第2話 悪魔との邂逅 ②

ゲームはまだ序盤だが、木村は痺れを効かせ声を荒げた。

「ええい、お前は無駄な説明が多過ぎる!とっとと先をやれ!」

木村は、イライラを拗らせしきりに貧乏揺すりをしている。


「では…次行くとしましょうか?では、ルーレット!」

ケット・シーは、ペースを乱さず呑気にルーレットを回させた。


仮面の男が、ルーレットに玉を投入した。


玉は、勢い良く回転し木村の名前の上に止まった。


「では、木村様~!」

ケット・シーは、無邪気な声で手招きし木村を案内した。



木村は、すごろく板の上まで歩いてくると、仮面の男からサイコロを受け取り勢い良く転がした。

サイコロの目は、3で止まった。


「ええと、悪魔について。元は、平和や平等、空知を司る天使だったが、天界を追放されて悪魔だったのは…何だよ、クイズばかりじゃねぇか!もっと、こう、アクション的なのは、ないのかよ?」

木村は、退屈そうに問題文を読み上げ深々とため息ついた。

「木村、これは、プレイヤーの心理を揺さぶるゲームだ。あえて、こちらを焦らしイラつかせ、絶望の穴に突き落とす。今まで、見てきたろ?」

俺は、木村向かって平静を保つように促した。この、ニヤついたケット・シーの思うツボだと思ったからだ。


「あ、ああ…まあな。ええと、A コカビエル、Bフェルネウス、C クランプス、マニアック過ぎるぜ…流石の俺も、ちんぷんかんぷんだ…」

木村は、角刈り頭をボリボリかいて眉間に皺を寄せていた。ガタイが良く健康そうな肌をしているが、今までの彼からして、知識を問う問題は、どうも苦手らしい。


「木村さん、Aです!Aが正解です!」

山田は、再び助け舟を出した。

彼は、色白で華奢な体つきをしているが、異様にマニアックな雑学に詳しく頼りになる。

「Aだな…?Aで良いんだな…?」

木村は、半信半疑で山田に念押しした。


山田は、二度強く頷いた。


「間違ってたら、祟ってやるならな…!ええい、Aだ!」



「では、正解は…ドゥルルルルル…」


ケット・シーは、ふざけたように舌を丸め続けた。


10秒程の重い沈黙が流れた。さっきの藤原の件で、俺たちの頭には深い恐怖と絶望が流れた。

全身から、汗が滝のように迸るー。


ケット・シーは、ニヤついた口元でじっと木村を見ているー。


心臓が、バクバク鼓動したー。


「大正解!答えは、Aのコカビエルでした!」


ケット・シーは、パンパン手を叩き、再び無駄丁寧に不要な解説を長々とし始めた。

「コカビエルは、旧約聖書偽典 「エノク書1」に おいて天使として描かれるものの、グリゴリと 呼ばれる堕天使の一団に加わり、 悪魔に変わっ てしまいました。もともと彼は、 人間、 平静、 そして空 を愛する高位の天使で、他の天使たちに星に関 する全てのことを教える役割を持っており、 加 えて30万を超す天使と霊魂を率いていました。

しかし、 何らかの理由で天国から追放され、罪 深い悪魔に、 そして人間の魂にとって恐ろしい 存在になってしまったとされています。」


木村は、深くため息をつくと、がクリと床にへばりついた。

「山田、助かったぜ…俺、Cを選ぶところだった…やばい、身体の力が抜けてきた…」


「では、次は…」


ケット・シーの合図と共に、仮面の男がルーレットに玉を転がす。

玉は、勢いよく回転し、


江崎の上に落ちた。


「江崎様。」



江崎と呼ばれた男は、がに股で両ポケットに手を突っ込みすごろくの上まで歩いてきた。


「次は、何なんだ?クイズなら承知しないぞ?」




江崎は、恐る恐るサイコロを振った。



サイコロはクルクル回転し、4で止まった。


「金の卵を取れ?何だそれ?これから出てくるドラゴンを撃墜し卵を奪還せよ?何だ…良かった…ゲーセンや射撃でよくやってきたんだよ…」


江崎は、胸を撫で下ろす。

仮面の男が、彼にライフルを手渡す。


20メートル先に、金の卵が浮かび上がった。


「では…制限時間は、5分とさせていただきます。」

ケット・シーは、胸ポケットから懐中電灯型のストップウォッチを取り出すとスイッチを押した。


「よっしゃー、かかって来やがれ!」

江崎は、少し間合いを取るとライフルを構えた。



目の前の床から三体ドラゴンが出現し、口から炎を吐き出した。


彼らは、翼をバタバタし宙を舞う。口から青、赤、オレンジといったそれぞれの色の炎を吐き出した。


江崎は素早い身のこなしで、弧を描き旋回してくるドラゴンを避けながら銃を連射した。


ドラゴンらは、怒り狂い江崎に襲いかかるー。



「オラオラオラオラ!」


江崎は、力任せにライフルを打ち続けた。



弾丸は、次々とドラゴンの手足に命中した。


「くっそー、まだ胸部と頭部に命中してない…」


時間は、残り1分を切っていた。



「やった!金の卵だ!」


江崎は、素早い身のこなしで

炎を吐き続ける三体のドラゴンを掻い潜り、卵をゲットした。



「ええと、最後に、月元さん…」


ケット・シーに呼ばれるや否や、俺はすごろく板の前まで歩くと仮面の男からサイコロを渡された。俺は、サイコロを振った。

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