異世界の英雄は夜空を見上げる

神木真

英雄の誕生

 君とまた夜空を見れるなら。俺は、どんな事だってしてやる。

 俺は、君とたった一回しかないこの人生を、過ごしたいから。

 その為だったら何だってしてやる。たとえ間違った選択だったとしても。


 

 「お…ろ…起き…ろ」と誰かの声が聞こえて、目が覚める。誰が俺を見下していた。そこに綺麗な美少女が居たら良かったのだが。残念ながら、そこに居たのは、少し長い茶髪をしたイケメンでしかも部活はバスケ部の陽キャ、明らかに俺とは正反対の男、勇気光ゆうき ひかるだった。

 ただし馬鹿だ。

「なんの用だ?」

 起こされたので、少し気分が悪い。

「なんだその言い方は、せっかく俺がお前を起こしに来てあげたのによ」

 時計を見ると、確かに今起きなければ、学校に間に合わない時間だった。

「そうか、ありがとうな」

 まだ重い体を持ち上げて答える。

「はいよ」

 光は、だるそうに答えると立ち上がった。

「ほら、行くぞ学校だ」

「ああ、そうだな」

 俺は、少し寝ぼけながら答えて、急いで制服に着替える。

「あれっ?ドアが開かないぞ?」

「そんな訳、どうせまた扉を押してるんだろ?それ引き戸だからな?」

 光は、バカすぎる故に一回だけ、同じ事をしたことがある。しかし光の家のはずなのだが。

「いや、引いてるってお前やってみろよ」

 少し焦りながら言われるので、着替え終わって、俺も行こうとした時。部屋中に甲高い音が鳴り響いた。

「なんだ?今の音」

 その時、床に陣の様な物が出来ていた。

「何これ何これ!?」

 俺は、焦る光に「落ち着け」と焦りながら伝える。

「とりあえず、この部屋から出れる方法はないか?」

「窓とか?」

 俺が、窓を調べようとした時とした時、またあの甲高い音が鳴り響いた。



 周りの風景がガラッと変わって中世風の石造りの建物に、変わっていた。周りに人が数十人ぐらい居た。

 二人は、その中の真ん中に座っている状態だった。

「ここは?」

 困惑した様子で、光と俺は、辺りを見渡す。

 すると、辺りから、おお、成功だ!などの歓喜の声が聞こえる。

「あのー、ここはどこですか?」

 光が困惑しながら訊く時、前方にあった扉が勢いよく開いた。

「勇者はどこだ!」

 大柄で少し長い白い髭を生やしていて、どことなく威厳を感じる大柄の男が現れた。白髪ショートなのは年老いているからだろう。

 筋肉が恐ろしいほどあるが、見た目的には、五十代後半と言った所か。

 男が驚いた様子でこっちに寄ってくる。

「どっちが勇者なのだ?」

 と、物珍しいそうな物を見てる様な目をしながら、訊いてきた。

 そう訊いてくるが、俺らには確認の仕方を知らない。それを察したのか男は喋り出した。

「すまない、こっちのやり方をお主らは知らんのだったな、ステータスと言ってみてくれ」

 男は、少し落ち着きを取り戻した様だ。

 そう言われると俺達は、なんとなく意図を汲み取って、ステータスと言う。

「ステータス」

 そう言うと、俺の目の前に透明だが、少し青みがかった、薄い何かが出てくる。そこには、筋力などの横に数字が書いていた。

 ザザッ。

 なんだ今の音?

 俺は自分の何かが変な音と共に、少しブレた事に違和感を持つ。

「それは、そうと勇者ってどうやって確認するんだ?」

 俺は、さっきの違和感を気にせず訊く。

「名前の横に職業が書いておらぬか?」

 そう言われ俺は、職業を確認すると……

 無かった、俺のには職業自体が。

「俺です」

 と、光がそう言うと、男は嬉しそうに言った。

「そうかお主が勇者か、ならお主ら付いてきなさい」

 俺達は、大人しく付いて行った。



 道中、王様らしき人物の絵があった。先程の大柄の男も同じ顔だった。

「全部一緒の顔じゃん、もしかして同一人物だったりするのか?」

 そんな気楽な事を言う光に対して、俺は呆れながらも答える。

「な訳、そんなん不老不死か神以外にしか、出来ないだろ?」

「確かに」

 頷きながら答える光に対して、俺は呆れて、何も言えない代わりにため息を吐いた。

「着いたぞここじゃ」

 さっきの絵と一緒の顔をした男は、大きな鳥に剣がクロスしている大きなドアの前まで、俺らを案内した。

 すると、男はドアを開けて一人で中に入って行く。その後扉は無慈悲にも閉じた。

「この扉を開ければいいんだよな?」

 俺は頷く。

 光がドアを思いっ切り押した。

「重た!」

 光は相当重たかった様で、かなり力を入れてるのが見て取れる。光で無理なら俺じゃ無理だろう。

 俺は光を手伝う為に、ドアの前まで行く。

「俺の合図で押すぞ」

 光が頷いた。

「せーの!」

 すると、ゆっくりとだが、ドアが開く。

「なんでこんな重くしたんだ!」

 俺は扉を、押しながら愚痴る。それは光も感じているようで「それな!」と同意した。

 ようやく扉を開いた時、二人共息が上がっていた。

 十七歳が開ける扉じゃない。重たすぎる。

 さっきの男は前方にある、豪華な椅子に座っていた。やはり王なのだろうか?と俺は考える、だがそんな事は、今はどうでもいい。

 少し深呼吸してから男に訊く。

「訊きたい事がある、家に帰る事はできるのか?」

 俺は、ずっと考えていた疑問を、希望を男に訊く。唐突かもしれない、だが居ても立っても居られなかった。

 その時、男は申し訳なさそうに謝罪した。

「すまない、お主らを元の世界に返すことはできぬ」

 そう言われると俺達は絶望した。いや、俺がの方が正しいかもしれない。

「もう家に戻れないんだな?」

 声は小さくして聞こえるか、どうか怪しい程度の声で言った。いや、出せなかった。

 だが、それもまるで聞きたくないのかの様に光が遮った。

「何故、俺たちをこの世界に呼んだ?」

 光は、最も俺たちが疑問だった事を訊いた。

「それは魔王を討伐して欲しいからじゃ。ついでに言うと、魔王を倒せばお主らは元の世界に帰れるぞ」

 俺は、一瞬何を言っているか分からなかった。

「魔王を倒せだと?ふざけんな、なら光だけで良いじゃないか?何故、勇者でもない俺を呼んだ?」

 俺は、思わず声を上げた。

「すまない、それは我々のミスだ」

 俺は、理解するのに数秒を要した。

「ミスだと?」

 俺は、一歩前進する。

「ふざけるな、お前らのミスで召喚した癖に魔王を倒せだと?馬鹿馬鹿しい。俺は参加しないぞ!それに死ぬべきは、魔王よりお前達だ!他人を利用するお前達が!光を利用して隠れるお前達が!」

 俺は、男に殴りかかる様な勢いで、更に怒鳴り前進する。その瞬間、周りの兵士達の空気がピリッとした。

「これも神様からのお導きだろう、お主も戦うが良い」

 駄目だ、こいつには話が通用しない。

「それより、何故僕たちをこの部屋に呼んだんですか?」

 光は、俺の肩に手を置いて俺を止めた。

 珍しく冷静だ。

 いつもだったら、怒ってると思うのだが。

 もしかして、内心楽しみなのか?

「実は、前々から仲間を集めておってな、もう来ているだろう、その仲間と会わせようとしてな」

 すると、男が「出てこい」と、少し大きな声で言うと、男の左右の壁にあったドアから、左右一人づつ出てくる。

「これだけ?」

 まさか、勇者と共に冒険したい人がこんなに少ないとは。

「えっと、なんで?」

 光が、さぞ不思議そうに訊く。

「危険な旅には出たくないと、言う者が多くての」

 俺もなのだが?と、思ったが言っても無駄なので、心に留めておく。

「名前を教えてくれない?そこの二人共」

 なんか、光の性格変わってないか?と思えるほど、光が少し爽やかだった。まあ、気の所為だろう。

「私は、シノ・マリーです。よろしくお願いします」

 と、金髪ショートに修道服を着た少女が、名乗った。

 修道士とかなんかだろうか?背は普通で、容姿はかなり整っていた。

「私は、クリス・ローゼよ。よろしく」

 と、黒髪で髪型はロングで背の低く、目がルビーの様に赤く綺麗だった、魔女の様な服装をした少女が名乗った。中学生か?

「俺は、勇気光です。よろしくお願いします」

 俺は、それに続いて名乗る。

「俺は、影之真かげの しんです。よろしくお願いします」

 間髪入れずに、言葉が飛んできた」

「自己紹介も終わった所で良いかのう?」

 そう言うと男は近くに居た、兵士に耳打ちする、すると兵士は「了解しました」と返事した。

「ちょといいか?あんたの事、なんて呼べばいいんだ?」

 光が急に戻った気がした。一瞬辺りの空気がピリッとした。

「ああ我か?我はアルコーン・グノーシスだこの国の国王だ」

 やはりあいつは、王だった。そんな事を思っていると、さっき耳打ちしていた兵士がこっちに寄ってくる。

「付いてきてください」

 そう言うと兵士が、扉へ向かい開けたまま、手招きする、俺らはそれに従い付いて行く。

「なんで、あんなに軽々しく扉を開けれんだ?凄えな」

 光が、驚く素ぶりを見せた。



 少し歩いた後、俺達は扉の前で止まった。

「ここは?」

 俺は、少し嫌な予感を感じながら訊いた。

「ここは武器庫です」

 どうやら、嫌な予感はこれだった様だ。

「は?俺は、戦うつもりは無いぞ?」

 俺は、今ならと思い少し強めに言う。

「でしたら、私達は何も支援しませんよ?右も左も分からない状態で、過ごしてみます?」

「はあ?呼び出しミスったのは、そっちだろ?」

 俺は、若干怒鳴り気味で答える。

「価値の無い奴に支援するつもりはありません、支援して欲しいなら、自分の価値を示しなさい」

 と、男は冷静に無慈悲に伝えてきた。

 怒りが込み上がってきた。

「お前らのミスだぞ!価値が無いのはそっちだろ!」

 もう俺は、怒鳴っているだろう。

「好きに捉えてもらって構いません、我々は王に従うだけですから」

 俺は、無理だ、洗脳されてる、と思い諦める。

「ああ、分かったよ!行けば良いんだろ?行けば!」

 俺は、半ばヤケクソで言うと、光が「元気出せよ」と慰めてくれた。

 これではいつもと役割が反対だ。と思いため息を吐く。

「仕方ない入るか」

 そうして、俺達は武器庫に入った。


 入った瞬間声が聞こえた「我を取れ」そう聞こえる。

 武器庫に入ると、窓は無く暗かったが、かろうじて見えた。

 武器と防具が沢山あったが、俺はそんな事にも目をくれず、声の方向へと向かう。

 道中何か言われた気がするが気にしない。

 俺が、声がするところに行くとそこには……

「剣?こいつが喋っているのか?」

 俺は、真っ黒な剣を凝視する。黒以外の面積がないのだ。

 すると、剣からまた声が聞こえた。

「そうだ、我が喋ったのだ」

 俺は、驚いて思わず後ずさりする。

「お前は何者だ?」

 と、少し警戒しながら訊く。

「我の名は魔剣グラムだ」

 その時、兵士がこっちに寄ってきた。

「それは辞めた方が良いですよ、多くの人が試してみましたが、びくともしませんでしたので」

 俺は無視する。単純に言う通りするのが、嫌だったからだ。

「さあ我を持つが良い、そして我を解放するがいい!」

「持ってやるよ」

 俺は、魔剣グラムを持つと、兵士は、かなり驚いていた様子を見せた。

 俺は、鞘から剣抜いて少し振る、不思議と手に馴染んだ。刀身までもが黒かった。

 正直、剣を取ったのは少し兵士に見返してやりたかった、ってのはあった。

「これにする」

「わ、分かりました」

 と、兵士が、少し焦りながら言った。

 兵士は手続きが必要なのか、出口付近に行き、別の兵士に耳打ちする。その後は光の方に行った。

「ついでに防具も貰って行くか」

 すると、またグラムが喋り出した。

「我が選んでやろう」

「えー?お前にわかんの?剣でしょ?」

 俺は、疑いの目を向けた。

「失礼だな?分かるに決まってる」

 そう言ってからの、グラムは素早かった。

「そうだな、あのコート良いぞ」

 など、自分に合った防具を見繕ってくれた。



「こんなもんか?」

 俺は黒色のロングコートと中に、黒色の長袖のシャツを着て、下は黒色のズボンを穿く。黒色のブーツを履く。

「これ黒すぎね?」

「防具はオシャレでは無く性能だ」

「そうだけど……」

 厨二病みたいとは、口が裂けても言えない。

 そんな事をしていると、分厚い銀色の防具を着た光が着替え終わった様で、部屋の中に入ってきた。

「何?厨二病再発?」

 と、光が笑いながら言ってくる。

「そんなんじゃない、性能で良いのが、これしかなかったんだよ」

 俺は、必死に弁解する。

「そうだねー」

 と、光が棒読みしてくる。かなりうざい。



 部屋を出ると意外にも、金の入った袋と地図を渡されて、仲間と一緒に国から追い出される様に出た。

 ちなみに光が、持ち前のコミュ力で敬語を使うシノを下の名前で呼ばせる事に成功している。敬語ではあるが。

 相変わらず、コミュ力だけは、凄い奴だ。

「なんだよー、もうちょとぐらいよ、居させても良いのによ、なんだよ、早く行け、とかよお前らが呼んだんだろって」

 俺は激しく同意して頷く。だがあっち側の事も分からなくわない、確かに出来るだけ早く旅に行って欲しいのは、分かる。

 だが納得いかない。

「そんな事言っても、仕方ないですよ」

 最もな意見だろうな。

「シノ、それは分かってるだけど、少しぐらい居ても良いよな、真もそう思うだろ?」

 それはそうだと思い、俺は頷く。

「そんな事言ってる暇があるなら、さっさと行くわよ」

 そうクリスが言うと、俺は思い出して、地図を取り出す。

「何してんの?なんでインベントリに入れてないのよ?」

「インベントリ?なにそれ?」

「本当に知らないの?真」

 俺が頷くと、クリスは大きくため息を吐く。

「インベントリって言ってみてそしたら、画面が出てくるから、そこにアイテム入れたらいつでも出し入れ出来るのよ」

 どうやら、青みがかった透明な奴は、画面と言うらしい。

「そんな便利な機能があったのか」

「王様も教えてくれたらよかったのにな」

 名前を聞いておいて、名前では呼んでいないようだ。

 俺は頷く。

 だが、余りにも早く出て欲しかった為か。そのせいで時間が無かったのだろう、と自己完結する。

「それよりこれ見てくれ」

 俺は、さっき取り出した地図を見せる。

「ご丁寧に魔王城までの道のりが載ってるんだ、この地図によると、ここから一番近い町がここだから行ってみよう」

 俺が、そう言うと皆同意してくれた。

 その後、インベントリに、お金と地図を、入れた。



「入れない?どういう事だ?」

 俺らは、町には着いたものの、町には入れていなかった。

「だから、さっきから言っております、勇者様は魔物を惹きつけるので、町には入れられませんと」

 そんな訳はない、もしそうであっても、町の人達でも十分太刀打ち出来る数だった筈だ。

「さっき俺らも戦闘してきたが、そこまで苦戦する量じゃない」

 光が、そう言っても兵士は首を横に振るばかりだ。

「もういい、諦めよう」

 俺が、そう言うと、光は引き下がった。


「これからどうする?」

「魔物が来ない事を祈りながら、野宿だろうな」

 俺は、不貞腐れながら答えた。

 俺達は、旅早々壁にぶつかった感覚だった。長い沈黙が流れる。

 重い空気に耐えられなかったのか、シノが話を切り出した。

「それよりご飯にしませんか?」

「そうだな」

 光は、そう言うと立ち上がりインベントリから、木の枝などの焚き火に必要な素材を、取り出した。

 こんなものどこで手に入れたのかと思ったが、それよりも大事な事があるので訊かないでおく。

「で?食料は?」

 俺が、そう訊くと光が笑って答えた。

「それはこれから」

 光が、言葉を続ける。

「どうする?」

「どうするも何も、探すしかなくね?」

 俺がそう答えると、光が「それもそうだな」と答えた。

「じゃあ二組で行動するか、俺とクリスで一組目、シノと光で二組目いいか?」

「私はそれで良いわよ」

「俺も」

「私もです」

「じゃあ、食料集まったらここに集合で」

 そうして俺らは、別々に行動する事になった。



「あんま見つかんないな」

 俺達は、クリスの魔術を駆使して探しているが、中々見つからない。

「仕方ないわよ、ここら辺は大体食べれる魔物居ないからね」

「となると、食べれる物がないぞ?」

「あるよ」

 後ろから、子供ぽい声が聞こえた。

「なんか言ったか?」

「何も言ってないわよ」

 俺は、気の所為かと思い、気にしない事にした。

「あれ食べれるよ」

 また、聞こえた。気の所為なんかじゃない。

「悪ふざけはやめろよ」

 俺は、歩くの一旦辞めて、クリスの方へ振り向いた。

「だから、言ってないわよ」

 言っていないらしい、だがこの状況ではクリスしか居ないと思うのだが。

「違うよお兄さん、ここだよここ」

 今度は上から聞こえた。上に視線を移そうした時、上から小さい羽の生えた小人が降りてきた。

「誰だ?」

「誰と話してるのよ」

 と、不思議そうにクリスがそう言った。

「誰って、ここに小さい羽の生えた、小人がいるだろう?」

「なに言ってるのよ誰も居ないわよ」

 どうやらクリスには見えないらしい。すると小人が喋り出した。

「私はね、精霊だよ」

 と、無邪気に笑って精霊が喋った。

「精霊?なんだそれ」

「精霊は精霊だよ!」

 と、精霊は元気に答える。

「精霊とは、自然を守る守護者の事だ」

「なんだ、グラム知ってるのか?」

「もちろんだ、そもそも我は森に住んでいて、よく精霊と話していたからな」

 そこで、俺は一つの疑問が浮かび上がる。

「ん?グラム森に住んでたのに、なんであそこに居たんだ?」

 俺がそう訊くと、グラムの機嫌が悪くなった気がした。

「それは、あの忌々しい人間共が、木に刺さっている我を、あいつらは木を削ってその後、持てないからって、地形操作で我をあそこまで連れて行きやがったんだ、一生忘れない」

 グラムは、本気で怒っている様子だった。少し言葉使いが荒い。

 だが、流石グラムと言った所か。直ぐに冷静になった様だ。

「話が脱線してしまったな、話を戻すと精霊は、火の精霊、風の精霊、地の精霊、水の精霊、光の精霊、闇の精霊、そして時の精霊がいる。その中でも時の精霊はたった一体しかいない。そして噂によると時の精霊は、精霊でもあり神でもあるらしい、真実は定かではないがな」

「それがなんで、俺にしか見れないんだ?」

「分からない、この世界の者は見れないはずだが、もしかしたら転移して来たからかも知れない」

 グラムでさえ分からない様だ。

「クリスは、何か知らない?精霊の事」

 クリスは、口元に手を当てた。

 少し考え込んだ後、結論が出た様だ。

「一つだけあるわ」

「本当か?教えてくれ」

「とある童話で、精霊を見れる者が居たの、そして精霊と契約出来たらしいわ」

 すると、精霊が元気よく喋りだした。

「そうなの、契約するの!」

「契約?どうするんだ?」

 すると、精霊は首を傾げる。

「分かんないの」

「え?じゃあなんで契約しに来たんだ?」

 俺は、首を傾げる。

「一族の教えがあるんだよ」

「何て?」

「うんとね、感じが良い人には契約しておいた方が良いって、一族の教えなんだよ」

 もっと良い、伝え方があっただろと、思いつつ、考える事に集中する。

 俺と、グラムが悩む。グラムなら知ってると思ったんだが。

「クリス何か知らないか?契約の仕方」

 クリスはまた、口元に手を当てた。

「そうね、確か、契約してって言って精霊が許可したら、契約完了だった気がするけど」

 そんな簡単で良いのだろうか。

 すると精霊は目をキラキラさせながら「早く、早く」と急かしてくる。

「分かったよ。

 精霊、俺と契約してくれないか?」

 少し、違和感があるがこれで良いのだろうか?

「契約する!」

 と、精霊は元気良く答えた。

「これで良いのか?」

 俺は、首を傾げる。

「恐らくな、真の体から、風の精霊の力を感じる」

「感じる?どういう事だ?」

「おそらく契約する事で精霊の力を得られるんだろう、数が多かったら力の量が増えるだろう」

 どうやら、あんな仕方でも大丈夫らしい。

「なるほど」

 すると、辺りから物音が聞こえた。

「誰だ!」

 俺は、振り向く。

「グルル」

 そこには、威嚇しながら、近づく白色の毛を生やした狼型の魔物達が居た。

「クリスやれるか?」

「誰に言ってるのよ」

 と、クリスは自信満々に言った。

「試してみる、チャンスかもな」

 不思議と使い方は分かった。

 俺は風を凝縮させるイメージをし、それを左手から解き放つ。

 すると、前方の一匹の魔物の体の周りに無数の傷を与えた。

「……弱くね?」

 その弱さは、小石投げた方が良くね?と思わせる程だった。

「何してるのよ」

 そう言った後、クリスは、よく分からない言葉を発すると、クリスの周りから火の玉の様な形をした物が一つ放たれた。

 一匹の狼を、丁度良い具合に焼いた。

「これなら食べれるでしょ?」

 クリスは、魔物を食料としか思っていない様だった。

 俺もそうだが。

「確かに、意外と美味しそうだな」

 俺は、そんな事を言いながら魔物を一匹を殺す、他の魔物も飛びついて殺そうとしてくる。

 だが俺は全て避けて、もう一匹首を切って殺す。

 返り血を盛大に浴びてしまった。

 一匹だけで逃げる魔物も、出来るだけ傷つけない様に殺す。

 丁寧に殺す、大事な食料なのだから。

「これで、終わりかな?」

 その時体が軽くなるのを感じた。それと同時に疲労と返り血も消えた。これが俗に言うレベルアップなのだろうか?

 俺は、ステータスを確認する。

「……なあ、これって最初は俊敏しか上がらないのか?なんか俊敏だけ150上がってるだけど、おかしくないよな?」

 俺は心配しながら訊くと、案の定クリスはかなり驚いていた。

「俊敏だけ150も上がったって?」

 俺は頷く。

「あのねステータスってのはね、その人の合った上がり方をするの、例えば魔術師だったら魔力が上がったりね、でもね一個だけってのはないの、分かる?ましてや上昇値が150もだなんて」

 つまるところ、俺が異常なのか。

 上昇値は恐らく、ステータスがどれだけ上がったかの数値だろう。

「嘘だろ?ちなみに普通の上昇値どれくらいなんだ?」 

「大体35から45よ多くても60よ」

 俺は、自分がどれだけ異質なのかを、そのたった一言で理解した。

「とりあえずこの魔物達を連れて行こう」

 クリスは頷く。

 俺達は、魔物をインベントリに入れた。

「道中で食べれる物でもながら行こう」

 クリスは「そうね」と同意した。



 集合場所に着くと先に光達が着いていた。早速俺達に気付いた様だ。

「そっちは何取れた?」

 目を輝かせながら、光はこっちを見てくる。

「狼みたいな魔物と、山菜少しだけ」

「うまそうだな」

 魔物を取り出して、見せてから、戻す。

「そっちはどうなんだ?」

 すると少し申し訳なさそうに、シノが答える。

「水と魚だけです」

「だけって、かなりの収穫じゃないか?何処で手に入れたんだ?」

「そうでしょうか?」

 話を聞くと、どうやら森の中に川があったらしい。


「んじゃ昼飯作りますか」

 と、光が元気良く喋った。

「お前料理できないだろ」

 と、俺が言うと訳のの分からない呻き声を上げた。

「お前だって出来ないじゃん」

「俺は、料理作ろうとしてないじゃん」

 俺が、そう言い返すと光が「くぬぬ」と呻き声を上げた。

 本当は、料理出来るのだが、言わない方がいいだろう。

 すると、シノが優しく声を掛けてきた。

「まあまあ、お二人は大人しくそこで座っていてください」

 シノが指定した場所で、俺らは大人しく座って待つ。

「と、言っても鍋とかが無いので、期待はしないでくださいね?」

 と、言われても期待はしてしまう。

 俺は、その間に木から丸椅子を作る事にする。精霊の力を試す為だ。



「何作ります?ローゼさん」

 シノは食材を見ながら、訊いてきた。

「敬語じゃなくていいわ、それにクリスで良いって言ったでしょ?」

 すると、シノは申し訳なさそうに謝った。

「ごめんね、忘れてたよクリス」

「謝んなくて良いわよシノ、それよりも何作るか決めましょう?」

「そうで、だね」

 シノは、まだ抵抗がある様だ。

「この魔物を無難に焼くのはどう?」

「そこに、山菜も加えると良いかもね」

 二人は、早速料理に取り掛かる。

 焼く為に真の風を利用した。肉を風で浮かせたのだ。その最中に山菜を魔術で切っておいた。

「これで良いか?」

「はい、ありがとうございます」

 丁度良い具合に焼けた。

 後は、肉に山菜をかけて完成だ。

 ちなみに、皿は地の精霊力を使い木で皿を作られている。

「これにこれをかけて完成!」


「名付けて、魔物ステーキ山菜添えよ」

 名前は置いといて、二人は俺らに料理を渡す。

 光が待ちきれなかった様で、早速食べ始めた。

「うまい!真も食ってみろよ!」

 俺も、早速食べ始める。

「美味しい」

 料理を作った二人は、さぞかし嬉しそうに笑った。

「良かったです」

 その後四人で楽しく談笑した。俺があの中に入って話すのは、ちょと申し訳なかったった。

 俺は偽物だから、この体は盗んだ物だから。

 


 気が付けばもう夜になっていた。

「今日はここで野宿するか」

「今思ったけど、どこで寝るんだ?」

 俺は、インベントリから、何かを取り出す。

「これを使う」

 俺が、出したのは、テントだった。

「なんでこんな物が?」

「なんかインベントリに入ってた」

「な、なんだと?欲しい」

 光は、驚いている様子だった。無理もない。俺も驚いているのだから。

「そんな事より準備しよう」

「そうだな」


 俺ら四人は、途中トラブルがあったもののなんとか、テントを三つ作れた。

「クリス達は、一人づつテントに入ってどうぞ」

 俺は、クリス達にテントを譲る。

「ありがと」

「俺の意見は?」

 と、光が駄々をこねた。

「訊いてないけど?」

「なんでだよ。まあ、別に良いけどさ」

「なら良いだろ?」

 俺達二人の掛け合いを見て、クリス達は笑っていた。

 俺を、除いて皆テントに入っていた。

 その間、俺は寝ないで周りを警戒していた。

「なんで、魔物除けとかないのかな?」

 思わず、愚痴を漏らした。

 すると、後ろから声が聞こえた。

「本当にね」

 思わず振り返る。

「なんだクリスか、驚かせるなよ」

 俺は、安堵して、グラムに触っている手を離す。

「寝れないの?」

「いや、違う周りを警戒してるだけ」

「なるほどね」と言ってクリスは頷く。

「でも、一人じゃ大変じゃないの?」

 と聞いてくるので、出来るだけ心配かけない様に答える。

「大丈夫慣れてるから」

 嘘ではない。一人は慣れてる。

「そう、じゃあ頑張って」 

 クリスはテントに戻って行った。

 意外と呆気なかった。

「なんだったんだ?」

 俺は、ため息を吐く。

「さて後どれくらいだ?」

 俺は、朝まで起きるつもりだ。



 朝になるまでに数回戦闘があった。

 俺は、またレベルが上がった。

「今回も俊敏だけか」

 これって後半即死なのでは?考えただけでも寒気がしてきた。

「おはよー」

 光は、あくびをしながらテントから出てきた。

 その後にシノ、クリスと言う順番で出てきた。

 朝食取って、俺は地図を広げた。

「今日は、ここに行く」

 俺は、次の町を指す。

「でもまた厄介払いされるんじゃないの?」 

「俺に考えがある」

 俺は成功すると確信していた。



「結構遠いな」

 俺らは、段々と長い道のりで疲れ始めていた。が、俺は精霊と契約できたので、良かったと思ったが、心に留めておく。

「そろそろだよな?」

「多分」と、俺は曖昧な返事をする。

 しばらく歩いていると、森を抜け出した。

 そこには、広大な草原と目的地があった。

「でかいな」と光が驚く。

 それもそうだ。大きな町にグレー色の城壁が囲われてあるのだから、もはや国だ。

 俺は、そこで気付いた。

「ん?ここ一個後の場所じゃね?」

 どうやら、森の中で迷っていたらしい。

「どうりで遠いわけですね」

「三日も掛かる訳だ」

 と、光が不満そうに言った。

「そんな事より作戦を聞いてくれ」

 俺は、言葉を続ける。

「良いか、まず光以外の二人が町の中に入って食料や生活必需品、情報を仕入れる、その間に光達がレベルアップしとくってのはどう?」

 直ぐに、みんな同意してくれた。

「今回は俺が行く、他に行きたい人居るか?」

 するとクリスが手を挙げる。

「私行くわ」

「シノは?」

 シノは、首を横に振る。

「おけ、決まりだな。それで良いよな光」

「俺は良いぞ」

「じゃあ、行ってくる」

 俺は、そう言って、国の方へと歩いて行った。



「待て!身分を確認させてもらおう」

 中に入ろうとすると、門番の様な者がいた。

「どうすれば良いんだ?」

 俺は、小声でクリスに聞く。

「そこで何をしている!」

「すいません!」

 俺は、びびりながら謝る。

「見てなさい」

 そう言うとクリスは「ステータス」と発言した後。続けて「可視化」と発言した。

 すると、クリスのステータスが見えた。

「通って良いぞ」

 門番はクリスを通した。俺も付いて行こうとしたが、予想通り門番に止められた。

 門番は俺を睨みつける。

「身分を見せろ」

「分かったよ」

 俺は、ステータスを見せた。 

 だが、俺には一つだけ危惧していることがあった。職業と、ステータスを開く時に出る雑音だ。

 今の所俺と同じ様に雑音が鳴ってるのは、見たことがない。それ故に心配だったのだ。

 だが、それが無意味な心配だと直ぐに分かった。

「異常は無いな、通ってよし」

 意外と、すんなり入れたので少し驚く。

「あんま見てないんだな」

「そりゃそうよ、異常があったら色が変わる仕組みになってるのだから、いちいち細かく見てられないのよ」

 画面のスペックはかなり高い様だ。

「それだったら、光も通れたかもな」

「無理よ、勇者はステータス画面の色が変わるもの」

 どうやら、勇者は特別扱いらしい。

「ちょと訊きたいんだけど、どこに行けば情報が手に入るか知ってるか?」

 クリスは少し考えてから話す。

「そうねえー……酒場じゃない?」

 なるほど、確かに人は多そうだ。

「了解、そこにしよう」

 二人は歩き出したが、少し歩いてあることに気付いた。

「道分かるの?」

 そう訊かれて、直ぐに結論は出た。

「分かる訳ない」

 それもそうだ、初めて来た国だから分からなくて当然だ。

 クリスが、ため息を吐いた。

「まあ良いわ、周りの人達に聞きましょ」

 俺は頷いた。 



 私達は魔物達と戦っていた。

「ここら辺の魔物、最初と比べて強くなってるよな」

 そう、魔物の強さは明らかに上がっていた。

 だがまだ余裕はありそうだった。勇者だからなのだろうか?かなりステータスは高いらしい。

「油断しないでくださいね」

 それに対して光は「大丈夫、大丈夫」と言うが心配でしかない。理由としてはさっきから光は何も考えずに、突っ込んでいるからだ。

「心配だなあ」

 思わず声が洩れてしまったが、幸い聞こえていない様だった。

「今度はあっち行こう」

 魔物達を殺し終わったのだろう。魔物の姿は消えていた。次々と魔物を殺す姿は、まるで虐殺者の様だった。そんな事はあるはずないのに。


「一体何体狩れば気が済むんですか!?」

 かれこれ二時間以上は経っていた。

「え?そりゃあいつらが来るまでだろ?」

 光は首を傾げて答えた。

「一旦休憩です」

 すると少し嫌そうに「はあーい」と光が返事した。

 こんな人をいつも、真さんは抑えてたのか。とシノは真を心から尊敬した。だが、それと同時に早く帰って来て欲しいとも思った。



 その頃、真達は目的地にちょうど着いた所だった。

「ここか、なんでこんなに入り組んでるんだよ」

 俺達はかれこれ二時間ほど迷っていた。

 幸いにも住民が嘘付く事はなかった。多分。

「それより早く終わらそう、あっちも待ってるだろうし」

 俺達が酒場の中に入ると、中には強面の強そうな大柄な男達ばっかだった。

「ここからどう探せば良いんだ?クリス」

「知らないわよ」

「知らないのか?ならそんな感じの奴探すしかないか」

 俺達は、酒場の中を歩き回って情報持ってそうな人を探した。

 すると、フードを深く被っていて顔があまり見えない、明らかに怪しい者がいた。

 絶対こいつだ。

「あの、ちょと良い?」

 俺達は、怪しい者に話しかけた。

 すると、睨んできた気がする。

「なんか用?」

 声的に男だろうか?

「情報が欲しい」

 俺はそのまま訊く。少し慌てていたのかも知れない。

「なんの情報だ」

 幸い合っていたらしい。

 すると、クリスが真っ先に質問する。

「聖剣の場所は?」

 聖剣?ゲームとかで良く見るあれだろうか?

「なぜ、そんなことを訊く?」

 確かに、それだと勇者に関係ある者とバレてしまう。直ぐに引き返そうとした時、クリスは驚いた事に強気な姿勢だった。

「あなたは客の情報を取るの?安心して金は払うわ」

 男は少しため息を吐いたが、説得には成功した様だ。

「すまない確かにそうだな。その代わりと言っちゃなんだが、代わりに無料で提供してやる」

 まさか、これで無料になるとは、本当に良いのだろうか。

「いいか一回しか言わないぞ、ここからずっと北西に向かうと森があるんだが、そこはどんな魔物が寄り付けない。どうしてだかわかるか?」

 俺達は首を横に振る。

「どうしてだ?」

「聖剣があるからだ、壊せば良いと思うだろ?聖剣は壊れないんだ。しかも、そこにいる魔物は大抵近づくだけで死んでしまうんだ、聖剣が放つ力に。しかも森には精霊がうじゃうじゃいるとかいないとかな。まあただの噂だ」

 なるほど確かにあり得る話だ。当分は聖剣を取りに行く事が優先だな。だか何故この男が知っている?という疑問を押し除けて気になる事を訊く。

「どこにある?」

 俺は。地図を開きながら訊く。

「ここだ」

 そこは、小さな森でかなり遠い所だった。

「かなり遠いな」

 俺は、呟いた。

 聖剣はもう良いとして、もう一つ聞きたい事が俺にはあった。

「もう一つ良いか?」

「良いぜ、金は取るがな」

「何故勇者は魔物を惹きつけるって理由で、町や国に入れないんだ?」

「なんだ、その程度かなら銀貨十枚で良いぜ」

 意外とあっさり教えてくれる様だ。

「十五年前勇者が召喚されたんだ。その勇者はかなり強くてな、魔物達に圧倒的だったんだ。だがある日勇者が町で休んでいると、魔物達が襲ってきやがったんだ」

「それでその町はどうなったんだ」

「滅びたよ、たった一日で、その後まるで分かっていたかの様に、グノーシス国王は素早い動きで、勇者が原因だと判断したんだ。

 その後勇者は町に入れなくなって、疲労により徐々に魔物達との力の差も小さくなっていて、その後魔王との戦いで負けた。少し脱線したが、これが理由だよ」

 俺は約〇・三秒絶句した。

「何故グノーシスは勇者だと決めつけたんだ?それになんで他の国王は何も言わないんだ?」

「いつもなら情報料取るところだが、まあ良いだろう」

 どうやら無料らしいありがたい。

「勇者だと決めつけた理由は知らないが、他の国王が黙っているのは、知っている」

「本当か?」

「ああ、理由としては、実は全ての国がグノーシスに従っているからだ」

「なっ……」

 どうやらあの国王事実上、この世界のトップらしい。

「他はなにかあるか?」

「俺は無いが、クリスは?」

「無いわ」

 すると、男が手を前に出してきた。

「金」

「貰わないんじゃないか?」

「違う違う、一個だけもらうって言っただろ?」

 思い返すと確かにそうだった。俺はインベントリから銀貨十枚を渡す。

「まいど」

 と言われたので俺達はさっさと外に出た。

「とりあえず戻るか」

 クリスは頷いた。

 そして、クリスは光達の方へと歩き出した。


 俺達は集合した後、情報を提供した。

 その後、仲間達の合意を得た所で、聖剣のある森へと向かった。

「さてここからは遠いぞ」



  一ヶ月経った頃だろうか、さっそく壁にぶつかっていた。

「このダンジョンを攻略しないといけないんだよな、道が分からない」

 そこは地下にあり迷路の様な感じで、敵の強さが一段階上がっていてかなり厄介だった。

「これ一体いつゴールに着くんだろう」

「そうね、もう二時間は経ってるわよ」

 同じ景色を何度も繰り返す。これはかなり精神にくる。どうしたものか。

 そんな事を喋っていると、魔物に出会った、数は三体。

「はあー、またか」

 俺は、素早く魔物の首を斬る。

 光も魔物を、一体殺した様だ。

 その後、魔術を使ってクリスがもう一体殺す。

「魔術の発生早くなってないか?」

「そりゃそうよ、詠唱短縮したもの」

「短縮なんて、出来るんだな」

「まあ、威力は落ちるけどね」

 確かに、いつもと同じ様にやってたら丸焦げになってただろう、だが今は当たった箇所の周りしか焦げていない。

 これでも倒せるのだから相当強くなってきてるのだろうか?

「それより先行きましょ」

 俺達は頷いて先に進むと、そこにはいかにもの、宝箱があった。

「これは開けていいのか?」

 俺は、この世界の宝箱がどういう存在なのかを知らない為、開けていいのか分からない。

「開けて見るしかないだろ」

 光は、恐らく内心ワクワクしながら、宝箱を開けた。

「馬鹿、何かあったらどうするんだよ」

「本当にそうです」

「私の魔術で、大丈夫か判断できたのにね」

 みんな光を見つめる。その視線は心なしか冷たかった。

「うっ、良いじゃん結果大丈夫だったんだから」

「もう少し考えて動いてくださいね?」

 その言葉には圧があった。それもかなり強い。

「はい……」

 光はしゅんとなる。

「とりあえず中身に見よう」

 俺が、話を逸らすと光が、めちゃくちゃ目を輝かせる。

「そうだな、見よう、見よう」

 中を見ると、そこにはただの皮があった。

「皮?何に使うんだ?」

 しばらく考えていると、ある事に気付く。

「その皮なんか書いてないか?」

「本当ね」

「矢印ですかね?」

 だが今気づいては遅い、なん度も回したりしたからだ。元々どこを指していたかが分からない。

「どこ指してたんだ?」

「とりあえず、行ってみたら分かるだろ」

 光が、今向いている矢印の方向へと向かった。

「おいそっち壁だ」

 光が、壁を通り抜ける。

「嘘でしょ?」

 魔術師のクリスでも知らない様だ。

「さっき危ない行動はしないでって、言ったはずなのですが」

 シノが、珍しくため息を吐く。

「そうだな、俺達も追いかけないとまずいか」

「追いかけましょう」

 壁の中に入ると、そこはボス部屋の様な所だった。

 そこに光が、戦っているのが見えた。

「馬鹿野郎、俺達を呼べよ」

 俺は全力疾走で、光に助太刀する。

 さっきの魔物より大きく、ざっと三メートルは超えていて、体全身緑色だった。

 何かを呟いている。

 光を見る限り、相手の攻撃力はかなり高い様だ。だが振りは遅い、つまり俺なら余裕で避けれる。

 魔物が、俺に気付いて攻撃してくる。

 俺は、余裕で避ける。俺は攻撃を仕掛けた。だが相手はあまり効いてないようだ。

 これは、クリスか光じゃないと、まともなダメージは与えられなさそうだ。

 だとするなら俺が囮役になるしかない。幸い魔物の知性は低いようだ。どうにかなりそうだ。

「俺が、こいつを惹きつける!クリスと光が攻撃してくれ!」

 俺は魔物の腕に傷付ける。その瞬間魔物が雄叫びを上げた。どうやら光の攻撃でそもそも体力が大分減っていたらしい。

「よし!行けるぞ!」

 光が、士気を上げる。

 その瞬間、魔物の攻撃が光に直撃する。

 壁まで吹き飛ばされる。

 光が喘いだ、盾で防いでいながら、この威力、化け物かよ。

「まだ、行け、る」

 光がふらふらしながら、剣を地面に刺して立ち上がる。

「まだ行けるじゃないです。治しますから、大人しくしててください」

 シノが回復魔術で治す。

 その間にクリスも魔術の詠唱が終わったらしい。

 クリスの周りから剣が出てくる。クリスが手を振りかざすと、剣が魔物の方向に飛んで刺しまくる、その間に新しい剣が出てくる。それも飛んで行く。

「嘘だろ?強すぎやしないか?」

 魔物が雄叫びを上げた。どうやらもう少しらしい。

 このまま魔術で倒し切れると思ったが先に魔力が尽きたらしい。魔術が途切れた。

 クリスがシノの方へと、倒れ込む。

「流石に駄目か」

 だが時間は稼げた、丁度光が戻ってきた。

「行くぞ真」

「誰に言ってんだ」

 俺達が攻撃を仕掛けようとした時、魔物の周りに剣が出てきた、これは間違いなくさっきクリスが使ってた魔術。

「なっ……」

 最初から何か喋っていたのはこの為だったのだ。その瞬間剣がこっちに来る。

「やばい」

 だが避けれない程ではない、光の方はギリギリ盾で防いでいるようだ。

 これでは光は前に進めない。

「俺がやるしかないか」

 俺は剣を構える。狙いは足。

 限界まで集中する。だが避けながらの為狙いが定まらない。

「行くぞ」

 一瞬の隙を狙う。風の精霊の力で速度を上げる。そこから水の精霊の力で水をを相手の目にぶつける。これで一瞬だが視界が塞がれる。

 その一瞬を逃さず俺は足を切る。完全に切れるとはまでいかないが、魔物の動きを止めるには充分だった様だ。

 魔物が動きを止めた。その時魔術が消える。

「光!」

「分かってる!」 

 光は飛んで、首目掛けて斬った。

 首は見事綺麗に斬れた。魔物は殺せた様だ。

「ナイス」

 俺達は、喜びを分かち合う。

「みんなもお疲れ様」

「今回は真が大活躍ね」

 俺は、苦笑する。

「クリスもな」

「てかあの魔術凄かったな」

「あれは結構魔力消費激しいから、使いたくないのよね、詠唱も長いし」

「まあ、そうだよなデメリット無かったら強すぎるよな」

 俺は、少しガッカリする。

「それより!光さん怪我はなんともないですか?なんで途中で行くんですか?」

 シノが光を心配する。

「大丈夫だよ、なんともない、シノが治してくれたおかげだよ」

 そう言われシノは頬を少し赤らめる。褒められるのが慣れていない様だ。

「そんな事ないですよ」

「いやいや、シノのおかげだよ」

 恥ずかしくなったのか、シノが俺に意識を向ける。

「真さんも、怪我無いですか?」

 少し強引な気がするが、気にしないでおこう。

「大丈夫だよ、なんともない」

「それは良かったです」

 その後、前に進む為に光とシノが少し前を歩いた時、クリスが俺の肩を叩いた。

「どうした?」

 すると、クリスが耳元で囁いた。

「あの二人結構仲良さげじゃない?」

 俺も小声で喋る。

「確かに、シノも旅の初めとは、かなり人柄が変わったしな。光が結構シノに干渉してるんだろ」

「そうよね。あのさ光ってシノの事好きなの?」

 俺は苦笑する。実際の所分からないが今話してる所を見ると、明らかに同級生の女子と話す時は違う。もしかしたら、好きなのかもしれない。

「ワンチャン好きかも、それに胸大きいのが好きって言ってたし」

 光が、あの大きい胸に惹かれるのは十分有り得る。

「最低ね、真もなの?」

 少し睨み付けてくる。これはどう答えるのが正解なのだろうか。

「いや、俺は胸が好きとかは無いよ、それに俺は人はあんまり好きじゃないんだ、女性は特にね」

 するとクリスは何か訊きたい事があった様だが、光に邪魔される。

「おーい何してんだ?さっさと来いよ」

「分かった今行く」

 クリスが俺の前を通って光達の方へと行った。

 持ち前のスピードで追い抜こうとしたが、疲れるのでやめておく。

 


 魔物を殺した後、部屋が見つかった。

 そこには魔術師用の防具が二種類あった。

 一つ目は、純白のローブ。

 二つ目は、黒色ののローブに黒色のでかい帽子があった。

 いかにも魔術師ぽい。

「これは私とシノが着た方が、良いわよね?」

「今より効果良いのか?」

 すると、グラムが喋り出す。

「ああ、格段にな。これで魔王城でも十分使えるレベルだ」

「そうなのか?単純に防御力が高いのか?」

「高いのは勿論だが、一番大事なのは特殊効果だ」

「特殊効果?」

 するとクリスが少し興奮する。

「アーティファクトって事!?」

「アーティファクトってなんだ?グラム」

「アーティファクトとは古代に作られた特殊効果のある物の事だ。だがこれはアーティファクトではないぞ」

 どうやらクリスとグラムの喋り方的に、アーティファクトはかなり貴重な物らしい。

「アーティファクトじゃないならなんだ?」

「意識ある武具の中でも、防具に分類される魔防具だ」

 グラムは、言葉を続ける。

「魔防具とは我と同じく喋れる防具の事だ。また特殊効果もアーティファクト以上の物が多い」

「どうやら魔防具って言うらしいぞ?」

 クリス達が首を傾げる。

「魔防具?」

「喋れる防具らしい」

「だが使えるとは限らない。魔防具に認めてもらわなければ使えない」

 と、グラムが説明するので俺もそう説明する。

「つまり着てみないと分からないのね」

 するとクリスが純白の魔防具に触ろうとした時、クリスが魔防具から手を離す。弾かれた様にも見えた。

 指を抑えている、どうやら怪我した様だ。

「大丈夫!?すぐ治すね」

 シノが、すぐに駆けつけて治す。

「もう大丈夫よ。次はこっちね」

 クリスが黒色のローブに触ろうとする。

 今回は特に何も無い様だ。とりあえず認められた様だ。

「あれ?何も喋らないわよ」

「まあ、そうだろう、もっと心を通わせないと喋ってもらえないからな」

 と、グラムが説明するので俺もそう説明する。

「そうなのね。とりあえずシノやってみましょ」

 シノが頷いて、純白の魔防具に触れる。成功の様だ。だがこちらも喋ってくれないらしい。

「まあ、仕方ないですね」

「これからやっていきましょ」


 俺達は部屋を出て、外を見るともう夜になっていた。

「今日はここでキャンプするか」

「そうですね」 

 だがまあ、休めるので良しとしよう。

 テントも作るのは段々早くなってきた。

 今では、もう精霊の力だけで作れる様になった。しかもこっちの方が早い。

「それより、これどんな特殊効果あるのよ」

「そうだな、魔術威力が二倍になるのはどっちもある。黒色のローブは魔術を長い方の詠唱だけで、二つの魔術が同時で使える。純白のローブは光魔術を魔物に対して使うと、対象を選んで回復させる事が出来る」

「凄いですね!」

 俺は、首を傾げる。

「ん?グラムの声が聞こえるのか?」

「言われてみれば確かに。もしかしてこの防具のおかげ?」

 そこで光がため息を吐いた。

「どうしましたか?」

 と、シノが気にかける。

「いや、俺だけ無いなって勇者なのに」

 みんな苦笑する。

「まあ、後々手に入るだろ」

「そうだといいな」

 もはや、光から諦めを感じる。

「とりあえず、寝ましょう」

「そうだな」

 そう言ってシノと光は、別々のテントへ入って行った。

「クリスも寝ないのか?」

「少し経ったら、寝るわ」

「そうか」

 しばらく沈黙が流れる。

 今日は星があまり見えない。特に何も喋る事が無い。

 クリスが話しを切り出した。

「さっき言ってた、人が嫌いってなんで?」

 さっき訊きたい事はこれだったらしい。

「なんだそんな事か」

 俺は苦笑する。

「良いよ話す。俺は昔虐待されていたんだよ」



「痛いよ!母さん!」

 だが殴る手は止まない決して。

「あんた、なんかが居るから!」

 ひたすらに殴る、蹴る、ただこれの繰り返し。

「どうして?母さん痛いよ!」

 だが、痛みを訴える度に力、速度が上がっていく。痛みが強くなってくる。

 必死に体を守る。だがそれも時間の問題だ。

 すると、あれほど怒りに満ちていた殴り、蹴りを辞めた。だが怒りはまだ溜まっているだろう。

 殺して捕まりたくはないだけらしい。

「あんた!バレない様にしなさいよ!」

「……はい母さん」



 学校に行く時は出来るだけ肌を隠す、怪我を見られない様にする為だ。

「なんでこんな目に……」

 俺は日課の様に毎日同じ愚痴を吐く。こうでもしないと、もうやっていけないからだ。

 教室に着くといつ通りガヤガヤしていた。

「……いつも通りここは五月蝿うるさいな」

 中学二年生なっても、ここまで五月蝿く出来るなら逆に才能だ。俺だったら絶対無理だ。

 大人しく席に座る。

「おはよ」

 隣の席の小田おださんに挨拶をする。

 返事は返ってこない。だがそれで良い。自分が少しでも普通だと、思わせる為にしてる事だから、聞いてもらえればそれで良い。

「……ちょとぐらいは返してくれても良いよな」

 昼休み先生に呼ばれた。理由は何か困ってる事はないかと言う事だった。ありまくりだ。

「あるにはあります。でも多分無理です」

「決めつけるには早いんじゃないか?話してから決めても遅くはないんじゃないか?先生は影之の味方だ」

 その言葉を何度聞いたのだろうか。

「そうですね、先生は前の先生と違うかも知れないですね。分かりました、話します」

 俺は自分が虐待されてる事を必死に伝える。だが、先生の目が段々曇っていき、他の何かに変わっていく。

 やっぱり同じだ、前の先生と何も変わらない。

「そ、そうか出来る限りのことはしてみる」

 前と同じだ何も変わらない。俺は少なからず期待した自分に、ため息を吐く。

「もう良いですか?席に戻りますね」

「ああ、良いぞ」

 俺は、歩いて席に戻った。

 


 放課後委員会の活動で帰るのが遅くなった。

「母さんから離れられるしいっか」

 帰り道声が聞こえた。担任の先生の声だ。笑っている。

「虐待されてます。だってよ、忙しくてできねぇよな」

「勝手に虐待されとけってな、知らねぇよな生徒のことなんか」

「死のうが生きようがな」

 教師二人で談笑していた。

 まるで初めから自分という存在が無かったと、思えるほどに意識が無くなった。

 次第に意識が戻ってきた。すると不思議と悲しさは感じなかった。それより納得の方が正しいだろう。

 人ってこれが、正しい在り方なのかも知れないな。不思議とそう思えた

「やっぱりな」

 俺は生徒用玄関へ向かう。

「帰ろう」



 家に帰ると玄関に見知らぬ男物の靴があった。

 奥から声が聞こえる。

「おいおい、ガキは良いのかよ、そろそろ帰って来るんじゃねぇか?」

「良いのよ、あんなガキ」

「それも、そうだな」

 と、とても楽しそうに会話していた。

 不思議とその場から立ち去ってしまう。

「ああああああああああああああああああああああああ——!!」

 必死に逃げ出した、泣きながら。

 心の中で願っていた事が全て打ち砕かれた様な気がした。

 あんなに苦しまれた筈なのに、分かっていた筈なのに。



 かなり遠くまで来てしまった、と言っても運動はさほどできないので、めちゃめちゃ遠くとまでは行かないが。

「……迷子だ」

 俺は辺りを見渡さす。

 周りからの視線が痛い。とりあえず屋内へ入る。入った場所はコンビニだ。

「とりあえず何か買うフリでもしとくか」

 俺は、小声で呟いた。

 そこでふと気付いた。

「財布持ってないや」

 家に置いてきてしまった。どうしたものか。

 とりあえず、しばらくコンビニに居た後、外に出る事にした。

 俺の事を見てた人は、大分減った様だ。

「さてどうしたものか」

 俺を見る人は大分減ったが、ここからどうすれば良いのだろうか?

