託なく笑う彼女に俺は少しだけドキリとする。

 

 俺は失恋して、幼馴染に付きまとわれて、気だるい日常をおくっている。


 まぁそこまではいい。


 俺は俺の横で鼻歌を歌う江島を見る。

 

 ほんと、こいつ顔は綺麗だな。


 「じゃあ、またお昼に」


 「あぁ」


 俺は少しだけ俺を振った女である月島茲に思いを馳せる。


 凛々しくて、自分にも他人にも厳しくて、でも笑うとドキリとする。


 俺は告白するときまではなんだか強い女性というものにあこがれを抱いていた。


 支えというより、自分のことを引っ張ってくれるような、そんな存在のことが気になっていた。


 まぁ後輩で生徒会に入ったばかりで忙しい彼女は恋というものにうつつを抜かしている暇などないし、思えばその人と俺は別にどこにも接点がなかった。


 ほとんど口をきいてもいないのに告白って失敗するに決まっているということはなんとなくわかっていた。


 うーん、こうして考えると俺は惚れっぽい性格なのかもしれない。


 反省。


 部活も特に頑張ってもいないし、勉強もどこか上の空だ。


 せめて成績優秀で部活でなんかいい成績を残せればいいと思うんだが。


 うん、ちょっと頑張ってみるか。


 俺を振ったことを後悔させてやるくらい部活(剣道部)と勉強に打ち込むのも悪くないかもしれないな。


 放課後には雨が降っていた。


 俺は折り畳み傘を持ってきてはいたのだが、江島が傘を忘れたらしい。


 「相合傘でもいいか?」


 「う…………うん」


 雨が傘をたたき、独特な静寂の時が流れる。


 「えへへ」


 なんかこいつ顔が赤くなっているが、大丈夫か?

 

 俺はなんかの本で読んだとおり江島を車道側に寄せないように気を付けて、時々水たまりが車にはねられて飛び散るが俺はさりげなく防ぐ。


 江島は無口だと美人だ。


 「なぁ琢磨」


 「ん?」


 「私のこと迷惑じゃないか?」

 

 「なんだ藪から棒に」


 じっと俺を見つめる江島。


 「迷惑ではないが、たまには一人がいいなぁと思う時がある。ただそれだけだ」


 「そ……そう」


 「江島は俺の大切な友人だろうな、ここまでくると」


 「友達でいいのか?」


 「友達じゃなきぇ傘なんか貸さねぇよ」


 「それもそっか」


  うつむいた彼女の頭を俺は優しく撫でる。


 「これからもよろしくな」


 「うん!」


 こうして俺の日々は何気なく過ぎていく。


 …………今度の放課後あのパン屋に行こうかな(下心100%)。


 

 

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