引きこもり読書する

 しばらく、なにを読めばいいのか悩む。

 ライトノベルは昔好きだったが読み始めるとシリーズで延々と続いて面倒だし、かといってシリーズが打ち切りになると悲しい。だいいちいまどきの若いひとたちの感性と同じ感性を持っているか自信がない。

 かといってガチの文学は好きではない。そこまで賢くないからだ。

 中学のころ美術部の悪い仲間に無理くり読まされたボーイズなんとかもいまでは読む気なんかしない。なにか読みたい本を探さねばならない。

 そう思っているとアユムくんから迎えに来てほしいとメッセージが来た。ちょっと早めだ。なにかあったのか心配しつつ迎えにいくと、アユムくんは至って元気そうな顔をしている。


 帰り道、


「なにか嫌なことあった?」


 と聞くと、


「なんにも? みんなこれくらいの時間に帰ってるよ」


 とのことであった。

 あまり長居すると迷惑かも、と思ったのだろう。とにかく帰ってきて、


「最近なにか面白い本読んだ?」


 と聞いてみる。アユムくんは黙って自分の部屋から、ハヤカワ書房の出しているジュニアSFを渡してくれた。


「アユムくん、SF好きなんだ」


「うん。未来とか、宇宙とか、そういうの好きだよ」


 なるほど。


「ちょっと借りていい? 読んでみたい」


「いいよ!」


 というわけで、その日はススムが帰ってくる夜8時まで黙々と小説を読んだ。ススムが帰ってきて、ご飯を用意して食べて、お風呂に入って、その後も黙々と小説を読んだ。


 結果、3日ほどで借りた本をぜんぶ読んだ。アユムくんとここが面白いね、とかそういう話をして、また1人になったとき(厳密にはチビ太がいる)、スマホとキーボードと向かい合った。


 書きたい話は決まっている。

 楽園だ。エデンの園みたいな、果物のなる木があり、動物も人間も、幸せに暮らしている楽園。

 その楽園で暮らしていた主人公は、ある日どこか遠くからきた人、おそらく異星人に、外の世界に出てみないかと誘われる。楽園を出ることを躊躇したけれど、外に一歩踏み出せば、眩い世界が広がっていて……というお話だ。


 まるっきり、わたしの現状であった。


 いや、あの引きこもり生活を楽園というのは語弊がある。それでも主人公はその楽園に満足しているので、わたしもあの暮らしが嫌いではなかったのだろう。


 だから、そこから連れ出してくれたススムは、ある意味この物語の異星人なのだ。


 きっと楽園は楽園で居心地のよくないこともあるのだろう。そこは書かなかったがとにかく千文字書き上げた。

 しかしよそにお出しできるクオリティでないので、その日から毎日スマホとキーボードを相手にぶつかり稽古をしたのだった。

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