 すると、後ろから声が聞こえた。

「あのー?大丈夫ですか?」

 髪は茶髪ショートで体格もかなり良い、俺とはかなり違う人種だ。いわゆる陽キャって存在なんだろう。

「ちょと聞きたい事があるんですけど、無料で泊まれるとこってありますか?」

 すると、男は悩む。

「すみません。分かりません」

 そりゃそうだよなと諦める。

「じゃあ道を教えてくれない?」

「何処までですか?」

「えっと、星光中学校」

 すると、男は頷いた。

「ああ、そこは俺が通ってる学校ですね」

 やはりさほど遠くまで来てない様だ。たがここまで体力ないのは逆に問題だなと、自分にため息を吐く。

「えっと道ですよね?なら近いですし案内しますよ、ええっと」

「一応名前言っときますね、影之真十四歳です」

 年は言う必要なかったかも知れない。

 すると、驚いた様にこっちを見た。

「同い年なのかよ、ならタメでいいよな。俺は勇気光だ」

 同い年と分かった瞬間、この距離の詰め方、流石陽キャだ。(陽キャのよの字も知らないが)

 その後行く途中仲良くなって、学校で会おうと言う約束をしてしまった。今思えば失敗だったかもしれない。

 家に帰ると母さんは寝ていた。あの男は居ない様だ。俺は、起こさない様にそっと自分の部屋に行く。

 次の日、俺は母さんが起きる前に家を出て行った。

 今日も教室はガヤガヤしていた。俺が教室に入るとみんながこっちを見て来た。

 あいつ親に虐待されてんだろ?かわいそうだな。だよな。

 などの声が聞こえて来る。世間の声と全く同じ声だった。ネットならば虐待されてたら優しくすると言ってる。だがそれ故にその目哀れみと何かがあった。ただ苦痛でしかない。

 俺は、大きくため息を吐く。

「それじゃあ朝の会始めるぞー」



 昼休み光が教室に来た。

「よっ!真」

「ちょとこっち来い」

 俺は、光を引っ張って階段の周りまで連れて行く。

「馬鹿か?お前」

 すると光が不思議そうに「なんで?」と尋ねた。

「そりゃ俺と関係があるって知られたら、お前もクラスメイトとの関係が危ういだろだろ?」

 すると光が心底不思議そうに言った。

「そんなんで関係危うくなる奴と、関係築がないぞ?」

 俺は、ため息を吐く。

「そういう奴らなんだよ」

 光は、まだ状況が理解できてない様だ。

「とりあえず俺と学校で関わるなって事」

「嫌だね」

 と、言って光は笑った。

「良いのか?お前の学校での立場が悪くなるんだぞ?」

「良いさお前との関係があれば」

 俺は、大きくため息を吐く。

「そんな事良く言えるな」

 すると、声が聞こえてきた。

 おいまじかよ光、影之は大丈夫なのか?よくあんな笑えるよな?光を非難する言葉だ。たった一つではなく幾つも。光に沢山の心にも無い声が聞こえる。嫌になってくる。

「なるほどそういう事か、真が言ってたのは」

 光が、ようやく理解した様だ。

「そうだよ。もう手遅れだけどな」

「まあ、良いや」

「は?」

 思わず声が洩れた。

「だってあんな奴と喋ってても、つまんねえもん」

 それから俺達は仲良くなったが、学校では孤立した。

 ただ虐待されているというだけで。

 不思議と人は、本質は同じかもしれないと思ってしまった。それから人を見る度に気持ち悪くなってしまう様になった。

「なんで?ここまで俺との関係を築いてくれるんだ?」

 すると、光が少し悩んだ後喋り出した。

「俺もお前と同じ様な、感覚に陥った事があるからかな?」

「どんな感覚?」

 聞かずにはいられなかった。

「四歳の時かな?お父さんが急に消えたんだ。本当突然に、朝起こしに行ったら消えてたんだ。笑えるよな。その日を境にお金が毎月振り込まれる様になったんだ。俺はその時分からなかったけど、少しでも罪の意識があったから毎月お金払ってくれてるんだと思うよ。でもこれは真とは違うかもしれない。でもね親に捨てられたって想う気持ちは同じだと思う」

 そうなのかな、と思ってしまう。

「でも辛くなったら言ってくれ、逃げて良いからな俺のお父さんの様に」

 俺は首を横に振った。

「いやどんな辛い事があっても、二人ならきっと乗り越えられるよ」

 そう言って俺達は笑った。

 その後光の親の協力もあって母親とは離れて光と暮らす事になった。本当にありがたい。



「これが理由だよ。な?しょうもないだろう?あの目が哀れみと何かが確かに見えた、だから人の本質が全部同じだって思たんだよ、そんな事はあるわけないのにな」

「そうかもね」

 沈黙が訪れる。

 それは、そんな事ないよねという意味なのか?それとも同じだということに同意なのか、どっちでも良いか。

「また明日ね」

 そう言って、クリスはテントへ戻って行った。

「また明日か」

 そう俺は呟いた。

 


 旅を始めて、半年ぐらい経った。

「目的地はやっぱり遠いな」

 俺達は、とてつもなく寒い雪山を登っていた。だが、ここを通らなければ、目的地には辿り着かない。

「うう寒い、クリスの魔術で、どうにかならないのか?」

 するとクリスは、光を睨む。

「燃え尽くされても良いなら、やってあげるわ」

「遠慮しときます……」

 光は、少しシュンとなった。

「でも確かにこのままじゃまずいですね」

 このまま体力を奪われていくと、魔物に出会って即死も有り得る。確かに危険だ。

「でもどうする?」

「確かこの近くに町があったはずです。そこから木を少し拝借して焚き火を作って、キャンプするのはどうでしょう?」

 なるほど、出来なくはない確かにテントの中は相当暖かいらしい。体は暖まるだろう。

「どっち方面か分かるか?」

「確か……あっち方面です」

 そう言って、シノは二時の方向に指を指す。

「分かったなら、着いたらいつものメンツでシノ達はテントを頼んだ」

「はいよ」

 と光がだるそうに答えたので、俺は少し睨む。

「それじゃあ行くか」



 村に着いた後、俺達は手筈通りに動いた。

「さて行くぞクリス」

「そうね」

 この掛け合いは何故か、いつも言ってしまう。

 いつも通り画面を見せて、俺達は中に入る。

 その後薪を幾らか買う。ついでに温かい毛布も買っておく。

「こんなもんでいいか」

 俺達は町に入って、約一時間で町を出た。

 戻ると、テントはもう張ってあった。

「さて、とりあえず火をつけるぞ」

 俺は、インベントリから薪を入れる用の道具を取り出す。その後、薪を入れて火の精霊の力で火をつける。

 辺りの雪が熱さで溶ける。

 ちなみに慣れてきたお陰なのか、分からないが、想像するだけで、インベントリを出せる様になった。

「とりあえず、今夜はここで過ごすか」



 半年やってきてだいぶ慣れて来た。魔物が出そうな位置も、大体分かってきた。

 俺達は飯を食べて夜を迎えた。相変わらず俺は寝てないが。

「また寝てないの?」

 クリスがテントから、出て来た。

 あの日から、毎日欠かさず夜俺を見にくる。心配してくれているのだろうか?。だが心配には及ばないと言いたいが、どう言えばいいのか分からない。

 隣に座ってくる。

「よいしょ」

「なんの用?」

「ううん、別になんもないわ」

 このやり取りも何度したのやら。

「そうか」

 だがこれが不思議と心地いい。

 すると空に綺麗な流れ星が流れた。夜空を二人して見上げる。

「綺麗ね」

「ああ、そうだな」

 二人はそれ以上何も喋らない、だけどそれで良かった。どこか楽しかった。

「なあ、さっき聞いたんだが。ここからずっと東に、もっとたくさん星が見えるところがあるらしい、もし無事に魔王を倒せたらみんなで見に行かないか?」

「……そうね」

 これで死なない理由が出来た訳だ。フラグ建てまくりだが。

 絶対に死なないそして死なせない。

 だが、そんな楽しかった時間も、いずれ終わりが訪れる。

 焦げ臭い匂いが、辺りに充満する。焚き火だろうか?にしては少し変だ、何故今なんだ?だろうか?

 そして黒い煙が右側から見える。そこには町、さっき行った町が確かにあった。

「は?」

 絶句する。そんな中まともな判断ができる筈もなかった。

 俺は、居ても立っても居られず、全速力で走った。クリスを置いたまま。

「待って」

 クリスは、俺の腕を掴もうとしたが一歩遅かった。

 クリスはテントの方へと戻っていった、恐らく光達を呼ぶのだろう。

 俺は気にせず町へと向かう。



 町はとても悲惨な状況だった。家が燃え、人が殺されていた。

 すると、トカゲの様な見た目をした、二足歩行の魔物達が叫び合う。

「勇者達はどこだ!見つけて殺す!」

 それは、戦闘とは言えない虐殺だった。

 俺は町全体に声が聞こえる場所に行って、叫んだ。水を出して火も消しておく。

「勇者はここに居るぞ!」

 すると、魔物達が叫びながらこっちに向かって来る。

「一族の仇ー!」

 俺は、それを一気に迎え撃つ。だが流石に全員相手はきつい、それは分かっているだが、やらなければ。

 俺は屋根から降りて魔物達を迎え撃つ。

「行くぞ!」

 俺は、様々な精霊の力とグラムで紙を斬るかの様に斬っていく。

「負けるな!相手は一人だ!」

 相手は、かなり焦っている様だ。

 だが、調子に乗ってミスでもしたら一巻の終わりだ。神経を研ぎ澄ませる。

 ミスるな、敵を全て把握しろ、次の手を読め焦るな、ミスったら死ぬぞ。



 どれだけ時間が経ったのだろうか、レベルも三つ上がった。一体どれだけ魔物を殺せば良いのだろうか?まだ残っている。逃げている魔物が現れた。追いかけて殺す。光達も頑張ってくれているが、まだ終わらない。

 殺す度に魔物達は、恐怖、絶望などの感情を見せる、まるで人の様に。決して人と同じではない筈なのに。

 気付いたら戦闘は終わっていた。俺は。息が上がって肩で呼吸していた。

「終わったのか?」

 壁に寄り座る。今まで溜まっていた、精神的な疲れが一気に出て来た。体が震える。

 魔物達の悲鳴が耳に残る。

 どちらが悪なのかも、分からなくなってきた。

 いや、決して人が悪ではないはずだ。きっと。あちらが攻撃してきたのだから。人が悪であるはずがない。人は悪ではないと、そう教えられてきたのだから。

「もうこんなのは、懲り懲りだ」

 俺は、町の中心へ視線を向ける。

 悲惨としか言いようがない状況だった。

 一体誰がこんな事をして得するのだろうか?

 俺は、ふと思った。

「考えても仕方ないか」

 俺は光達がいる方へと歩いていった。



 頬をクリスに叩かれた。泣いている。

「馬鹿!一人で行って死んだらどうするの!そしたらみんなで星を見にいけないでしょう?」

 俺は早速約束を破りかけたのだ。そんな自分に呆れる。

「本当にごめん、クリス」

「本当よ」

 光もシノも俺を睨んできた。今まで勇者じゃない俺は、要らないかと思っていたけど。そうではないみたいだ、今やっと分かった。

 なら、俺もその要望に応える努力をしよう。

「みんなもごめん」

 すると、光は「分かってるならいい」と、若干強めに言った。

 クリスは俺の胸に頭をつけて、下を向いて喋る。

「本当に、気をつけて。本当に……」

 ここまで心配してくれていたなんて、知らなかった。

「気をつけるよ」

 俺はクリスの頭を撫でようとしたが、流石に駄目かと諦める。

 だが、町の人達がこっちに寄って来る。感謝されるのだろうか。 

 だが、明らかに歓迎はされていない。

「あんた達の所為で家が燃やされた!あんた達の所為で家族が死んだ!」

 そう言って町の人達は、石などの物を投げつけて来る。

 だが耐えなければ、俺達の所為なのだがら……

 その時、俺は今考えている事とは裏腹に全く別の考えが浮かんだ。

 どうして、俺達が何か言われなければいけないのだ?お前達が戦えないから、代わりに戦ってやってるんだぞ?この世界の者でもないのに、お前達が勝手に召喚したんだろ?しまいには石を投げられるだと?どうして?

 クリスもシノも光も俺も、みんなお前らの為に、命を賭けて戦ってるんだぞ?お前達が戦えないのが悪いのに?どうして?

 殺してしまいたい。

 殺意が湧いた。

 その時、町人が投げた石がクリスの頬に傷をつけた。

 もう耐えられない。

「殺す!」

 俺は殺そうとした時、クリスに止められる。

「駄目よ」

 クリスは、今度こそ俺の腕をしっかりと掴んだ。

「どうして止めるんだ!」

 クリスは何も言わないただ俺の目を見る。

 ただそれだけ。

 俺の理性が戻る。

「……クリスありがとう」

 だが、俺だけではなかったみたいだ、光が今にも飛びだそうとしていた。

 腐っても親友か。

「光、辞めろ」

「どうして!」

 俺は、光の肩に手を置く。

「行くぞ、みんな集まれ」

 俺は、壁を造って、町人の石を防ぐ。

「待って真!行かせろ!」

 光が叫んだ。

「もうやめて下さい、人を殺してもなんも良い事ないです」

「……」

 これには光も何も言い返せなくなって、黙った。

「とりあえずテントの所に戻ろう」

 

 幸いテントへの距離は近かった。

 おそらく、もう近くに魔物は居ないだろう。

「もう疲れた」

 俺は返り血を拭かずに、椅子を出して座った。

 みんなは、一言も喋らず即テントへ入って行った。


 自分が殺した魔物の悲鳴、町の人達の悲鳴。全部フラッシュバックしてしまう。

 その時、クリスがテントから出てきた。

「寝れないのか?」

「まあね、真も?」

 違うが、否定する気にはならなかったので、俺は頷いた。

「多分みんな寝れてないと思うよ」

「そうかもな」

 俺は、体に付いている、乾いた返り血を見る。

 自分が何をしたいのか、分からなくなってきた。

「……なあ、俺らがやってる事って正しいのかな?」

 俺は、訊かずには居られなかった。

「分からないわ、でも旅をしてる内に分かるんじゃない?」

 そうだと良いなと、思ってしまう。

 もう一つ訊かずには居られない。大事な事だから。

「魔物と人の違いってなんだろうな」

 何故なら。魔物も生きているのだから、それも人と同じ様に。

「何も変わらないわ」

 クリスが、とても悲しそうに話した。

「同じ様に生きてるのよ、同じ生き物なのよ」

 今回の戦いで少し分かった気がする、もしかしたら人より魔物は人らしいのかもしれない。

 いや、人で例えるのは違うか。

「そうか」

 少し経ってから答えたのは、気にしてない様だ。

 夜空を見上げる。

「ああ、綺麗だな……これからもっと多くの魔物を殺すだろうな、そいつらに何かしてやれる事は何かないのかな?」

「ないわ、でも生きる為に殺したなら生きるのが良いんじゃない?」

「そうかもな」

 俺達はその日から、出来るだけ魔物を殺さず町にも近づかない様にしていった。



 目が覚める。気づいたら寝ていた様だ。寝たのは召喚される前日以来か。そこまで寒くなかった。

 土でかまくらの様な物が出来ていた。更に椅子が背もたれと、座る場所がなぐなっていて、寝やすくなっていた。まさか俺が作ったのか?一応かまくらは消しておく。

 幸い毛布を掛けていたお陰で、風邪などは引いていない様だ。誰が掛けてくれたのだろか?

 俺が、体を動かすと、俺の膝に何かが乗った。

 それは、クリスの頭だった。

 今ならバレないかもしれない。

 そう思って、クリスの頭に手を近づける。

 後少しだ。

 クリスが目を覚ました。俺は咄嗟に手を戻す。

「え?私ここで寝てたの?」

 俺は頷く。

 クリスは恥ずかしそうに、言った。

「なんか変な事してないわよね?私」

 俺は頷く。 

 今やってる行動が恥ずかしくなったのだろうか?クリスは顔を赤らめた。

「今あったことは忘れて」

 本当は忘れることはできないが、一応「分かった」と言っておく。

 するとテントから光達が出てくる。

「おはよ」

 あくびをしながら出てくる光に対して、シノが歩きながら少し笑った。

 みんな笑っているが心なしか、元気がない様に思える。

 忘れようとしてるのだろうか?

「みんな起きたなら行くか」

 早速みんなでテントなどをしまい始める。


 片付け終わった頃に丁度魔物達が、出てきた。

 いつもであれば迷いなく、殺していただろう。

 だがやはりみんな迷っている。

 当たり前だ。だが殺さなければいけない。

「下がってろ」

 俺は、みんなを下がらせる。

 そして限界まで上げた速度で剣を振るう。敵の胴体を斜めに切って殺した。

 やはり気分が悪い。

 もう一体を殺そうとした時、相手の目には恐怖が映っていた。

「……おい、もう俺らには手を出すな、そう仲間に伝えろ」

「わ、分かったから、殺さないでくれー」 

 ちゃんと伝えるかは定かではないが、相手を逃した。

「ありがとな」

 ふと光からそう言われた。

 恐らくやってくれた事を、言ってるのだろう。

「なんの事だ?」

 俺は、とぼける。

 光にはバレているだろう。それでも意図を汲み取ってくれた様だ。

「いや、何でもない、何も無いよな……」

 光はやっぱり暗い。

 こんな光を見るのは、光のお父さんが消えた時の話をする時以来だ。

「それより、とりあえずこの山を降りましょう」

 俺達は同意して下山していった。



 山を降りた時には、昼頃になっていた。

 その間、魔物達に遭遇する事は幸いなかった。

 降りた場所には、沢山の花が咲いていた。とても綺麗だ。 

 精霊もたくさん居たので、それら全てと契約した。

 その時グラムに「お前なら全精霊と契約できるかもな」といつか言われた事を、思い出した。

 その時、一輪だけ真っ直ぐ咲いている、真っ黒な花を見つけた。見た目的にはバラだろうか?この花だけ、孤立している。何故かは分からない。

 だけど、なんとなく惹かれてしまう。

 どうしてだろうか?

 触ってみたい、そんな衝動に駆られる。

 気づいたら花の前まで、足を運んでいた。

 そこでふと気付く。

「あれ?この花の周りだけ草がない」

 草が無かった。まるで、この花が周りの力を吸っている様だった。

 必ず、生き残ると言う意志を感じる。

 何故だろう、俺と同じな気がする。

 俺は、花に触れた。

「あ」

 どうやら、指を切った様だ。血が地面に落ちる。

 地面に落ちた血が消えた。

 これには、俺も驚いた。

 すると、後ろから声が聞こえた。

「何してるんだ?」

 光が、寄ってきた。

「何でも良いだろう?」

「良くねえよ、お前が勝手にどっか行くなんて、ほとんどないだろ?」

 確かに、いつもそんな事をするのは、大体光だ。俺にしては珍しい。

 その後、続々とクリス達がやって来た。

「何してるのよ」

 やはり、みんな気になるらしい。

 俺は、視線を花に向ける。

「花?」

「歪ですね」

 歪なのだろうか?俺には綺麗に見える。

「何故、これが気になるんですか?」

「分からない、気付いたらここに」

 正直、自分の意思で行ったかどうかも、覚えていない。

「しっかりしてくれよ」

 光にそんな事を言われてしまったら終わりだな。と軽く思う。

「それより早く行こう」

 俺がそう言うも、光に小言を言われる。

「いやお前のせいだよ?」

 光にそんな事を言われて、少し腹が立ったが、今回ばかりは俺のせいだ。と自分に嫌気が差してため息を吐く。


 しばらく歩いて行くと、そこには大きな壁と共に洞窟があった。



 これは、ダンジョンなのだろうか?

 中に入ると、そこは薄暗く湿っていた。

 俺が、光の精霊の力で辺りを照らす。

 意外にも、歩いて直ぐに開けた空間があった。

「ニンゲン、オイシイ」

 出て来た相手は、言葉は片言で喋りにくそうだった。

 恐らく、こちらに気付いている。いつも通りシノに、ステータス上昇魔術を掛けてもらう。

 相手が、大きな体でこっちに走ってくる。

「ニンゲンタベル!!」

「こっちに来い!」

 思った以上に速い。

 俺は、攻撃を仕掛ける。

「行くぞグラム!」

 光も、加勢した。

 相手は巨体からは考えられないほどの速さで、雄叫びを上げながら攻撃してくる。

「アアアアア!!」

 俺は、それを避ける。

 俺が、攻撃を仕掛けようとした時、クリスの魔術を相手が喰らう。少し相手が怯んだ。かなりダメージが入った様だ。

 俺は、それを逃さず攻撃する。

 相手は俺が当たらないと、判断したのか光に攻撃を仕掛けた。だが流石勇者と言ったところか、攻撃をちゃんと受け止める。

「光さん!」

 そう言われ少し距離を取る光、そして回復魔術を掛けてもらう。

 そこで、さらに魔術で追撃する。

 また怯んだ。

「行くぞグラム」 

「了解した」

 グラムから返事が返ってきた所で、俺は壁を精霊の力を使いつつ、走って登りジャンプして相手の首目掛けて斬る。

 首は、見事綺麗に斬れた。

 レベルが上がった。また俊敏だけだった。

 いつもの事だが、そろそろ別の上がっても良いのではと、思ってしまう。

「お疲れ」

 みんなに労いの言葉を掛けた後に、みんなと前へ進んでいく。

 そこにいたのは、さっきの相手二体だ。

「マジかよ」

 つい言葉洩れた。


 少々キツかったが幸い殺せた。

 まさか、次はは三体だとか言うじゃないだろうな?

 俺は不安に駆られながらも、扉があったので、扉を開ける。

 そこに居たのは、さっきの相手とは比べ物にならないほど大きい(さっきも十分大きかったが)巨人と言い表す方が良いだろう。

 だがさっきの奴らとは、違い黒く大きなナタのような物を持っている。そして玉座に座っていた。

 さて、どう攻略するか。

「……お前達が、我の同胞を殺したのか?」

 こいつは片言じゃない、つまりこいつにはあいつらより知性がある。

「だとしたらどうする?」

 光が、挑発した。

 俺が、辞めさせようとしたが、同胞の事は興味がないらしい。

「ワハハ、あいつらの事なんてどうで良いわ、ただ倒せるほどの実力という事じゃなと、確認しておきたかっただけじゃ」

 何故か怒りが湧いてきた。

 それを感じ取ったのか、クリスが腕を掴む。

「冷静になって」

 それは、真っ直ぐな目だった。

 直ぐに、冷静になる。

「ありがとう」

 と、礼を言う。

 最近、怒る事が増えてきた気がする。

 そんな、自分にため息を吐く。

「回復は任せてください」

 頼もしい限りだ。

「そろそろ良いかの?」

 すると、こちら側に走ってくる。

 俺は、囮になろうとしたが、光の方へも向かわず一直線に向かってくる。向かう先は……

 思わず叫ぶ。

「クリス!!」

「シノ!!」

 俺は、咄嗟に引き返す。

 間に合う。俺の方が速い!

 グラムを構える。グラムが火を纏った。が、俺はこの時気付かなかった。

 俺は、風の精霊で勢いをつけさせる。

 狙うは足。

 それは、いつもより素早く、綺麗で鋭い一撃だった。だが、俺はそれに対して何も思わなかった。

 狙い通り、綺麗に足を斬って、魔物は床に倒れ込んだ。

 だが、直ぐに立って攻撃してきた。今度は俺に。

「化け物かよ」

 俺は、避ける。

「やるしかないか」

 光を、土の壁を作って高い場所へ移動させる。

「行け!」

「喰らえ!」

 光は、首を狙って剣を振った。だが首はまともに斬れなかった。

 一瞬、相手の意識が光に行った。その一瞬を見逃さない。

 直ぐに、懐に入りもう片方の足を切る。

 あの一撃程ではないが、ぎりぎり足は斬れた。

 これで動けないはずだ。

 相手は倒れ込む。

「一気に畳み込むぞ!」

 すると、かなり威力の高い魔術が巨人に当たる。

 だが、巨人は立ち上がった。

「マジかよ……」

 光は驚いた。もちろん俺もだが。

 だがよく見ると立っているのではなく浮いているのが正しいだろう。

 何かの装備の効果だろうか?

「あれは浮遊の指輪の効果だ、あそこに嵌めてある二つの指輪があるだろう?」

「なんで二つなんだ?」

「恐らく一つだけじゃ支え切れないのだろう」

 グラムは、どうやら知ってるらしい。

 だが、話しているのも束の間襲って来た。

「さあ殺し合おう!」

 どうやら、相当頭がぶっ飛んでるらしい。 

 だが、見るからにスピードが落ちている。体力が減っているのだろう。出血は止まっていない。

 この世界では、攻撃された時相手の耐久力を超えた時、また出血している量で、体力が減る。つまり時間稼げば俺たちの勝ちだ。

「攻撃は余り考えなくて良い、避けるか守るかに専念してくれ!」

 光達は頷く。

 だが、それがいつ来るのかは、分からない。もしあり得ないほど体力があったら……

 考えたくもない。

 だが、もう真っ向から勝負して、勝てる自信がない。



 死んだのは、体感的に十五分程だった。

「多過ぎだろ、体力」

「それな」

 光も、俺の意見に同意した。

「それより奥へ進みましょう?」

 クリスと、同意見だったので、奥へ進もうとした時グラムが止める。

「少し待て、あの指輪を回収しておけ」

「何故?嵌めれないだろう?」

 俺は、疑問に思う。

「いや、違うあれは使用者に寄って、大きさが変わるんだ」

 それなら是非とも取っておこう。

「みんな、ちょと待ってくれ」

 俺は、みんなを引き止める。

「これを貰っていこう」

 みんな訳がわからない様子だった。

 俺が、指輪を取ると指輪は驚く事に小さくなった。

 それを二個共取った。

 みんな驚いた様子を見せた。

「ほらこれ」

 指輪を、シノとクリスに渡す。

「なんで私達に?あとこれ何?」

「ちょと待って質問は一個にしてくれ」

「ごめん」

 俺は、一個づつ説明する事にする。

「この指輪を付けると空を飛べるらしい」

「らしい?らしいって何よ」

「ってグラムが言ってたから」

 どうやら、納得してくれたらしい。

「クリス達に渡す理由は、今回の戦いで分かったんだ、もしクリス達が狙われたら、逃げれる術が無いから」

 これには、クリス達も納得した様だ。

「指輪は貰うとして、奥へ行きましょう」

 そう言われ俺達は、奥へと入っていった。


 奥に入ると、石板と武具などがあった。

 一番気になるのは石板だが、どうやらクリス達は装備の方らしい。

「これ全部アーティファクトよ!」

 と、クリスが興奮気味に言った。

 これは石板より気に始めたかもしれない。だが当たり前だ、特殊能力がある装備だぞ?気になるだろそれは。石板は……後回しでいいよな?


 一通り揃え終わった所で、石板を読み始める。

「えっと、武具の事について書いているな、

武具とは真の姿を表す事で、真の力を解放できる。真の姿は沢山あり姿を変えたり、風を纏ったりなど武具の数ほどある、だが全ての武具でできる訳ではなく、意識のある武具のみ真の姿を表す事ができる。

 それを武具解放術と言う。だって」

 なら、グラムにもあるのだろう真の姿が。

 これを習得の仕方は書いていない様だ。なら必然的に後回しだろう。

「外へつながる道見つけましたよ」

 と、言うのでこの部屋の探索は辞めて外へ行く事にした。


 外へ出るとそこは、一面海だった。

「綺麗」

 と、シノが言葉を洩らした。

「そうだな」

 光は、海を見つめて答えた。

 そこでふと気付く、何故俺達はこの海に気づかなかったのだろうか?

「どうしてだ?」

 俺は、思わず言葉を洩らした。

「何が?」

「あ、俺達は、何故この海に気付かなかったかって事」

 すると、クリスが答えた。

「多分それは、ここが魔界と人界の境界線だからだと思うわ」

「境界線?それはなんだ?それとなんの関係があるんだ?」

「いっぺんに聞かないで」

「すまん」

 俺は、申し訳なさそうに謝る。

「まあ、良いわ境界線は魔界と人界の世界が混じり合う場所のことよ。境界線を越えると世界が変わるつまり、森が海になったりするのよ」

 なるほど、そんな事があるのか。

「なら、魔物は強くなったりするのか?」

「ええ、格段強くなるわ」

「まじか」

 これは大変そうだ。

「それより、この海どうやって乗り越えます?」

 一同沈黙する。

「ど、どうすんだ?」

 光が、慌てる。

 俺は、一つ考えが浮かんだ。

「あるには、ある」

「どんなのですか?」

「道を造る」

 一同困惑した。

「え?道?造れる訳ないでしょ?」

「いや、一つだけある」

「それってどんなのですか?」

「地の精霊の力を使う」

 少し、悩んでからクリスが答えた。

「確かに、やってみる価値はあるわね」

 仲間の許可も得た所で、早速俺は地の精霊の力で土を海に浮かせて、向こう岸まで繋げて橋を作る。

「先行っててくれ」

「分かったわ、でもあんまり無理しないでね?」

 そう言ってから、さっき取って来た指輪二個と同じ効果のやつがあったので、光が指に嵌めて、飛んでいく。

 俺は、集中せねば。何故ならかなり距離があるからだ、少しでも乱れたら無理だろう。

 


「真辛くないか?」

 光が、心配してくれた。珍しい。

「なんだ?珍しい」

「いや、いつも囮お前ばっかにやらせてるからさ、疲れてないかなって」

 どうやらこき使ってる事に対して、罪悪感を感じてるらしい。

「良いんだよ、それしか俺出来ないし」

「……そうか」

 どうやらまだ感じてるらしい、俺はこういう時どうすればいいのかを知らない。それでも声を掛けなければ。

「好きでやってる訳だから、気にしないでくれ」

「そっか」

 まだ感じてるぽいが、これ以上は無理だ。

 諦めるしかない。

 俺は、諦めて足を進める速度を上げた。



 陸に着くと、そこは想像を絶する地獄だった。

 草木が枯れ、土は黒く何もない。居るのは魔物のみ。ここに来て理解した気がする。魔物達が人界に侵略する理由が。

「嘘だろ?」

 光が、言葉を洩らした。

 魔物達が空腹で魔物達同士で、食い合ってる奴らも居た。

 そこは、とても悲惨で地獄だった。

「どうやって、生きてるのですか?」

 シノも、驚きが隠せない様だ。

 当然俺とクリスも。

「なあ、なんでこんなに、違うんだ?教えてくれよ?」

「分からないです……」

「私も、分かるとしたら、この世界を作った神だけよ」

 そんな馬鹿げた事を言われて、少し怒りが込み上げてきた。

 それでも、襲いかかってくる魔物達は、殺さなければいけなかった。その度に俺達は苦しみと悲しさと罪悪感に、押し潰されそうになっていた。



 体感的に約三ヶ月だろうか。そのぐらいたった頃、俺達は町を見つけた。魔物達のではない、人間の町だ。

「何故ここに?」

 そう思うのも当然だ。ここは魔界なのだから。

「ちゃんと人が居る」

 俺達はトラウマを思い出しつつも、中に入る事にした。

「大丈夫だよな?」

 俺は、何とも言えなかった。決してバレてないとは、限らないのだから。

 俺達は、いつもの分け方で別れた。

 町に行って入ろうとした所、やはりステータスを見られる。

「妙だな」

「……」

 バレたか?いや、焦らない方が良い、証拠は何も無いのだから。

「何故、職業欄がない?」

 まさか、ここまで厳重だとは。

 俺は、必死に言葉を探す。

「……俺も分からないんだ、生まれた頃からずっとないんだ」

 アニメとかで見る、半分嘘で、半分本当だ。さあどうなる?

「なるほど……まあ、通って良いだろう。ただし、うちの長老に会ってもらう」

 どうやら、捕まる心配はなさそうだ。

 だが、長老に会わなきゃ行けないのは、少々面倒だ。

「仕方ないか、ただ一人は少し不安だな」

 俺は、小言を洩らして付いて行った。

 買い物とかは、クリスに任せよう。多分大丈夫だ。



「お主が職業無しかのう?」

 もう情報が届いているらしい。早いな。

 相手の年齢は、九十歳は堅いだろう、白髪ロングで、それに加えて膝ほどある長い髭が、老いて見える原因だろう。緑色のローブを着ている。杖も持ってるし魔術師だろう。

「はい、そうです」

「座って良いぞ」

 俺は、近くの長椅子に座る。

 すると、後ろからノック音が聞こえた。

「入って良いぞ」

「お邪魔しまーす」

 気楽そうに、誰かが入ってきた。

 その男の声とフードには、見覚えがあった。

「情報屋?」

 すると、男はこっち向いた。

「お前は、聖剣の在処を、訊いてきた奴じゃないか。こんな所で何してんだ?」

 毎度の如く、少し態度が悪い様だ。

「それより、要件はなんじゃ?」

「あ、実は近くに魔物が集まってるらしい」

 もしかして、俺らが連れて来たのか?そんな訳ないよな?

「うーむ、それなら職業無しは後回しじゃ、先にそっちを片付けるとするぞ」

「ちょと待ってくれ、俺も手伝わせてくれ」

 もし外で、光達が戦っているのなら、手伝わなければ。

「良いじゃろう、付いてこい」

 俺は、長老に付いて行った。



 やはりそこは地獄だった。後でクリスが来たが、魔物も尋常じゃない数だった。

 そして周りから聞こえる悲鳴、これが何よりも地獄だった。

「後、少しで終わる!」

 光の声で、町の人が士気を上げた。

 相変わらず、凄い奴だ。



 戦闘は約二時間にも及んだ。

 周りから疲労で立てない者、死者を数える者などが居た。だが決して、誰も絶望はしていない様に見える。

 一体どれほど心が、強いのだろうか?

 いや、彼らは辛いけど表に出さない様にしてるんだ。出したら余計辛いと知っているから。

 そして、絶望は更なる絶望しか生まないと知ってるから、絶望しないんだ。

 これは強引の解釈かもしれないだけど、それでも、俺はそう思いたい。

「お疲れさん」

 後ろから声が聞こえた。

 後ろを、振り向くとそこには、あの情報屋が居た。

「お前もな」

 俺は、情報屋に労いの言葉を掛ける。

 そこで、妙な事を思った、どこか光に似ている気がする、と。

「そろそろ、自己紹介しないか?」

 俺は、そこで自己紹介し忘れていた事に、気付いた。

「そうだな、俺は影之真、職業無しだ」

「俺はゼン・ユウキだ」

「そうか、よろしくなユウキ」

「ゼンで良い、俺も名前で呼ぶからよ、真よろしくな」

 やはりフードで顔はあまり見れないが。そう言って彼は座っている俺に、手を差し伸ばし微かに微笑ほほえんだ、気がする。

 その手には。見覚えがある指輪をしていた。

 だが、それは俺の指には無い、勘違いなのだろうか?

「おーい真何してんだ?」

 光達が、やって来た。

「今情報屋と、自己紹介してたんだ」

 まあ、これでは分からないだろうが。

「情報屋?どこに居るんだ?」

「どこって、ここに」

 さっき、ゼンがいた場所には、誰も居なかった。

 もしかして、幽霊なのではと思うも、その考えを頭から追い出す。

「誰も、居ないくね?」

「あれ?おかしいな、さっきまでここに居たはず」

 そこでふと気付く足跡がある。どうやら居たのは、間違っていない様だ。

 今も町へと足跡が追加されていく。透明化するアーティファクトだろうか?

 そこまでするんだ、知らないふりをしよう。

「もしかして、お前遂に頭がおかしくなったか?」

 弁解しようとしたが、諦める。

 弁解したらゼンの事も、喋ってしまう事になるのだから。

 とりあえず無視する。

「みんなお疲れ様」

 俺が、労いの言葉を掛ける。

「本当にね」

「後、半分以上残ってるなんて、思いたくもないですね」

 この旅の事だろうか?少し唐突過ぎないか?

 でも、まあ確かに、それは思いたくもない。

「おいおい、それ言うなよー、絶望するだろう?」

 光は、本当に嫌そうな顔しながら答えた。

「確かに、そうですね、すいません」

 反省はした様だ。

 これからは、俺も気を付けよう。

「それは、そうとここからどうする?」

 みんな、頭を悩ませる。

 すると、クリスが名案を思いついた様だ。

「どさくさに紛れて、町に入れないかしら」

「どうやって?」

「他の人達が大勢入る時に、一緒に入るのよ」

 確かに、それなら行けるかもしれない。戦った仲間なら疑わないだろう。

 もしかしたら、検問をしないかもしれない。

「試す価値はあるな、やってみよう」

 俺は、言葉を続ける。

「でも、検問があったらやばいから、シノ先に行ってくれないか?」

「なぜ、私なのですか?」

「俺とクリスは、もう顔が知れてるから、顔パスで行けるかも知れないだろ?」

 確率は低いだろうが、シノは、納得した様だ。

「じゃあ行って来ますね」

 そう言ってシノは、町の方へと歩いて行った。

 俺達はそれより少し、後ろから付いて行く。



「まさか本当に入れるとはな」

 光は、町に入れた嬉しさと驚きが、隠しきれない様だ。

 俺も、多少なりとも驚いているが。光ほどではない。

「それより、町を見て回ろうぜ」

 光は、目を輝かせながら言った。

「悪い俺、用事がある。先に行っててくれ」

「了解。先に行っとく」

 俺は、仲間とは別の場所へ、向かって行った。



「用事って何か知ってるか?クリス」

「知らないわよ」

 すると、シノが思いついた様子で言った。

「もしかして、さっき言ってた人に会いに行くんじゃないですか?」

「それだ」

 俺は、声を弾ませて言った。

「それより、どこ行くか決めましょ?」

 確かに、そうだ。

「そうだな武器とか売ってるとことかどうだ?」

 これより、良い武器や防具があるのかを見てみたい。

「杖も見たかったのよねちょうど良いわ」

「じゃあ行くか」



「それでは職業無し、さっきの話の続きをするぞ」

 言葉を続けた。

「お主は何者じゃ?」 

「俺の名前は影之真、職業無しです」

「そうか、なら名前で呼ばせてもらうぞ、カゲノお前はなぜ職業が無い?」

 やはり初対面では、真が名前だとわからないのだろう。俺が異世界人だと。

「えっと、生まれた時からこの状態で、理由は俺も分からないです」

「なるほどな」

「ちょと、良いですか?」

「なんじゃ?」

 老人が、眉間にしわを寄せた。

「あなたのお名前は?」

「良いだろう、ワシの名はマーリック・ディスペリア職業は魔術師だ」

「そうですか、よろしくお願いします」

 握手を求めるも、その手は見向きもされなかった。

「あのー?」

 無視される。もの凄く怒りが湧いてきた。

「もう良い、後で仲間を連れてくるが良い」

「分かりました」

 都合の良いことしか喋らないなこいつ。とかの怒りが湧いてくる。

 これすらも耐えられないなんて、本当に幼稚だな俺。と思いため息を吐く。

 扉を開けて、外出た後にふと気がつく。

「そういや、光達どこ行ったか、分からないな。どうしよう」

 しばらく悩んでいると、前方から一人の男がやって来た。

 すれ違う瞬間俺に話しかける。

「あいつらは、ライノ武具店に行った」

 男は言葉を続ける。

「もう一つ二つの世界を救えるのはお前だけだ、どちらの世界の者でもないお前だけだ」

 そう言って俺に喋る暇も与えず、去って行った。

 もう一つが衝撃すぎる。急に重くなりすぎじゃないか?

「どういう意味なんだ」

 そう呟いて、俺はライノ武具店に訳も分からないまま、向かう時ポケットに何か入ってる事に気づく。

「他言するな、決して仲間であろうとも」

 一体何に怯えているのだろうか、だが一応他言はしない方針で行こう。

 裏に道のりが書かれていた。

 そうして止まっていた足を動かして、前へ進む。



「結構良いわね」

 かなり良いのだろう、クリスは少々興奮している様に見える。

 それは俺もだが。

「これもすげぇ」

 辺りの剣を手当たり次第持って、見ていく。

 持つだけでも性能が分かる。これは勇者による力なのだろうか?

「どうだ、良い物見つかったか?」

 と急に、男に話しかけられた。恐らく店員だろう。

「はい!逆に良い物ばっかで決めきれないくらいです」

 嘘ではない、全部一級品だ。

「嬉しい事言ってくれるな。お礼にお前に合う武具を用意してやるよ」

 もしかして、製作者なのか?凄すぎる。その方が、選んでくれるだと?断る理由が見当たらない。

「本当ですか?ありがとうございます!」 

「任せておけ」

 男は手招きする。連れて行かれた場所は店の従業員スペースの様なところだった。近くにあった椅子に座る。

 男が喋り出す。

「じゃあまずステータスと上昇値、使いたい武具を教えてくれ」

 俺は、ステータスを表示する。そこにはこう書いてある。

「確か上昇値は200です」

 ステータスで職業と名前を非表示にして見せる。

 体力 5000、筋力 2500、俊敏 1700、耐久力 1900、魔力 1650と書かれている。

「防具は動きにくくないけど、防御力が高い奴で武器は、片手剣で長さは大きいのと小さいのの中間ぐらいで、盾も欲しい」

 すると男は、かなり驚く。

「……上昇値が200で良いんだよな?」

「はい」

 そこでふと思い出す。そういえばシノにやばいって、言われてた。忘れていた。

「まあ、大丈夫だろう」

 と、独り言を呟いた。

 男は、席を立った。

「ちょいとそこで、待ってろ」

「はい」

 俺は椅子に座って待った。

「楽しみだ」

 思わず笑みが溢れた。



「どれにしようか?クリス」

「そうね、どうしようかシノ」

 私達は二人で見つめ合って、思わず笑ってしまった。

「こんなにのんびり出来たの、久しぶりかもね」

「そうだね」

 実際こんなにのんびりできたのは、旅が始まって以来初めてだった。こんな日々が、続ければ良いのにと思ってしまう。

 駄目だと、分かっていても。

「先に決めましょ?どんなのが良いか」

「そうだね」

 シノは言葉を続ける。

「私は、やっぱり光魔術の効果が上がるのが良いな」

「そうだよね」と私は同意する。

「私は、全魔術が上がるやつがいいかな」

「それで私も良いと思う」とシノは、同意してくれた。

「お互い決まったから、杖を探そう」

 私は頷く。

 辺りを見渡す。良さそうな物を、見つけて持ってみる。

「シノこれとか、良いんじゃない?」

 私が、差し出したのは、白色で長い細い、天使の様な翼が付いている杖を差し出す。光魔術も上がる様だ。

「可愛い、これにしようかな」

 シノは、目を輝かさせた。可愛い物に目がない様だ。分かっていた事だけど。

「似合ってる、良いと思うよ」

「本当?」

「うん」

 するとシノは「ありがとう」と言ってどこかへ行った。あまりにも呆気ないので、少し動揺して反応するのに遅れた。

「ちょと待って」

 私は、小走りで追いかけた。 

「クリスこれとかどう?」

 黒色で長く何も装飾が無い、ただどこか惹かれる。とても美しい杖だった。

「気に入った?クリス」

「うん、とてもありがとうシノ」

「こっちこそ」

 私は杖を手に取った瞬間、声が聞こえた。

「あなたに私を使う資格はあるの?それを示しなさい」

 そう聞こえた。おそらくグラムと同じ様な感じだろう。多少驚きはしたが、今まで聞いていたので、そこまで驚いてはいない。

「名前はなんて言うの?」

 何も答えない。

「何よ、そっちから話しかけてきたくせに」

 と、小言を呟いた。

「どうしたの?クリス」

「実は、この杖グラムと同じで、意識があるみたい」

「そうなの!?」

 シノは、かなり驚いた様だ。

「そうだよ」

 言葉を続ける。

「後は防具ね」

「防具は大丈夫じゃない?さっき見た感じ、魔術師用のやつ少なかったし、今着てるやつが一番良いと思うよ」

「そうだね」

 杖を買う為カウンターへ向かう。

「あれ?店員がいないね」

「待とうか」

 私達はカウンターの前で待つことにした。



「これとかどうだ?」

 そう言って男は持ち手までも純白の剣とあまり、大きくとも小さくもない盾を持ってきた。

「あれ?防具は?」

「今持ってくる。見ておいてくれ」

 と、言われたので俺は純白の剣を握る。

 これは……かなり合っている、使いやすそうだ。

「良いな、これ」

 俺は純白の剣を振る。とても良い。

「気に入ったか?」

 戻ってきた様だ、かなり早い。

 男はインベントリから、金色の防具を取り出した。

「着てみてくれ」 

 俺はインベントリに入れて、操作して装備する。

「良いな」

「だろ?」

「ついでに、これも巻いてみてくれ」

 そう言って、白色のマフラーをインベントリから出した。

「これに何の意味が?」

「それは、耐久力をかなり上げてくれる品物だ、かなり良いと思うぞ」

 いわゆるアーティファクトだろう。

「で値段は?」

 正直これが一番気になる。

「全部で、金貨十五枚だ」

「それだけ?」

 いや、正確にはかなり高いが、この武具にしては意外と安い、もっと三十枚とか言われても払うだろう。

「ああ、そうだとりあえずカウンター行くぞ」

 ドアを開けて売り場に戻ろうとすると、そこにシノ達がカウンターの目の前にいた。

「シノ達も会計?」

「そうです」

「なら、一緒に買うか」

「分かった」

 すると、男はクリスが持っている黒色の杖をまじまじと凝視する。

「お嬢ちゃん一体それ、どうやって持ってるんだ?」

 店員が低いトーンで訊いた。

「どうやって?普通にですけど」

「何だって?筋力なんぼだ?」

 クリスは少し悩んでから、答えた。

「500です」

「何だって!?って事はあれは、本当だったのか」

 あれとは何なのかは分からないが、それを訊こうとした時、男に遮られる。

「お嬢ちゃんお代は結構だ。あとは二人だけだな、合計で金貨十八枚だ」

 ギリギリ足りた。あと二金貨高かったら買えなかった。

「じゃあ戻るか」

 そう言って戻ろうとした時、扉が開くそこには真が現れた。



「やっと、見つけた」

 少し息が上がっている。

「ちょと来てくれ」

 俺は、手招きする。

 光が俺の方へと、歩みを進めると、前方に居た店員から声が聞こえた。

「ちょと待て勇者達」

「……なぜ知っている?」 

「上昇値を聞いたのと、画面の色だ、それで分かった」

 俺は光に何してんだと、言わんばかりの目で睨む。

「それでどうするつもりだ?」

 俺は、視線を移して男を睨みつける。

「どうもしないさ、ただ渡したい物があるだけだ」

 男は部屋から、何かを持ってきた様だ。それを俺に投げつける。

「持ってけ、お代はいらない」

 渡されたのは、綺麗な澄んだ緑色の宝石の様な物だ。

「これは?」

 俺がそう訊くと、驚きの言葉が返ってきた。

「食ってみろ、誰でも良いから」

 沈黙が流れる。

「誰、食べますか?」

 意外にも、話を切り出したのはシノだった。

「誰って、そりゃ受け取った本人が食べるべきだろ?」

「そうね」

「は?何で譲るよ」

 みんな食べたく無い様だ。

 当たり前だ、宝石を食べるなんてしたら、歯が折れてしまう。それに味も不味いだろう。

「いーやお前が食え」

 どうしても食べたくないらしい、だがこちらとしても引けない。

「真が食えって」

「私もそうした方がいいと思います」

「私も」

「三対一かよ、分かったよ」

 俺は、渋々宝石の様な物を口にする。

「……美味しい、それにスキル?を獲得したぞ」

「スキルって何ですか?」

 どうやらシノとクリスでさえ知らない、珍しい物らしい。

「グラム分かるか?」

「もちろんだ」

 グラムは言葉を続ける。

「スキルは簡単に言うと、詠唱の要らない魔術だな。と言っても希少さと、見つけても、性能がバラバラなのが欠点だがな」

 なるほど、強いが手に入れるのが難しいのか。

「で?どうゆう、スキルなのよ?」

「空間移動って名前だ」

「効果は?」

 俺は、ステータスからスキルの詳細確認する。

「えっと、空間その物を移動できる能力らしい。その中に人が居ても、一緒に移動されるらしい」

「でもそれなら、移動した後の空間はどうなるんだ?」

 と、光が訊いてきた。

「試してみるか」

 俺は空間移動を使ってみたすると空間を移動させた空間が入れ替わっていることに気が付いた。

「なるほどこれなら弊害は、少なそうだな」

「だがお前は魔力が少なすぎる為、一日三回までしか使えないぞ?」

「魔力消費するのか」

 俺は、気分が天から地に落ちた。

「それなら、私かシノが使った方が良かったかもね」

「全くだ」

 俺は、光を睨みつける。

「それより、なんで俺らを探してたんだ?」

「ああ、来て欲しい所があるんだ」

「どこに?」

「とりあえず、付いて来てくれ」

 光達は素直に、従って付いてきてくれた。



「連れて来ましたよ、俺の仲間を」

「そうか、では、勇者光ここで死ぬが良い」

 すると、マーリックの姿が変わった。

 黒色の大きなコウモリの様な翼、ヤギの様な角、顔はヤギとほとんど同じだが、胴体は腹筋があり人そのものだった。見た目は完全に悪魔だ。

「不思議に思わなかったか?何故ここに、村ができているのか、そして何故ここに村が出来て壊滅してないのか?」

 不思議に思った事はあった。だが絶望していなかったからと、信じたいが為に、推測するのを辞めていた。

 そんな自分に呆れる。どうしようもないほどに。

「それなら何故お前達は、俺達に武具を支給した?」

「それは勝手に、人間共がやっている事だ」

「何故、人間を入れた?」

 少し沈黙が流れた。

「勇者に、警戒されにくくする為だ」

 すると悪魔?が詠唱を唱え始めた。

 まずい、この狭い部屋でやられるとまずい。

 すると悪魔?の後ろの壁が壊れた。

 現れたのは、白色の仮面を付けた黒いフードの人物だった。

 この黒いフードどこかで、見た事がある気がする。

 仮面の人物が攻撃を仕掛けた。素手で。

 お陰で詠唱が止まった。

「貴様、魔族に負けてもなお、邪魔するのか!」

 負けても?一体どういう事だ?

「訳が分からないが、俺らも加勢するぞ!」

 と、光が叫んだので、俺も攻撃を仕掛ける。

 すると悪魔?が、外へ飛び出した。

 悪魔?が叫び声を上げる、その声は頭にガンガン響く。とても不快だ。

「我が同胞よ、今ここに現れた敵を殺せ!」

 なんとも不快な声だ。

 すると町から大きさこそは違うが、似た様な個体が、続々と出て来る。

「こいつは厄介な事になったな」

 この量は流石にと、俺は少し絶望した。

 すると仮面の人物が、話しかけて来た。

「剣を貸せ」

 声的に男だろうか?

 仮面の人物が剣を要求してくるので、光がインベントリから、前使ってた剣を渡す。

 仮面の人物が、剣を少し見て何か考えている。

「まあ、良いだろう」

 と呟いて、悪魔?に飛んで、攻撃を仕掛けに行った。

「まじかよ」

「俺達も、加勢するぞ」

 俺は、光を呼び止める。

「待て、先に俺達は周りの奴を殺そう」

 そう言った後、少し間を置いて光が頷いた。



「さあ、やろうかマーリック」

「我の名前も忘れたか?」

 と、悪魔?が鼻で笑う。

「そんな訳ないだろ?上位魔族イスラ」

「忘れてはいなかったか」

 俺は、剣先をイスラに向ける。

「……やらなきゃダメなんだよな?やっぱり」

 俺は小さくそう呟いた。

「何をしている?来ないなら、こっちから行くぞ!」

 インベントリから、目が付いている悪趣味な剣をイスラが取り出した。

「俺に負けてから、何も変わらないな?」

「それはどうかな?」

 剣先をこちらに、向けてきた。

「全てを解放しろ!魔剣ハルパー」

 剣が徐々に姿を変え、鎌へと変わっていく。

「どうだ?その剣だと、受け切れないだろ?」

「確かにな、だが俺にはアイテムがあるのでな」

 すると鎌で俺の方へ、飛んで迫ってくる。

「アイテムだと?その程度で覆る程の実力差ではない!」

「今に分かるさ」

 俺は腰にあった。ポーチから瓶を取り出しイスラの方へと、投げる。

「こんなのが喰らうとでも?」

 イスラが、瓶を避けた。

「分かっているさ」

 俺は瓶に仕掛けていた、仕掛けを発動させる。瓶が爆発する。

 イスラが悶絶した。

「貴様!何をした!」

 俺は、瓶を見せる。

「これだよ」

 それを見て、イスラが青ざめた。

「貴様イカれているのか?」

「そうかもな、あの日からずっと」

「だが、この程度で終わるとは、思っていないだろうな?」

「ああ、だからこれを使ったんだ」

 俺はイスラの腹に剣を突き刺す。そこに俺の力を流し込む。

「いつから、そこに居た?」

 と、イスラが吐血した。

「幻覚でも見てるんじゃないか?たまたまそういう、効果のある瓶だったかも知れないな」

 イスラが地面に落ちて行った。

「ったく、お前も抜け目ないな」

 ハルパーで、俺の腹は真っ二つに斬られた様だ。

「死ぬのも時間の問題か、こういう時は自分の体力の多さに嫌気がさすな」

 地面に落ちていく。

「月が綺麗だな」

 俺は、そっと目を閉じた。



「おーい、久しぶりだな、善」

 大柄の戦士がやって来た。

「そうだな、何年振りだ?」

「さあ、こっちに来てから時間なんて分かんねえからよ。でも十年は経ってるぜ」

「もう、そんなにか」

 言葉を続ける。

「どうして分かってんだ?さっき分からないって言ってたよな?」

「ああ、本当は一年でここを出てどこかに行く事になってるんだけど、土下座したりなんやらでお前が来るまで、ここで待ってた訳、時間は一年経たないと教えてくれないんだよ」

 少し不貞腐れてる様だ。

「あと、最近お前に会いたいって奴も、居たな?」

「誰だ?」

「まあ、会ってみろ」

 そう言って、案内してくれた。

 連れて行かれた一軒家に居たのは、俺が最も会いたくて、仕方がなかった人物だった。

あい!」

 俺は、愛を抱きしめる。

「会いたかった!」

「私もだよ」

「なんで、ここに来たんだ?」

「あなたも息子も、居なくなったからですよ」

 そう言って、愛は笑った。

「それより、旅の話聞かせて下さい」

 俺は、愛らしいなと思いつつ、椅子に座った。

「そうだな、何から話そうか」

「じゃあ案内も済んだし、俺先に行くわ」

 と、手を振った。

「もうちょとだけ、居れないか?」

「いや、俺の役目はもう無いよ、じゃあな」

 ドアを開けて出て行った。

「お疲れ様」

 と俺は呟いた。

「まずは仲間の事を、聞かせてください」

「そうだな」

「まずはあいつからだな。あいつの名前は——」

「まだ死ぬな、もっと面白い物を見せろ」

 そう頭の中に響いた。最悪だ。



「数が多いな」

 一体一体は、そこまで強くはない。

 急に寒気を感じた。後ろを振り向くと剣が鎌へと変わっていた。本能が言っている、逃げろと。

 明らかにあれから、感じる。

 ふとそこで、石板の内容を思い出した。

「まさかあれが、武具解放術?」

 さっきとは、威圧感が全然違う。

「どこ見てるんだ!」

 襲いかかって来た相手の、胴体を斬る。

 クリスの方へ目を向ける。まだ詠唱は終わってない様だ。

 寒気が消えた。

 後ろを振り向くと胴体が切られた仮面の人物と地面に落ちる悪魔?が見えた。

「……相打ちか」

 俺は、そう呟いた。

 すると、魔術の詠唱が終わった様だ。

「みんな!離れて!」

 夜空が黒い雲に覆われていく。

 落雷と共に、轟音を大きく鳴らした。

 魔物の、叫び声や悲鳴などが多数聞こえた。

 やっぱり気分が悪い。

 だが仕方のない事なんだ。と自分に言い聞かせる。

「殺せたわよね?」

 殺せたかどうか確認していると、笑い声が聞こえてきた。

 あいつだ、あの悪魔?だ。だがやつは死んだばずだ。なぜ生きている?

「クハハハハハ、遂に、遂に殺ったぞ!あの忌々しい奴を!我が瓶の中身が分からない訳が、ないだろう!」

 とても嬉しそうに笑っている。

「後は雑魚のみだ!」

 と、こっちに飛んで来た。

「全てを解放しろ!魔剣ハルパー!」

 鎌へと姿が、変わっていく。

 狙いは俺の様だ。俺はそれを空間移動で、ぎりぎり避ける。

「ほう?空間移動か、だがそれには欠点があるだろう?」

 俺は、敢えて笑って見せた。

 俺は、悪魔?の上半身を空間移動させる、イメージをしたが移動したのは悪魔?の全身だった。

「なっ!?」

「気づいてなかったのか?滑稽だな。仕方ない冥土の土産に教えてやる。

 生き物を移動させようとすると、必ず地面の中などには、移動できず。生き物の部位を移動させようとすると、必ず全身と一緒に移動する、という事だ。つまりそれでは我は殺せないぞ?」

 俺はもう三回使い、もう使えなくなってしまった。

「この攻撃は避けれまい!」

 かなりの速度ででこちらに来て、鎌を降りかざす。それを持ち前の俊敏のステータスで避ける。

「どうやら避けられた、みたいだな?」

「そのようだな」

 光が敵に向かって剣を振りかざす。

「喰らえ!」

「甘いわ!」

 すると鎌が空中に浮いて、光の剣を防ぐ。

「鎌に変わるだけ、じゃないのかよ」

「当たり前だろう?」

 と、敵が不敵に笑う。

「どうする?真」

 と、光が聞いてくる。

「とりあえずシノとクリスが離れられる様に、時間を稼ぐぞ」

 と、俺は小声で答えた。

「でも、どうやって?」

「まあ、見とけ」

 俺は、作戦を実行する。その作戦とは、

「お前の名前はなんだ?」

 雑談である。多分これが一番逃がせるはずだ。多分。

「そんなの答えてくれる訳ないだろ?」

「やってみないと分からないだろ?」

 と、そんな事を話してると、敵が不敵に笑って答える。

「聞いて驚け!我こそは上位魔族イスラである!」

「魔族?魔物じゃなくて?」

 光は、そう疑問に思い訊いた。

「それは人族による勝手な呼び名だ。そんな事すら覚えようとしないから、人族は変わらないのだ!」

 どうやら地雷を踏んでしまった様だ。

 これからは魔族と言った方が良いのかな?と呑気な事を考えていると、イスラが鎌を首目掛けて飛ばした。それを避けるが追ってくる。

 その隙に光が、攻撃を仕掛ける。

 それを、イスラが飛んで避ける。

 光が舌打ちする。

 イスラが、恐ろしく早い詠唱し始めた。



「厄介過ぎるだろ!」

 鎌がどこまでも付いてくる。

 だが幸い俺よりは、速度は遅い。万が一追いつかれても、充分避けられる。

 逃げながら奴に、攻撃を仕掛けるしかない。

 光がイスラと、空中戦をしている様だ。

 すると、特大の火の塊の高火力魔術がイスラから放たれる。それを光がもろに喰らう。かなりダメージを負った様だ。

 それをシノが回復させる。相変わらず回復するのが早過ぎる。だが全回復とまでは、いかなかった様だ。

「それにしてもこの鎌いつまで追ってくるんだよ!」

 

「中々丈夫な様だな?流石勇者と言ったところ」

 俺は、笑って見せた。

「お前だって避けてばっかじゃねか」

「当たり前だろう?我は本来なら魔術師なんだ、それを武器も無しに、勇者に攻撃しながら戦うなんて、無駄に隙を増やすだけだろう?」

 これで?魔術師だと?化け物じゃねえか。行けるのか?この先俺達で。と不安に襲われる。

 するとクリスの魔術の詠唱が終わった様だ。イスラに向かって雷の魔術が放たれたが、それも虚しく避けられる、



「無力だね」

 シノが、そう呟いた。

「そうね」

 まさにその通りだ、私達は今どうしようもない程の無力感に襲われた。

「守って、もらってばっかだよね」

 それに対しては激しく同意する。けれどだからと言って、何か出来るはずもなく。

 魔術を撃つしかない。ただその魔術すら、避けられるのだがら何も出来ない。

「そうね、でも仕方ないわ」

 と、同意する。

「そうですけど、何か出来ないでしょか?」

 しばらく考えた。武器を持つ事も良いかもしれないだが、圧倒的にステータス不足で役に立つ自信が無い。

 となると武器の案は却下だ。他には近距離で魔術を使うとかだろうか、これならまだ希望はありそうだ。

「近距離で魔術を使うとかじゃない?」

「確かに、それならでも、かなり危険じゃない?」

「それはそうだけど、それしか道はないんじゃないかな?」

 しばらく間を、置いてシノが話し始める。

「光さん達に、邪魔にならないかな?」

 と、シノはとても悲しそうに話した。

「そうかもね、なら魔術の速度を上げるしかないわね」

「そうだね」

 また、魔力操作力を鍛えないと、あの時とは別の方法で。



 息が上がっている、はっきりと息切れしていると分かる。

「どうした?こんなものか?勇者」

「五月蝿えよ、これからだ」

 生憎、俺には意識のある武具を持っていない、つまり装備的にはかなり劣っている。

 それにステータスの差も加わる実力の差は一目瞭然だった。

「先代の勇者とは比べられないほど弱いな?」

 何も言い返せない。そんな自分に腹が立つ。

「確かに、そうかも知れないな。でもお前には勝たなきゃいけないんでね」

「そうか?なら死ぬが良いさ!」



 さて空中に居るイスラにどう戦おうか。それにしても、本当にどこまでも、この鎌が追いかけてきやがる。

「うざ過ぎる」

 足に風を溜めて飛ぶか?出来るかも知れないが、ぶつけ本番で出来る自信はない。

 なら道は一つしかないか。

 俺は、土の壁を作りその上に俺が乗る。そこから地面を作る。

 俺はイスラに飛び掛かる。それに気づいてイスラが避ける。

「甘い!」

 と、イスラが俺に攻撃を仕掛けようとした時、光がイスラに攻撃する。それを戻って来た鎌で防ぐ。

「舐められたものだな!その程度で殺せると思われるとはな!」

「ああ、思ってないさ!」

 と、光が笑った。

「真!」

 俺は、イスラの横腹付近に入り、グラムで胴体を斬る。

 それをイスラがぎりぎり避けて、胴体を全部斬る事は出来なかった。が深く傷は付いたはずだ。

「油断したな、イスラ」

「なんなんだ?その魔力の無さ、その速度、貴様人では無いのか?まるで、この世界の異物だな」

 イスラは傷を回復させている様だ、上位魔族の特性だろか?だが体力は、回復してない様だ。

 あくまで肉体の損傷のみを再生したらしい。

「もう手加減はしないぞ!」

 イスラが詠唱と同時に鎌を、光に投げる。

 光に向かう鎌を光が盾で防ぐ、それとほぼ同時に、イスラが魔術を放つ。

 光が、それをもろに喰らう。それから鎌は光の首目掛けて、イスラが鎌と同時に攻撃しようとする。

 その隙に俺が攻撃を仕掛ける。

「騙されたな!」

 イスラが鎌の方向を変えて俺に攻撃を、仕掛けてきた。それをぎりぎり避ける。

「いつから我が鎌だけで、攻撃をすると思っていた?」

 イスラが、普通に足蹴りで攻撃してきた。

 もはや避けきれない。グラムで斬れるか?やるしかない。

 行くぞグラム、心の中でそう呟いた。

「任された」

 と、グラムが言うと、グラムが火を纏った。また気付きもしなかった。

 イスラの足が綺麗に斬れた。

 イスラが悶絶する。

「何故だ!先程の剣じゃ、斬れないはず、まさか強化魔術すらも、破る程の威力になったのか?その不完全な状態でだと?」

 不完全?一体どういう事だろうか。そこで気付くグラムが火を纏っている事に、もしかしたら、これの事かも知れない。

「どうした?真」

「グラムお前のその姿なんだ?」

「恐らく武具解放術だろう」

 なるほど、だから威力が格段に上がったのか。

 だが傷はもう修復されてしまった。だが恐らく後少しだ。魔術師なら体力が少ないはずだ。

 俺は、土の足場を勢い良く作り、そこからイスラの方へ思いっ切り飛ぶ。

「その程度の攻撃が通用するとでも?」

「だからこうする」

 俺は、イスラの攻撃を空中に足場を作り避ける。避けた後、首目掛けてグラムを振り下ろす。

 それをイスラがなんとか避ける。

「お前恐ろしく速いな、本当にここら辺に居る人間か?」

「ありがとよ」

 とは言ったが、相手の技量、経験、ステータスでは圧倒的に負けている。今の一撃でも殺せないなら、かなり厳しいだろう。

 すると、左側から瓶が飛んで来た。

 それと同時に、光の回復も終わった様だ。

「小癪な!」

 イスラに当たり瓶が壊れた。すると、瓶から何かの液体が、出て来てイスラに掛かる。

 イスラの右腕が火傷の痕のような物が、出来る。すると右腕で持っていた鎌が落ちる。

「待たせたな」

 と、白色の仮面を被った人物が喋った。

「貴様何故生きている!」

 すると、少し間を開けて答えた。

「分からない、俺はあの時確かに死んだ。それは確かだ。もしかしたら、神の気まぐれかも知れないな」

 イスラが左手に鎌を移して、答える。

「神の気まぐれだと?ふざけるな!一体どれだけの魔族が、貴様を殺す為に犠牲になったのか!それを全て無駄だと言いたいのか!」

 それは、心からの訴えの様に聞こえた。

「……俺だって!あれで終わりたかった!魔族を、もう殺したくなかった!でもやらなきゃいけない事が、頼まれた事があるんだよ!俺だって愛ともっと話したかった!本当はもうしたくないんだよ!」

 と、仮面を被った人物が叫んだ。

「なら!殺さないやり方も、あっただろう?何故それを使わなかった!何故もっと考えなかった!」

「俺だって考えた!でもできないんだよ……どれだけ考えても!仕方のない、事なんだよ……」

 仮面の人物とイスラが、お互い心を全て曝《さら》け出した様な気がした。

 何故だが、気持ち悪く感じた。

「言い訳だ!自分を正当化しようとする言い訳に過ぎない!結局は自分の行動全てが正しいと、正義だと思ってるんだろ!だからお前ら人族は、変わらないんだ!最早話し合いなど不要だ、殺し合いだ!」

 五対一場面は有利だが油断は禁物だ。

「我の全てを、ここで見せてやろう!」

 詠唱を唱え始めると、仮面の人物が止めようとする。

「待て!やめるんだ!それは自分の身すらも滅ぼすぞ!」

 その警告を無視してイスラは、詠唱を続ける。

「アパタイト」

 そうイスラが唱えると鎌の刃が銀色から赤へと変わっていく。そして何よりイスラの姿が変わった。その姿はとても恐ろしかった。翼が二つ生え、目が赤くなった。

 背筋が凍る。本能が逃げろと、叫んでいる、さっきとは比べ物にならないほど大きく叫んでいる。

「ここからが本番かよ」

 と、光が呟いた。

「力が溢れて来るぞ!」

 かなりの速度でこちらに迫って来る。俊敏のステータスはぎりぎり俺の方が高いらしい。ぎりぎりの所で避けれた。

「これも避けるか」

 気付くと、さっき俺に攻撃を仕掛けた鎌が、消えていた。鎌は光の方へ飛んでいた。これでは光の助けてもらえそうにない。

「俺も居るぞ!」

 そう言って仮面の人物が、光から貰った剣で攻撃を仕掛けた。だが、それも虚しく剣が折れる。

「その程度の剣が効くとでも?」

 だが時間は稼いでくれた。空中で足場を作り攻撃を仕掛ける。

 だがそれを鎌に防がれる。鎌の速度も上がっているようだ。

 イスラが鎌を手に取り、俺の首目掛けて攻撃を仕掛ける。その時、上空から無数の炎の塊が出て来る。クリスの魔術の様だ。

 忘れていたのか、これには驚いて避けきれずにイスラがもろに喰らう。

 だが、まだ死なない、どうやら体力も多少なりとは回復している様だ。

 だが、ほんの一瞬隙が出来た、それを見逃さない。

 三人で総攻撃を仕掛ける。

 仮面の人物が、ナイフを放つ。そのナイフは金色で明るく光っていた。正確には纏っている。何故なら、刀身は銀色だと見て取れるからだ。

 光は、イスラの前方から、攻撃を仕掛ける。

 俺は、イスラの背後から、攻撃を仕掛ける。

 当たったのは俺の攻撃と、ナイフのみだ。だがそれでもダメージは大きかった様だ。

「何故!これでも勝てないのだ!」

「簡単な事だ。お前が弱いからだ」

 と、仮面の人物が、さっきの心配していた様子とは裏腹に、冷静に容赦なく伝えた。

「舐めるなあああ!我は貴様に!殺された同胞の想い全て背負っているのだ!負ける筈がないだろう!」

 戯言だ、想いなど背負えるはずがない。

「まだ分からないか。なら教えてやろう」

 すると、インベントリから剣を取り出した。だがそれは光から貰った、折れた剣ではなかった。

 刀身が赤く、剣より大剣に近いだろう。それ以外何も目立ったところはない。

 それを両手で持ち、大剣を見た事ない構え方で構える。

「終わりだ、イスラ」

 その声は強く大きかった。けれど俺にはただただ、悲しそうで辛そうに、聞こえた。

 それと同時に刀身が木の様に大きくなる。

「終わるのはお前だ!」

 と、言って迫って来るイスラを、頭から一刀両断する。化け物そうとしかこの人物は言い表せないだろう。

 イスラが地面に落ちようとした時、初めから存在しなかったように消えた。ハルパーも空中でまるで、初めから無かったように、跡形もなく消えた。

 これが仮面人物が言っていた、自分の身を滅ぼすと言う事なのだろうか?」

 お疲れ様。そう呟いた気がした。それと同時に仮面の人物が、持っていた大剣がヒビが入りそこから割れる様に壊れた。

 お疲れ様と、大剣ではなくイスラにそう言った気がする。

「お父さん?なの?」

 そう訊くのは俺とは正反対の男、勇気光だ。

「どういう事だ?」

「お父さんだよね?」

 と、仮面の人物に向かって問いただす。

「お父さん?訳が分からない」

 お父さんと、言われた人物は笑う。

「嘘を付かないで!お父さんだって、お父さんと同じ構えだよ。そんな独特な構えはお父さん以外見た事ないよ」

 少し間を置いた、お父さんと言われた人物が答える。

「聖剣を在処まで来い、そこで待つ」

 そう言って消えて行った。

「空間移動だな」

「あんなこと出来るのか?」

「もちろんだ、空間を移動するのだからな一度行った事があるなら、いつでも大丈夫なはずだ」

 行ってしまった。今回かなり収穫はあった武具解放術ではない、何かがある事、そして一番に光のお父さんが生きているかも知れない。という可能性が出てきた事。

「聖剣の在処で待つか、険しい道のりになりそうだ」

「行くには魔族に対して、その甘い考えを捨てなければ死ぬぞ」

 そうグラムが告げた。

 丁度クリスとシノが戻ってきた。

「そうかもな」

 ならば捨てよう、あの時人をゴミだと思った、あの時の様に。



「怪我はしてないですか?」

「怪我はしてないよ。俺より光の方を見てあげて」

 俺光を指す。俺は、しっかりシノが床に座っている光の方へ、向かったのを確認して小さく呟いた。

「甘い考えを捨てるか、捨てちゃダメな気がする」

 どうしてもその甘い考えが捨てきれない。何故だ?

「なーにそんな暗い顔してるのよ。せっかく勝ったのに気分が台無しじゃない」

 俺は、顔を見上げる。

「なんだクリスか」

「なんだって何よ」

「なんでもないよ」

 そういえば、こうやって面と面を向かって喋るのは、何気に初めてかもしれない。今までは面と向かって喋るのは、怖かったのかも知れない。また、あの目をされるかも知れないから。

 でもクリスの目は俺を止める時と、同じ様に真っ直ぐで、ルビーの様に綺麗で赤かった。そしてとても綺麗だ。そういえば旅をしているというのに、髪がサラサラだ。そういう魔術があるのだろうか、肌も綺麗だ。

 こうしてみるとやはり、かなり可愛い。

「なによ、私の顔ずっと見つめてなんか付いてる?」

「いや、改めて見ると可愛いなって」

 俺がそう言うと、クリスは顔を赤らめた。

「えっ?は?え?何急に?」

 クリスが顔がもっと赤くなる、どうやら怒らせてしまったらしい。

「思った事を伝えただけだけど。嫌だった?」

 顔をこちらに向き直して、直ぐに地面の方へ視線を向けて、なんとも言えない声量で、クリスが喋った。

「嫌じゃないけど」

「それは良かった」

 今にも怒りそうだった。今は必死に抑えていたのだろう次からは気を付けなければ。

 気付けば耳まで赤くなっていた、顔が少しづつ落ち着いている。



「あの二人付き合っての?」

「さあ?」

 光の顔を一瞥してから、怪我の状態を確認する。

「それより治療しますね」

 私は、詠唱を始めた。

 その時、不思議と私達の旅がやっと始まったと、そう思えた。



 あれから一ヶ月が経った。魔物達の強さは、一定なので苦戦する事は幸い無かった。

「まだ着かないのか?聖剣の場所」

 光が、新しく装備している全身金色の防具を、輝かせて言った。見た目は、完全にどこかの金持ちだ。

「何度目ですか?まだですよ」

 とはいえ、距離は地図を見る限り、そんな遠くない筈だが。

「あ!あー!痛い」

 クリスは、しゃがみながら、額を手で抑えた。

「どうした?」

「なんか、壁があるわ」

 何が起こったか分からないという様子で、クリスが言った。

「壁?そんなのある訳ないだろ?」

 鼻で笑いながら、光が前に進むと、予想通り何かにぶつかる。

「くっ、あー!痛い」

 光が額を抑えた。

「ある、あるわ。壁」

 そりゃそうだろと思ったが、言わないでおく。言ったら面倒くさそうだ。

「ここからどうします?」

 どうするもなにも、方法は一つしかない。

「道を探すしかないだろ」

 透明な壁に沿って道を探す。

 ここで一日の大半を費やした。

 だがそのおかげで分かった、聖剣への道を閉ざしているということだ。



「どうしようかな?」

 と、一人で呟くと、後ろから声を掛けられる。

 見なくても分かる、クリスだろう。

「どうしたの?考え事?」

「あ、いや、あの見えない壁どうしようかなって」

「一応意味ないかも知れないけれど、壁の特徴教えてあげるわ。合っているか分からないけど、あの壁は、何かを守っているより、何かを拒絶している気がするわ」

「拒絶している?」

「分からないけど、拒絶している何かを持たなければ、いけるかもしれない」

 少し考えて答える。

「もしくは何かが足りないかだな」

 クリスは深く頷いた。

 早くも結論に至った。となると後はいつもと同じ様に、夜空を見上げて、星を見るだけだ。

 魔界で土の色や草が変わっても、夜空の綺麗さだけは、人界となんら変わらない。

「そういえば、真は星は好き?」

 一人で見る星はそこまで好きじゃない。でもクリスと見る星は、なんとなく好きだ。

「好きだよ」

「そう、良かった」

 素っ気なくクリスに返される。

「クリスは、好きか?」

 クリスは、微笑んでこっちを見た。

「好きだよ。真と一緒なら」

 不意にドキリとしてしまった。

「どう?真は私と見る星は好き?」

 答えなど、クリスは分かっているだろう。

「当たり前だろ?」

 クリスから急に笑みが消えた。

「私、もう寝るね」

 テントに戻るクリスの足取りが、来る時より軽くなった気がする。



「当たり前だろ?って恥ずかしすぎるでしょ」

 顔を赤らめせながら。ベットに倒れる。

「もう寝よう」

 今日は少し、寝るのに時間が掛かりそうだ。 



 昨日は戦闘がかなり少なかった。何かあるのだろうか?

 とりあえずみんなが、起きるのを待つしかない。

 早速一人起きる。

「おはよー相変わらず早いな、起きるの」

 光だ、まだ俺が徹夜をしている事に気付いていない。レベル上がったら、支障は出ないが数年の付き合いなのだから、気付く素振りくらい見せても、おかしくはないのだが。

「飯ある?」

「ないし、作れない」

 地の精霊の力で作った、木の椅子に光が腰掛ける。

「じゃあ飲み物くれ」

 そう言われたので、昔買ったコーヒーがまだ余っているのでそれを作る。

 渡すのはもちろんブラックだ。

「ほら」

「サンキュー」

 勢い良く飲み込んだ。

「うげえ苦い、ブラックかよ」

「でも目は覚めるだろう?」

 俺は、手元にあるブラックコーヒーを、飲み込んだ。

 この世界のコーヒーは、とにかく美味しい。

 まろやかでコクがあり味も匂いも中々の物だ。

「うん、美味しい」

 だが、仲間の間では不評だ。その為俺とシノしか飲めない。しかもシノもそこまで飲まない。

「それよりさ、あの壁どうすんだ?」

 さりげなく、コーヒーをインベントリに入れながら、光が訊いてきた。

 どうするかは分からないが、とりあえず手持ちの物を整理とかだろうか?

「辺りの探索よ」

 と、後ろから声が聞こえた。

 クリスだ、見なくても声で分かった。

「探索ってどういう事だ?クリス」

「昨日分かった事だけど、恐らく、あの壁は聖剣を中心にして、半径三キロメートルの円で構成されてるわ、そこで昨日思い出したの、昔読んだ童話を」

「童話?」

 するとテントから出てきた、シノが足取りを軽くしてこちらにやってくる。

「それ私も言おうと思ってました。勇者冒険譚ですよね?」

 クリスが少し複雑な顔を浮かべて頷いた。

「その通りで、その童話で」

 食い気味でシノが喋る。

「同じ事が起きるんですよね?」

「そ、そうよ」

「で、その後ダンジョンのボスを倒して、宝玉手に入れる事で、入れる様になるんですよね?」

「うん、そうよ」

 心なしかクリスが可哀想に思える。何故だ?

「で、そのダンジョンを探すんですね?」

「そうよ」

 ダンジョン、そんな物近くにはなかったと思うが。

「そもそも童話だろ?合ってるのか?」

「待て、真こういうのは大体合ってるから、大丈夫だ。ゲームでもそうだった」

 光を疑いつつ、これが唯一の情報なので、無理矢理納得する。

「で?どうやってダンジョンを探すんだ?」

 気まずい沈黙が流れる。

 誰も考えていなかったらしい。

「とりあえず準備しよう」

 皆頷いてテントやら椅子やらしまい始める。


 一通りしまい終わった時、光が何か恐ろしい物を見る様な目で、どこか見つめ始めた。

「なんだよ?あれ」

「あれとは何ですか?」

 すると驚いた様に答えた。

「見えてないのか?あの恐ろしい何かが」

 恐怖で、光の体が少し震えてる様に見える。

「何が見えてるんだ?」

「分からないけど、どす黒い何がこっちに向かって来る」

 どす黒い?一体光には、何が見えているんだ?

「こっちに向かって来てるのですか?」

「ああ、そうだ、何かが確かに来てるんだ」

 必死に光は頷いた。

「俺が、少し見て来る」

 足が速いなら、俺が見て帰って来れるかもしれない。

「駄目だ!あれは、俺らが敵う相手じゃない」

 必死に光が訴えかける。

 ここまで言われて、信用しない訳がない。

 だが見て帰るだけだ。それなら行けるだろう。

「大丈夫だ、見て帰ってくるだけだ」

「駄目だと言ったら、駄目だ!」

 力強く光が叫んだ。

「頼む、本当に」

 光は俺の腕を、掴んで離さない。これでは動こうとしても、動けない。

「……分かった」

 ここまで言われたら辞めるしかない。

「なら隠れる場所を探しましょう?」

「そうですね」

 ここの近くで隠れられる場所は……無いなだが造れないことはない。

「みんな、ありがとう」

「大丈夫ですよ。いつも助けられてますし」

「それよりも、隠れる場所がないから造ろうと思うんだが、どう思う?」

 光は、少し複雑そうな表情を浮かべながらも賛成してくれた。もちろんクリス達も。

「それなら山みたいな感じで、高い所から見下ろせる感じでやるのはどうかしら?」

 確かに、それなら相手も確認できる。

「俺も、それで良いと思う」

 シノが頷いた。

 これで決まりの様だ。

「少し離れてくれ」

 そう言ってみんなを離れさせて、下から見れば、頂上が全く見えない山の様なものを造る。

 その山を頂上まで、練習しておいた風の精霊の力で、一気に頂上まで飛ぶ。

 みんなも飛んで頂上までやって来る。

 その十五分後、骸骨の軍勢がやって来た。

 その中心に、見た目は人とほとんど変わらないが、角が生えている、恐らく上位魔族であろう者が居た。

 黒色のドレスを着ている。頭蓋骨が付いた杖を持っている事で、少し不気味だ。

 容姿はかなり整っている様に見える。身長も少し高い。

 すると、光が大声を上げた。

「逃げろ!バレた!」

 は?バレた?そんな事がある訳がない。

 普通の魔族であれば。ふと、そう頭によぎった。

 後ろを振り向くと骸骨の軍勢が迫って来ている。

「いつバレたんだ」

 クリスが詠唱を始めた。

 クリスなら、この場面を挽回する魔術を、使えるかも知れない。

 ならばやる事は一つ、時間を稼ぐ事だ。

 だが幸いこいつらは空を飛べない。ならクリスが攻撃される心配は少ない。

 すると後ろから風を感じた。なので後ろを振り向くと、クリスが、あの上位魔族に何かで、首が斬られそうになっていた。

 それを、風の精霊の力で一気に飛んでクリスを攻撃の軌道から外す。

 忘れていた、羽がある事を考慮していなかった。だがこれで警戒するのは、この上位魔族だけでいいと分かった。今なら全員空を飛べるからだ。

 飛んでいる魔族が不敵に笑う。

 その笑顔には、俺達が恐怖を感じる何かが、含まれていた。

 煽りではあるのは確かなのだが、他の何かがある。その所為で怒りより、恐怖が込み上げてきた。

 こちらにゆっくりと迫って来る。

「……なっ!?」

 光がそう言った瞬間、速度を上げて、光の目の前まで移動した。

 先程持っていなかった筈の、青白い光を発する剣で。光に攻撃を仕掛けた。

 ぎりぎり光が、受け止める。

 力は互角と言った所か、いや光の方が少し押されている。

 その隙に、俺が攻撃を仕掛けた。

 その瞬間。相手の魔族の背後から、青白い剣が現れこちらに飛んできた。

 それを、避けてグラムを横薙ぎで攻撃する。

 それを、一瞬で避けられる。

 空間移動で、距離を詰める。

「終わりだ」

 相手の首を斬る。

 すると一瞬で斬ったはずの首が再生した。

 確かに今斬ったはずだ。手応えはあった。にも関わらず、斬ったその瞬間から再生した。

 イスラとは違う何かだった。

 その瞬間に、クリスの魔術が魔族に降り注ぐ。

 それすらも一瞬で再生する。

「どういう事だ?」

 まだ不敵に笑っている。ここまで来ると不気味以外の何物でもない。

「私を貴方達では殺せないわ。絶対に」

 すると、俺目掛けて剣が無数に飛んでくる。

 いつの間にか相手が持っていた剣が、あの杖に変わっていた。

 それを全て避ける。

「隙だらけだ!」

 光が魔族の背後から飛んで攻撃を仕掛けた。

 確かにそれは魔族を斬った筈だ。だがそれも一瞬で再生する。

「誰が隙だらけですって?」

 すると、光の動きが止まった。

 よく見ると何か糸の様な物に、捕まっている。

「動けない、真!」

 呼ばれる前にもう既に動いていた。

 糸だけを、精霊の力で燃やす。

「無駄よ」

「それはどうかしら」

 クリスが、魔術を放って魔族に当てる。

 だが、それも再生される。

「無駄よ、私に攻撃は喰らわない」

 すると、シノの手から大きな金色の弓の様な物が現れた。

「これならどうですか?」

 シノが、五本の金色の矢を出し魔族に放つ。

「無駄と言っているでしょう?」

 ここで一つの食い違いが生まれていた。攻撃したのは、目の前に居る魔族では無く、下に居る骸骨にだ。

 すると、4本の矢は防がれた。

 だがたった一本の矢で数十体の骸骨を倒した。

「あら?バレちゃたみたいね」

 その瞬間、糸が丁度燃え尽き、光が攻撃を仕掛けた。

「あんたは大人しくしなさい」

 光の方を見向きもせず、もう一度あの糸で拘束する。

「クリス!これはどういう事だ?」

「あいつは、体力の減少を、全て骸骨に移す事が出来るのよ」

 傷を移すだと?一体どれだけの、骸骨が居ると思ってるんだ?

「なるほど、ならクリス達は骸骨狩りに集中してくれ!」

 先程より火力を上げてるので、丁度糸が燃え尽きる。

「真!行くぞ!」

 二人一斉に攻撃を仕掛ける。

「あら?その程度の実力で勝てると思ってるの?」

 二人の攻撃が何かに拒まれた。

「全く仕組みが分かった程度で、勝てると思ってるんじゃないわよ」

 無詠唱で無数の魔術が放たれる。

 無数の青白い剣、炎、雷、風が放たれる。

 それを全て避ける、光の方は、盾や持ち前の体力で持ち堪えている。

「あら?これを耐えるのね、少し見くびっていた様だわ、なら全力で行かせてもらうわよ!」

 魔族が杖を構える。

「全てを解放しなさい魔杖まじょうタナトス!」

 杖が骨で覆われていく。頭蓋骨が骨の王冠の様な物を、被った。

 さて、ここから何が変わるのか。

 すると、魔術の速度、量、威力が桁違いに変わった。

 そして鳥の骨が、飛んでこちらに攻撃して来た。

 だが、ぎりぎり避けれる。

 これでは、あの魔族に攻撃を仕掛けれない。

 あの魔族が、不敵に笑った。

 そこで光の方を向くと、光がかなりのダメージが受けている。

 あのままではまずい、かといって手を離せれる状態じゃない。

 どうする?

 すると光の鎧と共に、光の傷が治っていく。どうやら回復が間に合ったらしい。だがこのままではジリ貧だ。どうする?

「骸骨倒し終わったわ!」

 その瞬間、空間移動で魔族背後を取る。

 やれる!見事相手を傷を付ける事に成功した。

 だが浅い。一度距離を取る。

「今私を殺すのを、躊躇ったわね?」

 怪訝そうな顔をで言った。

 そんな筈はない、仲間の命がかかっているんだ、そんな事する訳ない。

 本当にそう言い切れるか?と、脳裏によぎる。

 本当はまだ、魔族に対して情があるんじゃないか?魔族の事を知りたいんじゃないか?

 そんな考えが、浮かんだ。

「……認めよう、確かに俺は躊躇った」

「真!」

 まるで止める様に光が叫んだ。

「でも!それは、あなたと話がしたかったんだ!」

 すると我慢し切れなかった様に、怒鳴ってきた。

「……話したかった?ふざけないで!あいつを、イスラを殺しておいて、何を言ってるのよ!そんな理屈が通ると思う?通る訳ないでしょ!お陰様で、こちとら一緒に魔術を研究する大事な相手が、居なくなったのよ!」

 そこで、顔の表情から笑みが消え、怒りに満ちていた。

「もう良い死ね」

 口調も変わっている、どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。 

 無詠唱で複数の魔術を展開する。

 こんなの見た事がない。

「光耐えれるか?」 

「やってやるよ!」

 その言葉が聞きたかった。

 後は迎え撃つだけだ。

「アパタイト!」

 この式句、どこかで。

 そんな事を考えていると、魔族から先程のコウモリの翼の様な物がカラスの様翼に変わって目が赤く光った。

 これは、少し違うが恐らくイスラが最後使っていた物だろう。

 あの式句を聞いた事があったのは、そう言う事だった様だ。

 すると魔術が無数に飛んでくる。種類は恐らく数十種類、化け物だ。

 それを全て避ける、相変わらず俺の俊敏の数値は異常だと思う。

 光の方はかなり危うい。

 だがそれは俺もだ、少しでも気を抜けば即死だ。

 ここからあいつを殺すのは、かなり難しい。

 クリスの魔術が、魔族に向かって放たれた。

 シノの回復魔術も光に使われる。

 ついでに、ステータス上昇魔術も掛け直してくれた。

「だがそれでも辛いか?真」

 グラムは、何やらここを打開する策がありそうだ。

「ああ、もちろんだ助けてくれ」

「なら我に武具解放術を使うと良い」

 使うと言っても、使い方が分からない。

「どうするんだ?」

 すると剣が飛んで来た、それをぎりぎり避ける、髪が少し斬れた。

「簡単だ、全てを解放しろ魔剣グラムで、大丈夫だ」

 なんだその厨二臭いセリフはと、思ったが確かに魔族はやっていた。

 やるしかない様だな。

「全てを解放しろ魔剣グラム!」

 変化がなにも起きなかった。と思った瞬間、グラムが、火を纏い始めた。

「周りを見ろ」

 そう言われたので周り見渡すと。炎を纏った。黒い剣、そう魔剣グラムが無数に現れた。

「使い方は分かるな?」

 不思議と使い方は分かる。

 魔族に向かってグラムを飛ばす。

 すると、目を疑う光景が現れた。魔族の周りに行った所で、グラムが全て弾き飛んだ。

「無駄よ?あなたの攻撃は、私に届かない」

 嘲笑うかの様に笑った。

 その瞬間、クリスの魔術が二つ飛んで来た。

 確か、それは難しくて出来ないと、言っていた気がするが。

 いつの間にか習得していたらしい。

 だが、それも虚しく防がれる。

「あなたから先に死にたいの?」

 魔族がクリスに向かう。これはまずい、クリスは、魔術に詠唱が必要な為、一対一はめっぽう弱い。だが無数に飛んで来る魔術を避けながら近づく事は難しい。

「お仲間さんは、自分で精一杯らしいわよ?大丈夫かしら?」

 グラムは、防がれる。だか注意クリスに向いているまま、ならばと思い、空間移動で近づく。

 魔族の背後に移動する。気付いてない殺せる。

「だーかーら無駄だと言ってるでしょ?」

 一瞬で、俺の攻撃を防がれた。

 だがこれも予測済みだ。一緒に空間移動していたグラムを、真上から落とす。

 クリスもそれに気づいて魔術を放つ。初めて見たクリスが無詠唱で放つ瞬間を。

「あんたも懲りないわね?」

 俺の考えが合っていれば、殺せるはずだ。

 クリスの魔術が防がれたその瞬間、上空からグラムが魔族の頭を突き刺した。

 すると、魔術も止まった。

「真!やったのか?」

 シノの回復魔術を掛けてもらいながら、こちらに近寄って来る。

「ああ、恐らくこのまま体力が減って死ぬだろうな、もうこいつの脳は機能しない筈だ」

 不思議と哀れみを感じた。自分で殺した相手を哀れむなんて、虚しいだけだ。

 この気持ちはきっとこれからの旅で足枷になる、グラムの言っていた通りだ。

「真?どうしたのよ?」

「え?俺今何してた?」

 気付いたら魔族の目の前まで来ていた。

「その魔族に触ろうとしてたわよ、何度話しかけても返事しないし」

 呼ばれていたのか気付かなかった。

「ごめん」

 すると、頭を貫かれた相手の体が消えると、同時に、空中から透明な水晶の様な物が現れた。

 水晶の様な物が落ちる

「うおっ!」 

 と、情けない声を出しながら、光がキャチする。

「それは何ですか?」

「分からない」

 と返事した瞬間、球体が光だした。

「お前何した!?」

「知らん知らん!何もしてないって!」

 と、必死に首を振りながら光が必死に弁解する。

 やがて、光終わると透明だったのが、金色に変わった。

「とりあえず下に降りましょう?」

 シノの意見に同意して下に降りて、山を消した。

「で?これなんだ?」

「とりあえず、インベントリ入れて名前見てみたら?」

 それは名案だ、流石クリスと言ったところか。

「なるほど」

 恐らく、光の目にはインベントリが出ている筈。

 光が空中で、球体を前後に動かす。

「何してるんですか?」

「違う、そんな目で見ないでくれ。これ入らないんだよ」

 入らない?そんな事があるのだろうか?

「とりあえずそれ貸せ」

「本当に入らないからな」

 と、言われながら、光に水晶の様な物を投げられる。

 インベントリに入れようとすると、入らなかった。

「な?」

「な?じゃねぇよ」

 これは一大事だ。

「本当なの?」

「まあ、真さんがやってるなら、そうじゃない?」

「なんか俺の扱い酷くない?」

 俺も光がそこまでの事してないと思うが、だが対応の仕方は完璧だ。調子に乗らせたら面倒になるからだ。

 耐えきれなかった様で、シノが少し笑い声を出しながら笑った。 

 それに合わせてみんな笑い出した。

 俺一人だけ無駄な罪悪感が感じて、笑えなかった。



 結局夜になったが、こいつの使い道が分からなかった。

 足音が聞こえたので、コーヒーを二人分淹れる。

「クリスもいるよな?」

「よく分かったわね、いるわ」

 この時間来るのはクリスだけだ、分かるに決まっている。

 最近はクリスとコーヒーを飲むのが、大体日課になっている。

「ミルクはいるよな?」

「たっぷりね」

 クリスは、意外と甘いのが好物らしい。

 見た目は完全に中学生だが、性格が甘いもの好きのそれじゃないので、勘違いしていた。

 クリスが椅子を取り出す。

「はい」

「ありがと」

 と、渡したカフェオレを、クリスが受け取る。

 いつも通り沈黙が流れる。いつも通り、夜空を見上げる。今日はいつもより星が綺麗だ。

「星の名前って分かる?」

「さっぱり」

 全く分からない、星なんてここに来る前は興味なんて無かった。

「私もよ」

 また、しばらく沈黙が流れた。

 なんとなくクリスに近づく。

「クリスって何で、旅に付いてこようとしてくれたんだ?」

「良いけど、笑わないでよ?」

 笑う?何故笑う必要があるのだろうか?

「笑わない」

「絶対よ?」

 深く頷く。

「……旅をしてみたかったのよ」

「旅?」

 クリスが頷く。

「そう、旅」

「何で?」

「旅をしたら、何か良い事が起きる気がしたの」

「それだけ?」

 首を横に振る。

「それだけじゃないわ、昔読んだ、童話みたいに旅が出来るかもって、思ったのよ」

 また童話、時折りクリスから童話の話が出てくる、もしかしたら、童話が好きなのかもしれない。

「なるほど、童話みたいな旅か」

「そうよ、悪い?」

「いや、悪くないよ、それだったら、ガッカリしただろうな、って思っただけ」

 クリスは、どこか遠くを見つめていた気がした。

「そうでもないわ」 

 クリスの横顔は、とても綺麗だった。

 身長は、中学生だが時々ドキリとさせてくる。卑怯だ。

 ちなみに決してロリコンではない。決して。

「真は、楽しくないの?」

 喉が詰まるのを感じる。何とか声を出す。

「……楽しいと思うでも、それ以上に辛いんだ魔族と戦闘するのが、この手で敵を殺すのが、敵の悲鳴を聞くのが辛いんだ、そして何より……いや何でもない、忘れてくれ」

「何よ、そこまで言ったら最後まで言いなさいよ」

 コーヒーを口に含み飲み込む。

 クリスも、カフェオレを口に含み飲んだ。

「辛いね、私も確かに辛いわ。きっと真は私以上に辛い思いをしてると思う、でもねそれ以上に大切な物をこの旅で私は見つけて、大切な仲間が出来て、私は楽しいよ。

 真が心からそう思ってくれたら、私はもっと、真の事を知れる気がするわ、そしたらきっと、真の人生は明るくなると思うわ」

 ああ、その通りだ、俺は心から仲間が大切だと言える。楽しいでも、だからこそ怖いんだ、それを失うのが、どうしようもなく怖いんだ。俺が初めて好きになった人だがら。

「大丈夫、俺も心から大切な仲間だと思うよ、だから辛いんだ、クリスが、クリス達が居なくなるのが、怖いんだ。考えるだけでどうしようもなく辛いんだ」

 手が震えている、ああやっぱり辛いんだ、どうしようもないほどに。そんな自分に呆れる。

 すると、クリスがこっちに前のめりなりながら俺の手に重ねる。

「大丈夫私は死なないよ、だって約束したでしょ?みんなと一緒に星を見に行くって」

 ああ、こんなにも嬉しいと感じたのは生まれて初めてだ。

「え?何で泣いてるのよ」

「え?そっか泣いてるのか俺」

 頬に涙が伝った。それを手で拭う。

「気付いてなかったの?本当に訳が分からないわね」

 ああ、本当に訳が分からない。

「絶対に死なせない、絶対に一生を賭けて」

「一生は言い過ぎよ、それに言ったでしょ?私は死なないって」

 そう言ってクリスは微笑んだ。



 大きく伸びをする。

 昨日はあの後数回戦闘して終わった。食料と経験値がもらえるので、良いのだが、やはりあまりしたくない。

「おはよ」

 クリスがテントから出て来る。

「コーヒーいるか?」

「いや、要らないわ」

 俺は淹れてあった、コーヒーを口に含み飲んだ。

「よく飲めるなそれ」

 今度は光がテントから出てきた。

「お前とは全然舌が違うからな」

「あっ、私にください」

 シノがテントから出てきたので、コーヒーを淹れる。

「それより、インベントリに入れたコーヒー返せ」

 シノにコーヒーを渡す。

「へいへい」

 と、光は少しだるそうに、インベントリからコーヒーを取り出した。

 渡されたコーヒーを貰い、カフェオレにする。

「ほら、飲んでみろ」

 そう言うと光が少し渋い顔するも、椅子を取り出して座り、カフェオレを飲んだ。

「これなら飲める」

 クリスより量は少ないが、大丈夫らしい。

「それよりあの壁どうする?」

 とりあえずもう一度性質を調べてみたい。

「一回もう一度触れてみよう」

「そうですね、やってみる価値はあるかもですね」

 という事で、全員コーヒーとカフェオレを飲み干して壁に向かう。

 ついでにこの前拾った、水晶の様なものは、あるのかと光に聞く。

 光が水晶を見せながら「あるよ」と答えた。

 あると分かったなら、早速壁に触れさせよう。

「ほら、光壁に触れてみてくれ」

 すると光の手がまるで吸い込まれる様に消えて行った。そのまま、光の体全部消えて行った。

「大丈夫ですか?」

 とシノが光が消えて行った場所に近づくと、光の顔だけ、出てくる。

「なんか入れたわ」

 なんかとは、少し雑過ぎる。

「とりあえず、入って来いよ」

 俺達も入ろうとしたら、やはり見えない壁に塞がれる。

「入れないが?」

 すると光が出てきた。

「そんな訳ないだろ?」

 と俺の腕を掴んで見えない壁に入れる。

 何故か今回は、入れた。

「な?言ったろ?」

 さっきは、絶対入れなかったと思うが。何故だ?

「あのーこっちも入れないですよ?」

「え?なんでだ?」

 とさぞ不思議そうに首をかしげる。

「もしかして、それが関係してるんじゃないですか?」

 と光の持っている水晶を、指す。

「これ?まっさかー」

 と、わざとらしく喋る。もしかしたら知っていたのかもしれない。

「じゃあ真持ってみてくれ」

 水晶を受け取った後一回光から離れ、もう一度壁に腕を入れる。

「入れた」

 となると入れた理由は、この水晶の可能性が高い。

 もしかしたら、先程俺に光が触れたら入れた事から、触れた相手も入るのかもしれない。

「光入れるか?」

 光は首を横に振る。

 どうやら正解らしい。

「みんな、もしかしたら手を繋げばみんなで入れるかもしれない」

 と伝えると、あっさりこちらに寄ってきた。

「やってみる価値はあるわね」

「そうですね」 

 と。言ってクリスは俺の手をシノはクリスと光の手と繋ぐ。

 何故ここまで俺を疑わないのだろうか?

「ほら早く行きなさいよ真」

 半分流されながらも、壁に向かうと無事みんな通れた。

 中に入ると草木が生え、精霊が飛び回り先程の景色とは大違いだった。

「良かった、無事通れたわね」

 だけど不思議だ。

「なんで、躊躇しなかったんだ?俺の案だぞ?」

 俺の案に何故ここまで?と考えが湧いてきた。

「何でって、真の案だからじゃない。何言ってるのよ」

 俺の案だから?訳が分からない、俺なんてあっちの世界で光以外に、一回も信用などされた事なんて無いのに。

「どうして?」

「どうしてって、言われても信用しただけよ?仲間を信用するのに理由がいる?」 

 理由なんて必要に決まってる、だけど不思議とそう伝える気にはならなかった。

「そうだぞ真、とりあえず俺よりは信頼されてるからな」

 と、自虐しながら光が教えてくれた。

 そんな筈はないのに。

「そんな当たり前な事言ってないで、先進むわよ」

「ちょと待ってくれ先に精霊と契約させてくれ」

 丁度精霊が近付いてきたので、契約する。

 みんなからしたらただ一人で会話している、やばい奴に映るだろうな。など考えながらも契約する事にする。



 ここに居たのは闇以外の精霊が居た、その中でも光の精霊はかなり珍しいのでありがたい。

「終わったか?」

 俺は、頷く。

「んじゃ行くか」

 と、光が鎧同士を少し擦らせて奥へ進む。

 ついでに水晶も渡しておく。

「これこっちで合ってるの?」

「知らね、とりあえず前に進むしか無いでしょ」

 と、光が呑気にそう言った。少し呑気すぎると思うんだが。

「だから信用されないんですよ、光さん」

 うっ、と変な奇声を光が上げた。

「それは、言わないでくれ」

 シノがため息を吐く。

 すると開けた場所に出た。

 そこの中心に、刀身が銀色に光っていて豪華な装飾をされている剣があった。

 台座に剣が刺さっている。

 王道道理なら、これは勇者とかじゃないと抜けないとかだろう。

「絶対聖剣じゃん!」

 と光が目を輝かせる。

「あれ俺が貰って良いよな?」

 と、こちらを目を輝かせてこちらに訴える。

「どうぞ」

「よっしゃー」

 少し小走りで向かった。

「いくぞ!うおおおお!」

 と光が剣を抜こうとするとあっさり抜けた。

「痛った!」

 と勢い余って尻を地面にぶつける。

 まあ、剣が抜けたので良しとしよう。

「これが聖剣?」

 刀身を見ると折れていた。

「それ今まで通り、童話通りなら何かをしなきゃいけなかったと思う」

「何かって?」

「忘れたわ」

 肝心な所を忘れてしまったのはちょと残念だが、聖剣だって分かっただけでも収穫だろう。

 聖剣?何か忘れてる様な?

「手に入れたか、聖剣」

 この声は確かに聞いた事がある、あの情報屋ゼンだ。

 俺は振り向いた、だがそこに居たのはあの時、光にお父さんと言われた仮面の人物だった。すると声が変わった。

「やあ、この前ぶりだね?」

 あの時の声だ、イスラを殺したあの時の声だ。

「お父さん?」

 仮面の人物は仮面を外した。その顔が恐ろしい程に光に似ていた。幸い金髪ショートなので見分けは付く。

 見た目的には二十代後半と言った所か、だとしたらおかしい光のお父さんが消えたのは、十数年前だったはず何故見た目が二十代後半なんだ?

 他の誰かなのか?いや、光が幼い頃見たお父さんの剣術は、今でも鮮明に覚えていると、言っていた。間違えるはずがない。

「よっ、大きくなったな光」

 右手の上げて挨拶する。

「お父さん!」

 と、光が涙を流して、お父さんに抱きついた。

「会いたかった、本当に」

「良かったですね、光さん」

 と、シノが光に微笑みかけた。

「は?」

 抱きついた、その瞬間あり得ない光景が現れた。

 一瞬何が起こったか分からなかった。光の腹から剣先が出ている。

 光を急いで引き剥がす。

 剣の出所は、光のお父さんの手元からだった。

「何を、してるんですか?」

 シノの目には動揺や様々な物が見えた。その目をどう表現したら良いのか、全く分からない。

「ゼン!お前何をしてるんだ!」

「その前に俺を知らない奴も居るだろう?だから自己紹介をしてやるよ。

 俺の名前は、勇気善だ、漢字の勇気は分かるな?善は偽善の善だ」

 元勇者だと?血は争えないのか?この状況でありながら、そう思ってしまった。

 シノが、光に回復術式を掛ける。

 ついでに、ステータス上昇魔術を掛けてもらう。

「お前は何がしたいんだ?」

 すると、距離を詰めてきた。

 クリスが、魔術を無詠唱で同時発動する。

「もうその域なのか、凄いな!」

 と、感心しながら、こちらを詰めて来るので飛んで避ける。

 すると、善も一緒になって飛んでくる。

 飛んで魔術を手から、何かを出して消した。

 俺目掛けて、剣を振ってきた。

 ぎりぎり避ける。

「マジかよ、これ避けんのか速いな!!」

 と、感心した様子を見せた。

 何か、違和感がある。

「お前、本当に善か?」

「善に決まってんだろ!」

 速い、もしかしたら俺と同等かも知れない。

 すると、光が、起き上がって来た。

「……お前誰だ!そんな剣術はお父さんは、使わない!」

「何言ってるんだ?見た目は完全にお父さんだろ?」

「見た目はな!」

 攻撃を仕掛ける。速度は俺の方が少し上、行ける!

「防げばどうって事はない……何処へ?」

 と、善?が困惑した。それは何故か?俺が空間移動を、使用したからだ。魔剣グラムに。

 俺はグラムが剣に当たる瞬間に、手を離してグラムを左手に持ち替えた。

 これは相手の防御は間に合わない、行ける!

 ぎりぎり体を逸らされたが、右手を斬り落とせた。

 後ろから光が飛んで止めを刺しに来た。

 光の方を振り向いた。

 すると急に光の意識が無くなったかの様に、地面に落ちて行った。落ちる直前に意識が戻った様に体勢を立て直す。

 息遣いが荒くなっている。何かあったのか?

「……どうして?」

 光が、小さく呟いた。

「何をよそ見してるんだ?」

 魔術を避けながら、こちらに攻撃を仕掛けてくる。流石と言った所か。

 だが、俺より遅い。

 これは、俺の俊敏のステータスが異常なのだからなのだろう。

 反撃を仕掛けるが、まるで分かってる様に避けられる。

「お前の攻撃は読みやすいな?」

 善が憎たらしい笑みを浮かべた。

 クリスの魔術も、防がれる。

 さてどうするか、あまり良い手が見つからない。



 薄暗い部屋の中心に俺は、椅子に座っている。不思議な事に、立ち上がる気が起きない。

「起きた?人殺し?」

 暗がりから黒髪の小学生の様な、少女がやって来た。俺はこの少女を知っている。

「俺が人殺し?何を言ってるんだ?さくら?」

「何を言ってるって?ふざけないで?あなたが私を殺した、違う?」

 ああ思い出した。俺は子供の頃桜を殺してしまったのだ。

「……桜は、もう死んだ筈だ」

 立ち上がる気力がない。もう何もかもどうでも良い。

「死んだ筈?そうだね、光が殺したもんね。 でもね光が幸せそうに生きている、光が許せない、だから幽霊なって来てあげたのよ?

 嬉しいでしょ?だって光の初恋の相手なのだからでしょ?」

 見た目の割にどこか大人ぽい、桜らしい。

「俺は幸せじゃないし、桜が来ても嬉しくないだってお前は偽物だから」

 性格も態度も喋り方も見た目も、全部あの時のままだ。

 だけど、こいつはどこか違う。

「私は勇気光に殺された、中居桜なかい さくらだよ」

 違うそんなはずはない、あいつがそんな事を言うはずがない。

「光は人生を幸せに生きている、私より何倍もだから、光も同じ苦しみを味わって?お願いだから」

 もう我慢出来ない。

「黙れ、その顔でその声でそんな事を喋るな、桜の想いを俺は捨てる気はない。それに桜が自分の考えを変えるはずがない」

 桜?が気味の悪い笑みを浮かべる。

「いいえ、光は知っている筈、思い出して?あの日の事を」

 あの日の事か、俺は記憶の奥深くに入れていた、記憶を引っ張り出す。

「俺の答えは変わらない、絶対に」



 今日は、少し天気が悪い放課後には雨が降るかもしれないので、傘を持ってきた。

「光、速すぎでしょ」

 と、桜はもう息が上がっていた。

「俺が速いじゃないくて、桜が遅いんだよ」

 と、少し煽りを混ぜる。

「……馬鹿のくせに」

 とまるで吐き捨てる様に言った。

「関係ないだろ!」

「無駄に耳は良いのね」

「なんだ?羨ましいのか?俺の足の速さが」

「そんな訳ないでしょ?」

 と、桜が呆れながら答えた。

「ほら早く学校行くわよ」

 と、催促される。


 学校に着くと、今まで通り楽しい空間だった。

「おはよー」

 すると、友達が俺と桜を交互に見てから喋る。

「おはよーまた一緒に来たの?仲良しだね?」

 その言葉には、何か意味ありげだった。

「そんなんじゃないよね?光」

 何故俺に訊くのだろうか。

「おーいお前ら朝読書しろよー」

 みんなはーいと答えるも、数名は会話をしていた。

 そこに俺は含まれる。

「なあなあ、結局の所好きなの?桜の事」

 またこの話だ、何回したのだらうか。

「ないないって、桜は幼稚園の頃から同じだし、幼馴染みたいなもんだよ」

「嘘だー」

「小三であいつの事好きなる奴いないって」

 と皮肉たっぷりで会話する。

 気付けば、朝の会が始まった。



「昼休みだー、光!遊ぼう!」

 と、手招きされる。もちろん行くに決まってる。

「行く、行く!」

 と、走って向かう。道中桜にぶつかった。

「あっ、ごめーん」

「ちょと、待ちなさいよ!」

 桜の呼び掛けを無視して、遊びに向かう。

「早く行こうぜ」

 いつも通り、グラウンドでボール遊びをしに行く。



 帰りの会が終わった。

 ふと朝の会の会話を思い出した。

 桜の事が好きかどうか、正直な所桜事をどう思っているか、分からない。

 でも一緒に居たいとは思う。

「ほら帰るわよ」

 桜が、俺の机の前にいつの間にか居た。いつもの事なので、驚きはしなかった。

「そうだな」



「てか今日のあれ怖くない?」

「あれって?」

「ほら先生言ってたでしょ?」

 思い出せない。

「……と言うと?」

 桜が大きくため息を吐いた。

「不審者のあれよ」

「あれって?」

「子供しか殺さない、殺人鬼」

 そんな事を言っていた気がする。

「でも、どうせ大丈夫でしょ」

 俺の額に桜が、デコピンする。弱そうな見た目をしているが、力がある、まあまあ痛い。

「バカなの?事件全部この地区なのよ?」

「不審者ってあんな人?」

 と、俺は全身が黒く、黒マスクを着けている、人物を指で指す。

「何言ってるのよ、そんなわけないでしょ?こんな白昼堂々あんな格好するわけないでしょ?」

 確かにそんな訳ないか。それに周りに人もいる。


 しばらく歩くと、人気のない所に出た。

「なんか、ここは今日不気味ね」

 すると、後ろからブーツをコツコツと鳴らして歩く人が居た。

 見た目は、まともな人だ。

 ニヤリと笑った。そこで気が付いた、あいつの手には包丁があった。

「お前か!子供を殺してる奴は、俺が捕まえてやる!」

 傘を武器にして、立ち向かう。

 すると桜が振り向いて、叫んだ。

「駄目よ!逃げよう!」

 その呼び掛けを無視する。

 桜も諦めたのか、止まって防犯ブザーを鳴らした。

「何をしてるのかな?お嬢ちゃん?」

 相手は不気味な笑みを浮かべた。

 桜が大きく息を吸う。

「助けて!不審者がここに居ます!」

 すると、不審者は走り出す。

 俺はそれに、殴ったりぶつかったりする。

「なんだ、お前先に死にたいんだな?」

 と、包丁を振りかざした。

 俺が、包丁で首を斬られたと思った瞬間、突き飛ばされた。桜に、桜は俺の代わりに、首を斬られた。

 何故、こんな事に?

「ああああああああああああ——!!どうして俺なんかを!!」

 と、俺は嘆いた、叫んだ。涙が枯れる程に泣いた。

「ここだ!大丈夫か君?」

 と、続々と大人たちがやって来た。

 殺人鬼が舌打ちをして走って行った。

「ああ、桜、なんで?どうして!俺を庇ったんだ!」

 桜は口パクで、こう言った。

 光が好きだから。

 やっと分かった、この気持ちが。

「俺も、俺も好きだった!」

 涙が桜の服に当って消えていく。

 私の分も生きて。とそう言った気がする。



 これが全てだ、だからこんな奴とは違うはずだ。

「笑えるね、光は、自分を守る為に嘘を付いている」

 桜?はこちらに顔を近づける。俺の頬を手で包み込む様に触る。

「思い出して、光は私を見捨てた」

 そんな訳ない。

 その時ある筈のない、記憶が俺の頭に流れて来た。



 ブーツの歩く音が聞こえる。そこで気が付いた。ブーツを鳴らして歩く男の手には、包丁があった。

「お前、あの殺人鬼か?」

 手が震える、足が震える。怖い。

「そうだとしたら?」

 と、ニヤリと笑った。

 やばい逃げないと。

「逃げるわよ!」

 と、桜が防犯ブザーを鳴らした。

 俺は、桜を、初恋の相手を殺人鬼の方へと突き飛ばした。これで時間が稼げる。逃げないと、どんな事を犠牲にしても。たとえ好きな人に憎まれようとも。

「どうして?」

 その後犯人は捕まり、桜が死んだ。

 犯人が言うには、最後の子供を殺した時、怒っていたのは、俺と一人の子供だと語っていたらしい。



「嘘だ!そんなはずがない!俺はあの場から逃げてない!俺は、あいつの事が好きだったから!守りたかったから!」

 急に暗い部屋から、あの日桜が死んだ場所へと変わっていた。

「どうして?」

 と、桜は抑えつけられる。

「どうして?お前を囮にして、逃げたかったからだろう?」

 と、殺人鬼は高らかに笑った。

「嫌だ!死にたく、ない!」

 男は不気味な笑みを浮かべて、腕、足、腹などを次々に刺していく。

「違う!俺はこんな事してない!」

 そんなはずない、絶対に。

「ああああああ※あ※あああ——!痛い!痛い!光どうして!好きだったのに!もう辞めてよ!どうして?こんな事を!もう許さない、死ね!死ね!光もあなたも!」

 男は、とても楽しそうな笑みを浮かべた。

「そうだ!そうだ!恨むならあいつも恨む事だな!」

 そして最後に心臓を刺した。

 地面に血が広がっていく。

 地面に膝をつく。

「ああああ※ああ※あ※あああああああああ※※※※※あああ!!頼む目を覚ましてくれ!頼むから!頼む、もう見せないでくれ、もう見たくない、もう嫌だ!!」

「光が私を殺したそれが許せない!だから死んで?」

 死ななければ、罪を償う為にはこれしないのだから。だって人殺しはなのだから。

 急に景色が変わる。これは俺が居た、異世界、もう死のう俺はもう生きる価値なんてない、記憶を自分勝手に変えて自分の罪から逃げて来た、クズ野郎だ。生きる価値なんてない。

 手にあった刀身が折れた、聖剣で首斬ろうとする。

 だが手は止まった。

「やっぱり死にたくない。死にたくないよ、死ぬのは怖いよ」

 桜は、可愛らしい笑みを浮かべた、可愛らしい筈なのに、どこか恐怖を感じてしまう。

「あなたの罪は死ぬ事でしか、償えない、だから死ぬ手伝いをしてあげる」

 俺の手を触って、聖剣を俺の首に向ける。もう何だって良いのかもしれない。

 俺はもうどうでも良い。もう死のう。

 と、諦めた時目の前にシノがやって来た。

「光さん!何してるんですか!今目の前で真さんと、クリスが命懸けで戦ってるんですよ!光さんは、それを見てなんで!自殺しようとしてるんですか!

 何かを喰らったかも知れない、でも!勇者でしょ!そんなので死なないでくださいよ!」

 と、少し涙声になりながら、叫んだ。

「ああ、やっぱり死ねない!桜の元には行けない!」

 すると手元にあった、聖剣が光った。

 刀身が徐々に戻っていく。

「気に入った、力を貸してやろう、二代目」

 と聖剣が喋った。

「ありがとうシノ、シノのお陰で戻って来れた」

 するとシノは微笑んだ。

「遅いですよ」



 もう空間移動は使えない、最初のあの一撃以外、なんのダメージも与えてない。

 武具解放術を使うべきか?

 いや、武具解放術を使わなくてもこいつに勝てないと、恐らくこの先かなり苦労するだろう。

 クリスの魔術も何かの力で防がれる。

 やはり光が起きないと辛い。今シノは光を起こすのに必死だ。このままでは全滅するぞ光。

 すると、光の持っていた、聖剣が光った。

 光が、飛んで来た。

「すまん、遅くなった」

 聖剣の刀身が直っている。

「あの試練に合格したか、全く同じだな、その精神の強さは」

 誰に同じなのだろうか?やはり善か?

 光が、善?に剣を振るう。

 善?が剣で防ごうとするもの、剣と一緒に見事に斬った。

「バケモンかよ」

 と、吐き捨てる様に言って、地面に落ちていった。

「ああ、俺は死ぬのか」

 すると光が駆け寄る。

「ああ、そうだ」

 地面に血が広がっていく。

「そうか、大きくなったな、光」

 これはまさか戻ったのか?

「お父さんなの?」

 と、懇願する様に喋った。

「ああ、そうだ少し精神が支配されてたがな」

 その瞬間、シノが詠唱を始めた。

「辞めろ!俺を回復させるんじゃない!俺を回復させたら、また同じ事になるかも知れない!」

 シノが少し躊躇ってから詠唱を辞めた。

「そんなお父さん?死なないでくれ!もう俺の所為で、身近な人が死ぬのは嫌なんだ!」

「……後一分もすればおそらく死ぬだろう、その前に一つ伝えておこう。お前達はまだ未熟だ、だから鍛えろ、旅をして気付け自分に合った戦い方を、それだけだ、やっと愛に会える」

 と、ゆっくりと優しくそう言って目を瞑った。

「は?息をしてない、後一分は持つって言ってたじゃないか!どうして、死んだんだ!おかしいだろ!なんでなんだよ!」

 光の、涙が善の顔に当たる。

 光が、泣き叫んだ。

「光さん、弔ってあげましょう」

 と、一番近くに居た、シノが肩に手を当てて、優しく語りかけた。

「ああ、そうだな、ありがとう」

 その後、死体を地面に埋めた。埋葬の仕方はこの世界では、死体の職業によって変わるが、善は元勇者の為先ほどまで使っていた、折れた剣を死体に突き刺す。その後に死体の幸福を祈って終了だ。

「終わったか」

 空気が悪い。遂に人を殺してしまったのだ。 それも、光のお父さんを。

 誰も喋ろうとしない。

 それと知りたくなかった事実が、一つ分かった事がある。

 人と魔族は斬った感触が、全く同じだったという事だ。

 俺はもう人殺しと、なんら変わらないのかも知れない。いや、分かっていた事か。

「……前に進みましょう。託された想いと一緒に」

 その目には不安と恐怖が入り混じっていた、それと同時に、決心した目でもあった。


 外に出る時水晶が消えていたが、難なく外に出れた。

 光が真剣な顔で話し出す。

「ここからは、きっと大変な道になるけど付いてきてくれるか?」

 光が少し不安を見せた。もちろん、答えは決まっている。

「ここまで来て、帰れって言うのか?それに俺達なら、どんな壁でも乗り越えられる、だろ?」

「そうですよ、行くに決まってます」

「私も」

 幸い全員付いて来てくれるらしい。

「本当に良いのか?特に真、最初嫌がってだろ?」

 嫌がってたか、もちろん最初はそうだった。

「確かに最初は嫌だった、でももう一年だぞ?嫌でも慣れて来る。それに聖剣も手に入れた、ここで引き返したら一生笑われるよ」

「……そうか、ありがとう」

 初めて見た気がする、ここまで弱々しい光は。

「……みんな、ありがとう」



「そろそろミルクが無くなってきたな」

「そうなの?じゃあ残りの分貰おうかな?」

 クリスが、優しく微笑んだ。

 当然の様に隣に座る。今更気にはしないが。

 カフェオレと、コーヒーを淹れる。 

「ありがと」

 俺が、渡したカフェオレを受け取る。

「そういえばいつの間に習得したんだ?無詠唱と、魔術同時発動」

「うん?あれの事ね、簡単よ相手の真似をしたのよ、あの魔術師の」

 練習も何もしてなかったと、となるとかなり凄いんじゃないか?

「もしかして、あれだけの魔術を展開出来るのか?」

 クリスは、首を横に振る。

「無理ね、魔力が足りないわ」

 なるほど、つまりあれば出来ると。

「と言っても半分くらいこの魔防具のお陰だけどね」

 確か、片方の魔術の詠唱をしないだったか。

 確かにそうかも知れない。

 それでも凄いのでは?と思いつつ心に留める。

「あなたはまだ、私を使いこなせてないわよ」

 初めて聞いた声だった。となるとこの魔防具の声?

「やっと喋った、あなたの名前は何?」

「私の名前は、メーディア杖であり防具であるわ」

 杖であり防具?どういう事だ?

「セット武具か、珍しいな」

 と、さぞ珍しいそうな声で、グラムが喋った。

「セット武具?」

 と、クリスが訊いた。

「セット武具は、例えば何々王の鎧とかだと、何々王の剣があるでしょ?その二つが全部揃ったら特殊な能力を得られる武具の事よ」

 と、メーディアは冷静に語る。

「で?メーディアは、どういう能力なの?」

「今の私は、あなたの魔力を増幅させて、魔術の威力を上げて、そして相手のステータスを見れて、魔術を同時発動する時魔術消費量を下げるそして最後に武具解放術をリスクを無しで使えるわ」

 リスク?そんな物があるなんて知らなかった。

「リスクって何があるの?」

「耐久値が減る」

 と、静かにグラムが答えた。

「それって普通に使ったら減らないのか?」

「ああ、武具解放術を使わなければ一生使える、だが使えば、耐久力が大幅に減る」

 どれくらいだろうか?

 まあ、極力使わなければ良いだろう。

「話が少しズレたわね、まあ、つまりあなたが私の能力を使いこなしなさいって事よ」

 まあ結局はそういう事か。

「とりあえず、私は練習して来るわ」

 と、言って、テントに入って行った。

「真、お前はいつ告白するんだ?」

 飲んでいたコーヒーを危うく吹き出しそうなった。

「急すぎだろ!だ、誰にだよ」

 やばい動揺しすぎたか?

「クリスにだ」

 声が少し弾んでる気がする。そんな訳ないが。

「な、なんでそう思うんだよ」

 動揺を隠す為に、コーヒーを飲む。

「いや、我は真の記憶と感情を読み取れるからな」

 記憶と感情?つまりバレバレと言う事か?

「じゃあなんで訊くんだよ、訊かないでくれよ」

 というか、正直な所告白の仕方が分からない。アニメや漫画、小説なら見たり読んだ事があるのだが、リアルでは見た事ないし、した事もない。

「いや、人間の恋愛なんて見た事ないのでな」

「頼む、俺をあんまり困らせないでくれ」

「そうか、努力はしよう」

 正直心配だ、グラムは偶に暴走するからだ。



「ふわあー」

 と、少し奇妙な声を上げて、シノが欠伸あくびしながらテントから、出て来た。

「コーヒー要る?」

 シノは、頷いた。

「お願いします」

 コーヒーを、淹れる。

「ありがとうございます」

 シノは椅子を出して、コーヒーを受け取った。

「シノ、真おはよう」

 クリスがどこか落ち着かない様子でテントから出て来た。

 何かあったのだろうか?

 光が出て来る。

「おはよ」

 と、眠そうに出て来た。

「コーヒーくれー」

「ミルクないけど良いか?」

「じゃあ要らない」

 椅子を出して座る。シノの隣だ、あいつやっぱりシノの事好きなのか?

「なんか、お前ら近くね?」

 と、俺とクリスを指で指す。

「そう?」

 と、クリスが不思議そうに訊く。

 シノと光が頷いた。

「でも、もう慣れちゃたし、今更変えなくても良いでしょ」

 それはそうだ。

 コーヒーを口に含んで、飲み込んだ。

 足音が聞こえた。

「魔族だ」

 コーヒーをインベントリに入れる。

「遊びましょ?」

 角が生えている、栗色の髪をしたツインテールの魔族の少女が、楽しそうに話してから、熊などの可愛らしい人形が沢山地面から出てきた。まるでゾンビだ。

 数十体の人形が飛んで来た。

「かなり強そうだな」

 恐らく人形一体一体が、強化されているはず。

 だが人形なら燃やせるかも知れない、と思い燃やそうとする。

「燃えない?もしかして燃えない素材なのか?」

「正解だよ、お兄ちゃん」

 だがこの距離なら一瞬で詰めれる!

 相手の首手前で、剣の振る速度が落ちた、そのせいで避けられた。

「速いんだね、お兄ちゃん」

 一体何が起きたんだ?そんなことを考えているとクリスの魔術が数十になって放たれた。

「すごーい、ネネ、そんなのお姉ちゃんじゃないと見た事ない!でも威力はお姉ちゃんより弱いね」

 クリスの魔術もゆっくりになっていく。

 少女が避けた、避けた先に光が攻撃を仕掛けた。

「終わりだ」

 光の攻撃を高く飛んで避けた。

「お兄ちゃん達、凄いねでもネネの方が強いよ」

 すると、空中から、槍が出て来た。

「グングニルやっちゃえ」

 グングニルと言われた槍が、刀身に雷を纏った。

 グングニルは投げられた。

 だが難なく避けられた。

「真!追尾してる!」

 光が、俺に忠告した通りに追尾してきた。

 それと、同時に光が武具解放術を使う。

「全てを解放しろ!聖剣エクスカリバー!」

 エクスカリバー、この世界でも聖剣の名前はそうらしい。

 武具解放術を使ったものの、エクスカリバーは何一つ変わらなかった。

 すると先程よりも、光の速さが上がっていた。

 俺もそれに付いて行く。考えていた事がある、恐らく人形にどれだけ近付いても減速するのは、同じだろう、さっきクリスの魔術を見た所、近付いても最初減速した時と速度は変わらなかった。つまり先程以上の速度で斬れば行けるか知れない。

 それに、二人同時だったら、もしかしたら減速の力が弱まるかも知れない。

「真、行くぞ!」

 もちろん、速度は下がったが。少女の首は斬れた。

 これであの人形と、グングニルは止まったはず。

 クリスの方へ振り向くと、止まっていなかった、しかもグングニルはシノを殺す一歩手前だった。

「真!俺をあそこに飛ばせ!」

 俺は素早く頷いて、光を空間移動でシノとグングニルの間に飛ばす。

 光が左手で持っていた、盾で防いだ、と思われた。盾が壊れてしまったのだ。

 これではもう守れない。その時光が右手に持っていた、エクスカリバーを目の前に出した、だがそれは剣ではなく、盾だった。

 変わったのだ、姿がエクスカリバーの。

「うおおおおおおおおー!!」

 グングニルも負けじと盾を壊そうとするが、段々威力が下がって行った。

 グングニルが止まって地面に落ちて行って、空中から姿が消えていく。

 人形も気づいたら、消えていた。

「あれ?なんであの子も消えてるんだ?」

 すると、先程まで居たはずの少女の姿がない、あの少女すら人形と同じだったのか?

 だとすると、本体は別に居るという事になる、何故そんな事をするのか、何故上位魔族全員で、攻撃を仕掛けてこないのだろうか?何故こんな事をするのだろうか?分からない事が多過ぎる。

 待てよ?もし

「真?どうしたの」

 クリスの顔が目の前に出て来た。

「うわっ!」

 心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。顔を赤くなるのが分かる。

「なによ、そこまで驚かなくても良いでしょ?それより、何か考え込んでたみたいだけど」

 これはただの憶測だ、言って困惑させるのは得策じゃないだろう。

「いや、なんでもないよ」

「そうなの?まあ良いけど」

 そういえば、あそこまでドキリとしたのは初めてだ、何故だろう?もっと好きになってしまったのか?人を好きになった事が無かった俺が?だとしたら良いな。

「なあ、真こっちに来てくれ」

 いつの間にか、地面に戻っていた光の所へ行く。

「どうした?」

「ちょと訊きたいんだけ、二刀流やって良いと思う?」

「と言うと?」

 すると光がインベントリから、純白の剣を取り出す。

「これと、エクスカリバーでやるんだよ、二刀流どう思う?」

 と言って構える、どうせこいつは俺が拒否しても辞めないだろう。

「好きな様にどうぞ、扱えるのであれば」

 正直な所心配だ、二刀流はかなり難しいだろう。

「扱えるのであれば?」

 と、言って剣を振る。意外と様になっている。

「どうよ」

 光がドヤ顔を見せる。

「まあ、良いんじゃない?」

 一応同意はしておく。

「何やってるのよ?」

「二刀流練習中」

 と、光が、短く答えた。

「真達も手伝いなさいよ、片付け」

 そういえば、テントを片付けていなかった。

「はいよ」

 だるそうに、光が答えて、テントの方へ向かった。

「俺も手伝わないと」

 俺は、小走りで向かった。



「なんか、暇だな」

 光が、金色の鎧を光らせて暇そうに歩く。

「何ですか?戦闘でもしたいんですか?」

 シノが、若干棘のある言い方で言った。

「違うけどさー、なんかないかなって」

 腰に携えている、エクスカリバーを触る。何故か時々、そういう行動をする。

「そういえば、何で聖剣の鞘あるんだ?」

 と、今更思っていた事を訊く。

「あー、なんかこいつが言うには、あの水晶みたいなやつが、鞘に変わったらしい」

 と、言ってエクスカリバーを見せる。

「そういえば、お二人とも、腰に携えてると、邪魔じゃないですか?」

 言われてみれば、かなり邪魔だ、だがなんかインベントリに入れるのは忍びない。

「背中とかに出来ないの?」

「あー、それ俺もそう思ったけど、あれ抜けないんだよね」

 前に試したが抜けなかった、抜けたらどんだけ良かったかことか。

「へー、やった事あるんだ」

「となると、何か他にいい案ない?」

 他に?何も思い付かない。

「あっ、一つだけあるかも知れない」

 光がニヤリと笑った。

「どんな?」

「そもそも鞘に納めなきゃいいんじゃないか?」

 意外とありか?どうせいつ戦うか分からないんだ、準備していて損はないだろう。納めるのは、何か準備する時で良いだろう。

「そうしよう」

「えっ!良いの?だって良く考えてみて?常にグラムを持つんだよ?疲れるでしょ」

「良いよ別に、逆に手に馴染むかも知れないしね、そっちの方が」

 実際、それは考えなかったという事ではない。でも多分鞘が無い方が楽だ。

「そう?なら良いけど」

 インベントリに鞘を入れる。

「というか、今魔王城に向かってるんだよな?」

「そうですね、それがどうしたんですか?」

「魔族が圧倒的に少なくないか?」

 確かに言われてみたら、戦闘が聖剣を手に入れてからかなり減った気がする。

 何故だ?何かあるのか?

「そうだな、それがどうかしたのか?」

「あのさ、その事で一つ思った事があるの」

 クリスが、真剣な眼差しでこちらを見る。

「道中魔族の町の様な建物があった、でも魔族が全く居なかった、でも上位魔族とかは出て来てた、って事は私達で言う市民は避難してるんじゃない?だから魔族と、全く会わないのよ、会うのはある程度の実力の魔族だけなのかも知れないわ、ただの憶測だけど」

 確かに憶測だ、だけどあり得る。もしそうならこの戦争を平和的に終わらせる事が、できるかも知れない。

 でも俺にそんな事を言う資格はあるのか?魔族を数え切れないほど殺した俺が、あるはずがない。もう後戻りは出来ない。

「そんな事考えてないで、前に進むぞ魔王を倒す為に」

「魔王を殺す、今それだけに集中しよう」

「そうですね」

 そう言って、光達は俺の前を歩き出した。

 俺は持ち前の速さで追い越した。



「やっぱりあの子じゃ駄目かー」

「当たり前だ、勇者を舐めるなグラーキ」

「舐めてないよ、魔王様」

 グラーキと言われた、根暗そうな見た目で白衣を着た魔族は、地面に置いてあった、首を斬られた少女の遺体の頭と体をくっつけた。

「本当に、我はお前が嫌いだ」

 魔王様と言われた、魔族は軽蔑する様な目で目の前に居る魔族を見つめる。

「そうですか、興味ないですね、僕は研究を出来れば何でも良いですよ」

「お前は、同胞を敬う気持ちは無いのか?」

 少しの間すら無く答える。

「無い。ある訳がないですね、あったらこんな研究をしてるはずがないですよね」

「それがお前らしいか、だが嫌いだ、その気持ちが全くもって分からない」

 グラーキは無視をする。もしかしたら、答えたくないのかも知れない。

「何故?そうなってしまったのだ?」

 昔はこんな奴ではなかった。優しく、魔族を誰よりも大切に思っていたはずだ。

「何故か、前からそうですよ、俺は」

「ったく、あの二人武具想伝術ぶぐそうでんじゅつなんて、使わなければ、生きれたかも知れないのによ、魔族の話はよく聞けよな」

 その声はどこか、寂しそうだった。

「寂しいのか?」

 訊かずにはいられなかった。

「寂しい?そうですね、研究仲間が二人いなくなったので、研究速度が少し落ちるのは残念です」

 今気付いたが、以前より部屋がかなり汚くなっている。掃除がされていない、資料を探しているが見つかっていない様だ。

「どうして、片付けをしてないんだ」

「……汚いのはイスラが、毎日掃除してくれてたからですよ」

 イスラは元勇者、勇気善にやられていた。イスラの損失は魔族にとってもかなり大きかった。

 それはこいつもなのだろう。背中から、悲しみが漏れ出ていた。

「ケルト、あの資料、そうか居なかったな」

 仲間が居ないので、自分で取りに行く。

「魔王様、いつまでそこに居るんですか?」

 確かにもう用は済んだか。

「そうだな、昔のままで良かったよ、グラーキ」

 この時だけは少しだけ堅苦しいのは、外しても良いだろう。

「そうですか、ならさっさと帰って下さい」

 だが何も変わらなかった。少しだけ寂しい。

 扉を開けて魔王は自分の部屋に戻った。



「危なかった、もう少し遅かったら笑いそうだった」

 口元を手で覆い隠す。

 俺は、魔族を救う為に、この世界そのものに反逆する、正確には神だが。

 あいつは、見た目こそ魔王様だが、魔王様じゃない、あいつは魔王様のフリをした、ただの観戦者だ。

「……勘付かれてるな」

 もしここに、善が居たのであれば、どんなに楽な事か。

「俺が必要か?」

「善?お前は死んだはずじゃ」

「いや死んでないお前のくれた、アイテムでな」

 と、そのアイテムを投げる、恐らく考えてるアイテムならばもう使えないだろう。

「身代わり人形、これを使ったか」

「でも、二回お前死んだはずじゃ」

「あいつが良い事に、面白い物を見せて欲しいって、蘇らせてくれたよ、それに頼まれた事を思い出したからな、死んでも死に切れない」

 あいつとは、神の事だろう。

「それで何か掴めたか?」

 深く頷いた。

「影之真あいつが鍵だ、あいつならこの世界を救えるかも知れない」

 影之真、神の手違いにより、召喚された人物、言わば、この世界の住民であって住民ではない者、つまりどの世界の者でもない。言わば神の天敵、そういう事か。全く運が良い。

「やるしかないな」

 影之真、あいつを仲間に加える。

「グラーキ仲間にするで良いよな」

 返事をする代わりに深く頷く。

「だが弱すぎても駄目だ、この魔王城まで来れるレベルまで最低限行かないと、希望が薄い」

「それはそうだな、待つぞここに来るのを」


「魔王城、を辿り着くレベルだと?笑えるな、その程度で倒される程の雑魚と思われているとは、まあ良い我を楽しまさせると良い」

 魔王の体がベットに倒れた。

「我は何をしてたんだ?」



 辺りはもうすっかり暗くなっていた。

 焚き火焚いて、その前に椅子を置いて座る。

 当然クリスも一緒だ。

「真、この辺り草木を生やす事は出来るの?」

 突然なんだろうか。

「前やったけど、出来なかったよ」

 魔界に、着いた瞬間やったが不可能だった。まるで何かに弾かれた様に。

「無理なんだ、そっか、ならちょとそっちに寄って良い?」

 さっきの話と全く関係ない気がするが、何かあるのだろうか。まあ断る理由もないので断らないが。

 クリスは、俺の真横に座った。もう少しで肩が触れ合うだろう。

 クリスは、帽子を脱いでいたので、帽子が当たる事は無かった。

 幸いこの時間はグラムを、鞘に納めていたので、怪我する心配はないはずだ。

「あのさ、少しだけ肩を貸して」

「良いよ」

 肩を貸して?返事をしてから気付いた、自分の失態を、やらかした。

 丁度、頭をこちらに倒したら、腕に寄り掛かる、身長が低い為肩まで届いていなかった。

 今更拒否もできないし、する気もない。

 そういえばクリスの歳を知らない。十五歳くらいか?

「クリスって何歳だ?」

「十八歳よ」

「十八?嘘だろ?同い年だったのか?」

 クリスが頷いた。

「何よ、年下とても思ってたの?」

「うん、てっきりそうかと」

 クリスがため息を吐いた。

「聞いてなかったの?みんな同い年だから敬語無しになったんでしょ?」

 そこで思い出した。城での会話を。

「あの時、俺最初緊張し過ぎて全然話せてなかったよな」

「何で?そんな話ずらかった?」

 少し悩んだが直ぐ結論は出た。

「……クリスが可愛くて緊張したんだよ」

 初めてだった、あそこまで緊張したのは。

「はあ?何それ恥ずかしくないの?」

「返す言葉もございません」

 実際、クリスは自分の可愛さを理解してないと思う。

「私が、可愛い?私なんて、一度もモテた事ないのよ?」

 モテた事がない?あり得るのか?このクリスが?そんなはずない。そこで気付いた。クリスの断崖絶壁、そして極めつきはこの低身長。

「……罪の意識」

「なんか言った?なんかもの凄く失礼な事考えてない?」

 流石に、この子供の様な体には手を出すと、罪の意識が出てきたんだ。だからか。

「真、でも私は、それで良かったと思ってるよ」

「良かった?」

「だって何年も魔術に打ち込んで、人とあんまり関わらなくて、でもそのおかげで、真にみんなに出会えたから」

 と、笑った。その笑顔がどうしようもないほどに愛おしかった。

 思わず頭を撫ででしまった。やってしまった。

「何!?何で頭撫でるのよ!」

 クリスが離れる。やっぱり怒っている。顔が赤くなっている。

「ごめん嫌だったよな、我慢できなくて」

「……い…じ…ない」

 声が小さくてこの距離でも聞こえなかった。

「なんて?」

「嫌じゃない、そう言ったのよ、もう一回言わせないでよ」

 これは慈悲だろう、この優しさにつけ込むのは良くないだろう。なのでちゃんと謝ろう。

「本当にごめん」

「良いって、じゃあ罰として、私がこうしたいって言ったらこうさせて」

 と、言って俺の腕に寄り掛かる。

 俺は、この事をこれで終わりになった事を感じて、夜空を見上げた。

 星を見てる時は何も考えなくて良い、それだけで充分だ。

「ねえ真、これより綺麗な場所があるのよね」

 一瞬何のことか分からなかったが、直ぐに分かった。あの約束だ。

「噂によるとね」

「きっと見れるよね」

「ああ、全員で見よう、絶対に」

 正直その全員に俺は、入ってる気がしなかった。でも、それと同時に入りたいとも思ってしまった。

「私そろそろ寝るね、真も寝たら?多分寝具はテントにあると思うよ」

 寝具?テントに何があるのだろうか。

「久しぶりに寝てみるか」

 テントに入ると、それはテントというより部屋だった。

「何これ、あり得ないだろ」

 先程の外見とは大きく反した広さだった。

 全くもって驚きだ。それにベットも二つある。

「しかもふかふかだ。これはしかも何故か壁がある」

 もしかしたら魔族は、ここを襲えないのかも知れない。

「寝てみるか」

 俺は独り言を呟いて、ベットに倒れた。

「……もうずっとこのままでいたい」

 そのまま、ゆっくりと眠りについた。



「起きて、真」

 体を揺さぶられる。

「分かった」

 もちろん、目の前に居るのは、光の筈だ。

「やっと起きたー全く遅いのよ」

 声がいつもより高い。どうしたのだろうか。

「あれ?光じゃない?」

 よく見ると違う、やっと瞼が軽くなった。

「何言ってるのよ、早く起きなさい」

「クリス?何でここに?」

 そういえば、レザーコートを脱ぐのを忘れていた。その所為だろうか、体がやけに重い。

「クリス、もう疲れたよ」

 俺は、寝ぼけてクリスに抱きついた。

「えっ!え、え、急にどうしたのよ!?」

 クリスの肌が温かい、良い匂いがする。

 ずっとこうしてたい。

「クリスこのままで、ずっとこのままでいたい」

 クリスが俺を押しのけて、ベットに倒した。

「寝ぼけてるの?」

 寝ぼけてる、確かに寝ぼけてるな。

「ごめん、もう目は覚めたよ」

 俺は、ベットから降りて立ち上がる。

「ごめん、迷惑だったよな」

 俺は、テントから出た。

「……ずっとこのままでいたい、って何よ」

 顔が熱くなるのが感じる。

 もしかして、と考えが浮かんだが、流石にないか、と諦める。

 もし合ってるなら、どんなに嬉しい事か。



 大体あの日から二ヶ月経っただろうか。

「真、辺りを照らせるか?」

 俺達は、洞窟に来ていた。

 俺は、辺りを照らす。

「便利ですね、それ私も欲しいです」

 確かに、便利だ。しかも戦闘で使い方によっては使える。

「本当に、なんで真だけなのよ」

 少し視線が痛い。

「まあ、でもそれぞれの力があるからな」

 と、光に助け舟を出された。

「確かにそうですね、まあ私は武具解放術できないですけどね」

 若干棘がある気がする。

「魔族が全く居ないな」

 光が、そう言うと魔族が現れた。

「言ったそばからかよ」

 ライオンの様な見た目、だが二足歩行だ。槍を持っている。全部で三体。

 俺が前に出る。相手の首を斬る。

 光も、相手の首を斬る。

 クリスの魔術も、相まって全員殺す事に成功した。

「なんか呆気なかったな」

 それはそうだ、何故ならこの世界での体力は、回復役が居なければほぼ無意味なのだから、当然一撃で倒せる。まあ出血死だが。

「そういえば、シノってあんまり攻撃しないよな」

 と光が振り向く。

「そうですね、私は魔力量が少ないのと、詠唱短縮が苦手なんですよ、だから出来るだけ回復魔術とステータス上昇魔術の効果を増やしてるんですよ、まあこのままでは、駄目だと思いますけど」

 なるほど、補助に回るって事か。ありがたい限りだ。だが確かに攻撃出来れば更に仲間の役に立てる。大変だろうだが。

「なるほどね、いつもありがとう」

 と、毎回シノのお世話になっている光が、優しくそう言った。

「まあ、でもそこまで、役に立ってないですけどね」

 そんなことはないと思うが。

 いつの間にか、後ろに居たはずのクリスが隣にやって来た。

 背伸びして、耳元で囁いてきた。

「真、何か隠してる事あるでしょ」

 なぜ、分かったんだ?いやまだあの口振り的にバレていない。この秘密は、死んだ善に託された物だ、絶対に悟られてはいけない。

「いや、何も無いよ」

 作り笑顔で笑いかけた。

「嘘ね、そんな笑顔見た事ないもの、作り笑顔でしょ?まあ、言いたくなったら言ってね」

 バレてる、これはクリスに隠し事は、無理そうだ。

「ハハ、ありがとう」

 若干枯れた笑い声を上げて、感謝する。

 そろそろ洞窟も終わるだろうか、光が見えて来た。だが何かおかしかった。

 何故か?答えは一つ。光が下から出ている事、そしてそれは松明の光だという事、そして魔族達の雄叫びが聞こえる事だ。

「魔族達が、居るなどうする?」

「隠れながら行ったらどう?」

 それが一番だが、とりあえず敵がどれぐらい居るかを、確認しなければ。

「でも行けるのでしょうか?」

「どちらにしても、行くしかないよ」

 出来るだけ、音を殺して歩いて行く。

 意外と石などで、周りに壁が出来ていた。

 横に階段があって、下に続く道になっている。下の部屋の中心に、火が燃え盛っている。焚き火?なのだろうか。にしては、火が大きい気がする。

「あれ、見てください」

 シノが声を震わせながら、部屋の隅を指で指す。

 そこには、人の腹から内臓だけが取り出され、目が抉られていて、下半身の無い人間の死体があった。

 正直グロイ、だけどそれ以外何も思わない。

「……可哀想に」

 と、クリスが呟いた。

「ああ、本当に」

 と、光が同意する。

 正直、共感は出来ない。

「とりあえず、この先どうやって攻略する?」

 周りには、多種多様の魔族が居る。

 殺すか?恐らく全員殺せる、だがあまり殺したくない。

「真さん、どうします?」

 シノが俺に今後の事を訊く。どうする、魔族を殺さず、行ける方法が一つも思い付かない。

 やはり殺すしかないのか?

 何故かこの時、自分の考えがどうしようもなく、間違ってる様に思えた。そんな事ないのに。

「……殺すぞ、全員」

 俺は、呟く様に言った。

 みんな、何か言いたげだったが、直ぐに納得してくれた。

「行くぞ、みんな」

 俺達は、ステータス上昇魔術を掛けてもらって飛び降りる。

「人間が来たぞー!!」

 と、言って奥に居た、魔族が笛を鳴らそうとする。それを一瞬で詰めて、首を斬る。

 首から血が勢い良く飛び出る。

 だが、まだ他にも魔族は居る。

 クリス、光が対応している。

 俺も、目の前の魔族を殺して加勢する。

「出口どこか分かるか?真!」

 正直な所分からない。

「とりあえず、近くの道へ行くぞ!」

 思ったより魔族の量が多い、時間を掛ければ殺せるだろうが、殺さなくて良いなら殺さなくて良いだろう。

 それが正しい事なのだから。きっと。

「真さん!壁作って下さい!」

 俺は精霊の力で、壁を作って道を断つ。

「行こう!」

 光が率先して進む。結局俺が抜かすのだが。


 ある程度進むと、出口が見えて来た。気付くと周りは、普通の洞窟になっていた。

「やっと出口か」

 外に出ると、そこはやっぱり何も無かった。

 念の為辺りを見渡す。

 すると、遠いが木造の小屋があった。

「なあ、あれ見えるか?」

 と俺は小屋を指指す。

「良く見えるわね、もしかしてあそこ行きたいの?」

 俺は頷いた。

 何故かは分からない、ただなんとなく行きたい。

「行きたいなら、行くか」

 と、光が言ってくれた、ありがたい。

 遠いとはいえ、走れば直ぐだろう。問題は、みんなが追い付けるかどうかだな。

「クリス、真、お前達先に行っててくれ」

 どうして?と訊こうかと思ったが、辞めておく。

「でも、どうやって私を連れて行くの?」

 確かにどうすれば。

「お姫様抱っこ、したらどうですか?」

 と、クリスに微笑みかける。

「お姫様抱っこ!?無理、無理よ!」

 それは、俺も恥ずかしい、だがやらなければいけないのだろう。これは、少し決断しなければ。

「クリス大丈夫か?やっても」

 少し経ってから顔を赤らめて、小さく頷いた。

「分かった、ありがとう」

 きっと初めてのお姫様抱っこで、緊張しているんだろう。

 クリスの方に近づいて、足に手を回して持ち上げる。

「待って、これちょとやばいかも」

 そこで、俺は気付いた。自分の筋力の低さを。

 考えれば直ぐ分かる事だった。

 この世界に来てから、筋力のステータスが全く上がってない。高校二年生の時からしかもそもそも力もかなり弱い方だった。

 そんな奴が同級生を、持ち上げて走れる筈もなく。

「もう無理だ!」

 俺は、膝から崩れ落ちる。

「何?私が重たいって言いたの?」

 落ちる寸前に、空中に浮かんでいたクリスが、魔術を数十個展開する。

 怒っているのが、分かる。

「重たいってそんな、言ってないじゃないですか、ねえクリスさん?」

「なんて?もう一回言ってみな?」

 これは、何言っても逆効果だろう。

「自分が調子乗って、不快な思いさせて申し訳ありませんでした」

 俺は、必死に土下座した。

 クリスは呆れてため息を吐く。

「もう良いわ、で?どうするの?」

 そこで、一つ思い付いた。

「クリス手を」

 俺はクリスに手を差し伸ばす。

 クリスは何か分からない、という感じだったが、冷たい手を優しくゆっくりと重ねてくれた。

「じゃあこのまま飛んでくれ」

「分かったわ」

 クリスは少しだけ飛ぶ。

「しっかり掴まっとけよ」

 俺は全速力で、小屋へ向かう。

「ちょ、ちょと速い!」

「えっ?なんて?」

 風の音で声があまり聞こえない。だが対処法はある。精霊の力で、風を変えれば良い。

「ごめん、もう一回言ってくれ」

「もう良いわ」

 と、少し冷たい、さっきの事といい、やってしまったかもしれない。



「俺達も行くか、シノ」

「そうですね」

 俺が手を差し伸ばす。

「これは?もしかして手を繋ぎたいのですか?」

「そうだよ」

 俺は、深く頷いた。

「そうですか、なら良いですよ」

 シノは、俺に微笑みかけた。

 シノは、どこか温かくでも冷たい手を重ねた。

「光さん、どうして、手を繋ぎたかったんですか?」

「真の気持ちを理解したかったからかな」

「え?」

 シノは思った答えと違ったのか、少し困惑する。だが流石シノと言った所か、直ぐに冷静になる。

「どうしてですか?」

「俺さ、真の事あんま知らないんだよ。

 いや正確には分からないかな?あいつの笑った顔、ここに来るまで一回も見た事ないんだよ。正直気味が悪いとも、少し思った。

 でも、真と話してると、楽しかった。だから一緒に居た。そして一緒に居たかった。

 でも、真は自分を作り過ぎている。不気味な程に。多重人格とも言える程に、だから全く分からなかった、どれが本当の真なのか、それとも見せていないのか」

 そこで、一つシノが疑問に思った。

「真さんが、自分を作り過ぎている?そうは思いませんが」

 俺は苦笑した。

「そうだよな、俺もそう思う。この世界に来てからは、だからこそ思うんだ、きっとあれが本性だと、そう思うんだ。

 でも、俺は今の真をよく知らない。だから少しでも、真と似た様な事をして思ってる事を知ろうと思ったんだ」

 普段と全く違う、光に違和感を感じる。だがそれだけ光の中で大事な事なんだろう。

「そうですか、なら手伝いますよ、光さん」

「ありがとう、シノ」

 俺は少し悩んでから口を開く。

「今更だけど、そろそろ敬語辞めない?」

 特に断る理由もないだろう。

「そうだね、なら真にも敬語外した、ほうが良いよね」

 自分でも言うのもなんだが、適応が早いと思う。

「そうだね」



 少し時間は掛かったが、小屋に着いた。

「速過ぎだわ」

「そうだろうな、お疲れ様」

 俺は、労いの言葉を掛けて、グラムを鞘にしまって扉を叩く。

「あのー誰か居ませんか?」

 返事がない。

「あのー」

 やはり返事は、帰ってこなかった。

「もう良いわ、入るわよ」

 クリスは、俺を押し退けて、ドアを開けた。

 すると、そこには壁一面本で埋まっていた。 何故インベントリに入れていないのだろうか。

 辺りを見渡すと、唯一本棚が無い所に机があった、その上に紙があった。

 そこに向かおうとすると、クリスは直ぐに一冊の本へ向かう。

「この魔導書凄い!あの、オーディンの魔導書だ!す、凄い!ねえ!真これ読んで良い?」

 珍しくクリスが、もの凄く興奮している。

「ちょと待って」

 俺は、机に置いてあった紙を見ると、そこには文字が書いてあった。

「なんか、ここに置き手紙?見たいのあるから、それ読むよ。

 これを、見てると言う事は勇者または、勇者の仲間だろう。なので、ここにある全ての本を贈呈しよう。中身は魔導書や剣術など様々だ。存分に使いたまえ、本当は教えてやりたかったが、生憎これを読んでいるならもう死んでいるだろう。補足この家にある本以外の物も全て贈呈する。だって」

 クリスが目を輝かせる。

「って事は読んで良いの!?」

 俺は頷く。

 というか、剣術の事も書いてる物もあるのか、探してみよう。

 ドアから見て左の壁から順に見る。ちゃんと整理整頓されていて、剣術でもかなりの物があった、剣術の下に槍術と続いている。

 剣術に一つも興味惹かれる物が無かった。ならば一つずつ見るしかない。と、思いつつも隣の棚を見ると、二つ気になる本があった。

 魔剣グラムと書いてある本と、そして、俊敏しか上がらない、君へ。何故かこの本だけ新しかった。

 二つ共まるで俺の為の様なタイトルだ。

 優しく二冊を抜き取る。

 クリスが椅子を出し座って、本を読んでいる。かなり驚いた様子で本を読んでいる。

 俺も机の近くに置いてあった、椅子に座る。

 とりあえず、魔剣グラムを読む事にする。

「……懐かしいな」

 グラムが真にも聞こえないほどに、小さく呟いた。



 内容はほとんど省くが、大体は性能と隠された能力、そして、グラムが作られるまでの物語があった。意外とページ数は多くなかった。

 読み終わると丁度ドアが叩かれた。恐らく光達だろう。

「今開ける」

 俺は、ドアを開けると、手を繋いだ光とシノが居た。

「なんで手を繋いでるの?」

 思わず口にしてしまった。

 そう訊かれて、焦ったのか急いで光が手を離した。

「な、なんでもねえよ」

 絶対何かある、明らかに動揺している。

 まあ、きっと良い事があったんだろう。

「真、なにもないからね」

 といつのまにか敬語を外しているシノに注意されたので、一応考えるのは辞めておく。

「とりあえず、これ読んで」

 俺は、紙を光達に渡す。

「じゃあ、俺、本読むから」

 俺は、椅子に座って一番期待していた本を読み始めた。

「なるほど、この中に俺達に必要な知識があるんだな」

 と、言って光は鎧を脱いで、剣を納めてから本を探し始めた。

 読み始めてみると、俊敏のステータスを活かした動きやらが書いていた。正直物語かと思っていた。だが全然そんな事なかった。

 読み始めて分かった事があった。俺の俊敏のステータスの性能が普通とは根本的に違う様だ。

 本来であれば、自分の足の速さのみを上げるらしいのだが、俺のは剣の振る速度も上がってしまっている。もしかしたら、画面を出すと鳴る雑音が関係しているのだろうか?

 少し目が疲れた。辺りを見渡すと光はインベントリから椅子を出して、二刀流に関しての本を読んでいるらしい、シノも同じ様に椅子を出して光魔術の本を読んでいる。

 俺が本を二冊読んでる間に、クリスはもう五冊目に入っている。速過ぎる。

 とりあえず、目を休めていると、一つ気になる本を見つけた。

 武具相伝術と、書かれている。

 不思議と読んでみたくなった。本棚に向かって、本を抜き取った。

 椅子に戻って、本を開くと一文目にこう書いてあった。

「死ぬ覚悟はあるか?」

 どういう事だ?と思いつつ、読み進めていく。

「この術を使った者は、間違いなく死ぬ。だが死ぬ前に莫大な力を得る事が出来る。武具の能力が高ければ高い程」

 と、書いてある。死ぬ覚悟なんてもう出来ている。

 その後も読み進めると、式句や使用方法、短縮の仕方などが書いてあった。式句の意味も書いてあった。

 とりあえず、この中に俺が目を惹く物は無い。

 俺は本を読んでいる、みんなを置いて外に出る。

「何をする気だ?真」

「ん?いやちょと、やってみたい事があってな」

 一旦小屋の後ろ側へと回る。すると思った通り。そこに全種類の武器が揃えてあった。

「なるほど、これを探していたのか、よく分かったな」

「まあ、あの置き手紙見れば、直ぐに分かったよ。補足にこの家にある物は、贈呈するって書いてあったから、本以外に何かあるのは分かってた。

 でも中には何も無いから、外なんじゃないかって思ったんだ。それに後から付け足したなら、後に見つけた、または作った物なんじゃないかって思ったんだ。それで武器か防具または、両方が置いてあるんじゃないかって、思ったわけ」

「なるほど、よく分かったな」

 意外な事に、グラムは分かっていなかったらしい。

 恐らく、置き手紙の内容を、覚えていなかったのだろう。

「グラムだって、考えれば直ぐに分かっただろ」

 とりあえず、今はこの武器達に用は無い探したのは、おまけみたいな物だ。

「さっき書いてあったんだが、グラム空中に浮かせられて、持ち主の剣術を真似出来るって書いてあったが、本当なのか?」

「本当だ」

 これは、かなり助かる。これでやりたい事が出来る。

「ついでに言うと、我を振る速度も真が振る時と、変わらないぞ」

 なるほど、それはさらに良い。

「なら、今やってみてくれ」

 俺は、グラムを催促する。

 グラムは、鞘から自分で抜けて、空中に浮く。

「これで良いか?」

 俺が、いつもやっている構えた時の位置に、グラムが浮く。

「いつもの俺の振り方を、俺に当たらない様に振ってくれ」

 グラムは俺に向かって、まるで俺は何かの審査員になった気分でグラムを真剣に見つめて、考える。

 そこで、なんとなく隙を見つける事が出来た。そこから一つの考えが思い付いた。

 俺は、小走りで小屋に向かった。

 俺は、片手剣の剣術を五冊ほど抜き取り、片っ端から読み漁る。

「真?そんなに本を急読み始めてどうしたんだよ?」

 光は、本を一通り読み終わったのか、新しい本を探していた。

「ああ、もしかしたら、俺が不足している部分を補えるかも知れないんだ」

 光に、要らないかもしれないが助言しておこう。

「光は、武具解放術を使えば色んな物に変えられるんだろ?だから、他の本も読み漁った方がいいんじゃないか?」

「確かに」と呟いて、本を取って読み始めた。

「クリス、ちょと来てくれる?」

 見た感じ二人で、本を読んでいるらしい。大事な所は、教え合っている。なぜか違和感がある。

「シノちょと来てくれ」

 光は、手招きしながらシノを呼ぶ。

 すると、光は聖剣を鞘から抜き取る。そのまま流れる様に、シノを斬った。

「は?光!お前何して!?」

 だがシノに全く傷が無かった。一体何があったのだろうか。

「私は何を?」

 シノは困惑している様だ。

 何が起きているか俺含め、光以外全員が分かっていなかった。

「シノは、操られていたんだよ」

「それが、シノを斬るのとどう関係あるんだよ」

「関係ありまくりだ、さっき聖剣についての本を読んだ。そこでこう書いてあった。

 聖剣とは、対象を傷付けず、対象にかかっている魔術、スキルを、解除する事が出来る。ってねつまりシノは操られていた、シノに掛かっていた魔術か、スキルを解いたんだよ」

「でも直ぐに操られるじゃないか?」

 それは、光は考えていなかった様で善の事を思い出したらしく「確かに」と言って頷いた。

「その点に関しては、大丈夫だと思うわ」

 クリスは、何か知っている様だ。

「なんでそう思うんだ?」

「前までは、知らなかったんだけど、それは闇魔術の中の催眠魔術と言って対象を操れるの。どこに居てもね、でも一日一回しか使えないのよ」

 確かにそれなら大丈夫だ。だが一日経てば操られるのでは?と思ったが、クリスはもう気付いているだろう。

「真ちょと来てくれ」

 と急に、グラムが飛んで本棚に向かった。

「ここを押してくれ」

 と、少しだけ出ていた本を押し込んだ。

 これはもしかして、本棚が動く奴では!?興奮してきた。

 目を光らせて、少し待ったが変化は起きなかった。

「真こっちだ」

 と、またもや本をしまわせた。

 すると、何か木が擦れる様な音が鳴った。

 すると、中心にあった本棚が、一回後ろに戻ってから、横にずれて道ができた。

「おおっ」

 と光と俺が声を洩らした。

「感心してないで、とりあえず行ってみましょ?」

 と言われたので目の前まで行くと、地下へと続く階段になっていた。ますます、ワクワクしてきた。

 グラムが先頭で進んでいる。

 ある程度進むと、広い空間に出た。

 先程の木製で少し貧相な小屋とは違い、こちらは、壁が鉄の様に硬く、色は白く更に部屋広い。いつの間にか、グラムが鞘に納まっていた。

 辺りを見渡すと、武器や防具、アーティファクトらしき物があった。

 その奥に全面ガラスの様な物で囲まれていた物があった。

「とりあえず、今日はもう寝ない?俺もう眠い」

 ここにきて寝たいらしい、本音は探索してみたいが明日でも良いだろう。

 とりあえず、あの本棚を元に戻したいのだが、後ろを見ると何かスイッチの様な物があった。

 押してみると、見事に本棚が戻った。

「よし、てかここでテント建てれるか?」

 そこで気付いた。地面も鉄の様に硬い。これではテントが建てられない。

 それで辺りを見渡すと、右に部屋の様な物があった。

 部屋が四つある。

一番左の、部屋を開けると、風呂場になっていた。風呂場というよりかは、大浴場だろうか。

「風呂なんて、一年振りよ!」

 クリスが、声を上げた。

 続いて、左から二つ目の部屋。ベットが二つあった。

 続いて、右から二つ目はベットが一つだった、一番右も一つだった。

「私と、シノが一緒に入るわ」

「私も、それが良いと思います」

「なら、俺一番右ね」

 と、なんの相談もしないで決めてきた。まあ、良いのだが。

「とりあえず私達は、風呂に入ってくるから、絶対覗かないでよ」

 めちゃくちゃ睨んでくる。特に光の方に。

「入らない、神に誓って!」

 と、光が焦りながら言って、俺は光が部屋に入るのを見届けて、自分の部屋に入った。

 去り際、お前も俺を信用しないのかよ、と言った気がする。



 少し経ってベットに倒れ込むと、案の定光が入ってきた。

「どうした?」

 言わなくても大体分かる。どうせ覗きに行こうとか、しょうもない事だろう。

「覗きに行こう!」

 と、高らかに宣言した。

「行く訳ないだろう?」

「お前つまんな、俺一人で行ってくるわ」

「神の誓いはどうした?」

 俺はそう言っても無視して向かおうとする。

 光を止めようとするが、筋力がなさすぎて、止める事は出来なかった。

 光が大浴場のドアをガチャガチャする。開かない様だ、鍵などが付いてるのだろう。

「どうしてだ」

 と、悔しそうに言った。

「はあ、光そういうのはやめとけよ、本当に」

 呆れて、ため息を吐く。

「やめろって?全男子高校生の夢だろう?」

 と、訳の分からない事言い放つ。

「とりあえず、俺たちはここ探索するぞ、風呂入るのはまた後でだ」

 とりあえず探索する事にした。



「クリス、気持ち良いね」

「そうね、気持ち良いわ」

 二人で入るのは、一人で入る時とはまた違う良さがある。

「さっきドアガチャガチャしてたよね、あれ絶対光だよね」

 シノは頷いた。

「だね、しそうだったよね」

 二人は、少し笑った。

「そういえば、本の内容とか覚えてる?私操られてる時の記憶が曖昧なんだよね」

「そうなの?じゃあ風呂上がったら教えてあげる」

 二人は並んで、肩まで浸かりながら、ゆっくりと過ごす。



「真これ見ろよ、腕輪だ、初めてじゃないか?」

 確かに今まで見た事ない。そもそもアーティファクト見る、回数が少ないが。かなり豪華な装飾がなされている。

 だがグラムが知っているらしい。

「それは、筋力を高めてくれるぞ」

 相変わらず、グラムは知識が豊富だ。

「俺が、使って良いよな?」

 俺は頷く。俺が使っても、使い道はあまりないだろう。

「それより、俺はこれが欲しい」

 俺は、一つの指輪を指す。

「それは、どういう効果なんだ?」

 それは、グラムが説明してくれるだろう。

「俊敏を高めてくれて、尚且つ使い手によってスキルを手に入れる事が出来るかも知れない。その代わり、五分間絶え間ない苦痛を与えられる、言わば試練が課せられる。失敗すれば一生使えなくなる、それがその指輪だ」

 これは言って欲しくない部分も言ってしまっている。

「は?お前そんな指輪を使おうとしてるのか?絶対に駄目だ、お前なら尚更」

「断る、強くなる為に必要なんだ」

「なら、俺が使う!」

 俺は、光を、少し睨みつける。

「駄目だ、俺はこのままでは足手纏いになってしまう。俺は足手纏いになりたくないんだよ」

「お前は、足手纏いなんかになる訳ないだろ!」

 するとグラムが、急に鞘から出て来た。

「光、お前は気付いていないだろうが、お前は強くなる速度が異常だ、何故か分かるか?勇者は全ての武器を一瞬で扱えるからだ、更にステータス上昇値も異常、このままでは間違いなく真は足手纏いになる」

 これに対して、光は何も言い返せなくなった。

「……分かった、好きに使え」

 と、小さく呟いた。どうにか聞き取れたので、指輪をインベントリに入れる。

 他には武器や防具があったがほとんどが、意識があったので、触る事すらままならなかった。

 他には、筋力をあげる同じ腕輪があったのでこれも光に着けさせる。アーティファクトが全体的に魔術師用の物が多かったので、他には欲しいものがあんまりなかった。

「グラムこれは?」

 と、紫色の宝石を嵌めてある指輪が四つ並んでいるところを指で指す。

「それは、自分に掛かっている闇魔術を無効化する事が出来る」

 という事は洗脳魔術が効かなくなるって事だ。これは使える。

「早速嵌めよう」

 と言って、光は自分の右手の人差し指に指輪を嵌める。

「ほら真も」

 と、言って指輪を投げて来た。

 俺は受け取って、指輪を右手の人差し指に嵌める。

 今光の指を見ると中指と人差し指に指輪が嵌められてあるので、若干の違和感を感じる。

「後はこれだけだな」

 これだけと言うのは、全面ガラス張りの所の事だろう。

 横に何やらめちゃくちゃ座り心地が良さそうな椅子があった。

「ここは決闘場だ、ここで戦う事が出来る。

 横にある椅子は決闘する際に座る事で、この中で相手に一切の傷を与えず勝負する事が出来る」

 どうやらこれすらも知っているらしい。賢いとかのレベルじゃない気がする。

「やってみよう、真」

「良いよ、負ける気はないからな」

 俺は、左側の椅子に向かって座る。

 座ると画面が出てきて、決闘しますか?と書かれている。

「もちろんだ」

 段々意識が遠のいて行く。気がつくと、あのガラスの中に居た。

 インベントリは開けるらしい。

 光が脱いでいた、防具を着る。

「真、やろうか」

「始めよう」


 目線の右下に、残り十秒と書いてある。恐らくこの数字が、〇秒になったらスタートだろう。


 後三秒。ニ、一、〇!

「真、俺は早速使うぞ!聖剣エクスカリバー全てを解放……」

「言わせると思う?」

 俺は、詰め寄って光を斬る。

 体を反られた、浅い、なら追撃を。

「しろ!」

 言わせてしまった。追撃に備えて一旦下がる。

 光は、純白の剣を鞘に納めた。エクスカリバーがナイフに変わる。 

 動きを速くする為だろう。

 今なら出来る気がする、俺は無詠唱で武具解放術を使う。

「ここからが本番みたいだな」

 光は純白の剣を取る、そしてエクスカリバーを元に戻す。武具解放術を無詠唱で使うとは思わなかった様だ。

 数十のグラムが出てくる。

「光、頑張って避けろよ?」

 一斉にグラムを光に向かわせる。

 光が見事に、エクスカリバーの形を変えたりして、見事に受けている。

 俺は、光の背後を取って、攻撃を仕掛けた。

 それを見事に受けきった。俺は筋力が無さすぎて、グラムが飛びそうになった。

 光が追撃仕掛けようとした時、俺は二本のグラムで攻撃を受けて、三本のグラムで光に攻撃した。

 それに気付いて、光がエクスカリバーの形を盾に変えた。見事に受けきった。背後に回り、攻撃しようとした時、酷く頭が痛くなった。少し時間が経つと頭痛が激しくなった。同時に吐き気を催した。武具解放術を解除すると、かなり楽になった。

 床に膝をつく。

「大丈夫か?真」

 光は、手を差し伸ばしてくれた。

 俺は、その手を取った。

「ありがとう、もう大丈夫だ」

「辞めるか?」

「いや、続けよう」

 グラムで、武具解放術を使うと酷く疲労すると本で書いてあった、恐らくこの事だろう。使い続ければ、この状態になるまでの時間を長くする事が出来る。筈だ。

 だが、今は使わない方が良いだろう。

「じゃあ始めよう」

 それぞれ元の位置に着く。

 早速、俺は距離を詰める。

 俺は光の首元に攻撃をする。持ち前の反応速度で若干避けられたので首かすめただけだった。

 そのせいで、一瞬隙が出来てしまった。

 光はそれを見逃さなかった。

 下から俺の腹を刺そうする。

 俺は精霊の力で避ける。

「速すぎだろ」

「そっちも反応速度化け物だろ」

 と、お互いを認め合う。

 俺は光の精霊の力で激しく光らせる。

 狙い通り光は一瞬目を眩む。その隙に攻撃を仕掛ける。

 これならいける。と思った油断が命取りになった。俺は、光が目を開けた瞬間を気付けなかった。光はエクスカリバーを槍にして、伸ばして、俺の腹を突き刺した。

 当然俺は体力が無いので、一瞬で死んだ。

 気付くと、俺は椅子の上だった。負けてしまったのだ。

 向こう側では、光が、ガッツポーズをしている。

「全くお前は甘いな」

 と、グラムに若干飽きられた。

「もっと、自分を使いこなせ、そして隙を見せるな、隙を見せたら最後お前は死ぬぞ」

 自分を使いこなせとは、どういう意味だろうか。

 とりあえず光と合流する。丁度、クリス達が風呂から上がって来た。

「お風呂入って良いですよ」

 ならお言葉に甘えて入る事にしよう、戦っていたので少し疲れた。


「真、最後油断してただろ」

「まあな」

「残念だったな、油断してなかったら勝てたかもな」

 と少し笑う。まあまあうざい。

「まあ、でも結構良い勝負だったろ?」

 光は頷いた。

「確かに、良い勝負だったな」

「エクスカリバーって、意外と武具解放術弱いのか?」

 少し悩んで、光が答えた。

「もしかしたらさ、銃になるかも」

 もしそうだったら、かなり強い。

「風呂から上がったら、試してみよう」

「そういえば、グラムって、空飛ぶんだろ?」

 俺は頷く。

「そうだな」

「なら背中に鞘つけて、できるんじゃないか?」

「確かに、そうするか」



 杖がある、今私が持っている杖とは違い、緑色が入った、どこか歪さを感じる杖があった。見た目はどこか蛇を思わせた。

 少し気になったので、触ると光出した。

「なに!?何したの?シノ」

「分かんないよ!クリス助けて!」

 すると持っていた白色の杖が、歪な杖と重なったと思うと、いつの間にか一つの杖になっていた。

 見た目はいつも使っていた、白い杖に紫色の花のような宝石が付ている。先程の、蛇の様な杖は無くなっている。

「なんですか?これ」

 杖を取ると声が聞こえて来た。

「私の名前はローズです、よろしくお願いします」

 礼儀正しい物は初めてかもしれない。

「よ、よろしくお願いします」

 少し困惑したけれど、徐々に落ち着いてきた。

「私は、シノ・マリーと申します」

 一応礼をする。

「なんか、あれだねまともだね」

 と、クリスが少し困惑した様だ。

「まともの方がいいでしょ?」

「そうだね、シノもやっと手に入れたのね、良かったね」

 これで全員やっと揃ったわけだ。

「でも魔防具は喋ってくれないのよね」

「それは恐らく喋ってくれないと思います。恐らくその魔防具はもう死んでいますから」

 死んでいる?どういう事なのだろう。

「何故?そう思うんですか?」

「その防具には意識がありません、恐らく数十年前から」

「でも一年前、クリスは拒絶されていました」

 少し間を開けてローズが答える。

「恐らく、何か条件を達成した者のみが着れるようになっているんでしょう」

 なるほど、それならあり得る。

「なんとなく理由は分かりました。あの早速で申し訳ないんですが、アーティファクトの効果って分かりますか?」

「そうですね、作った人と効果なら分かります」

 かなり博識らしい。

 作った人は後々訊く事にしよう。

「効果だけ教えてくれますか?」

「分かりました」

 話していると、何故か安心してくる。

「おすすめの物って、ありますか?」

「ステータスにもよりますが、ありますよ、そこにいる、人も必要ですよね?ステータス見せてくれますか?」

「そうですね」

 その後私と、クリスはステータスを見せた後、自分達に合うアーティファクトを的確に教えてくれた。



 風呂場から出ると、丁度シノ達が部屋に戻ろうとしていた。

「ちょと待って、これ着けといて」 

 俺はそう言って、闇魔術を無効にする、指輪を渡す。

「これは?」

 と訊かれたので、闇魔術を無効にすると答えた。

「ありがと」

 と言って部屋に入っていった。

「俺達も、部屋に戻るか」

 俺は部屋に戻った。

 そして、戻ってやる事は一つあの指輪を嵌める事だ。

 正直不安だ。だがやるしかない。

「気を確かにな」

 グラムにそう言われてしまったら、更に不安になってしまう。

 だがやるしかない。

 俺は、固唾かたずを飲み込む。

 俺は、指輪を嵌める。その瞬間辺りの風景が一瞬で変わった。

 これは、あの日俺が魔物達を虐殺したあの町だ。黒色のレーザーコートが真っ赤に染まっている。

 辺りに死体が転がっている。そこで気付いた。俺は人を殺したのだと。この町の住人全員。

「お前はもう仲間じゃない」

 後ろから光の声が聞こえた。

「仲間じゃない?何言ってるんだよ」

「分からないのか?人殺しだからだよ」

 シノとクリスの目に微かに恐怖浮かんでいる。

「ハハ笑える、人も魔族も一緒だよ、光も人殺し同然だよ」

「なに言ってるんだ?お前は。魔族は悪、人は正義当たり前だろう?」

 ああ、この程度の苦痛かどうって事ない。

「なんで、あんたみたいな奴が、この世界に来たのよ!」

 呆れた、この程度を苦痛だと感じるはずない。

「勝手に連れてこられたんだよ」

「……あんたなんか死ねば良いのに」

 クリスが小さく呟いた、これは少し辛い。

「早く地獄に行ってください」

 たったこれだけで、ここまで怒るとは、呆れる。こんな事なんて起きる訳がない。

 それ故に痛くも痒くもない。

「お前をここに置いて行く。じゃあな」

 光達が、睨みつけてから俺を置いて歩いて行く。

 そこで焦りが溢れてきた。

「待ってくれ!待って!」

 足が沼にハマった様に動かない。

「動けよ!待ってくれ頼む、もう一人にしないでくれ!」

 これは幻だ、そうだと分かっていても、やはり辛い。もう一人になりたくないから。

 光達の姿が見えなくなってくる。

 腰に携えてあったグラムがいつの間にか消えている。

 どんどん、沼に埋まって行く感覚に陥っていく。

 気が付くと、辺りは暗いと言うより黒くなっていた。目の前にはあの日見た、黒色の薔薇の様な花が咲いている。辺りよりもっと濃く深い黒色だった。

 近くに血の跡の様な物が三つあった、辿ってみると、内臓が抉られ骨が見え、目が抉れている、光達だった。思わず尻餅をつく。

 吐き気を催す。これは幻だと自分に言い聞かせた。

「嘘だ!こんなの幻だ」

 すると、クリスの死体が消えた。

 後ろから抱きつかれる。振り返ると、あの死体のままクリスが俺に抱きついていた。

「真の所為で死んだ、守ってくれるって言ったのに、守ってくれなかった」

 駄目だ、どうしようもないほど苦しい、もう辞めたい、だがここで辞めてはいけない。

 辺りの景色が急に変わる。辺りに白色の花びらが水面に落ちている。

 すると自分の所から、赤く水面が染まっていく。

「真のせいで」

 今度は、光、シノ、クリスがちゃんと三人揃って立っている。

「だから、一緒の苦痛を味わおう?」

 俺は、腹を綺麗に開かれる。

「あああ※ああ※あああ※ああ——!!頼む辞めてくれ!」

 徐々に内臓が取り出されて行く。

 取り出しつつ俺の腕、足などを刺しまくる。

「辞めて?辞める訳ないでしょ」

「だってこれからなんだから」

 俺は目を抉られる。

「あ、あ、ああ頼む辞めてくれ!」 

 徐々に、視界がなくなっていき、もう見えなくなってしまった。

 自分の口に何かを押し付けられる。

「食え!食えよ!俺達をこんな目に合わせたんだから!」

 鼻を塞がれる、もう内臓はない筈だが、苦しい。これでは食うしかなくなった。

 豚肉だろうか?そんな感じかする。でも何か違う。

「ああ、やっと食べた、自分の肉を」

 自分の肉だと?今食べたのが、自分の肉だとでも言うのか?そんなはずない。確かに豚に近かった筈だ。豚肉そう自分に言い聞かせる。幸い見れなかったので、それが唯一の救いだった。

 急に視界が戻った。物凄い吐き気が襲ってきた。

「おええっ」

 と、嘔吐した。

「……耐えないと、クリスを守る為に」

 辺りの、花びらと水面がいつの間にか、赤くなっていた。

 その瞬間目の前に画面が出て来て、試練を達成しました、戻りますか?と書かれている。

「……やっと帰れる。もちろん戻る」

 すると後ろから、何かに刺された。光だ。

 どうやらまだ続くらしい。


 何時間経ったのだろうか後どれくらい耐えれば良いのだろうか。気が付くと、ベット上で倒れ込んでいた。次はなんだ?

 すると、スキル獲得と出て来た。

「……達成したのか?」

 スキル未来予測を獲得しました。と書かれている。効果は、常に〇・一秒先の未来見れるらしい。

 俺はベットから起き上がる。

 これは弱い気がする。

「戻って来たか?どうだったクリアしたか?」

 グラムが飛びながら、訊いてきた。

「辛かったけど、なんとか」

 正直思い出したくない。

「そうか、良かったよ」

「俺は何時間寝てた?」

「……五分だ」

「は?」

 俺は思わず声を洩らした。確かに五分だと言っていたが。五分だと?あり得ない、俺は確かにあの地獄を何時間も耐えたんだぞ?

「それでどんなスキルを、獲得したんだ?」

 ああ、忘れていた。

「未来予測、〇・一秒先を見れるらしい」

 本当に割りに合わない。たった〇・一秒なんてなんも使えやしない。

「それは、かなり強いな、真に合っている」

「そうか?俺は弱いと思うけど」

 なんか目がおかしい、もう疲れた。もう寝よう。

「俺は、もう寝る」

 俺は、ベットに倒れ込む。



 初めて入ったここに来てから、十日が経った。そろそろここから出なければ。

「真、最後に勝負しないか?」

 俺は承諾して、椅子に向かう。椅子に座ると画面が出てきた。

 意識が遠のいて行く前に、グラムが勝てよと背中を押してくれた。

 気が付くと右下に、四十秒と書かれている。

 背中から、グラムが浮いて俺の手に来る。

 体にあまり力を入れない。次どんな攻撃をするか、悟られない為だ。合ってるかは分からないが。


 残り十五秒。

「真、これで最後だろう?だから最初から全力で行くぞ」

 いつも最初から全力出している気がするが。

「まあ、そうだな」


 残り〇秒。

 光が、距離を詰めてきた。エクスカリバーを、槍に変える。

 余裕で避けて、グラム三本で攻撃する。

 光はエクスカリバーを盾に変えて守る。その後俺の攻撃を、左手の剣で防がれる。

 だがそんな事分かっている。だからもう一本グラムを用意していた。

「防げないと思ったか?真!」

 防げる事は分かっている。だから当時攻撃だ。合計五本グラムでの攻撃。これなら行けるはずだ。

「喰らう訳ないだろ!」

 光が後ろに大きく飛ぶ、予想通りだ。

 俺は、グラムを光に投げる。これなら倒せる。

「終わりだ、光」

 首を斬れる。と思った瞬間持ち前の反応速度を、フルで活用して防がれる。

 これも防ぐのか化け物だろ。

 だがそれも約〇・三秒前から予想していた。それゆえに数十本のグラムで、攻撃する準備をしていた。

 そこから一本だけ取って同時攻撃する。

 これなら行ける。

 その瞬間もう猛烈な頭痛が、襲いかかってきた。

 耐えなければ、これを乗り越えれば行ける。

「これはちょとやばいな」

 恐らくそれを見事に避けるだろう。ただ方向分かる。だから避ける場所を予測して、空間移動を使う。

 狙い通り、避けてきた。これなら行ける。

 光はそれすらも反応する。だから振り返る瞬間、空間移動をもう一度使って反対側へ回る。

 これで行ける。首を斬れる。

 見事に斬れた。

 相手が戦闘不能になりました。と出て来た。

「よし、勝った」

 意識が段々遠のいていく。

「勝ったか、流石だな」

 グラムが褒めるとは珍しい。これは素直に嬉しい。

「ありがとう」

 まだ、少し頭痛がする。

「お疲れ様」

「ありがとう、見てたのか」

 クリスが頷いた。

「シノも一緒にね、凄かったわ」

 そこまでではなかった気がするが。褒め言葉なので、素直に受け取るとしよう。

「ありがとう、とりあえずここを出よう」

 その後読み漁った、本が沢山ある、小屋に戻った。


「もう本なんか読みたくねえー」

 俺もあまり読みたくない。

「そう?私達は楽したかったけどね」

「そうですね」

 クリス達は楽しかった様だ。知識を入れるのが楽しい様だ。魔術師の性だろう。

 ドアを開ける。

「お待ちしておりました、勇者様御一行」

 シルクハットにジャケットにパンツを着けていて、片眼鏡を掛けている。魔族がお辞儀する。見た目は完全に紳士だ。

「早速ではございますが、一つ提案がございます」

「一体なんだ?」

「勇者を私達に受け渡して下さい、さすれば、あなた方三名の命はお救いしましょう」

 そうか、俺達三人の命を助けてくれるのか。

「断ります、絶対」

「同意見だな」

「そうですか、なら死んで貰います」

 魔術師が使う杖ではなく、老人が使う杖の様な物の上の部分が外れて、日本刀の様な形になる。

「妖刀村正、伝説の妖刀ですよ、知っていますか?」

 村正?知っているに決まってる。

 そこで一つの考えが浮かんだ。

 待てよここまでの、武器の名前何か法則があるのかも知れない。

 魔剣グラム、グングニル全てどこかで聞いた事がある。何故思い出せないのだろうか?

「では始めましょう」

 俺は、背中からグラムを飛んで他にやってくる。

 光も、エクスカリバーを取る。

 何故かは分からないが、手汗が酷い。

 それは直ぐに理解する、相手が俺とほぼ同じの速度だったからだ。

 一瞬で光の目の前に来た。

「遅いですね」

 もしかしたら、俺以上の速度かも知れない。

「生憎、速い奴の相手は慣れてるんでね!」

 光はぎりぎり防ぐ。

 相手が速い、最早ステータス上昇魔術を掛けてもらう隙すらない。

「メーディア、全てを解放をして!」

「ローズ全てを、解放してください!」

 メーディアは、問いかけに答える様に、杖の先端を黒い三日月の様な形にした。

 ローズは、杖の先端が、枝分かれする様になり、枝分かれした先端に紫色の花の様な宝石が付いた。

 二人とも無詠唱で魔術を使う。

「ほう、これは中々」

「よそ見してんじゃねえよ」

 光の攻撃を魔族の翼で飛んで避ける。恐らく着地してくる。〇・一秒先の動作でなんとなく次の動きが分かる。

 こっちに来る!

 約〇・二秒後こちらの目の前まで来る。

 相手は俺より速いだが、それはステータスだけの話、俺が精霊の力使えば俺の方が速い。

 つまりこの攻撃は避けれる。

 ぎりぎりで避ける。

「ほう、速いですね、これは驚きです。ですが速さだけでしょう、恐らくは」

 クリス達の魔術も飛んでくる。全て流れる様に避ける。

「狙い所が悪いみたいですね?当たってないですよ」

 武具解放術を使うか?だがあれは使い慣れてなく、まだ長時間は使えない。

「おや何か考えている様ですね、そんなに私との戦闘が余裕でしたか、ならこんなのはどうですかな?」

 妖刀村正に、インベントリから出した、赤い液体を刀身全体に垂らした。

 すると別人の様に喋り出した。

「ハハッ、血だ!血をもっと寄越せ!」

 これは取り憑かれたのか?もしやこれが魔刀ではなく妖刀である所以か。

 精霊の力を使った、俺と同等いや、俺以上の速度で攻撃してきた。だが未来予測のお陰で避けれる。無かったら今頃地獄行きだったろう。

「クリス!シノ!何かでかいの頼む!」

 と、言ってこちらに、光が加勢して来た。

「分かったわ!」

 と、言って詠唱を始めた。確かに乱発しても当たらないなら、高い火力を持つ魔術を撃った方が魔力の節約になるか。

 だが流石に強すぎると詠唱が必要な魔術もあるので、撃つ頻度はかなり減るだろう。ってそんな事考えてる暇はないだろう。

「血だ!血を寄越せ!」

 これは、もう頭がおかしくなっている。

 避けるので精一杯で、攻撃が出来ない。

 光も防御が間に合ってない。シノが居なければ、死んでいだろう。

「まだ、足りない!」

 勝てる気が全くしない。何かおかしい、これまでの敵はちゃんと倒せる様な敵だった。もし俺の仮説が正しければ、相手には何か致命的な弱点があるはずだ。

 光が斬られて、血が飛び散った。相手は一瞬どこかに目線を移した。

「あっ」

 思わず声を洩らしてしまった。弱点を見つけた。試してみる価値はある。

 俺は自分の体力がほとんど減らない様に、手を斬る。

「どうしたのだ?真」

「勝てると思う」

 恐らく勝てる。

 大きく息を吐く。もしバレてしまったら、何をされるかは分からない。一度で終わらせたい。

 グラムを持つ手に汗が滲む。

 相手の背後を取る。やはり振り返って来て、防がれた、剣が弾かれる。

「血だ!血!」

 目の色を変えて、俺を標的にする。

 俺は、自分の血を適当な所に投げると、一瞬目線を血に移した。その一瞬が欲しかった。

 俺は空間移動で背後を取る。

 狙うは、首や胴体ではない、翼だ。機動力を落とす。首や胴体を斬ったとしても、意識が村正にあるのなら。斬っても動き続けるだろう。

 なら機動力を落とす事に、力を割く。

 クリスの魔術の詠唱はもう終わる。

 光と目を合わせる。意図を理解した様だ。少し笑っている。

 相手が振り返る瞬間、空間移動で背後に移動して翼を斬る。

 更に上から、光がエクスカリバーを巨大なハンマーにして、相手を地面に叩きつけた。

「クリス!」

「分かってる!」

 クリスは、雷を纏った巨大な青白い槍を、創り出しそれで相手の腹を貫いた。

「やったか?真」

 これで死ななかったら、化け物だろう。

 というか体力があまりない、治してもらわないと。

「倒せてると思うぞ」

 俺はシノ近くに行くと、一瞬で傷が治り体力が全快した。

「凄いなシノ」

「恐らく、この杖の効果だと思います、なので私が凄いわけではないですよ」

 なるほど、でもそれだと相手も回復させてしまうのではないのだろうか。

「でも杖を従わせてるのは、シノだろう?」

「まあ、そうですけど」

 シノは何か言いたげだったが、特に何も言わない。

 光が降りて来た、疲れが見て取れる。

 今回なんとか武具解放術を使わずに済んだ。光と戦った時の方が、疲れてた気がする。まあ誤差だろう。


「ハハッ、人の血も魔族の血もやっぱり同じ赤色なんだな……死ぬのが少し早まっただけだな、そうだろう?村正」

 掠れた声で呟いた。



「なんか地味に初めてだな、上位魔族の死体を見るの」

「そうだな」

 と、適当に返事する。

 確証は無いが、恐らく上位魔族だろう。

 死体をよく見ると、絶望ではなく、安堵した様な表情だ。

 何故だ?死と言うの怖いはずなのに。

「弔いますか?」

「いや、やめよシノ、これは私達が殺した、殺した私達が弔うなんてこの魔族に冒涜だわ」

 殺し合った相手を弔うなんて、確かに冒涜かも知れない。

「それに弔うなら、殺しなんて事をしない方が良い」

 それにいちいち弔っていたら、時間や心が持たない、そう思ったが、今ここで言うのは何故か違う気がした。

「そうだな、弔うのは辞めよう、俺らが魔族に出来ることはない」

 ここからとりあえずまた進もう。

「俺達は、進む事それ以外に俺達に出来る事はない」



 もう辺りは暗い。焚き火を前にしてクリスと、隣り合わせで座っている。

 相変わらず、身長は小さい。

「……もしかして、星見るの飽きた?因みに私は若干飽きてるよ」

 それはそうかも知れない。もう一年間ほとんど毎日一緒に見ていたのだから。

「まあ、それはそうかもな」

「真は、魔王を殺した後どうするの?」

 どうするかか、考えた事もなかった。俺はどうするのが良いのだろうか。

「クリスは?」

 俺は分からないのでクリスに、振った。

「私?私は、幸せな家庭を作りたい。そして好きな人と星を見て、笑って過ごしたいよ」

「俺も、そうだと良いな」

 でもきっと、出来ないと思う。不可能だと、そう感じる。

「何よ?それなんも考えてないでしょ」

 俺は、苦笑する。

 確かに、俺は何も考えていない。けれどこれで良い気がした。

「そうかな、でも多分どれだけ考えても、同じ考えになるよ」

 少し笑ってクリスが答える。

「そっか」

 思わず見惚れる。

 背中から、グラムが出てくる。

「メーディア訊きたい事がある、来てもらえるか」

「クリスに運んで貰わないと、移動できないわよ」

 確か、飛べないのか。

「なら、メーディアの杖の部分だけこっちに置いてくれ」

 と、言うので、クリスが声が聞こえない辺りにメーディアを置く。

「何するのかな?」

 クリスが戻ってきた。

「さあ?分からない」



「お前が、シノの魔防具を殺したな?メーディア」

 笑う様にメーディアが答える。

「そんな訳ないでしょ?メリットがないでしょ?」

「何があったかは、分からない。だけどお前が殺したのは確実だ。お前の武具解放術の際明らかに強すぎた。喰ったのだろう?メーディア」

「知ってたのね、なら別に隠す必要もないわね、そうよ私が殺した」

 やはりか、でも手を出してしまったら強くなる以上に罰が課せられる。

「殺した罰が怖くないのか?」

「罰ね、分かったわ教えてあげる」

 罰とは自分の性能を上げる代わりに、主人を自分で決められる事が出来なくなる事だ。

 それは我々武具達にとって、尊厳を失うも同然だ。

「あいつは、私を殺してくれって言ったのよ、だから殺した悪い?それに、私は見たい未来を一度だけ見れるんだ。それでクリスが次に来るって、分かってたから、元々主人にしたいって決めてたのよ。

 だから私としては、罰が無い様な物なのよ」

 なるほど、そんな事があったのか。

「辛かっただろう?」

「……なんで?そう思うのよ」

「殺してと頼まれるなら、かなり親しかったんだろ?」

 重い空気が漂う。

「……楽しかったわ、相手がどう思ってたかは分からないけど」

 まるで思い出すかの様に言った。

「ならお前のした事は正しいだろう」

 真達の方へ戻る事にしよう。



「終わったぞ」

 クリスは立ち上がる。

「じゃあ、私はメーディアを取りに行ってくるわね」

 グラムが背中の鞘に戻った。

「恐らくこの世界は何かしらの、大きな力で支配されているだろう。分かっているな?」

 急になんだろうか。

「……分かってる、だけどどうしようもないだろ?」

「それが何か分かるか?」

「全部終わったらきっと分かるよ」

 クリスが戻ってきた。

「二人で何話してたの?」

 一応言わないの方が良いだろう。

「別に他愛のない話」

「じゃあ。私もう眠いからもう寝るわね」

 クリスは椅子を片付けて、テントに向かって歩いて行った。



 久しぶりに寝なかった。やはり寝た方が疲れない。

 珍しく全員早起きしている。

「そろそろ、行かね?」

 そういえば、最近朝飯を食べてない、まあ良いだろう。

「そうですね行きますか」

 もうテントを片付けて終わってるので、後は焚き火を消して、椅子を片付けるだけだ。

 まあ、それも一瞬で終わる。

 焚き火は精霊の力で消せる。

「んじゃ、片付け終わったし、行こうぜ」

 クリスが珍しく欠伸をする。

「なんだ?寝不足か?」

「まあ、ちょとね」

 昨日、何かして遅くなったのだろうか?

「ちゃんと寝てね、クリス」

 とりあえず、ここから離れる事にした。

 


 しばらく歩いていても景色が全く変わらない。

「変わらないな景色が何一つ」

「それはそうですけど、魔族が全然居ないですね、それが一番の謎ですね」

 本当に居ない。驚くほどに。

「どこかで、集まってるのかな?」

「もしかしたら、襲撃とかして来るかも知れない、一応用心しとこう損はないだろう」

 何か嫌な予感がする。


「あれが勇者か、準備は良いか?お前達、まずはあの白色のローブを着ている、奴を殺す、その後にあの少女を殺す。分かったな」

 小さくそれでどこか強い声で言った。

「了解しました」

 二十体の魔族がここに集っている。多種多様の魔族が集っている。少数精鋭だ。だが誰一人として上位魔族が居ないが。全員上位魔族には技術は下回っているが、その分数が居る。その分相手も厄介だろう。

「では行くぞ」

 まだ相手に気付かれてない。

 背後からバレずに近付けば殺せるだろう。



 俺は嫌な予感して後ろを振り向く。

 するとそこには、今にも襲いかかって来そうな魔族が恐らく十数名居た。

 シノに斬りかかろうと、している。

 防がなければ、持ち前の速度で防ぐのは無理なので。シノを引っ張って避けさせる。

「光!」

「分かってる!」

 光がクリスへの攻撃を防いだ。

 魔術が飛んでくる。

「全員後ろに思いっきり飛べ!」

 光とクリスが俺の言葉に反応して後ろに飛んでくる。

 相手は一体一体の見た目が全く違う。

「お前達は何者だ!」

「訊かれて答える訳ないだろ!」

 こちらに情報を与える気はないらしい。当たり前と言えば当たり前か。

 相手三体で光を攻める、それに指示している一体加えて、計四体で一チームのようだ。

 こちらも四体、来ている。クリスの所にも四体、シノの所にも四体来そうにになっている。

 クリス達の方へ、行く前に全員対処して、殺さなければ。

シノと、クリスが武具解放術を使っている。光もだ、俺も使うべきか?多数の相手には確かに、使えるだろう。やるしかないか、だがそれは無理そうな時のみしよう。

「真!そっち一体行った!」

 俺は、こっちに来た魔族の首を落とす。

「俺の速さについて来れる奴のみ、かかって来い」

 直ぐにスキルで分かった。全員死ぬ覚悟で来ていると。今にも襲いかかって来そうな動作を〇・一秒後の未来で見る。

 クリスの魔術が相手に当たる。

 数体当たったが、直ぐに回復させられた。

 回復?そこで気付いた。少し時間が掛かるが、体力さえあれば首が生える事に。

 まずい、シノ達が危険だ。

 そう思い、急いで振り返るが、あるのは魔術を放っているクリスとシノのみだった。

 あの魔族の死体が無い、一体どこに行った?

「真!後ろ!」

 俺は急いで振り向いて、相手の攻撃を避ける。

 横腹から攻撃しようとしたが、他の魔族に防がれる。俺の速さに、明らかについて来れていない。何故防げた?

 一旦距離を取る。

「厄介だな」

 かなり連携が、取れている。まるで隙が無い。

 間髪入れずに、魔術が飛んで来る。避けるのは簡単だ。だが量が多い。

 光達は、避けるので精一杯の様だ。

 それに加えて、武器でも攻撃して来るから厄介だ。

 先に魔術師を殺しに行く。

 避けながら進む。

「行かせるかよ!」

 目の前に四体の魔族が出て来る。

 だが俺の前では無意味だ。全て避けて、魔術師の目の前へ移動する。

 まずは一体。二体目、三体目とどんどん首を斬っていく。

 後一体、これで魔術師は消える。

 そう思った瞬間、目の前に魔術が展開される未来を見た。

 〇・一秒後展開された。読めていたので、なんとか避ける事に成功した。

 首を斬り落とす。魔術師は全員殺せた。これで回復は出来ない。

 そこで腹に違和感を覚えた。

 腹に剣が刺さっている?違うこれは未来だ!

 俺は急いでそこを離れた。

 〇・一秒後、剣が俺の背後を刺しかけた。

「さっきの魔術、姿を消す魔術かなんかだったな?」

 返答は無い。

「真!こっち手伝ってくれ」

 あれほど居た魔族達も残り僅かになっていた。

「……どうして!勝てないんだ!お前達を殺す為に、この二十三年費やして来たのに。どうして!勝てないんだ!お前達みたいな、糞野郎共人族に!」

 誰も、答えられはしなかった。

 そして、無慈悲に俺はそいつの首を斬り落とした。

 後一体だ。

「みんな、死ぬぞ、まだ戦うか?」

「当たり前だ!死ぬのが確定してようが、お前達を殺す為に、集まったんだ!逃げる訳ないだろ!」

 一体でも、勇敢に攻撃を仕掛けて来た。

「真、俺がやるよ」

 光が俺の前へ出る。

 見事に胴体を、二つに斬る。

 死体を数える。十九体か、結構居た様だ。

 後ろに振り返ると、シノが刺される、未来が見えた。

 だが間に合うはずもなかった。

「シノ!」

 場所は刺した位置から割り出す。

 恐らくあそこだろう。必ず殺してやる。

 当たっていた様で、見事に首を斬り落とせた。

 急いで倒れたシノに駆け寄る。

「大丈夫か、シノ!」

 シノの赤い血で、光の手が真っ赤になる。

 地面に血が広がる。

「クリス!回復魔術を頼む!」

「……む、無理よ、私は回復術が使えない」

「なあ!真!何かあるんだろう?グラムも!何か!」

 必死に訴えかけてきたが、答えは沈黙だ。

 シノが光の頬に手を包む様に、優しく触れる。

「もう駄目みたいです。光さん」

 光の涙をシノが優しく指で拭った。

「そうだ!自分で回復魔術を使えば」

「無理よ、使えるのは他人だけよ」

「嘘だ!何かあるはずだ、……何もないのか?」

 沈黙が続く。誰も答えを知らないのだ。

「嫌だ、あの時みたいに、俺の所為で好きな人を、失うのはもう嫌なんだ、だから頼むよ、死なないでくれ」

 シノが嬉しそう笑った。涙が頬を伝う。

「私も、あなたが好きでした」

 掠れた声でそう言った。

 光の頬にあった手が、地面に落ちる。

 シノの目に映る光がどうしうよもないほどに、泣いていた。

「どうして、どうしてなんだ!」

「一つだけ、救う方法があります」

 ローズが淡々と喋り出した。

「なんだ!早く答えてくれ!」

「私が、シノの体と一体化します」

「なんでも良いから、早くしてくれ!」

 そこで俺は違和感を覚える。

「待て、なんでそれを、シノが死んだ後に言うんだ?」

 沈黙が流れる。

「……これは、私の命を賭けるからです。シノはきっと、それを止めるでしょうだからです」

 確かにシノはきっと自分の命を助ける為に、他者の命を奪う事は決してしないだろう。

「ならこれは、辞めるべきよ!シノはきっとこれを望まないわ!」

「断る!シノを救う邪魔をするなら、お前らを殺す」

 光の目に俺は恐怖した。今まで一度も、見た事がなかった。

「シノの願いを無下にしないで!」

「黙れ!絶対に俺はシノを救う」

 鋭い目つきでクリスを睨む。

「光さん!私をシノの体の心臓部分に刺してください!」

「分かった!」

 クリスは手元にあった、ローズを取りここから離れた。

「待て!」

 光は追いかける。光の方が速い。

 俺も急いで、追いかける。

「その杖を寄越せ!クリス!」

 鬼の形相で、クリスに迫る。

「駄目よ!シノの意志を尊重しないと」

「五月蝿い!黙れ!」

 光が杖を触れる前にクリスを、俺が引っ張る。

「真!お前も邪魔するのか!」

「グラム!光を抑えろ!」

 俺は武具解放術を使う。

「邪魔するな!」

 光が、グラムが避けてこちらに来る。

「そいつを寄越せ!」

 もう目の前まで来ている。

「冷静になれ!光」

 光の手を避ける。

「なんでだよ!頼む、もう失いたくないんだ」

 クリスを置いて光の方へ行く。

「どこ行くのよ」

 光は無理だと悟ったのか、膝を地面に付けて、土下座する。

「お願いします、もう失いたくないんだ、頼むこの通りだ」

 クリスがこちらに歩いて来る。

 グラムが俺から離れて、光の方へ行く。

「何をする気だ、グラム」

「真、我は光の意見に賛成だ、たとえ命がなくなろうとも、シノの体に杖の時と同じ様な効果が出るからな」

 唇を噛み締める。

「違うだろ!シノの想いを、尊重しろって言ってんだよ。それじゃローズが死ぬじゃないか!」

「分かってないわね、ローズの意識はシノの体の中で、ずっと生き続けるわ。それを、生きてないって言える?」

 メーディアの言葉に何も言えなくなった。

「それでも、シノはきっと断るわ!」

 確かにシノはきっと断るだろう。

「クリス!もう諦めよう、きっとグラム達が正しい」

 クリスは何か言いたげだったが、唇を噛み締めて終わった。

「分かった、ローズを渡すわ」

 光にローズを渡す。

「ありがとう」

 光は一目散に、シノの方へと走った。

「これで、シノが助かる!」


 光が涙を流しながら、シノの心臓に突き刺す。

 不思議と血は流れなかった。ローズがどんどん、シノに入って行く。傷がどんどん治る。

 シノが、起き上がった。

「あれ?私は死んだはずじゃ」

「良かった、本当に」

 光が泣きながら、抱きついた。

「ひ、光さん!?あ、あの」

 かなり慌てふためいている。

「良かったわ、シノが無事生き返って」

「でもどうして生き返ったの?クリス」

 少し躊躇っていたが口を開いた。

「ローズがシノと一体化して救ってくれたの」

「言っている意味が分からないのだけど」

 それは俺達にも分からない。

「ローズに聞けば良いんじゃないか?」

「ローズ?そういえば何処に居るんですか?」

「シノ中で意識は生き続けるって……」

「あっ」

 俺はそこで、声が思わず洩れた。

「メーディアと、グラムは喋れるとは一言も言ってない」

 そこで、シノ以外が意味を理解した。

「意識があるだけって事?そうなの?グラム、メーディア」

 返答は無い。

 ずっと疑問に思っていた事があった。何故ローズは自分が死ぬと、表現したのか。

 そういう事だったのだ。自分が、何も出来ないから、死んだも同然だから、死ぬと表現したんだ。

 そういう事だったのか。

「ちょと待って下さい。一体何が起きてるんですか?」

「ローズは死んだ、シノを助ける為に」

「え?何を言って……」

「本当の事だ」

 シノから光が離れる。真剣な顔で、シノを見つめる。

「……なんで、止めなかったんですか」

 小さく、そう呟いた。

「ご、ごめん、でも分からなかったんだ」

 光は焦っている様に見える。

「……大丈夫です。分からなかったなら、仕方ないですね、それに私を救おうとしてやってくれた事ですよね、ありがとうごさいます」

 シノは唇を一瞬噛み締めた。

「今日はここで一夜を過ごそう。少し疲れた」

「私も賛成よ」

 光達も賛成してくれた。



「真ちょと、こっち来て」

 クリスに手招きされる。

「どうした?」

「良いから」

 クリスにテント裏まで、引っ張られる。

「だからどうしたんだよ」

 一応焚き火を、消しておく。

「多分、光達が出て来るよ、見てて」

 クリスが声を弾ませる。

 すると、クリスが言った通りになった。

「真はどこに行ってるんだ?」

 と、辺りを光が見渡す。

「ま、いっか」

 意外と深く考えていない様だ。

 椅子を出し座った。

「入って良いのか?あのテントに」

 光が悩んでいる。

「あっ、光さん」

 光が振り向いた。

「や、やあ、シノ」

 声が震えている。

「こんばんわ、光さん」

 光とは違って、声はしっかりしていて、震えていない。が、動きがぎこちなかった。

 椅子に座った瞬間、頬を赤く染めて、顔が見えない程度に俯く。

「ひ、光さん、私達つ、付き合ってるんですよね?」

 今度はシノが声を震わせている。

「そうなるのかな?」

 光が少し恥ずかしそうに、答える。

「光さん、今後ともよろしくお願いします」

 シノは立って、お辞儀する。

「あっ、こちらこそお願いします」

 光も立ってお辞儀する。

「何これ、俺達は何を見せられてるんだ?」

 俺達は今カップル成立の瞬間を、見てるだけだ。

「うーん、初々しいカップルの、イチャイチャしてる所?」

「なんでそれを俺達が見なきゃいけないんだ?」

「邪魔しちゃ悪いでしょ?」

 確かにそれはそうだが。テントの中に……いやそれは、駄目か流石に。

「それもそうだな」

 シノが体を震わせた。

「光さん、寒いので中で話しませんか?」

 あれは、シノは自分の言っている、意味を理解しているのか?

「え、良いのか?」

「なんでですか?」

 ああ、これ意味理解してないな、カップルが一つ屋根の下、やる事は一つだろうに。

 本当に分かっていないか、怪しい所だが。

「とりあえず、入りましょ?」

 そのまま、光とシノは、テントに入って行った。

「あれで、終わり?」

 俺は頷く。

「多分な」

 とりあえず、焚き火を焚き直す。

 椅子を取り出して、座る。クリスも椅子を取り出して座る。

「あの後、どうなるんだろうな?」

「さあね」

 クリスはため息を吐く。

「なんか、安心したわ」

「なんでよ」

 クリスは、可愛く笑った。

 親友に彼女が居るなら、俺も少し欲しくなってきた。

 今ここで告るか?

 と、馬鹿馬鹿しい考えが浮かんで来た。どうせフラれて撃沈するだけだ。

 自分にため息を吐く。

「やっぱり、クリスと見る、夜空は落ち着くな」

 クリスは悪戯っぽい笑みを見せた。

「ため息吐いてるのに?」

 俺は苦笑する。

「ただそう思っただけ」

 若干頬が赤くなってる気がするが、気のせいだろう。

「そう?なら良いけど」

 クリスから夜空に視線を移す

「あっ、流れ星、綺麗だわ」

「本当だ、綺麗だな」

 本当に綺麗だ。

「ねえ、知ってる?流れ星の童話」

「知らない」

 俺は首を横に振る。

「だよね、じゃあ教えてあげるわ。流れ星の元で告白すると、成功する物語だよ」

「なにそれ、大雑把だな」

「まあ、話したら長くなるからね」

 もうちょと工夫出来る気がするが。

 まあ、良いだろう。

「そんなに長いのか?」

 クリスは首を横に振る。

「本としては、そこまでだわ、確か二百六十ページくらいだわ」

 そこまでなのか?分からなくなってきた。

「読んでみたいな」

「全部終わったら、読ませてあげるわ」

 全員終わったらか、出来るだろうか俺は生きている、自信が無い。

「生きて帰れたらな」

 俺は、自嘲する様に言った。

 クリスが俺の肩を優しく、触る。俺が振り返ると、クリスにデコピンされる。

「急にどうしたんだ?」

 今ので結構体力が減った、もう瀕死だ。

「大丈夫よ、本気でやってないから、死なないわよ」

「瀕死なんだが?」

「それはごめん、だけど真があんな事を言うからよ。次からは絶対に言わないで、あんな事」

 クリスの、手は震えていた。

 俺は震えた手を存在を確かめる様に、優しく丁寧に、両手で包み込んだ。

「分かった、そしてごめん。弱気になっちゃ駄目だよな」

 俺は、安心させようと思い。微笑んだ。

 クリスが俺の腕に寄り掛かった。

「絶対よ、絶対。これからそんな事言わないで」

「ああ、絶対だ」

 頭は撫でたりはしなかった。

「真、絶対生き残って。星を見て、本を読ませてあげるから」

「分かった、一緒に生き残ろう約束だ」

「そうね」

 クリスは満面の笑みで笑った。



 やはり景色はほとんど変わらない。どれだけ歩こうとも。

「シノ、足辛くない?大丈夫?」

 いや、景色は変わったかも知れない。

「大丈夫ですよ、ありがとうございます」

 この二人が、イチャイチャしているからだ。

 これは、もうこれまでとは、かなり景色が違うだろう。

「あの二人、イチャイチャしすぎじゃない?」

「それは、俺も思った。恥ずかしくないのか?」

「聞こえてるぞー」

 返答はしないでおく。

「イチャイチャなんて、そんなへへ」

 シノがいつもの冷静さに反して今にも顔が噴火しそうなぐらい、赤くなっている。

 口元がかなり緩んでいる。

「……シノがあんな状態になるなんてな」

 恋心と言うのは生き物を、変える何かがあるのかも知れない。

 全く、恋心ってのは怖いな。

「真、良く考えてくれ。付き合いたてのカップルが、歩いても全く景色が変わらない中、何をする?」

 何も言い返せない。

「まあ、別に良いわ、慣れる様に善処するわ」

 それしかないか。

「そうだな、そうしててくれ」

「真さんは、どこですか?」

 真が居た所に全員目を向ける。そこにはグラム以外痕跡が何一つなかった。

「真はどこ行ったのよ?」



 ここはどこだ?周りの景色が一瞬で変わった。何処かの部屋の様だ。周りの壁は、石だ。

 動こうとするが、縄で縛られて動けない。

「やあ、真君初めましてだね」

 白衣を着た、魔族がそこに居た。

「グラーキ、それちょと怖いだろ」

 そこに居たのは、元勇者、勇気善だった。

「善?死んだはずじゃ?」

 確かに埋葬したはずだ。

「ああ、死んだも同じだったがな」

「そうだよ、僕が生き返らせた様な物だよ」

「……生き返らせる事が出来るのか?」

 グラーキと言われた、魔族は首を横に振る。

「致命傷を肩代わり出来る物を作れる、尚且つ生き返らせる方法は知ってるけど、生き返させる事は出来ない」

 シノを生き返らせた時と、同じ方法だろうか。

「まあ、そんな事より、大事な事があるだろう?グラーキ」

「そうだな、君は神を信じるか?」

 人差し指で、俺を指す。

 俺は頷く。

「何故そう思う?」

「この世界は、恐らく力が強ければ魔族は、行動出来る範囲が、変わる。違うか?」

 善が感嘆の声を洩らす。

「おお、良く分かったな」

 どうやら合っているらしい。

「何故?そう思うんだい?真君」

「丁度良過ぎるんだよ、力の強さが、ぎりぎり倒せるレベルに調整されている。つまり、この世界はRPGの様な、バランス調整をされている。俺はそう思う」

 グラーキが笑み見せた。

「それが神だと?」

 俺は頷く。

「ああ、そうだ。つまり神は、俺達の冒険を、ゲームとして、見て楽しんでいる。違うか?」

 グラーキは笑いだした。

「こいつは凄い、俺達が十年掛けて分かった事を、たった一年で突き止めやがった。本当に凄い」

「だが証拠は無いんだろ?」

 俺は頷く。

 というか、何故自分はこんなにも冷静なんだ?もしかしたら、何かの効果か?

「証拠を集める時間は無かったからな」

 旅をしながらだ、ある筈がない。

「まあ、良いさ合ってるんだから」

「じゃあ、君は人が死んだらどこに行くと思う?」

「分からない」

 グラーキは、苦笑した。

「だよな、冥界って所に行くんだ。そこは言わば天国かな?だよな?善」

 善は頷いた。

「なるほど、天国か」

 そんな幻想的な事があるなんてな。

「そこに、行った人だっているしな」

 善の方へ親指で指す。

「そうだ、あそこで愛と会ったよ」

「愛?愛ってもしかして、光のお母さんか?」

 善は頷いた。やっぱりそうか、どこかで聞いた事があると思っていた。

 もしかしてあっちの世界とこっちの世界は繋がっているのか?一旦考えるのを止めよう。

「それより、冥界がなんなんだ?」 

「まあ、とりあえずあるって事は覚えてくれ、そしてそこに居る生き物は神の手によって、生き返される事があるんだ」

「つまりどういう事だ?」

「つまりだ、この世界全ての生き物が、神の手一つで、殺す事だって出来るんだ」

「それを伝えて何になる?」

「だが、この神にも制限がある。それは、この世界の死んだ生き物以外の運命を変える事は駄目、そういう制限が、神にはある。俺はそう思う」

「なぜ?」

「簡単だ、全員気付かない運命に、変えれば良いのに、俺達は気付いている。それが何よりの証拠だ」

 確かにな、それならあり得るかも知れない。

「で?なんで俺を誘拐したんだ?」

「この世界を、救って欲しい」

 答えは一つだ。

「断る」

「何故だ?」

「そんな事する訳ないだろう?それに出来る訳がない」

 グラーキは、不気味な笑みを浮かべた。

「いや、出来る君にしか出来ない、それならば君は、クリスが死んでも良いって言うんだね?」

「は?どういう……」

「そのままの意味だよ」

 不気味な笑みが、まだ浮かんだ。

「……分かった、やるよ、どうすれば良い」

 こいつはきっと、俺の事を良く分かっているのだろう。

「よろしい、先程の言った事に、一つ付け加えよう。神と精霊はこの世界の者とは、契約が出来ない」

 それが、なんの関係が?

「なんの関係があるのか?と思っただろう?教えてやろう、時の精霊、グラムから聞いた事があるだろう?その精霊が、時を司る神なんだ、そしてその精霊、いや神と契約できる者が君って訳。そして、ゲームを楽しんでる神を、殺す際神の力は、絶対的に必要なんだ。だから君にしか出来ないんだ」

 なるほど段々理解して来た。

「分かった、その時の精霊を探せば良いんだな?」

 グラーキは首を横に振る。

「違う、それは見かけたらでいい、旅を続けてくれ、旅の最中見つけれたら、契約してくれ」

 それでは、殺せないのではないのか?

 こいつらはきっと何かを隠している。

「何を隠してるんだ?」

「もう話す事は無いよ、けど覚えててね」

 すると一瞬で周りが殺風景な景色に変わった。

「うわっ!急に出てくんなよ」

 とかなり驚いた様子で、こちらを見ている。

「帰って来たのね、おかえり」

「ああ、ただいま」



 俺が、神を殺すか。俺は、この世界の者ではないか。

「はあ、なんか疲れたな」

 俺にはちょと荷が重すぎる。この世界を救うなんて、違うか、俺はただクリスが幸せで居れる様に、したかったんだ。

 世界なんてどうでも良いんだ、俺はただクリスの、幸せな笑顔を見たいだけなんだ。

「はあ、俺結構最低だな」

 もしこの立場が光だったら、世界を救う為にとか言うだろうな。

 ため息を吐く。世界を救うなんてな、笑える。

「なに、考え込んでるのよ」

「……星が綺麗だなって」

 きっとクリスには、見破られているだろう。

「そう」

 だが何かを察したのか、追及はされなかった。

 しばらくの間、言葉は交わさず。ずっと夜空を見ていた。

 綺麗だな、それ以外の感想が思い付かない。

 もう特に話す事があまりない。

「ねえ、急に居なくなってたけど、どこに行ってたの?」

 あれは、言わないほうが良いよな。

「なんか、空間移動が暴走したみたい」

 クリスが、こちらを見つめる。

「何?」

「まあ、良いわそういう事にしてあげるわ」

 何か隠していると分かっているらしい。相変わらず、クリスに嘘がバレる。何か分かりやすい行動とか、あるのだろうか。

「……少しは信用してよね」

 そうクリスが小さく呟いた。

「ごめん、なんて言ったの?」

「なんでもないわ。ただ、秘密が多いって言っただけよ」

 何処か素っ気なかった。

「ご、ごめん」

「何が?」

 これは特に何か言わない方が良いだろう。

「なんでもない」

 しばらく沈黙が流れた。

「昔々ある所に、勇者が居ました」

「どうした?急に」

「良いから聞いてて」

 クリスは言葉を続ける。

「勇者には、仲間が三人居ました。計四人で魔王を殺す旅に出ました。仲間の構成は、魔術師二人、剣士が一人最後に、勇者が一人で旅をしていました。

 その後勇者以外は、みんな死んでしまいました。みんなね。

 それでも、勇者は魔王を倒す事に成功しました。でも王国に帰ってみると、歓迎はされたが自分には、何も無いと、分かって自殺してしまいました。これが私が一番好きな小説、報われないでしょ?」

「……なんで、それを俺に話すんだ?」

 正直、童話の話だとてっきり思ってたが、違うらしい。

 俺の言葉を無視して、言葉を続ける。

「でもね、童話でこの話を元に作り変えられるんだ、それはみんな生きて、帰るんだ。そして幸せに生きるんだ。その後この童話が一般化して、みんなに読まれるんだ。その話には、秘密は何一つ隠してないんだよ。気味が悪いほどに」

「俺にそれを聞かせて、何かあるのか?」

「結局、人は秘密が無い方が、気味が悪いって事よ、だからあまり気負わないでね」

 相変わらず、クリスに全部見透かされてる。

 俺は辛かったんだ。クリスに嘘をつくのが。笑える程に。

「凄いな、クリスありがとう」

 クリスは椅子から、立ち上がる。

「もう寝るわ」

 クリスはテントへ向かって、入っていった。

「気味が悪いか、それでもいつか話したいな」

 どうしても隠したい物以外を。

「真、あまり考えすぎるなよ、気楽に生きろ」

 この世界で気楽に、生きるのは無謀だと思うが。

「そうだな、ありがとう」

 グラムのお陰で、少し気楽になった。

 なんだか今日は、疲れた。

「……眠い」

「ここは、我に任せて寝ると良い」

 グラムが空中に浮く。

「そうか?ありがとう、俺は寝る事にするよ」

 俺はテントの中に入り、寝ている光を横目に、ベットに倒れた。

「もしこの世界が、夢だったら良いな」

 そう呟いて、眠りに落ちた。とても嫌な予感がした。



 これは夢だと、一目で分かった。

 何故なら、周りの景色があの日見た、景色と全く同じだったからだ。

 誰にも知られたくない。過去の景色だ。

 俺が、人を殺した、あの日の景色だ。

「父さんが悪いんだよ?俺の目の前に来るから」

 そうだ、俺は父さんを池に落として、溺死させた。

 俺は、人が死ぬ瞬間を見て見たかった。その一心で計画を立て見事完全犯罪を達成した。

 今の時代、難解事件なんて、調べれば分かる。もちろん何故解決出来たかも、だからそれを自分なりに、変えて隙を無くした。

 今こうして見ると子供の行動力は凄いと思う。今では絶対にしないだろう。

「……ああ、終わっちゃたなあ」

 今思えば、これが俺の本性だったかも知れない。

 それは、ニュースに取り上げられた。

 その日改めて、思い知った。俺は悪い事をしたのだと。

「次は、どんな事をしようかな」

 でもあまり気に留めなかった。他にしたい事が出来たから。

「……なんで、そんなにへらへら笑ってるのよ!父さんが死んだんだよ?」

 この時俺は分からなかった。

「なんで悲しむの?どうせ死ぬんだし、それが、早まっただけだよ?」

 その時、母さんからビンタされた。痛かった。

 その時から、母さんの虐待が少しづつ、増えていった。

 初めは、虐待されるのが、面白かった。母さんの顔が面白かったからだ。

 だけど徐々に飽きて来た。小学五年生の時には、痛い以外の感情はなかった。

「なんか全部どうでも良いな」

 俺は死のうとは、不思議と思わなかった。

「なんか面白い事はないかな」

 その時また人を殺そうとしたが、それで捕まって死ぬのは、嫌なので苦渋の選択で断念した。

 そこで一つ素晴らしい案を思い付いた。

「あっ!そうだ、学級崩壊を起こそう」

 クラスの学級崩壊ほど見たい物はなかった。

「まずは、他の人の秘密を見つけよう。そして自分の性格を見直そう」

 俺は、クラスの雰囲気に合わせて性格を変えて。チャンスを待った。

 その後、チャンスは回ってきた。

「真も一緒に遊ぼ?」

「何やってんだよ、真が遊ぶわけないだろ」

 俺は、笑顔を作る。

「良いよ、遊ぼ」

 確か、名はあきらだったか、苗字は覚えてない。

 明は、笑顔になった。

 まずはこいつからだ。

「本当?ありがとう。じゃあ行こう!」

 俺の手を引っ張って、グラウンドへ連れて来た。

 ドッチボールをした。調子乗っている奴が居るなら、そいつのボールにわざと当たる。

 逆に長くしたい奴には、当てなかった。

 人によって、行動を変えていた。

 そんな事を続けていると、明が思った通り他人の悪口や、悩み、愚痴を吐いてくれた。

 もちろん、ボイスレコーダーは取ってある。

「ありがとう、真スッキリしたよ」

 俺は愛想の良い笑みを見せた。

「なら一つ、お願いがあるんだ。何か悩みがあれば、真に話した方が良いってみんなに言ってくれる?」

「良いけど、なんで?」

「明みたいに、みんなスッキリして欲しんだよ」

 俺は優しく声で言った。

「うん!分かった。真って良い人だね!」

 ああ、全く分かりやすい。本当に操るのが簡単だ。

 その後俺に悩みを打ち明ける、人が続々と出て来た。

 でもまだ、学級崩壊にするには、まだ足りない。

 もっと情報を集めなければ。

 俺は、それから全員のもっと深い、秘密を探した。

 時間が掛かったが、見つける事に成功した。

 動画も撮れた。

「ああ、楽しみだな」

 声が弾んだ。

 だが先生が邪魔だ、だから中休みに実行した。

 もう直ぐ進級だった日の中休みに。

 俺は、ボイスレコーダーを、机の中に入れて、大音量で流した。

「えっ?何?」

 教室がざわついた。

「これ、どういう事?」

「本当に、愛奈まなは自分が可愛いって思ってるのよ、気持ち悪い」

 その様な、言葉が続々と出てくる。

 しっかりと、俺名前は言われてない。

「ち、違う私はそんな事思ってない」

 無慈悲にも、他の人の物もどんどん出て来る。

「どういう事だよ!」

 ああ、面白い最高に。

 そして、最後にテレビに秘密の動画を映した。

 その日はみんな暴れ散らかし、見事学級崩壊を、達成したのだ。

 そして、当然の様に次の日ほとんどの人が休んだ。

 

「最高だ、最高に面白い」

 俺は、思い出して笑っていた。

「あの時、あいつらの顔と言ったら、最高だ」

 その日、俺は書店に来ていた。

 俺は階段から、降りようとした時、誰かに押された。

 ああ、明だ。その瞬間俺は、明の表情に、不本意ながら面白いと、思ってしまった。

 階段から、落ちる瞬間俺は笑っていた。

「気持ち悪い」

 明がそう呟いた。

 その後、ある人格が俺から、芽生えた。

 それが俺だ。今の影之真、偽の影之真だ。

 でも、どこか前の人格が少し残っている。

 例えば、俺は魔族、人を斬る時少し楽しいと、感じてしまう。苦しいはずなのに。

「きゃー!!」

 女性が、頭から血を出ている俺を見て、悲鳴を上げた。

 明が逃げ出した。

「こら!待って!」

 次目を覚ますと、病室だった。

 医者が言うには、生き残ってるのが奇跡だったらしい。

 意外と直ぐに、家に戻れた。でも、帰っても虐待が待っているだけだろう。

 意外にも、帰ると母さんに、抱きつかれた。

「本当に心配させないで」

 泣いている。

「ごめん、ごめん次から気よ付けるよ」

 今思えば、母さんはこれが、演技だったのかも知れない。

 俺を束縛する為の。

 その時自分が父さんを、殺したと言いたかった。でも自分可愛さに、辞めてしまう。どれだけ辛かった事か。でもこれはただの、言い訳に過ぎない。

 その日は、久しぶりに、虐殺はされなかった。

「こんな日がずっと続けば良いのに」



 目を覚ますと、もう光は起きていた。

「憂鬱だ」

 朝から嫌な夢を見た。

 すると、急に頭痛がした。

「あああああああああ!!」

 痛い、だが耐えられる。

「返せ、それは俺の体だ」

 頭にそう響く。その一言で、全て分かった。この体を、奪い返しに来たんだ。

「黙れ!もうお前の、好き勝手にさせない。お前はもう死んだんだ!死人は大人しくしてろ!」

 返したくない。たとえ盗んだ物だとしても。

「この盗人が、拒否権なんてねえよ。早く返せよ!」

 まるで、頭の中が喰われていく様な感覚に陥る。これは耐えきれない。

「嫌だ!俺は、クリスと、星を見る約束をしてるんだ!返すものか!」

「ふざけるな、偽物が」

 何も言い返せない。

「それでも、嫌だ!」

 必死に、本物を追い返す。

 すると、テントの入り口からグラムと光が出て来た。

「真、大丈夫か?」

「助けてくれ」

 ちゃんと発音できたかは不安だが、杞憂だったらしい。

「どうすれば良いんだ?」

 もう、声出す気力すらなくなっている。

 俺は地面に倒れた。

 クリス達も入って来た。

「真!大丈夫?」

 クリスが、駆け寄って来てくれた。


「こんな事してて、楽しいか?人殺し」

「人殺しはお前だ!」

「違うな、お前も人殺しだ」

 そんなはずない。

「そんなはずないか、違うな思い出せ、今までの計画を練っていたのは、お前だ」

「そんなはずない、俺がする訳ない!」

 その瞬間、ある筈のない記憶が蘇ってきた。

「なあ、今度の計画どうする?」

「そうだな、こんなのはどう?」

 俺は父さんを殺す計画を伝えた。

 その記憶は短く簡潔に、入って来た。

「嘘、だろ?」

「お前は、あの時階段から落ちた時、今までの記憶を、消えたんだよ」

 そんな事があるはずない。

 だが、どんどん記憶が入って来た。

 これは、信じるしかないのか?

「真!しっかりしろ!」

 光の声を最後に、気を失った。



 あの日、学級崩壊を起こさせた、荒れた教室に、立っていた。

 俺の反対側に、本物の俺が居た。

「なあ、あの時の様に、俺が体でお前が脳でいいじゃないか。何故そこまで拒絶するんだ?」

「もう前の俺じゃない」

 本物の俺が笑った。

「笑える、違うって?違うな、お前はあの時から、何も変わっていない」

「違う!俺は変わった!」

「違くないな、お前はあの時も今も、自分の欲を満たす為にしか動いてない。それを世間で言う、悪ではないのか?他人の為に動きゃしなかった」

「違う!俺はクリスに笑って欲しいから、旅をしているんだ!」

 本物の俺が嘲笑した。

「全部自分の為じゃないか、自分がそうしたいから、認めてもらえるかも知れないから、そうしたんだろ?結局は自分の為に、動いてんだよ。父さんを、殺した時もそうだ。良い加減気付けよ、糞野郎」

 本物の俺が鋭い目付きで睨んできた。

 だけど直ぐに見下す様な目に変わり、言葉を続けた。

「でも、それは生き物として、仕方ない事だ、結局、人も、動物も、魔族も、行動の全てが自分の為の物なのだからな」

 その言葉、不思議と正しいと思ってしまった。そんな筈がないのに。

「なんだよそれ、そんなのが正しい訳ないだろ?」

「諦めろ、分かってるんだよ、お前の気持ちも、思ってる事も。それでも認めないと言うか、ならば問おう何故人助けをする?」

 そんな事一つしかないだろう。

「それが、正義だからだ」

「なら正義とはなんだ?何故正義と言う言葉が、生まれた?」

 そんなの分かる訳ない。

「分かる訳ないか、正義とは生きる物全てが、自分を正当化する為の言葉だ、そして正義は自分の欲求を、満たす為に生まれたんだ」

 そんな事があってはずがない。それほど悲しい事はない。

 それでもやっぱり正しいと思ってしまう。

 認めないといけないのかも知れない。自分が思ってる事を。

「……お前の言って事は正しいかも知れないそれでも、いや、俺は他人の為じゃなくても良い、俺は自分の為にクリスが幸せで居れる世界にする為に、旅をする!」

「分からず屋が」

 本物の俺がそう吐き捨てる様に言い残して、足から徐々に消えていった。

「一体何が起きたんだ?」



 目が覚めると、手元にグラムがあった。

「起きたのね、良かったわ」

 クリスが安堵した様に息を吐いた。

 呆気なく消えていったが、何が起きたんだ?

「安心しろ、お前の精神世界に行って、あいつは殺してやったから、恐らくもう出てくる事はないだろう」

 グラムが、救ってくれたという認識で合っているのだろうか?

「そうか、グラムありがとうな」

「で?一体何が起きたんだ?」

 迷う言いたくないが、言わなければいけない事だろう。

「魔族の魔術様な物で、少し気を失っていたらしい、そこを我が助けてやったんだ」

 一瞬訳が分からなかった。守ってくれたのだろうか?

「そうなんですね、気よ付けて下さいね」

 そこで、クリスはある事に気付いたらしい。

「でも、黒魔術は効かないんじゃなかったけ?」

 痛い所を突いてくる。

「いや、黒魔術ではない、恐らく相手のスキルだろう」

 クリスは納得した様で頷いた。

「なら、もう心配ないな、なら行くか」

 光が率先してテントを出た。

 俺はテントでグラムと、少し話す事にした。

「……なんで、嘘を付いたんだ?付く理由には、お前に無かっただろう?」

「ただの我のしたい事をしただけだ」

 結構、初めから見ていたのだろうか。

「そうか、ありがとな」

 俺はグラムと、外に出た。

「じゃあ、行きますか」



 どれだけ歩いていても、朝の事が忘れられない。

 ため息を吐く。

 こんな時でも、後ろでイチャイチャしてる、光達に若干の怒りを覚える。

 俺は偽物だ、偽物が幸せで生きる、権利はあるのだろうか?

 誰かを幸せにする事すら、出来ない俺が。むしろ不幸にした俺が。良いのだろうか。

 自分を正当化する為の言葉だ、ふと本物の俺の言葉を思い出した。

 正当化する言葉か、それなら正義とかは存在しないのかも知れない。なら俺はこのままでも良いのも知れない。本物の俺が正しいなら。

「もう、なんでも良いや」

 とりあえず、俺はクリスが幸せならばそれで良い。

 後はもう全部どうでも良い。

「何が?」

 と、クリスが訊いてきた。

「別に、深い意味はないよ」

 クリスが俺に詰め寄って、何が言おうとした時、前方から何かがやって来た。

 あれは、ドラゴンとか言う奴だろうか?

「あれは、黒龍夜刀神こくりゅうやまとのかみ?あんなのが居るの?あれは、童話の生物じゃないの?でも、見た目が同じだわ完全に」

 要するに化け物という事だろう。

 黒龍夜刀神が、降りて来た。

「魔王を、倒そうとする者達よ。この先に行きたければ、我を倒してから行くと良い!」

 すると、急に夜刀神の口から、黒色の炎の息吹きを吐かれた。

 全員不意打ちの様な物だったが、ぎりぎり避けた。

 恐らく相手の方がステータスが高いそして、強い。なら短期決戦だ。

「みんな、武具解放術を使え!長期戦は恐らくこっちが不利だ!」

 俺は叫んで、指示をする。

「みなさん!ステータス上昇魔術を使います!少しの間時間を稼いで下さい!」

 シノの、言われた通りに、時間を稼ぐ。

 案の定、炎の息吹きがシノに飛んできたが、俺が引っ張って避けさせた。

「ありがとうございます」

 ステータス上昇魔術を、もう使ったらしい。

「みんな離れて!」

 クリスが、巨大な隕石の様な物を出して、夜刀神に当てる。

 かなり夜刀神が苦しんだ後、隕石が砕け散った。

「もう一回は、無理よ!」

「後は、俺達の仕事だ!行くぞ真!」

 俺は、数十本のグラムを使って、斬り続ける。

「まさか、ここまでとはな、なら本気を出してやる」

 思ったより早く本気を出すらしい。

 だがまるで苦しんでいる様に見えなかった。

 すると急に光出して人型に変わり表面が鱗で覆われ、先程よりは短い尻尾を生やした。

「これで、何が変わるんだ?」

 光が、エクスカリバーを巨大なハンマーにして、攻撃を仕掛けた。

 それを片手で防いだ。

「おー強い強い」

 笑っている。

 クリスの魔術すら、全部受け切ってしまう。

「弱いな」

 一瞬でクリスに距離を詰めた。

 俺が、数十のグラムで防ぐ。

 だがその内、十本のグラムが壊れた。

「これを、防ぎきるか」

 絶対に、クリスは傷付けない、絶対に。

 俺は距離を詰めて、黒刀神の腕を斬り落とす。

「ほう?斬れるのか」

 だが、直ぐに再生した。手から魔術を放ってくる。

 早過ぎる。化け物だ。

「治るの早過ぎだろ!」

 精霊の力を使いつつ、避ける。

「どうやら、お前以外対抗出来る者は居ないようだな?」

「それはどうかな?」

 光が、夜刀神の防ごうとして来た、左腕を斬り落とす。

 夜刀神が右腕で光の頭を掴んで、地面に叩き付けた。

 光は一瞬気を失った。だが直ぐに回復魔術で、回復した。

 その内に夜刀神の胴体を斜めに斬った。

 それも一瞬で再生する。

「こんなので、我を殺せるとでも?」

 振り向かれるて、危うく首を掴まれそうになったが、ぎりぎり避ける。

 掴まれたら一巻の終わりだ。

「速いな」

 どうする?何か、弱点があるはずだ。探すんだ、観察しろ、夜刀神の行動を。

「頭を粉々にして!そしたら相手の再生も止まる!」

 クリスが叫んで伝えてくれた。

「でも、どうするの?クリス」

 シノが心配そうな声を出した。

「みんな!動きを止めさせる事出来るか?」

 光の言った事に、俺達は承諾して、止める事に集中する。

 クリス達は鎖の様な物を出す魔術で、一瞬動きを止める。

 動きを止めている間に、俺がグラム達で腕や足を地面と一緒に刺して、動き止めた。

「こういう無駄な事は、思い付くんだな!」

「そうでもないぜ!」

 光が空中から、黒刀神の頭を刺そうとした時、頭痛が始まった。

 思わず、武具解放術を解除してしまった。

「残念だったな!」

 夜刀神に逃げられてしまった。千載一遇のチャンスを逃したのかも知れない。

「ごめん!もう武具解放術は使えない!」

 これでは、動きを封じ込める事が出来ない。

「これで、貴様らは我を殺す、最後のチャンスを逃したんだな?」

 夜刀神が、不敵に笑った。

 何も返す言葉が見つからなかった。これ以上出来る気がしない。

「それはどうかな!」

 光は諦めていなかった、エクスカリバーを夜刀神に向けると、エクスカリバーが、形を変えて二十本程の触手の様な物になり夜刀神を閉じ込めた。

「これならどうだ?」

 すると触手と触手の間を無理矢理こじ開けて、外に出た。

「結構、強度あったと思うんだけど?」

 直ぐに普通のエクスカリバーに戻した。

「まさかこれで、我を閉じ込めてた気だったとか言わないだろう?」

 図星なのだろう、何も言い返していなかった。

「まだだ」

「分かってるぞ!」

 そこで、気付いた様だ。俺がグラムを持っていない事を。

「上か!」

 上を見上げた瞬間、俺はグラムを手に空間移動で移す。

 持ち前の速度で、頭にグラムを刺した。

 そして、武具解放術を使った。だが時間は一秒も使わない。炎を纏っていたので、精霊の力で更に火力を高め、頭を燃やし尽くすつもりだ。

 そこで、一つ大きな勘違いをしていた。

「炎を操る者に、炎が効くと思うか?」

 もっと考えれば、分かる事だった。

 俺は直ぐに距離を取る。先程の短時間の、武具解放術でも、疲労感がえげつない。

「俺が居るぞ!」

 そこで一つ策を思い付いた。

「不意打ちなら、声を出すな!」

 振り向いた瞬間に、光を背後に空間移動で移動させる。

 だがもう一度直ぐに振り返る。俺ももう一度、空間移動を使う。

「そう来ると思っていた!」

 夜刀神は一瞬で振り返り、攻撃を仕掛けるがクリス達の魔術で動きを一瞬止められる。

「させない!」

「貴様ら!我は黒龍夜刀神だぞ!こんな所で死んで良いものか!」

 光のエクスカリバーが、夜刀神の頭を貫いた。

「終わりだ!夜刀神!」

 その瞬間、光の横腹が、尻尾で吹っ飛ばされる。エクスカリバーは、刺さったままだ。

 これでは光の作戦が実行できない。

 回復魔術を掛けて貰っているが、もう魔力が少ないだろう。

 もう空間移動も使えない。これはもしかして詰んだか?

「貴様ら、もう許さんぞ!」

 すると、魔術が数十展開される。

「無駄よ」

 クリスがそう言うと、魔術は、放たれなかった。

「貴様!何をした!」

「簡単よ、魔術を破壊したの」

 夜刀神が体を震わせた。

「その、特徴的な赤い目、まさか、ホルス族、魔術師の王か!」

「ええ、その通りよ」

 夜刀神がクリスに距離を詰めようとする。

「だがまずは貴様から殺せは良いだけだ!」

 夜刀神はニヤリと笑った。エクスカリバーが刺さっているので、余計気味が悪い。

 俺の方が速い、追い付ける。

 するとクリスが、杖を夜刀神に、向けた。

 その瞬間、夜刀神の頭が爆発して、肉片が飛び散った。

「殺せてるわよね?」

 クリスが、恐らく死体の夜刀神の、生死を確認している。

「クリス、魔術師の王なの?」

 クリスは頷いた。

「本当は、隠すつもりなかったんだけどね、言い出すタイミングが、なかっただけよ」

「魔術師の王って何?」

「魔術師の王は、ただ魔術の扱いに長けている、それ以外に何も無いわ」

 シノが微妙そうな顔をしている。

「どうしたの?シノ何かあった?」

「いや、合ってるんですけど、なんか足りない気がして。まあ、良いでしょう」

 そんなに軽く、片付けて良い案件じゃないと思うが。

 夜刀神の動揺の仕方絶対何かある。

「疲れたー今日はここにしような?良いだろ?」

 俺は頷いた。



 いつも通り、俺とクリスの空間だ。

「童話だったら、この旅はもう直ぐ終わるわね」

 と呑気な事をクリスは、夜空を見上げながら呟いた。

「……クリス魔術師の王って本当はなんなんだ?」

 俺が、そう訊くとクリスは、言いたくなさそうだったが、やがて決心した様で答えてくれた。

「分かったわ、教えてあげる、その代わり、朝の真実、全部教えて頂戴」

 俺は悩んだが、頷いた。

 どうせ、打ち明けるんだ。それが早くなっただけだ。

「良いわ、教えてあげる」

 俺は感謝の言葉を述べた。

「ありがとう」

「魔術師の王は、魔術を自由自在に動かせる、者のことよ。例えば、相手の魔術を破壊したりね」

 それは、かなり強いんじゃないか?と思ったが口に出してても意味無いので、言わないでおく。

「デメリットとかないのか?」

「あるわ、まず相手の魔術の癖を見抜いてどうすれば破壊できるかを、考えなければならない、要するに魔力の流れを理解する必要があるのよ」

 それなりの、条件があるのか、それは大変だ。

「魔術の癖?魔力の流れってなんだ?」

「魔力流れは、それを断ち切る事で、魔術を破壊する事が出来るわ。そして、魔力の流れは魔術師全員一緒じゃないの、そして、それは魔術師の癖によって決まるのよ、だから理解するのに、少し時間かかるのよ」

 なるほど、今まで破壊しなかった理由は、そういう事か。

「なら、なんで今回は破壊出来たんだ?」

 それが一番謎だった。今まで手を抜いてるとしか思えなかった。

「今回は単純だったのよ、相手がまるで魔力量だけで、戦って来た様だったわ」

「どういう事だ?」

「例えば、暴力、力が強く誰にでも勝てるくらいにね。そしたら体術とかの技術は、力だけで勝てってるんだから、磨かれると思う?」

 なるほど、そういう事か。

「磨かれないな、それが魔術にもあるって事か?」

 クリスは頷いた。

「魔力の使い方でかなり変わるのよ。例えばどれだけ魔力が多くても、技術によって威力は格段に変わる。詠唱時間もね、それに伴って魔術も、複雑になっていくのよ」

「それは、どういう技術だ?」

 クリスは、手に夜空を作った。

「例えば、これ、これは魔術なんかじゃないわ。魔力をただ手の上に、出してるだけよ。ただちょと工夫してるだけ」

 言ってる意味が、いまいち分からない。

 するとクリスは、夜空を消した。

「何もせず魔力を出すとこんな感じになるわ」

 紫がかった黒い何かが出て来た。

「これの、何が悪いんだ?」

 正直、どっちも見た目以外変わってる気はしない。なんなら、何もしない方が強そうに見える。

「分かってないわね、こっちは、魔力が均等になってないでしょ?」

「と言うと?」

 クリスが、ため息を吐く。

「こんなのも、分かんないのね。魔術師じゃないと」

 棘の含まれた言葉で、理不尽な事を言われた。かなり理不尽過ぎないか?

「仕方ないだろ?」

 クリスは「まあそうね」と言って、尖った氷を手の上に、出した。

「壁を作って」

 俺は言われた通り、壁を作る。

「これが、工夫をしなかった方」

 壁が、少し凹んだ。

 クリスが「次」と素っ気なくそう言った。

「出したぞ」

 クリスが、全く同じ大きさの、尖った氷を出した。

「これが工夫した方」

 すると轟音と共に、壁を貫いた。

「え?これがさっきと、同じ魔術か?」

 クリスは、微笑んだ。

「そうよ」

 と自慢げに言った。

 まさか、ここまで変わるとは、思わなかった。

 急に雨が降り出した。

 クリスの、帽子にポツポツと当たる。

「あ、雨だ」

 雨でロングコートから、水が垂れる。

 今日は月が赤く光っていてとても綺麗だった。

「あ、あああ」

 急にクリスが、声にならない声を出した。

 クリスの涙が、クリスの頬に伝った。

「どうした!クリス!」

 体が震えている。

 クリスが息を荒くする。まるで何かに怯えている様に見える。

「クリス!」

 何度も呼びかける。

「もう、殺さないで」

 と、小さく呟いた。

 殺さないで?何が起きているんだ?

「大丈夫か?目を覚ませ!」

 どんどん、息が荒くなっている。

「誰か助けてよ」

 そう呟いて、まるで力が無くなったかの様に、倒れた。

「クリス!」

 俺では、運ぶ事が出来ない。だが、これを俺以外に見せる訳にはいかない。

「風の精霊の力を使って浮かせ」

 そうか、精霊の力。

 グラムの助言のお陰で方法を見つける事が出来た。

「とりあえず、テントの中に運ぶぞ」

 俺は一番近かった、テントに入る。クリスのテントなので対抗はあるが、そんな事をしてる場合じゃない。

 俺は、クリスをベットに優しく置く。

 椅子に座って、様子を見る事にする。

「もう、殺したくない」

 真にも聞こえないくらい、小さな声でそう呟いた。



 その日は、雨で月が妙に赤く光っていた。

 赤いのは、血だと聞いた事がある。少し嫌な気分だった。

 妙に鮮明に残っている。

 誰かが、頭を撫でてくる。検討は付いている。

「何?父さん」

 私は、睨みつける。

「六歳なのに、ちょっと辛辣過ぎないか?」

 この男は、私の父、アロン・ローゼだ。少し不甲斐無いが、魔術師としては現代最強とも言われてる。

 正確には、父では無いのだがそう呼べと言われてるので仕方ない。

 まあ、道端に居た、子供を拾うくらいには、お人好しだ。感謝はしている。

「で、何の用?」

 愛想の良い嘘っぽい笑顔を作った。

「あれをするよ」

「嫌だ!」

 私は、走って逃げるように去る。

 逃げれるはずもなく、一瞬で回り込まれた。

「駄目だよ?クリス、逃げちゃ」

 私は諦めて、付いて行った。


 向かったのは、地下室だった。

「さあ、見てご覧?魔術師の役目が全く出来ないゴミ共だよ」

 この時だけは、どうしても恐怖感が拭えない。

「いつものしないと駄目?」 

 すると父さんが睨みつけてきた。

「何言ってるんだい?当たり前だろ?」

「……分かったわ」

 私は唇を噛み締めた。

 私がこれから、やる事はこの人達を殺す事だ。

 それも、充分に苦しめてから。

 杖を持つ手が震えている。

「見ていろ、いつも通り、手本を見せてやる」

 これからやる事とは裏腹に優しい声だった。

 まず、体中を刺しまくる。また爪を剥ぎ取ったり、腕を取ったりする。体力が無くなってきたら回復魔術を使う。これを一回とし、三回繰り返す。

 だが私は回復魔術を使えないので、一回で済むのは唯一の救いだ。

「ほら、やってみろ」

 私は、手を震わせながら魔術で体を滅多刺しにする。

 滅多刺しで終わってしまった。これはまた怒られてしまう。

「もっと魔力を操れ。威力を強くなっている。もっと細かく精密に操作しろ」

 これは訓練である。魔術師の王の訓練である。

「ごめん、ごめんなさい」

 私は、殺した後必ずそう言う様にしている。

 そうしなければ心が持たないからだ。

 外で雨が降っていたので、悲鳴以外の、音が混じったので、いつもよりは多少楽だった。

「何もしている?まだ居るぞ?」

 耳元で囁かれる。いつもの、優しい雰囲気が全く無い。

「もう、したくないわ」

 私は自分の着ているドレスを掴む。

 すると、父さんの笑顔が消え失せ、こちらを見なくなった。

「なら、私がやろう」

 すると、他の魔術師をいつもの、五倍の量で苦しませ、殺した。

「もう、殺さないで」

 私は震えた声でそう言った。

 まだ、悲鳴が耳に残っている。

 無視をして、私の横を通り過ぎて行った。

「一人だけ、残っている、好きにすると良い」

 これは、殺せという事だろう。

 私は仕方なく、最後の一人を殺す事にした。

 いつもの手順で苦しめる。

「最後に言い残す事はある?」

 男は、少し悩んだが、直ぐ結論は出たらしい。

「君に罪は無い」

 彼はそう言って死んだ。

「もう、殺したくない」

 その日から、雨が降ったりすると少し体調を崩すようになった。

 これが、私の一番のトラウマであり、隠したい過去だ。



 目が覚めると、いつもの見慣れた天井だった。

 布団がやけに重たい。

 私は、重たい原因を探すと、寝ている真を発見した。

「起きて」

 私は真の体を、揺らす。

「ん?おはよ、クリス」

 いつもは、徹夜で起きてる癖に今日は徹夜できなかったらしい。

 不思議だ。

「おはよ、真」

 真と話していると、苦しかった心が楽になった。正直あまり思い出したくない記憶だった。

「そういや、もう大丈夫なのか?」

 私は頷いた。

「真と話してたら治ったわ」

「なら良かった」

 真は、椅子から立ち上がって、テントから出た。

 私も後を追う様に、出て行った。



 魔王城に近づくにつれ、闇の精霊達が増えている。

「契約すんの、長くね?」

「仕方ないだろ?数が多いんだよ」

 いつも、待ってもらってるので、魔王城到達まで遅れている。

「終わったぞ、行こう」

 精霊が言うには魔王城はここから近い所にあるらしい。あと数時間で着くと言っていた。

 ならここで休むのも手だろう。

 そう俺が、言おうとした時、軽く九十体は、超えているであろう、カラスの様な黒い翼を、生やした、鎧を着た魔族達が飛んでやって来た。

「ちょっと、これやばくね?」

 確かにやばい。

「我らが、魔王様直属の配下、魔王百鬼兵団まおうひゃきへいだん、勇者一行を殺しに来た!」

 戦って来たから、分かるこいつらは強いと。

 不思議と負ける気はしなかった。

 するとシノが、ステータス上昇魔術を、使ってくれた。

「魔王様を守れ!」

 すると、鎧を着た、魔族達が大群で迫ってきた。後ろにしっかりと、魔術師が居る。

「クリス、あれ頼めるか?」

 クリスはどうやら意図を、汲み取った様で、頷いた。

 詠唱を始めた。

「光!時間を稼ぐぞ!」

 恐らく全員が、武具相伝術を使っている。つまり、一体一体が、かなり強い。

 流石に夜刀神よりは弱かった。だが、連携も取れていて、普通に夜刀神より厄介だ。

 更に魔術を撃つタイミングも完璧だ。

 まるで隙が無い。

「真!そっちはどうだ?」

「最悪だ!そっちは?」

「こっちも!」

 どうやらあんまり、変わらないらしい。それより、時々シノ達の方へ行こうとする魔族達が厄介だ。

 俺達も魔術師を殺さなければ一生終わらない。こちらの方が少ないので、いずれこっちが負けるだろう。

「詠唱終わった!離れて!」

 すると、あの時の隕石が出て来て、速度の遅い、魔術師の八割が死んでいった。

「私もやります!」

 すると、シノの周りから、金色の武器が出て来た。それを魔族達に、当てる。

 気づけば、魔術師は、残り一割にも減少していた。これ以上は、自分達の力で、やらなければ。

 すると、俺達の頭上から、先程の三倍ほどの、隕石が降って来た。避けなければ。

 俺は、目の前に居る魔族達の、首を斬ってどかしつつ、避けた。

 みんなは、後退した様だ。

 俺は精霊の力を使って飛んで、残りの魔術師を持ち前の速度で切り落としまくった。

 これで相手は回復できないはずだ。

 俺は武具解放術を使う。

 光とクリスはもう既に使っている様だ。

 俺は、敵の数の分だけ、グラムを出す。

 だが、何かおかしい。敵が全く死なない。

「真!多分だけど、この中に魔術師が混じってる」

 なるほど、この大群の中にあり得る。

 なら、この中に傷を負ってる、奴が居るはずだ。どこだ?

 でも、誰も傷を負ってない。杖すら持ってない。杖が無いのに、ここまで回復量が、あり得るのか?

 いや、あり得ない。

 つまり杖持ちの相手がどこかに居るという事だ。

「真!後ろ!」

 俺は考えるのを辞めて、振り返った。

 剣は首を斬られる寸前で止まった。

 グラムでぎりぎり防ぐ事に成功した。

「生憎、グラムの速さは俺と同じなんでね」

 相手は舌打ちした。

 更に攻撃を仕掛けてきたが、速さで負ける筈もなかった。

 見事に首を斬る事に、成功した。

 だが一瞬で治って攻撃を仕掛けてきた。相手の回復魔術が早すぎる。

 ぎりぎりで避けた。相手も速い。

 考えろ、どうやったら、見つけられる?魔術師殺さなければ、このままジリ貧でこちらが負ける。

 待てよ?何故、あの魔術師達は死んだんだ?治せるはずだ、一体何故?まさか!

 俺は地面を、見ると死体がなかった。武具相伝術で消えたのかも知れないが。

 魔術師がどこかに消えたかも知れない。そして、不自然に空いてる敵陣中心部分がある。あそこだ!

「光!真ん中の奴ら全部潰してやれ!」

 光の行動は素早かった。

 直ぐに敵陣の中心の真上へ飛び落下の勢いで、普段なら絶対持たないであろう大きなハンマーで叩きつけて、実に半分以上の魔族を巻き添えにした。

 予想通り、直ぐに消えていったが。魔術師の死体が出て来た。

 これで、相手を殺せる。

 その後は、虐殺に近かったかも知れない。死体はもう無いが血は残っている。

 ここでテントを建てたくない。

「もう少し進んだら、そこで今日を過ごそう」

 俺がそう言うと、承諾してくれた。

 キャンプする所に選んだ場所には、魔王城が見えた。



「もう、旅も終わりか」

「たった一年で旅が終わるとは、もっと掛かるものかと思ってた」

「そうですね」

「もっと、長くても良かったのよな」

「私は、もうごめんよ」

 と言ったりして笑っていた。

「言い忘れてたんだけど、みんなで終わったら、星を見に行かないか?」

 昨日、クリスにしか話してないと、思い出した。何故話していなかったのだろか。

「良いなそれ」

「行きたいです」

 みんな声が弾んでいた。

「全員、生き残ってよ?誰かが欠けるなんて許さないわ」

「そうだな、絶対に生き残ろう」

「なんか、死亡フラグ建てすぎじゃない?」

 言われてみれば、確かにやばいかもしれない。

「何言ってるか、分かりませんが、そんな物勇者の力で、破壊しちゃえば良いだけですよ」

「そうだな、頼んだぞ?勇者」

 俺は皮肉たっぷりの言葉を、ぶつけた。

「努力はするけど、期待すんなよ」

 光の言動から若干のだるさが、見て取れた。

 クリスが少し悲しそうに話を切り出した。

「最後になるかも知れないし、一人づつ何か言わない?」

 俺達は頷いた。

「良いですね、私から行っても良いですか?」

 全員頷いた。

「ありがとうございます。

 私は、最初は不安で一杯でした。魔族と戦うのも怖かったし、殺すのも嫌でした。

 それでも本当は楽しみでもありました、外はどうなってるんだろうって。

 結果は色んな物があって楽しかったです。それに、この旅で良き友人が出来て最愛の人も出来ました、本当にありがとうございました。楽しかったです」

 シノは涙を流して、微笑んだ。

「じゃあ次俺行くわ

 えっと、俺も初めは急にこの世界に連れてこられて、不安で仕方がなかった、けれど、少しワクワクしてた節はあったかも。

 辛い事は一杯あったけど、楽しかった。

 最愛の人にも出会えて、最高の旅だった。

 ありがとう」

 となると順番的には俺だ、時間はだっぷりあったので、言いたい事は、大体決めてある。

「俺は巻き込まれて、この世界に連れてこられて、怒鳴ったり怒ったりした。だって巻き込まれて、呼び出されて命を、賭けて戦って下さいって言うんだぜ?あんまりだろ。

 しかも旅は、楽しい事よりも、辛い事の方が多かった。

 本当に辛かった、けど今となっては、旅に出て良かったって思ってる。ありがとう」

 次はクリス番だ、

「私はほとんど家出する様な勢いで、この旅に参加したの、最初は辛かったわ、だって私は童話の様な旅がしたくて来たら、地獄みたいな所なのよ?辛かったわでも意外と楽しかったし、もう旅するのは懲り懲りだけど、最高だったわ」

 しばらくの間沈黙が訪れた。

「なんか恥ずいな、俺はもう寝るよ」

 そう言って、光はテントに入って行った。

 恐らくシノも同じ理由でテントに入って行った。

「やっぱり、いつも通り星を見るのね」

 夜空を見上げて、星を見る。

「だって、俺はこの時間の為に、旅をして来たみたいな物だからね」

「そう」

 素っ気なく返事したが、これは機嫌が良い時の返事だ。

 この声を聞くと、安心する。

「なあ、クリス」

「何?」

 クリスは、まるで見透かしている様に笑った。

 俺がこれから言う事も、きっと分かっているんだろう。

「君が好きだ」

 クリスが微笑んだ。

「知ってたわよ、もう遅いわ本当に。いつ言うのかずっと待ってたんだから、私も真が好き、ずっと一緒に居たいわ」

 そう言ってクリスは、帽子を脱いで、俺の腕に寄り掛かった。

 やっと分かった、いつも顔が赤くなってたのは、恥ずかしかったのか。

 何故なら今も、顔を赤くしているのだから。

 生まれてから、恋愛なんてしてこなかったから分からなかった。

「ああ、こんなに嬉しんだな、光達の気持ちがやっと分かった」

 ずっとこのままが良い。時が止まれば良いのに。

 クリスが、こちらを見ると。優しい声で話しかけて来た。

「何?泣いてるの?」

 泣いてる?そうか、泣いてるのか。

 理解するのに、少し時間が掛かった。

 すると、クリスが前のめりになって、涙を拭いてくれた。

 その時のクリスの笑顔は、一生忘れないだろう。

 いや、忘れたくないが正しいだろう。

「……クリスを、君を失いたくない、逃げてくれないか?空間移動で、王国まで送り届けるから」

「嫌よ、一年間も旅をして来た仲間を、見捨てろって言うの?嫌よ、それに逃げるなら死んだ方がマシよ」

 クリスはまるで冗談を聞いてる様に、受け流した。

「……たった一年じゃないか!それでも!クリスは、逃げないのか?」

 クリスは、椅子から立ち上がり、俺が死なない程度で頬を叩いた。

 椅子から落ちてしまった。

「たった?ふざけないで!そのたった一年で真と出会って、好きになって、光も!シノも!みんな、一年とは、思えない程、苦しくて楽しい旅をしたわ!なんで、それをたったにするのよ!私は、少なくともたったなんて思わないわ!だってこんなにも、幸せになれたのだから!」

 クリスは涙を目から零した。

 ああ、俺はなんて間違いを犯してしまったのだろうか。

「ごめん、俺が悪かった」

「本当によ」

 俺は、クリスを抱擁する。

 クリスの涙がシャツに染みる。

「絶対に、クリスだけは守ってみせる」

 そう固く誓った。

「頼んだわよ」

 俺のシャツで涙を拭いたクリスが、俺のロングコートの襟を引っ張って背伸びした。

 その瞬間、俺の唇に少しの間だけ柔らかい物が当たった。クリスの唇だ。

「ここまでやってあげたんだから、ちゃんと守りなさいよ」

 クリスの顔が赤くなっている。

 俺は、クリスの頭を優しく撫でた。

「分かった、守るよ」

「……安心したわ、おやすみ」

 そう言って、クリスはテントに入った。

「実感湧かないな」

 クリスが俺の彼女だとは、とても実感が湧かない。

「そうだろうな、真にはもったいないだろう」

「そりゃそうだよ、グラム」

「冗談だ」

 グラムが冗談を言うとは、珍しい。それに冗談でもなんでもないと思うが。

「冗談だってのが、冗談だろ」

「さあ?どうだろうな」

 と笑う様に、言った。

 初めはこんな奴ではなかったはずだが、グラムもこの旅で変わったのか。俺も何か変わっただろうか?

「何も変わってないな」

「安心しろ、ちゃんと変わってるぞ。真も我も」

 そういえばグラムは所有者の、心を読めるんだったか。

「その通りだ」

 いつも心を読んでるのか?

「いや、出来る限り使っていない」

 なるほど、最低限の、プライバシーは守るって事か。

「そうだな」

 今読んでるけどな。

「うん?すまない、もう心を読んでるの辞めてるので、言いたい事が分からない」

「都合良いな」

「そうだろうか?我はそうは思わん、それよりもう魔物も出てこないだろう、もう寝よう」

「そうだな」

 もう魔王城は目の前だ。

 明日はもう、魔王と戦うのだろう。



「偽物の癖に!」

 あの言葉が、頭から離れない。

「……俺は偽物だ、この体は、奪い取った物返すべきなのかも知れない」

 急に、頭痛がして来た。あの時の様にベットの上でそのまま気を失った。



 目を開けると、そこは学校の椅子に座っていた。

「眠いな」

 ああ、夢か。あそこまで幸せな、現実があるはずがないのだから。現実は地獄その物なのだから。

 今日は確か、新作ゲームの発売日か買いに行ってみよう。

「普通の人間が、あんな意味分からない世界に行く訳ないよな」

 気になったのでスマホを取り出し、神話最強武器と検索する。

「やっぱり」

 そこには、魔剣グラムや、エクスカリバーなどが載っていた。昔俺はこれを見た事があった。

 これが何になるかは分からないが、調べてみたくなってしまった。

 すると誰からか、連絡が来た。

「誰だ?」

 俺は開くと、こう書いてあった。

「その世界は、楽しいか?」

 どういう事だ?よく見れば名前も見覚えがない。

 一応友達の誰かかも知れないので、ブロックはしない。

「誰ですか?」

 返事は、直ぐ来た。

「影之真だ」

「俺が、影之真だが?」

 そう送ると、また意味分からない文章が送られて来た。

「忘れたか?あの時一緒に父さんを殺したじゃないか、偽物」

 こいつは何を言ってるんだ?

「まあ、分からなくて仕方ない、何故ならお前が俺という存在がなかった場合の、世界だからな」

「訳が分からない」

「まあ、無理もない。これは俺が創り出した世界なのだから」

 すると急に辺りが夢で見た、あの荒れた教室になっていた。

「さあ、返してもらおうか?」

 その瞬間、分かったあれは、夢じゃないと。

「何故、俺に今のを見せたんだ?」

 本物の俺は昔使っていた、愛想の良い笑顔を見せた。

「簡単だよ、俺が居なければ魔剣グラムに認められた影之真は居なかったって事だよ。なんなら異世界にすら行ってない。

 これで分かっただろう?その体は、俺のだ」

「違うな、俺が居なければ、お前も異世界に行けなかっただろう?」

 すると急に睨んできた。

「そもそも、元々その体俺の物だ、とっとと返せ」

 俺は笑って見せた。

「お前、言ったよな?生き物は、自分の為にしか動けないって、俺もそう思う。だから、俺はお前にこの体は返さない。俺は生きているから」

 本物の俺は、舌打ちする。

「そうか、なら俺は力尽くで体を奪う」

「勝てると、思ってるのか?」

「当たり前だ」

 俺は手に違和感を覚えた、グラムが居ないからだ。

 それだけで、不安感も覚えた。

「まだ分からないのか?お前は、この世界の主導権が、誰にあるのか」

 その瞬間、本物の俺は笑った。

 そこで気付く主導権はこいつだと。

「とりあえず、死ね」

 本物の俺の周りに炎を纏ったグラムが、数十本現れた。

「避けれるかな?」

 一気に、グラムを飛ばしてきた。

 俺は教室から出る。

 足が遅い、不便すぎる。どうやら異世界に来る前の足の遅さらしい。

 癖で精霊の力を使ったが、何故か使えた。

 そのおかげで、避ける事に成功した。

「精霊の力が使えるなんて、聞いてねえよ!」

 すると、エクスカリバーを出し、巨大な大剣を出し、横薙ぎで壁ごと破壊した。

 俺は範囲外に出ていたので、避けれた。

「まあ、良い世界を変えよう」

 すると、世界が変わった。よく光と、戦ったあの場所だ。辺りが真っ白だ。

「ここなら、逃げれないだろ?」

 確かに、だが俺の予測が合ってるなら、ステータスは、変わらないはず」

「どうした?」

 急に目の前に、現れた。恐らく空間移動だろう。

 グラムで刺される瞬間、精霊の力で吹き飛ばし、刺されずに済んだ。

 どうやら、本物の俺は精霊の力が使えないらしい。

 だが、圧倒的に不利だ。

「面倒いな!」

 その瞬間、またグラムが大量に出て来た。

「そっちがな!」

 どうする?精霊の力だけで、どう対処すれば良いんだ?

 俺は、光の精霊で白い光を出し続ける。

 これで、俺達は見えなくなった。

 だが俺だけが見れる手段がある。それは魔剣グラムの炎を、大きくして一瞬だけ確認して、そこを攻撃すれば良い。戦闘経験はこちらの方が上、距離感覚なんて絶対にミスらない。

 俺は風でグラムの様に、鋭い剣を作った。

「終わりだ」

 俺は目が見えない中、本物の俺の首を斬る事に成功した。

 呆気なくて、本当に終わったかは不安だ。

「……死んでるよな?」

 俺は、首を斬れてるかを確認する。

 しっかりと、死んでいるらしい。

「ここからどうやって戻るんだ?」

 たっぷり五分以上は考え込んだ。

 すると一つの、考えが思い付いた。

「こいつが死んだって事は、俺が主導権を握ってるって事だろ?なら俺の、操作で戻れるんじゃないか?」

 俺は戻る想像をする。



 目を開けると、そこはテントの天井があった。

 戻れたのだろうか?

 グラムはどこに行ったのだろうか?

「とりあえず、ここから出よう」

 何故か今日は体が軽くなった気がした。

「おはよ、真今日は遅くないか?」

 みんな今日は早い様だ。

 挨拶をしようとした、その瞬間、腹がグラムで貫かれた。

「もう少し、考えた方が良いんじゃないか?」

 そうか、あの死体は偽装したのか。

「分からないとでも、思ったのか?」

 俺はニヤリと笑った。

 すると腹を刺さられた、俺が崩れる様に消えた。

「じゃあな」

 俺は、風で作った剣で腹を刺して殺した。

「まったく俺達は似てるな」

 そう言って、倒れた。

「似てるだって?笑えるよ、いつも作戦は俺が考えていたんだぞ?お前の考えている事なんて、お見通しだ」

 これでやっと、世界が戻る。



 目を覚ますと、そこはテントの天井があった。

 グラムが、ベットに寄りかかるように置いてある。

 恐らく戻ってこれたのだろう。

「外に出て確認するか」

 外に出ると、誰も居なかった。

「戻って来たな」

 俺はいつも通り、椅子を出して座り待つ。

「おはよう、真」

 クリスが、テントから出て来た。

「お、おはよう」

 若干気まずい、俺だけだろうか。

「何よ、それ?気まずいの?」

 俺は頷いた。

「こっちまで気まずくなるじゃない」

 クリスはため息を吐いた。

「ごめん」

「謝らないで、真は悪くないでしょ?」

 シノと光が同じテントから出て来た。どこかよそよそしかった。

「みんな、集まったな行くか?」

「いや、今日は朝ごはん食べましょ?」

 朝から肉は重たい気がするが良いだろう。


「よし、腹一杯だ、行くぞ魔王城に」



「ここが魔王城の入り口か、でかいな」

 黒色の大きな門があった。

「よし、壊すか」

 すると光が、武具解放術を使い門を破壊した。

「力業ですね」

「よし、開いたぞ」

 簡単なのは確かだが、絶対他にあった気がする。

「とりあえず、行くしかないわ」

 それはそうだな。

「ここが、旅の終着点だ」

 中に入ると、驚く程静かだった。

「誰も居ないのか?」

「とりあえず、進まないか?」

 光は、頷いて前へ進む。

 魔王城は、迷路の様に広い。まるで、魔王の居る所に着かない。

 その瞬間道に、角が二本生えている、白衣を着た、魔族が居た。グラーキだ。

「みんな、ちょとここで待っててくれ」

「え?なんで?」

「すぐ終わる」

 俺はクリス達を置いて、グラーキが居る場所へ向かう。

「ちょ、ちょと!」

「行っちゃたね」



「やっと来たか」

 善が壁に寄りかかっている。

「まあ、でも人によるしね、善はここに来るまで、三年掛かってるしね」

 それを言われて、善がうっと奇妙な声を出した。

「で、俺をここに呼び出して何の用だ?」

「呼び出したなんて、勝手に付いて来たのはそっちじゃないか」

 グラーキは気味が悪いほど、笑顔だ。

「お前達が、そんなミスをする奴とは思えない」

「正解だ、なら早速だが俺達を殺せ」

「……は?」

「言った通りだが?」

 何でこいつらは、こうも呆気なく殺せとか、普通言えないだろう。

「自分が何言ってるか分かってるんだよな?」

 善達は頷いた。

「後一つこれ、現在の魔王の事の本と、魔王までの道のり描いてるから」

 と言ってインベントリから、本と地図を投げて来た。

「あ、ありがとう」

「んじゃ殺してくれ」

「ちょと待ってくれ、今混乱してるんだ」

 徐々に脳が追いついてきた。

「そろそろ、殺してくれ」

「何でだ?」

「神を殺すには今のレベルだと、無理だからだよ」

 と当たり前だと、言わんばかりに言った。

「俺達を殺すと、レベルは十は上がるだろう」

「良いんだな?殺して」

 善は頷いた。

「さあ、やってくれ!」

 とグラーキはさぞ楽しそうに言った。

 俺は、直ぐに二人の首を斬った。

 頼まれて、殺すのだから罪悪感なんて感じなくて良い、と自分に言い聞かせる。

「戻ろう」

 ここに、あまり長居はしたくない。

 みんなの所に急ごう。俺は少し駆け足で、向かった。


「本当に直ぐだったな」

「ですね」

「で?何をしてたの?」

 今一番困る言葉だ。

 流石に善を殺してたとかは、言えないだろう。

 そこで一つ思い付いた。

「実は、この地図を取ってたんだ」

 みんな、理解してくれた様でもう何も言わなかった。

「じゃあこの通り行けば、魔王の居る所に、着くって事だな?」

「多分」

 俺は頷いた。

 そこから恐らく、十五分後くらいだろうか、魔王の居る所へ着いた。

「遂に、終わるのかこの旅が」

 光はそう言って、扉を開けて、中に入った。

「ほう?やっと来たか、我が名はベルゼブブ、魔王である」

 見た目は、完全に人間だった。二十代前半だろうか?スーツベストの様な服と黒色のズボン着ている。

 そして右手に、黒色の皮手袋の様な物を付けている。

 何より特徴的なのが目だ。右目が赤色で、左目が黒色だ。

 その魔王が椅子に座っている。

 この世界に来てからオッドアイというのは初めてだ。

「我を殺しに来たのであろう?さあ掛かってくると良い」

 すると、血のように赤い触手が空中から出て来た。

 六本の尖った触手の先で、攻撃して来た。その瞬間触手が更に枝分かれするように、横に触手が生えて来た。

 明らかに俺達を狙っている。

 恐らく限度が一回までだが長いのでその分だけ、攻撃をしてくる。

 だが触手自体はそこまで、硬くないので、斬れる。

 クリス達も、魔術で対処できてるらしい。

 こちらも反撃をしなければ勝てないので、攻撃したいのだが、触手が邪魔で前に進めない。

「この程度か」

 油断したな?

 その瞬間を見逃さず、俺は空間移動で距離詰めて、ベルゼブブの真上へ飛ぶ。

「見破れないとでも思ったか?」

 すると、俺のグラムが当たる寸前に、何かに防がれた。

 俺は思わず、距離を取った。

「このままでは一生終わらないな、なら本気出すとしよう」

 すると禍々しい何かを纏っている、剣をインベントリから取り出した。

魔聖剣ませいけんバアル・ゼブル」

 すると剣が、姿を変えた武具解放術だろう。

 まるで剣が大きくなり、大剣のようになって、そこから更に目が現れた。

 すると、黒い斬撃をこちらに飛ばして来た。驚きの速さだ。

 何とか避ける。

 それを連続で、飛ばしてくる。

 クリス達の方にも飛んできた。

 クリス達は、斬撃を消している。恐らく魔術破壊の応用だろう。

「ほう、魔術師の王か」

 一瞬の隙をついて光と俺で、距離を詰めた。

 だがやはり防がれた。俺達は一旦距離を取る。

 その瞬間、クリス達の魔術が飛んできた。

 だが、これすらも防がれた。

「素晴らしい連携だな」

「そりゃどうも」

 皮肉のつまりだろうが、効く訳がない。

「真、恐らくあれは、魔力の防御クリスに破壊出来ないか?」

 なるほど。流石グラムだ。

「クリス!」

「今やってる!でも複雑過ぎて、時間掛かるわ!」

 時間を稼がなければ、負ける。

「なら時間を稼げなくしよう、まずはあの女を殺すとしよう」

 すると、クリスの方へ走り出した。

 だが俺の方が速い!

「敵の事を、あまり信じない事だな」

 すると、振り返ってくる未来が見えた。

 ぎりぎり攻撃を避ける。

「ほう?これを避けるか」

 光の攻撃が、防がれる。

 光が舌打ちする。その瞬間シノが魔王の防御を抜けて、魔王に触れかけた。

「惜しいですね」

「まったく、怖いな」

 一体何をしたのだ?そんな事は後で訊くとして、まずは時間を稼がなかれば。

「光さん達!それは、武器を持っていなければ、大丈夫です!」

 なるほど、そういう事か。だが知った所でだが。

「もうそんな事しなくて、大丈夫よ!解除したわ!」

 よし、これで勝てるかもしれない。

「もしや、その程度の事で勝てるとでも、思ってるのか?」

「ああ!そうだ」

 光がそう言って、攻撃を仕掛けた。

 バアル・ゼブルで防がれた。

「遅いな」

 光が、蹴られて吹っ飛ばされた。壁が抉れる。

 俺の攻撃全て防がれる。

「お前の攻撃は、速いだけだ」

 だが、俺には別の狙いがある。

「真!避けて!」

 俺は避けて、クリスの魔術の通る道を作る。

 その瞬間、白色の光線が出て来た。

 当然避けるだろう、だから空間移動で通る道に移動させる。

 これは、かなりのダメージを与えたはずだ。

「この程度か、甘いな」

 喰らった後の体は無傷だった。いや所々傷は出来ていた。だが一瞬で再生したのだ。

 だがもう光の回復も済んでいる。

 同時攻撃、これなら行ける!

「はあ、単純過ぎる」

 すると、右手の大剣を、左手に持ち替えて、光の攻撃を防いだ。俺の攻撃は右手の皮手袋で、防がれる。

「何!?化け物かよ!」

「化け物か、お前らからしたらそうだろう。何故なら、我は人間と魔族のハーフなのだからな」

 ハーフ?馬鹿なそんな事がある訳

「集中して!」

 そこで我に返る。今まさに俺に攻撃をしようとした瞬間だった。

 ぎりぎりで避ける。レーザコートが少し斬れた。

「もう考えるのを辞めたか、我のミスか?」

 この少し戦いで、俺の人格を見破られただと?

 まるで、全てを見透かされた様な気がした。

 冷や汗が頬を伝った。

「勝てんのか?俺達」

「今更か」

 すると、魔術が数十種類展開された。

「クリス!」

「無理だわ!一つ一つの魔術の癖が、全く違うのと魔力の流れも全然ちがう!破壊出来ない!」

 なんだと?つまりこいつは一つ一つの魔術の撃ち方を変えてるって事か?

 恐らくそれでいて威力も高いだろう。

「では、避け切れるか?」

 色んな魔術を撃って来た。幸いクリスと、シノには向いていない様だ。

 そんな期待を、抱いてしまったが為に油断してしまった。

 油断した瞬間、シノの腹がバアル・ゼブルで貫かれた。

 シノの血が、バアル・ゼブルに沿って流れる。

「シノ!シノから、離れろ!」

 ベルゼブブはバアル・ゼブルを腹から抜いて、距離を取る。

 シノが、吐血しながら地面に倒れる。

「貴様ああああ!殺してやる!」

 ローズを取られた時の様な目をしていた。違うと言えば僅かながらの恐怖を抱いていた事だ。

「良い目だ」

 その声は冷たく、まるで感情が無かった様に見えた。

「アパタイト!」

 アパタイト?それは武具相伝術の、短縮詠唱つまりこいつは死ぬ気だ。

「光さん、それは駄目です」

「大丈夫シノは、安心して眠っててくれ」

「駄目……」

 それを最後に、シノは動かなくなった。

「クリス、シノを頼んだ」

「人間共が、友情ごっこするなんてな、仲間の命を捨ててでさえ、戦いを選んだ人間共が」

 一体どういう事だ?いや、考えてる時間なんてない。

「五月蝿えな、黙っとけよ」

 光は、聖剣から白色の斬撃を飛ばした。

「そんなが効くわけなかろう」

 ベルゼブブが防ごうとすると、吹き飛ばされて壁が抉れた。

「ほう、やるな」

「お前の、言ってる事なんて興味ねえよ」

 すると、光は白色の天使の様な翼を生やした。

 一瞬で、ベルゼブブとの距離を詰めて攻撃を仕掛けた。

「魔力全て消費」

 光が、そう言うとベルゼブブの居た前方に竜巻の様な物が現れて、ベルゼブブに直撃した。

 ベルゼブブに多大のダメージを与えた筈だ。

「冷静じゃないと、正しい判断は出来ないぞ」

 いつの間にか光の攻撃した、直ぐ横に居た。

「黙れええ!」

 光の攻撃が、右手で軽く受け止められた。

「まさか、今までのが本気だとは思ってないよな?」

 なんだと?武具相伝術を使ってもなお、これほどまでに実力差があるのか?

「お前が本気かどうかなんて、興味無い!」

 その瞬間、光は自分の翼で攻撃した。

 見事にベルゼブブの目を潰すことに成功した。

 俺達は、更に同時に追撃する。

 ベルゼブブは、魔術で防ごうとしたのだろうが、クリスの魔術破壊のおかげで防ぐ事は出来なかった。

 左手の、バアル・ゼブルで俺に攻撃して来たが、見事に避けて胴体を斜めに二つに斬る事に成功した。

 だが一瞬で、再生した。

 ベルゼブブは、舌打ちして距離を取った。

「大体の実力は分かった、我も本気を出そう」

 ここからが、本番だ。集中しろ。

 光が、白色の斬撃を飛ばした。

 見事に血の様に赤い触手で防がれた。

「魔術じゃないのか?」

 触手は武器から出ていた。

「まだ行くぞ」

 その瞬間、血の様に赤い触手が、バアル・ゼブルを包み込んだ。

 その瞬間、光の白く綺麗な翼が斬られた。

 更に、触手が伸び光の腹を貫いた。

 だが光は直ぐに、距離を取った。どうやら直ぐに治るらしい。

 光は、エクスカリバーの形を変えてバアル・ゼブルと同じ形にした。

 そして触手部分を伸ばしベルゼブブに攻撃した。

 俺はベルゼブブが避ける位置に行って、来る瞬間に攻撃する。

 だが伸びた触手で、防がれた。さっきとは硬さがまるで違う。

 その瞬間、クリスの魔術が飛んで来た。

「そんな攻撃が効く訳がないだろう?」

 クリスの魔術を見た瞬間、何かに気付いたのか、避けようとしたが無理だった様だ。

 見事に受けた、クリスの魔術で腹が抉れた様だ。

 再生がしていない。

 出血が止まらない様だ。

「そんな物が使えるとは」

 だがその瞬間、まるで触手の様な物が生え繋がっだ瞬間に再生した。

「気持ち悪いな!」

 光の攻撃を難なく防いだ。

「気持ち悪いだと?ならお前達はこれから、その気持ち悪い奴負けるんだな」

 そう言った瞬間、バアル・ゼブルの触手がこちらに迫って来た。

 避けれるが、掠りでもしたら一瞬で死ぬだろう。

 すると行き過ぎた触手が方向転換して、俺に迫って来た。

 このままでは攻撃が出来ない。

 そこでクリスが、何かしていることに気付いた。

 なら時間稼ぎをするしかない。

 武具解放術を使う。限界までグラムを出す。

 グラムを総動員でベルゼブブを攻撃する。

「こいつは少し厄介だな」

 流石のベルゼブブも、厄介らしい。

 問題はこっちの、触手をどうするかだが。

 斬れるか?やってみるしかない。

「グラムやれるか?」

「もちろんだ」

 見事に斬れた。

 だが当たり前の様に再生される。

「みんな離れて!」

 俺と光を同時に、空間移動でクリスの居る所へ移動する。

「何をする気だ?」

 するとクリスの周りから、数え切れない程の、魔術が展開された。

「な!?どれだけの魔力なんだ!?」

 初めて、動揺した所を見た。

「これで終わりよ!」

 一気に放たれて、ベルゼブブが多少避けたが、当たる物の方が多い。

「……化け物かよ」

 と光が、吐き捨てる様に言った。

「ふざけるな!我がここで死ぬ訳にはいかないんだ!」

 なんとか耐え切った様だ。

「化け物が」

 息が上がっている様だ。

「当たり前だ、まだ、魔族達を救ってないからな!」

 どんどん傷が治っていく。

「まだ、死ななくて助かるよ!まだ全然苦しめてないからな!」

 光が、ベルゼブブの距離を詰めて四肢を斬った。

「貴様ああ!」

「黙れ!シノを殺した罰だ!せいぜい苦しんでる死ね!」

 光は、ベルゼブブを動かせなくさせて、ベルゼブブを、刺しまくっている。

「もう辞めるんだ!光!」

「まだだ!もっとだ!もっと!」

 光は、悲しそうな顔を見せた。

「哀れだな、復讐心は目を曇らせる」

 急に笑い出した。

「何故、バアル・ゼブルを、離してないと思う?」

「光!そこから離れろ!」

「無駄だ!」

 光は離れようとしているが、エクスカリバーが、取れない様だ。

「エクスカリバーは、後回しだ!」

「もう遅い!」

 バアル・ゼブルから、触手が出て来て、光は首を斬られた。

 だが一瞬で、再生した。

「こうなったら、お前諸共死んでやる!」

「何をする気だ!」

「こうするんだよ!」

 光の翼が、大きくなった。

「俺の寿命全部くれてやる!だからエクスカリバー、力全部解放しろ!」



「寿命を消費する事で、力を強くなるか」

 聖剣エクスカリバーと、書かれている本は、絶対に見せない方が良いだろう。

「何故見せない?」

「これを見せてしまうと、きっと使わせてくれないだろう?」

「何故だ?」

「心配するからな」

 本をインベントリに、入れる。

「何故、そこまでして、自分の命を賭けようとする?」

「好きだからだな、シノの事が」

「我には分からないな」

「まあ、武器だしな」

 分かる訳ないだろうな。

「なあ、もし俺が寿命を全部使っても、殺せなかったら、真にエクスカリバーを、使える様にしてやってくれ」

「分かった」

 真になら、全部託せるだろう。



「頼む、これで終わってくれ!」

 光が、まるで懇願する様に言った。

 ベルゼブブが、その瞬間ほくそ笑んだ。

「だから言っただろう?復讐心は目を曇らせると」

 その瞬間、光の真下にのみ爆発した。

 恐らく、俺達に被害を与えない為だろう。

 魔王城の、穴がぽっかりと開いた。穴を見ると、俺達が入って来た。入り口に、続いていた。

 だが先程ほくそ笑んだ理由はなんだ?

「危なかったな、もし部屋全体にやっていたら、死んでいただろう」

 死んでいないだと?

「無駄だと言いたいのか?光の死は」

「もちろんだ」

「無駄じゃないわ、今まで使ってこなかった、スキルを使ったてことは、一回しか使えなかったのでしょう?つまりあなたはもうスキルが使えない違う?」

「ほう?正解だ」

 感心している様に言った。

 それなら、光の死は無駄じゃなかったのか。良かった。ってなる訳がない。

 すると、光が落ちて来た所から、エクスカリバーが、飛んで来た。

「手伝ってやるぞ」

「エクスカリバー?」

「頼まれてるんでな」

 するとその瞬間、エクスカリバーを狙って、触手が飛んで来た。

「我は、勇者光の寿命の力が少し残っているだぞ?効くと思うか?」

 一瞬で触手が何かに、跳ね返された。

「だがもう時間がない」

 するとエクスカリバーが、グラムに重なった。

 その瞬間グラムに、豪華な装飾が成された。

「我の力全てをこいつに預けた、存分使うと良い」

「ほう?自分の命を、その魔剣に託したか」

 まったく命を賭ける奴が多過ぎる。

「荷が重い」

 すると、魔王がどこかを指で指した。

 まるで次はお前だと、言わんばかりに。

「もう、魔力は尽きただろう?」

「それはどうかしら?」

 その瞬間、まるで待っていたと言わんばかりに、笑った。

「貰ったのは、真だけじゃないのよ」

 そこで何か気付いた様だ。俺にはさっぱりだ。

「どういう……」

「真!離れて」

 俺は言われた通りに、距離を取る。

 その瞬間、今度は先程の倍、いやそれ以上の魔術が展開された。

「それほどの魔術量、脳が持つ訳が……まさか!」

 クリスが勝ち誇った、笑顔を作った。

「そのまさかよ!シノの命は代わりに杖になっている。それを媒体に、魔術を使えない通りはない、そして脳は死後十分以内だったらぎりぎり機能する!更にシノの分の魔力も使える、杖で増強された魔力をね!」

 すると、ベルゼブブが狂った様に笑い出した。

「素晴らしい!最高だ!ここ百年ここまで命の危機を感じたのは初めてだ!」

「それは、嬉しいわね!」

 急に、笑うのを辞めて鋭い目付きになった。

「だが、撃つのが遅過ぎたな、こちらも対処の仕方が分かったぞ」

 クリスが、魔術が全て破壊された。

「まさか、お前だけしか出来ないとでも思ったのか?」

「分かってるわ、あなたから、充分に学んでいるわ」

 その瞬間また、魔術を展開した。今度はもっと、多い。

「破壊出来ない!?まさか、この短時間で習得したのか?」

「そのまさかよ」

 また、勝ち誇った笑顔を作った。

「流石だな」

「もう時間稼ぎはさせないわ」

 その瞬間に、魔術が放たれた。

 ベルゼブブの、腹を抉り、頭を抉り、足を抉った。

 だが一瞬で、再生した。直ぐに動き出して、避けるが、全部避けれる筈が無かった。

「ふざけるなよ、我はまだ死ぬ訳にはいかないんだ……」

 もう再生する力も無いのだろうか、下半身が無くなり、上半身だけで這い蹲りながら迫って来た。

「魔族を、救わなければ」

「……もう休んで良いんだ、もう疲れただろう?」

「休む訳には、ここで……ここで終わる訳には行かない」

 息はもう、途切れ途切れだった。

 動きが止まった。

「アパタイト」

 ベルゼブブから、カラスの様な黒い翼が生えた。

「貴様らだけは、絶対に、殺してやる」

 角が一本右側に生え、両目が赤くなった。

 なお、下半身は無い様だ。だが出血は止まっている様だ。

「行けるか?グラム!」

「もちろんだ!」

 もう一度だけ、武具解放術を使えるだろうか?

 いや、使えなければ死ぬ。

 一瞬で距離詰めて、攻撃するが弾かれた。

「流石に殺せないか」

 距離を取る、が直ぐ迫ってきた。俺はグラムを小さくして、精霊の力で避ける。恐らく小さくしていなかったら、触手で取られた事だろう。

「ほう?我の手を読んだか」

 と、感心してる様に言った。だが心の底から出る、憎悪が隠し切れてない。

「だが、もう一つの手は読めなかった様だな?」

 すると、方向転換して、クリスの方へ向いた。

「まさか!?待て!」

 ベルゼブブが、笑った。

「確かに、お前の方が速いだが、この距離なら、追い付けない!」

 その瞬間、足を止め、何かに絶望した様な口調で言った。

「嘘だろ?そんな魔力何処から?もう無くなった筈じゃないのか?」

 そう、クリスの魔術が先程よりは少ないが展開されているのだ。

 その瞬間俺は首を斬った。少し時間が経った後、ベルゼブブの体と、バベル・ゼブルが消えて行った。

「騙されたわね、魔力はもうあれほど撃つには、なかったわ、でも撃たなくても魔力を少なくさせて、形だけは作れるわ。言っても居なければ意味ないけれど」

 ベルゼブブ程の者の最後の瞬間ですら、他の魔族同様に、呆気なかった。

 俺は、不思議な高揚感を感じた。それと同時に悲しみが襲った。

「なあ、クリスこれで正しかったのかな?」

 クリスは、首を横に振った。

「分からない、けれどきっと正しくなかったでしょうね、それに私達に何が正しいとかを決める権利は無いわ、だからこれで良いのよ。やりたい事をする、それで良いのよ」

 そうなのかも知れない。だって結局は、自分の為なのだから。

 

「……疲れたな、光の死体無いよな」

 グラムが、飛んで来た。あの豪華の装飾が、無くなっていた。

「当たり前だ、でもあいつはきっと、埋葬なんてして欲しくないだろう、そうだろう?真、クリス」

 クリスが笑った。

「そうね、きっと光だったらこう言うわよ、そんな悲しい事しないでくれ、明るく笑ってくれたら良いから、ってね」

 俺は笑った。

「そうだな、じゃあシノはちゃんと埋葬しよう」

 俺達はシノを、丁寧に埋葬した。

 不思議と、泣く気にはならなかった。

「グラムもお疲れ様」

「そうだな、少し疲れた我は寝る」

「剣に寝るとか概念あったのね」

 と、クリスが驚いた。当の剣は寝ているが。

「なあ、クリス星を見に行こう」

「そう」

 俺が、クリスの方へ向いた瞬間、クリスが何かに頭を貫かれて、倒れた。

 血が俺の足元まで迫る。

「凄いな、流石だ、でも残念ながら、勇者は死んでしまった様だな?」

 俺は掛けられた声を無視して、呻き声を上げた。

「あ、あ、あ、ああ」

 目の前で、最愛の人を今失ったのだ。守れないまま。

「今まで見てきた、どの世界よりも一番面白かったよ!素晴らしいよ!」

 そんな言葉は無視だ。

 俺は、膝から崩れ落ちる。

「な、何で?生き残ったじゃないか」

「うん?簡単な話だよ?ペナルティだよ、勇者が死んだ、ペナルティ」

「ペナルティだと?何を言ってるんだ?」

 俺はそこで、気付いた。こいつが神だと。

 見た目は完全に子供だ、金髪で髪の長さが短い。服装も子供ぽい。

「そのまんまだよ?君が殺した、そう言えば分かる?」

 息が荒くなる、その時異常なまでの吐き気を催した。

「俺が、殺した?」

「だって、守れなかったじゃないか?あそこまでしてもらったのにね?」

 神が唇を人差し指で、軽く触った。

「お前殺されたいのか?ならお望み通り殺してやる」

 俺は立ち上がる。

「はいどーん」

 その瞬間、腹を蹴り飛ばされた。

 いつの間に、来たんだ?

 力が入らない、意識が朦朧もうろうとしている、だが起きなければならない。仲間を、クリスを殺したあいつを殺すために!絶対に、たとえ相手が神であっても!!俺の全てを賭けて!!たとえどれだけかかろうとも!!

「凄いだろ?これは対象者に魔術を掛ける事で、自分の攻撃は全て体力一残るんだよ、痛い?今まで一度も攻撃を喰らった事ないもんね?」

 きっともう俺は動けない。それでも殺してやる。絶対に。

「動けないのか?これが我を殺した人間だとはな」

 ベルゼブブの声だと?ああ、堪らなくこいつを殺したい。ベルゼブブを侮辱しているのだ。

「そうそう、その目付きを俺は見たかったんだよ」

 この神がどうしようもないほどに嫌いだ。まるで本物の俺を見てる様で。

「もう一回やるよ!」

 すると体が回復した。回復魔術だ。

「殺す!」

 俺は、一瞬で距離を詰めた。

 だが相手の方が圧倒的に強かった。蹴られて、吹き飛ばされた。

「どうして、動けるのかな?あ!そっか君この世界の者じゃないもんね!そういう事か」

 子供の様に手を合わせて、不気味に笑った。

 その瞬間まるで時が止まった様に、神の動きが止まった。

 綺麗な白髪をした、白と青色のドレスの様な物を着ている女性が現れた。

 ああ、こいつが時の精霊いや、時を司る神か、だが今はそんな事はどうだって良い。

「当たり前だ、早くクリスを守れるほどの力を寄越せ」

 だがその瞬間神が動き出した。

「そこで何をしてる?」

「助けてる、それ以外に説明が必要ですか?ベルーゼ?」

「俺が一番偉いんだ!逆らうなよ?」

「偉いのですか?それは盗んだ物です。返すべきです。

 それに自分勝手の王様は、民に反感を買って裏切られますよ?私の様に」

「何だと?逃げ回ってるだけの腰抜けが」

 するとベルーゼと言われた神が、バベル・ゼブルを空中から出した。インベントリだろうか?

 それだけではない、グングニル、エクスカリバーなど様々な意識ある武器達がベルーゼの周りに現れた。

「真様、お手を直ぐに」

 と、小声で囁く様に言った。

 いつの間にか体が回復していた。

「何をする気だ?」

 と、警戒しているので俺は急いで、時を司る神の手を取った。

 その瞬間世界が変わった。ここは一面白色の部屋だった。何処まで続いているのかが分からなかった。

 きっとこれは過去に戻っているのだろう。なんせ時を司る神なのだから。そんな気がした。

 すると綺麗な白髪をした、白と青色のドレスの様な物を着ている女性が現れた。右目が時計の様になっていた。

「すいません真様、お二人でゆっくりお話したい時間を作りたく、この世界にご招待させて頂いました」

 すると椅子とテーブルが現れた。

 俺は椅子を引いて座る。それと同時にコーヒーも出てきた。

 時を司る神も座る。

「それで?どうやったらクリスを救えるんだ?」

「その前に、一つ人を殺す覚悟はありますか?」

「当たり前だ、クリスを救えるんだ何だってしてやる」

「分かりました、もう一つ一千万年間以上生き続けれる自信はありますか?」

 こいつは何を言ってるんだ?答えは一つだ。

「無理だ、そもそも脳の機能的に出来ない」

「もし可能だとしたらどうです?」

「もちろんやる、それでクリスを救えるなら」

「その言葉を信じます、では最後です。どれだけの強大な力を持ったとしても、それを全てクリス様の為に使いますか?」

 俺は、首を横に振る。

「自分の為に使う」

「どうしてですか?」

「だってクリスが幸せだと、自分も幸せだから結局は自分の為だよ、自分が幸せになりたいだけだよ」

「分かりました、力を貸しましょう真様」

 俺は、コーヒーを飲み込む。

「で?君の名前は?」

「私の名前?」

「そう」

 少し悩んでやがて口を開いた。

「私には名前がありませんので、ナナシとでもお呼び下さい」

「分かったよナナシ」

「それでもう契約は完了していますので、時をある程度扱えます」

 いつの間にか契約したのだろうか、と思いつつ俺は自分の中に、それが確かにある事に気付く。

「グラム様、そろそろ嘘寝やめてくださいませんか?」

「バレていたか、流石と言った所か」

 まさか寝ていないなんて、だが今は後回しだ。

「それで?時を操るって、具体的に何が使えるんだ?」

「時を戻したり、止めたりです大体の事は出来ますよ」

 時を戻す?まさか!?

「人を生き返せるのか?」

 もしこれが出来るなら、俺はクリスを何回だって生き返らせられる。

 ナナシは頷いた。

「ですが、その分また苦しむという事でもあります、使う際には充分に注意して下さいね」

「それを使えば、クリスを助けられるんだな?」

 ナナシが首横に振った。

「無理でしょう、たとえ生き返らせても救いとは程遠いでしょう」

「どういう事だ?」

 頭が回らない。きっとまだクリスが死んだという事実を、受け入れ切れてないのだろう。

「では真様にとって救いとは何ですか?」

「生きながらえさせる事じゃないか?」

「それはたとえ苦しめたとしてもですか?」

 ナナシはカップに入っている、何かを飲んだ。中身は見てないので分からない。

「そうだ」

「何故ですか?苦しむなら、私からしたら拷問の様に思います」

「だって、生きたら必ず良い事が起きるから」

 俺が、そうだった様に。

「必ずですか?それは違うと思います、何故なら苦しんで一度も幸せにならずに死んだ方を何度も見た事があります。それも数え切れないほどに」

「そうか、本当に一度もか?自殺もしなかったか?」

 ナナシは頷いた。

 何処か納得している自分がいる。やはり理想論だったと。

「なら、ナナシにとって救いとは何だ?」

 ナナシが手に取っていた、カップを置いた。

「知りません」

 ナナシは、短くそう告げた。

「そうか」

「ただ、この世界をベルーゼから解放する方法は知っています」

 恐らくそれがクリスを幸せにする、唯一の手段なのだろう。

「何故、ベルーゼから解放する必要があるんだ?」

「ベルーゼは約一千万年生きています、それにしてはやけに発展してないとは思わないですか?この世界が魔術があるにも関わらず」

「まさか、作り替えているのか?」

 ナナシが頷いた。

「ベルーゼはこの世界を何度もやり直しています。魔王が殺されたらやり直し、バランスを調整し、勇者が三度死んだらやり直しそれを繰り返しています」

 するとテーブルの上に宝石が二つ現れた。

「これは?」

「スキル宝石です、真様に合った物をご用意致しました」

 なるほど、何処かで見た事があると思ったら、スキル獲得する宝石か。

「何で二つだけなんだ?」

 俺は、赤色の宝石を食べ始める。

「それ以上増やしてしまうと、バグが起きてしまいます」

「バグ?」

「はい、それ以上食べてしまうと体が耐え切れずに死ぬでしょう、レベルが上がると増やせます」

 俺はカップを口まで運んで、コーヒーを飲んだ。

「それで、俺は何をすれば良いんだ?」

「分かりました、ではお話しします。

 今からあなたがこの世界に来た、その時までこの世界を戻します。そこからこの男性を殺して下さい」

 するとテーブルに一枚の画像付きの紙が出てきた。そこにはアロン・ローゼと書かれた人物が居た。

「何故?」

「最も経験値効率が良いからです。ご安心下さい、魔術は使用不可に出来ますから」

 なるほど、こいつでレベル上げって事か。

「で?その後は?」

「いえ、特にありません。レベルこれがこの世界の全てですから、私がその男を蘇らせますので、何回でも殺し続けてください」

「でもステータスは引き継がれないだろう?無理じゃないか?」

 ナナシは首を横に振った。

「いいえ、真様の脳言わば精神を全て移せば、インベントリの中身もステータスも記憶も、全て引き継がれます」

「だが、それはあいつらを見殺ししろという事か?」

 ナナシが頷いた。

「ふざけてるのか?」

「いえ、決してふざけていません。またやり直せば良いだけでしょう。最後に救えば記憶も残りませんし」

「は?舐めてるのか?ふざけんなよ?」

「真!ナナシが正しい」

 俺は、グラムの一言に何も言い返せなかった。

「分かってくださってありがとうございます。ではやり方を説明しますね」

 それからナナシは丁寧に優しく、教えてくれた。

 内容は至って簡単だった。最低でも俊敏のステータスがベルーゼを越すまでやり続ける事だった。

 そしてまた世界が作り変わる時、時を戻して、またやるとの事だった。

「ちょと待ってくれ、二つ提案がある。一つはスキルを練習する時間を増やす事、そしてもう一つ、旅をする時光達が一番強くなる道を探す事だ」

「一つ目は理解できますが、二つ目の理由が分かりません」

「簡単な事だよ、あいつらがこの世界の秩序を守れる様にだよ」

「では世界の事を全部託す為だと?」

 俺は頷いた。

「何故ですか?それは光様達にとって苦痛になるのでは?」

「いや、光ならきっと魔族との戦争を止めて、平和にしてくれるし、光達は戦争があった方が辛いだろうからな、その時に必ず力は必要不可欠だ」

「なるほど、分かりましたならばそうしましょう、ですが道はもう分かりますので、しなくても大丈夫だと思われます」

 なるほど、それならしなくても大丈夫か。

「で?この後俺は何をすれば良いんだ?」

「心の準備でも、しとくと良いと思います」

 一応グラムをインベントリに入れて、もう一つの紫色の宝石を食べた。

 その瞬間目の前が真っ暗になった。



 目を開けると、周りの風景が中世風の建物に変わっていた。

「ここは何処だ?」

 と、光が困惑した様子で辺りを見渡した。

 すると記憶通り、おお、成功だ!などの歓喜の声が聞こえた。

「あのーここ何処ですか?」

 と、光が訊いた、瞬間ドアが勢い良く開いて、大柄で白い髭を生やしたどこか威厳のある、人物が現れた。

「勇者は、何処だ!」

 その時こちらを見て困惑した様子で、寄って来た。

「こいつだ」

 俺は光を指で指した。

「お前は……確かにありえないか」

 とわざわざ少し考えて言ってきた。だが何も言い返せない。

「念の為ステータスと、言ってくれ」

 そう言われたので、仕方なくステータス画面を出した。

「やっぱり俺が勇者だな」

 と、光が言った。

「そうかお主が勇者か、ならお主ら付いて来なさい」

「断る、俺を城の外に出せ」

 俺はグノーシスを睨み付ける。

「何故だ?」

「どうせ、魔王を殺せとか言うんだろ?俺はそんなのごめんだ」

「何故だ?名誉が欲しくないのか?それにこれはきっと神の導きだろう」

「まあ、良い逃げさせてもらうよ」

 俺は持ち前の速さで窓から飛び降りて、風の精霊の力で飛んだ。

「真!何処に行く気だ!」

 光が窓から顔を出している。恐らく心配しているのだろうか。

 その後ろから見えた目が、あの時のベルーゼの目とそっくりで思わず恐怖してしまった。

 俺は、目的地へと向かった。

 目的地は、ローゼ屋敷だ。



 道は頭の中に入っていたので、迷う事はなかった。

「で?ここからどうすれば良いんだ?」

「対象を見つけてください、そして殺して誘拐してください」

 俺は、承諾して急いで中に入った。

 広いので、見つけるには相当苦労しそうだ。

 と思ったが意外と直ぐに見つけられた。丁度階段から上がってきてた様だ。

 俺は、一気に首を斬って精霊の力使って持ち帰る。

 その瞬間、誰かの悲鳴が聞こえた。だがもう俺は逃げる事に成功していた。


 持ってきた場所は、山の中だった。

「ほら、持ってきたぞ」

「やはりこいつは体力が多いですね、斬ったり刺しまくってください、特に心臓は必ずやってください」

「分かった」

 俺は心臓を勢い良く突き刺した。次に腕を斬った、その次に足を斬れる部分が無くなると刺しまくる。

 不思議と罪悪感が微塵も感じなかった。

 その瞬間、首が生えた恐らく生き返ったのだろう。

 俺は何か言う暇も与えず、首を斬った。

 特に何の感情も感じなかった。何ならグラムとナナシと会話していた。

 ただつまらなかった。いや、それは語弊があったのかも知れない、俺は最初の方は少し楽しんでいた。何故か?至って簡単だ、刺す位置によって感触が変わるからだ。だがそれすらも飽きてきた。

「真、お前は辛くないのか?」

 刺し続ける俺にグラムがそう訊いてきた

「別にこれでクリスを救えるなら、苦でもないよ」

 俺はそう言いながら、刺して斬って、殺し続けていた。

「真昔に比べて変わったな。だが気を付けろ何かに執着すると必ず自分を滅ぼすぞ」

「本望だよ、クリスの為に死ねるなら」

「我はそういう事を言っていない!クリスすら救えないかも、知れないと言ってるんだ!」

「そうかもな、でも俺はもうクリスから離れられないよ、だってあの唇の柔らかさを知ってしまったからな」

 丁度頭が生えてきた。俺は首を斬った。

 その時、まるで気付いた様にグラムが言った。

「すまない、真は変わっていなかったな」

「そうか、分かってくれて良かったよ」

 体の疲労や空腹はレベルが上がると無くなるので、永遠と殺し続けた。

「真様、そろそろ私の精霊の力を使うとよろしいでしょう」

「そうか」

 気付けばもう首を斬った瞬間、死んでいたレベルが上がり過ぎたのだ。斬った瞬間に自分の手で生き返らせて、また殺す。これで更に効率が上がった。


 斬って、斬って、斬り続ける。何度も、何度も、何度も。何回、何十回、何千回、何万回、何十万回やったか、分からない。それ以上は確実にやっている。

 すると普段何処か行っている、ナナシが現れた。

「真様、三人目の勇者が死にました。世界が作り替えられます」

「分かった、戻してくれ」



 また戻ってきた、俺は困惑している光を置いて、窓から飛び降りた。

「し、真!?どうした?って速くね!?」

 俺は、急いで目的地へと向かった。

 今回は前より圧倒的に、早く来れただが、今回は早く見つかるとは限らない。

 だが恐らく一階に居るだろう。

 俺は急いで探す。もう執事や侍女達には見つかっている。

 見つけた。また首を斬って連れ去る。

 俺は、また山の中へと向かった。


 また繰り返すのだ、クリスを救う為に、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……

「何度も!」

「真?どうした?先程からおかしいぞ?」

 グラムの声すら聞こえない程に、集中していたらしい。

「クリスを救う為に」

 その声は小さく、震えていた。

「真!気をしっかりと持て」

 当たり前だった、何年も同じ風景で同じ様に見知らぬ人の首を斬り続けるんだ。話す話題も徐々に無くなってくる。これで精神をどうかしない方がおかしい。まるで機械の様に斬り続けていた。

 ただ一人の少女を幸せにする為に。

 だがこれはただ自分の為だ。自分の為に苦しんでいるのだ。

「クリス、クリス、クリス」

 とまるで呪文の様に呟く。

「真!しっかりしろ!」

 そんな声が、届く筈がなかった。

「勇者が殺されました」

 ああ、また繰り返すのだ。神を殺す為に。

 俺はグラムをインベントリにしまって、殴りでこの男を殺す。ただ効率が落ちてしまうが、グラムが無くなるよりはマシだった。

 いつまでも続けよう、神を殺せるまで。



 後半になると、レベルが上がる時には空腹でおかしくなりそうになってくる。その為自分の体を時々戻す。

 もう声を出す気にすらならなかった。ただひたすらに、殺し続ける。

 唯一の救いは、グラムが話しかけてくれる事だった。

 それに答える気にもならなかったが。

 それから何年続けたかは分からない。ナナシが言うには、当初の予定より圧倒的に早いと言う事だ。

「もう、レベルは上がりません、ですが俊敏はベルーゼを超えています」

 そう告げられたのは、後で分かったが始まって一千二百万年経った頃だった。

「そうか、終わったかなら次だな」

 俺は急いで次の目的地へと向かった。スキルを試すのだ。

 目的地は、あの決闘場のある場所だ。

 着いたらナナシにこんな事を言われた。

「後最高でも百年までしか出来ません」

「分かった」

 その瞬間宝石を四つ渡してきたので、全て食べる。

「百年もあれば充分だろう」

「では私はする事がございますので」

 そう言って消えていった。

「まずはスキルの詳細、グラム分かるか?」

「ああ、分かるぞ」

 俺は本をしまい始める。

「まず一つ目俊敏倍増、これは他のステータスを落として、俊敏のステータスを倍増する物だ。一度使うと効果は一時間続く、クールタイムは二時間だ。

 もう一つは、もう一つの命、一度死んでも蘇る。

 次は思考加速、その名の通り通常より時間の流れを遅く感じる代わりに、頭の中は通常より速く考えたりする事が出来る」

 その時本棚がずれて階段が出て来たので、歩いて降りる。

「四つ目は、神の素質、全ステータス上昇だ。

 次は救世主、誰かを救おうとしてる時決して諦めない

 最後に、僕は人殺し、人を殺した回数分の五倍の分特定のステータスを上げられる」

 なるほど、全部欲しかった物だ、流石と言った所か。

 グラムに言われて気付いたが、初めに二つ貰っていた。

「なら、僕は人殺しとかいうのはもう割り振られてるのか?」

「いや、まだだろう」

 俺は真っ赤のステータス画面を出した。

「ここから、俊敏の所を押せば良いみたいだな」

 それじゃ本棚を元に戻さなければ。

「なんだ?ここ」

 人が来てしまった。その声には聞き覚えがあった。

「うわー凄い白いですね」

 丁度俺がボタンを押した瞬間だった。

 俺は急いで顔を背ける。

 光達だ、つまりここに今一番会いたくない人が来てしまったんだ。

「本当ね」

 クリスだ。

「なあ、グラムなんかないか?」

 と、囁く様に言った。

「そう言われても素直に、行くしかないだろう」

 何かないかと、俺は真っ赤なインベントリを開いた。

 探していると、見知らぬ仮面があった。

 それはまるで黒色の犬の様な仮面だった。恐らくナナシだろう。助かった。

「あれっ?あなた誰?」

「お、俺は」

 俺は動揺しつつ、泣くのをグッと堪える。

「あ!あれじゃないですか?手紙の人じゃないですか?」

「そ、そう!」

「あー手紙のね、死んでなかったのね」

 焦ったが何とか切り抜けた様だ。だが何か光が怪訝そうな顔を見せた。

「何処かで会った事あります?」

 頬に冷や汗が頬に伝った。

「そ、そんな事、ある訳ないでしょう?」

「それもそうだな」

 すると急にクリスが背伸びして、顔を近づけて来た。

「なんか怪しい」

 俺は思わず引き下がる。

「速!?」

 と光が驚いた様に、声を上げた。

「怪しいなんて、そんな」

「まあ、良いわ」

「勇者さん達ですよね」

「そっ、って事で魔術教えてくれない?」

 忘れていた、このままではバレる。

「ごめん、俺魔術使えないんだ」

「随分、さっきとは喋り方が違うのね」

 つい癖でいつもの様に喋ってしまった。

「これが普段の喋り方だよ」

「さっきは敬語だったけどね」

 やはりクリスには、嘘がバレてる気がする。

「まあまあ、クリス一旦落ち着こう?それで?何で魔術を使えないのですか?」

「ああ、実はステータス改変魔術使ったら、ミスってしまって魔力が無くなってしまったのです」

「ステータス改変魔術って何?」

 するとクリスが睨んできた。

「自分で作りました」

「え!?凄い、教えて?」

 と先程までとは違い、目を輝かせた。

「実は、ミスった影響で記憶が無いんです」

「何よ、使えないわね」

 でも初めて騙せた。行ける。

「で?本当は誰なの?」

 騙されてなかった。さっきの嬉しさを返して欲しい。

「……ここで修行してる者です」

「名前は?」

 と問い詰められる。

 ここで本名はまずいだろう。

「どうしたの?」

 思考加速を存分に使い必死に考える。

「リゼ・ケンです」

 何故か思い付いた言葉を、繋げただけだ、行けるか?

「ふーん変な名前ね」

 偽名だとしても、クリスにそう言われるとかなりキツイ。

「クリス、それ失礼じゃないかな?」

「とりあえず!俺の邪魔しないで下さい!」

 俺は、急いであの決闘場へと向かう。

「一回俊敏倍増で、あの速さに慣れるまでやってみよう」

 俺は、決闘場の訓練モードを使う。ナナシから初めて教えてもらった一人で練習出来る。かなり便利だ。

「一度使ってみるか」

 使ってみると、意外と制御出来た。だがまだ完璧とはまでとは行かないので、練習する事にした。

 一時間もすると完璧になった。そういう効果でもあるんだろうか?

 次は武具解放術の時間を延ばさなければ。

「これが一番辛いんだよな」

 当初の目的とは大きく外れているが、まあ良いだろう他に、強くなる方法がないのだから。

 ナナシによると、これ以上のアーティファクトも防具もないらしいし、諦めて武具解放術を使いまくらなければ。

 更に良い事を思い付いた。

 俺は、武具解放術を使いつつ、グラムを俺に向かわせて、避ける練習もする。

「凄いな、めちゃ速え」

「ですね」

「速すぎでしょ」

 何やら外で鑑賞してる人達は、放っておいて、自分のやるべき事に集中しよう。



「これさ、反対側にも同じ椅子あるんだよもしかして、入れるんじゃないか?」

「辞めといた方がいいと思いますけど」

 その言葉を無視して、光が一目散に椅子に向かった。

 椅子に座ると、何やら決闘しますかと画面がで出てきた。

「もちろん、イエスだ」

 意識が遠のいていった。



「何?決闘?嫌だよ」

 だがそんな願いも何故か断られ、光が入って来て、右下に四十秒と書かれた。

「どうして?」

「おお、間近で見ると迫力が違うな」

 とでも面倒だ。始まったら直ぐに殺そう。

「邪魔しないでと言ったと思うのですが?」

「訓練してくれよ!」

 そんな事してる暇無いんだがな。

「分かった勝ったら良いよ」

「まじ!?絶対勝つ!」

 俺は必死に残り秒数を見る。


 後一秒で始まる。

 俺は始まった瞬間、光の首を斬った。

 その瞬間、椅子に戻った光が、何が起きたか分からなかった様な顔をしていた。

 その顔が少し面白かった。

 だが、その所為でグラムで斬られて椅子に戻ってしまった。

 俺は、大きくため息を吐く。

「へーこれが元の顔か、意外とイケメンね」

「ですね」

 そこで気付いた、自分の顔に仮面が無い事に。

「ちょ、返せ!」

「え?真?」

 その瞬間、光がこちら見ていた。

 終わった。

「真?誰ですか?それ俺の名前はか、リゼ・ケンですけど?」

「今影之って言いかけてなかったか?」

「ただの言い間違いですよー」

「ならその癖は偶々一緒なんだな?」

「癖?一体何ですか?」

 そんな物があったなんて知らなかった。

「問い詰められと、時々左下を見る癖」

 そんな癖があったなんて、もう言い逃れは出来ないだろう。

「そうだよ!俺だよ!影之真だよ!」

「遂に諦めたか」

 まさか光にこの手の勝負で負けるなんて、一生の不覚。

「一体どういう状況ですか?」

「あー前言ったろ?一緒にこの世界に来た時一緒に来た奴が居て、窓から飛び降りた奴がこいつ」

「俺が、窓から飛び降りた奴です」

 すると急にクリスとシノの目が変わった。軽蔑混じりの蔑んだ目だった。

「で?何で生きてるんですか?死んだとか言ってませんでした?」

「それは内緒で」

 そろそろ面倒な事になりそうなんで、決闘場に行く事にした。

「真!会えて嬉しかった!」

「俺もだ」

 意識が遠のいて行く。


「まさか生きてるとは、思いもしなかった」

「まあ、そうですよね」

「普通はそう思うわよ」

 それ以降どれだけ時を戻しても会う事は出来なかった。



「真今日で修行は終わりだ」

「そうか、百年経ったか」

 武具解放術を最初の頃より何十倍以上使える様になった。

「真様、後四年の内に魔王を殺して下さい、私が渡した地図を元に」

 と、急かすように言って来た。

「分かった、これで最後か」

 


 目を開けると、見慣れた風景が広がっていた。

 横に困惑している光、周りに俺達を召喚した魔術師達。何度も見た光景だった。



 まずはこの道を正す。

「真?どうすんだ?この後」

 迷路だ。全ての魔族を殺し、宝箱の中身全部取る。

 もちろん、魔族は全員生き返らせる。

「右」と短く伝える。

 この様にして徐々に全ての魔族を殺し、宝箱中身全部取る。

 全部取り終わり、ボスを倒す頃には五時間が経過していた。

「疲れたー、今日はここでキャンプにしない?」

「賛成」

 俺はみんなが寝てる間に魔族を全員、生き返らせる。一人で走れば五分も掛からずに終わった。

「何処行ってたのよ?」

 やはりクリスが待っていた。この瞬間だけは自分のしてる事を忘れてクリスとの、会話を楽しむ。

「良かった」

 そうグラムが真に聞こえない様に、小さく呟いた。

 その後のダンジョンも同じ様に攻略して行った。



 ある日の夜予想していなかった事態が起きた。

「好き」

「え?ごめんもう一回言って?」

 クリスは何の前触れもなくそう言った。

「だから、真の事が好き」

 クリスはあの日様に笑った。

「な、何で?」

 絶対にそうなってはいけなかった。その為に努力もした、何故ならそれはきっと今後クリスにとって邪魔になるのだから。

「なんとなく」

 クリスはあの時の様に耳まで赤くなっていた。

 不思議と涙が頬を伝った。

「どうして、真が泣くのよ」

 クリスは、あの時の様に涙を優しく拭ってくれた。

「ご、ごめんクリスとは付き合えない」

 少し動揺した後、クリスがあの時の様に頬を叩いた。

「なんで!自分に嘘を付くのよ!」

「嘘なんてそんな事、してない」

 俺は、クリスが幸せになって欲しい、それが俺の全てで、俺のしたい事であり、欲だ。嘘なんて決して、していない。

「分からないなら良いわ、おやすみ」

 そう言って、少し悲しそうな目をした、クリスはテントへと戻った。

 付いて行く気にはなれなかった。

「ああ、どうしてだよ。どうしてこんなに苦しんだ!」

 今までのどんな事より辛かった。

「それは確かに自分の為だ、何故ならクリスが幸せに過ごせる様にする、それはお前がそれをしたいが為にやってる事だからな」

「ああ、その通りだなのになんで!こんなに辛いかを聞いてんだよ!」

「答えは一つだ、クリスの悲しい目を見たからだ」

「は?そんな訳が、だってそれが最終的にクリスを幸せに出来る事になんだぞ?」

「だからだ、お前はクリスを幸せにする為にやっていながら、クリスを悲しませているそれ以上に辛い事は無いと我は思う」

 グラムが優しく丁寧に的確に教えてくれた。

「そうかもな」

 不思議とクリスのあの時の笑顔を思い出した。

「誰か、この苦しみから救ってくれ」

 俺は、そう呟いた。



 戦闘には極力手加減する、出来る限り光達に戦闘を経験させる為だ。

 今から戦うのは、あの見た目は紳士の魔族だ。

 今赤い液体を丁度村正に掛けていた。

「光!良く観察しろよ!」

「分かった!」

 俺は殺させない様にするだけで、あまり攻撃はしない。

「血だ!血を寄越せ!」

 少し違和感を覚えた。何か違う。

「そんなに頭のネジがぶっ飛んでんなら、冷静な判断が出来ないだろ!」

 その瞬間相手が、振り返って光を攻撃を見事に避けて、攻撃をしようとした時に俺が空間移動で背後へと、避けさせた。

「その程度の事思い付かないとでも?」

 そうか、こいつは演技をしたんだ、敢えて誘ったんだ。違和感はこれだったのだ。もう空間移動は使えない。

 その瞬間、光の腹が斬られた。

 もちろん、血には全く興味を示さない。

「まさかこれで終わりとは、思ってないですよね?」

 その瞬間光の首を斬られそうになった。手を抜いてる場合じゃない!

「来ると思ってましたよ!」

 俺が、居た場所に振り向いた。だがもう遅い、もう首を斬った。

「遅いな」

 俺からしたら、まるで亀と戦ってる気分だ。

「光、回復してもらえ」

 だが既に回復してもらっていた。

「お、おう」

 光は何が起きたか分からない、という様子でシノの元へと行った。俺もそれに付いて行く。

「真、あれはどういう事だ?」

 光とシノは驚いた様子だった。クリスは特に何も驚いている様には見えなかった。

「本当です、あんな実力があったなんて、今まで何で隠してたんですか?」

 俺は前から考えていた言い訳を話す。

「実はあれ使うと、寿命が減るんだよね」

「え!?そうなんですか?」

 俺は頷く。

「ならもう一生使うな」

 光が、真剣な目でこっちを見てきた。

「危なくなかったらな」

「だとしてもだ!」

 光は、鋭い目付きで睨んできた。

「分かったよ」


 ここまで来るのに約三年が掛かった。一年の時よりかなり強くなっていた。

 後はもう数回敵と戦って終わりだ。最後のベルゼブブとの戦いだけは、俺だけで戦おう。

 クリスを救う為に。



 その日の夜俺はいつも通り、クリスと、いや、一人で星を見ていた。今回は星を見る約束も、一緒に星を見る事もない。あの日以来。

 あれほど安心出来た空間がもう無くなってしまったのだと、改めて実感する。

「真、お前の本当にしたい事は何だ?」

「クリスが幸せで居られる事だ」

「本当にそうか?」

 俺は、その言葉で何かが事切れた。

「当たり前だ!好きになった人が幸せになって欲しい、至って当たり前じゃないか!」

「それは常識論だ!世間常識と、真の本当にしたい事は違う!それは、ただ自分が正しくあろうとする現れだ!違うだろ!正しい何て存在しないんだろ?だったら自分為に生きろよ!たった一度しかない人生なんだぞ!」

「違う!これは俺の為だ!」

「なら何で!そんなに苦しそうにしてるんだ!」

「苦しくなんて、ない!」

「良く考えろ!お前まだ、前の世界の思考が抜け切ってない!お前はまだ、善意とか、正義とかを頭の片隅に残ってるだ!」

「グラムに、何が分かるんだよ!」

「分かるさ!どれだけお前の中身を見たと思ってるんだ!どれだけ一緒に居たと思ってるんだ!」

「違う!俺がそうしたいからそうしてるんだ!」

「違う!それが正しいと思っているんだ!だからしてしまうんだ」

「誰が何言おうとも、考えを改める気はないい!」

 その言葉でグラムも諦めた様で「勝手にしろ!」と言って喋らなくなった。

 思い返せば、こうやってグラムがあんな喋り方したのは、初めてだった。それにグラムとあんなに言い合う事も。俺はため息を吐く。本気で心配してくれていたのだ。

 もっとちゃんと話し合うべきだったかもしれない。

 いや、でもこれが俺の為なんだ耐えなければ。

 どれだけ辛くても。

「……苦しいのに自分の為な訳ないだろう」

 そうグラムは小さく呟いた。



 ようやく魔王城に着いた。

「光達、付いて来てくれ」

 俺は二十分程歩いて、部屋の前まで来る。

「ここに魔王が居るんだな?」

「ああ、精霊に訊いた」

 本当は訊いてなんてない、ただ覚えていただけだ。

 何度も思い出した記憶だから。何度も何度も思い出した記憶なのだから、分からない方がおかしい。

「じゃあ、入るぞ」

 扉を開けた瞬間、そこには金色の目をした、俺が居た。

 光達はかなり困惑してる様だ。

「真様!ベルーゼです!」

 すると急にナナシが現れた。

「どうだ?中々巧妙だろう?」

 とベルーゼがニヤニヤと笑っている。

「あれが魔王ですか?」

「みんな、下がってろ!」

「俺達も戦うぞ!」

「黙って従え!」

「わ、分かった」

 その瞬間、何かに気付いたように言った。

「動けない」

「は?」

「まさか、教えられてないのか?我に見られたこの世界の者は、全員動けなくなる」

 と、自慢げに言い放った。

 その瞬間に、俺は距離を詰めた。

「速いな!だが戦いはこちらの世界に来てからだ」

 そう言って、俺の攻撃を避けて指パッチンした瞬間、世界が変わった。

 雲の上だった。

「どうだ?神界だ、ここなら存分に暴れられるぞ!」

 俺は一言も喋らずに、攻撃を仕掛ける。

 防がれて、弾かれる。なら、俊輔倍増を使う。

「更に速くなるぞ?」

 更に速くなった、速度に流石に付いて来れていないようだ。

 だが斬った瞬間に、再生している。恐らく体力も同時に、全く微動だにしなくなった。

「存分に攻撃すると良いさ、だがどれだけ斬っても殺せないぞ?我は神だからな、無敵なのは当たり前だろう?」

 恐らく、これでスキルの効果時間が終わるまで待つ気だろう。

「すいません、真様少し準備をしていました」

 と何やら頭の中に響いて来た。だが今はどうでも良い。

「どうなってるんだ?こいつを殺せないぞ?」

「一度止まってください。今そこに向かいます」

「お?やっと諦めたか?」

 すると、ナナシが現れた。

「諦める?真様が?本気でそう思ってますか?」

 すると、ナナシが小声で伝えた。

「殺したければ、武具相伝術をお使い下さい」

「分かった」

 恐らく短縮詠唱でも出来るだろう。

「アパタイト!」

 だがグラムに変化は無かった。

「は?グラムどうしたんだ?」

「そんな想いで、戦うなら我は手伝わない」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」

 答えは沈黙だった。

 武具相伝術には、使用者の想いが武具に伝わり、その為になら命を捧げても良いと思われたなら、使える技だ。詠唱はその際に心を整理する時間だ。また短縮詠唱なら元から、こうしても大丈夫だったなら使える技だ。

「分かった、俺の何がいけないんだ!」

「しっかり自分で考えろ」

 するとベルーゼがどこかで見た事のある、槍を取り出した。投げられてやっと分かった。グングニルだった。

 これは厄介だ、ずっと追いかけてくる。

 それより、思い出せ今までグラムとの会話を、やはりあの夜の日だろうか。

 俺はクリスを一瞥する。その瞬間、どうしようもないほど、持ってはいけない感情が出て来た。

「……クリスと幸せになりたいなんて、思っちゃいかない事なんだ」

 何故ならきっと叶わないのだから。

「何を考えているんだ?なら追加しようか」

 すると色んな武器が現れた。思った通りこちらに飛んで来た。

「真、良いか?それは本当に自分のやりたい事か?自分の為か?」

「……」

 不思議と返す気にはならなかった。

「良く考えろ、一体何がしたくて、どうなりたいかを」

 俺は、さっきの感情を思い出した。

「ああ、俺は、俺は!クリスと、幸せに生きたい!」

「そうだ!」

「その為に、まずはこいつを殺す!アパタイト!」

 その瞬間ナナシが、グラムに触れた。

「私の命も賭けます」

 グラムが光出して、姿を変えた。

 白と黒が入り混じるとても綺麗な剣になった。

 そして影之真は、右目が時計の様になり、左目が赤く光った。

 そして髪が右側のみ白髪へと変わった。そして背中の左側からカラスの様な翼を生やし、右側から天使の様な羽を生やした。

「醜いな」

「そりゃどうも」

 俺は先程とは比べ物にならないほどの速度でベルーゼの首を斬った。

「無駄だと言ってるだろう?」

「気付かないのか?お前の体は時が戻ってるんだよ」

 そこでやっと意味が理解出来たらしい。

「不死を消す気か」

「だが、ベルーゼ、お前はもう俺に追いつけない」

 俺は、ベルーゼを斬って時を戻し続けた。

 すると、ベルーゼが急に笑い出した。

「誰もスキルを使ってるとは、言ってないぞ?」

 その瞬間、俺は意味を理解した。だが遅かった。

 油断した所為で殺された。だが俺にはもう一つの命があったので耐え切れた。

「これで同速くらいだろう?」

 と、言ってベルーゼが気味の悪い笑みを見せた。

「ああ、そうだな!」

 俺は時を戻すグラムを数百出して、ベルーゼに攻撃し続けた。

「そっちがその数ならば、こちらも出すとしよう」

 と、言って、同じ数ぐらいの武器が現れた。

 俺は、それを全て避けてベルーゼの横腹へと入って、攻撃する。

 だが、その瞬間背後から沢山の武器達に、攻撃された。

 こちらのグラムはちょくちょく当たってはいるが、一発でも当たれば負けのこちらが圧倒的に不利だ。

 何か、逆転の一手はないか?

 その瞬間、ベルーゼが目の前まで迫ってきていた。

「何か考えすぎじゃないか?」

 油断していた。グラム達に任せ切ってしまっていた。

 俺は空間移動で、ベルーゼを移動させた。

「なるほど、上手いな」

 危なかった。後少しでも遅れていたら間違いなく死んでいただろう。

 俺は距離を詰めて、一気に殺しに掛かる。

 もちろん、ベルーゼも空間移動使えるだろう。案の定戻された。

 だが俺に気を取られ過ぎた故に、俺の持ってる武器が何処に行ったからすら気付かない。

「どうだ?同じ事をされるのは」

 俺は、飛んで来る武器を無言で避け続ける。

 その瞬間用意していた、グラムがベルーゼの頭を貫いた。

「なるほど、そういうこともあるか」

 ベルーゼが、頭に刺さっているグラムを引き抜いた。

「絶対に殺してやる」



「凄え、速すぎて何がどうなってるのか分かんねえ、何で真はあんな実力を隠してたんだ?」

 もう体は動かせる様になっていた。

「……私は知っている、真があそこまで強くなったかも」

 そう私は知っている、真が苦しんだ、地獄の千三百万年間を、私も生きたのだから。

「本当か?なら直ぐに教えてくれ、クリス、そして、俺達に何か力になれる事はないか?」

 光達はあまり驚いていない様だった。きっと真が何かをしていた事を、知っていたんだろう。ただ内容を知らなかっただけなんだろう。

「真は千三百万年間、ずっと自分を鍛え続けた。ただ世間で言われる正義の為に、自分を騙し続けて、苦しんで自分の欲を隠してね。これが真の強さの理由よ、私を幸せにする為にね、本当馬鹿みたい」

 私は、俯いて自分のローブの袖を掴んだ。不思議と涙が出てきた。

 光は、私の肩を掴む。

「教えてくれ、どうやったら真を救えるんだ?」

 私は、首を横に振った。

「無いわ」

「そんな、何も無いの?」

 と、シノは悲しそうに声を上げた。

「本当に、何も無いんだな?」

 私は小さく頷いた。

「笑える、ふざけんなよ、あいつは自分を騙し続けて、クリスを救おうとして、その上俺達じゃ救えないだって?」

 光は、乾いた笑い声上げた。

「そんなのって、あんまりにも可哀想じゃないですか」

 シノは、今にも泣きそうになっていた。

「可哀想ねでも、結局は自分にとって、利益になるからそうするのよ、いや、そうしたら自分は嬉しいと騙したのよ。だって好きな人が幸せになって欲しいって願うのが、正しいと言われてきたのだから、子供の頃からずっと教えられた物は、簡単に崩れない。だってそれが正しいと思い続けてしまうもの。たとえ間違ってると思ってるとしても、頭の片隅に必ず居るのよ。

 だから自分の想いを、感情を信じなかった真の自業自得よ、だから可哀想なんて思うのが間違いだわ」

 すると光が、私を睨んできた。

「クリス、本気で言ってるのか?」

「ええ、そうよ」

「誰の所為でこんな事になってると思ってる!」

「分かってるわよ!そんなの、分かってるわよ私の所為だってそんな事くらい。だって真は!一生を賭けて守ってくれるって、言ってくれたもの!」

 何度だって、守ってくれたから。百年前会った時よりずっと前から、知っている。

「二人とも、落ち着いてください。ここで言い争っても、仕方ありません。私達はただどうやったら真さんを、救えるかを考えるんです。今まで私達を救ってくれた様に」

 シノは、落ち着いた目で、鋭く私と光を交互に見た。

「だから、無いんだって!言ってるでしょ?千三百万年間ずっと考えたのよ!」

 シノが頬を叩いてきた。だが圧倒的のレベル差で、痛みが無かった。

「千三百万年間?だから何ですか?その千三百万年と今の時間で考える違う?クリス?これから始まる数分かも知れない、でも数時間かも知れない。思い付かない可能性の方が高いかも知れない、でも思い付く可能性はゼロじゃない、クリス好きなんでしょ?真の事が。好きなら!真が生きてる間くらいは、真を救う事に力を割こうよ!」

 その言葉は、驚く程に私の心にすんなり入ってきた。

「好き、私は、真の事が好きよ!だからずっと一緒に居たい!」

 私は、今出せる全力で叫んだ。

 その瞬間、シノは優しく笑った。

「じゃあ一緒に考えよう?クリス」

「そう、ね」

 私は、涙を拭った。



 あれ以降、まともな攻撃を入れられてない。

「ギブアップか?真?」

「誰が、するかよ」

 正直ギブアップしたいが、諦める訳にはいかない。クリスとこの世界で過ごす為に。

「息がもう、上がってるじゃないか?」

 その瞬間、金色の武器達が現れた。

「もう一段階あるのかよ」

 ベルーゼが手を振った瞬間、武器がこちらに迫ってきた。それも先程より速く。

 俺は一瞬時を止めたが、ベルーゼに解除される。だがその一瞬で、充分に近づけた。

「死ね!」

 ベルーゼの首を見事切り落とした。だが甘かった、わざと受けたのだ、俺の様に一撃ではないのだから。俺は誘い込まれたのだ。避けた場所に、金色武器が、無数に俺を四方八方塞いでいた。

「どうだ?檻の中は?」

「最悪だよ」

「そうか、なら死ね」

 その瞬間、武器達がこちらに迫ってきた。

 もちろん、空間移動で避ける。だが甘かった、空間移動した瞬間に、武器達も一緒に空間移動された。つまり詰みだ。

 俺はここで死ぬのだ。と、前の俺だったらここで諦めていただろう。

 でも今は全力で俺の為に動いている。ここで諦める訳ないだろ、だってその先の未来が待ち遠しいのだから。

「なあ、知ってるか?武具相伝術は、武具と居た時間でも強さが変わるんだ、言ってる意味分かるか?」

 ベルーゼは、焦って攻撃を仕掛けてきた。

「時よ、戻れ」

 その瞬間、グラムに白色の時計の様な物が浮かび上がり。俺の足元に同じ時計の様な物が、大きく現れ、時計が逆回りした。

 その時俺を中心として、武器達全てを無に返してた。

「それは、人間が持って良い力じゃない!」

 と、ベルーゼが声を震わせた。

「そうかもな」

 だがこれにも多大なデメリットが、存在する。それは疲労感が時間が戻した分だけ出てくる事。そしてその分だけ脳がダメージを受ける。

 ベルーゼが、素手で攻撃仕掛けてくる。恐らく消されるのが怖いのだろう。演技は上手くいった様だ。

 攻撃を何とか避ける。反撃をするがこれも避けられる。だが、まだある背後からグラムを数十本突き刺した。

 だが、まるで煙の様に消えた。

「偽物か、何処行った!」

 その瞬間、嫌な予感がした。

 辺りを見渡した。この嫌な予感だけは、当たって欲しくなかった。

 ベルーゼが、クリス達を狙っていたのだ。

「辞めろ!」

「さあ、止めてみるが良い!」

 ベルーゼが、魔術を展開した。

 このままではまずい、どうする?どうやって止める?止めれるのか?待てよ、ベルーゼの性格は、恐らく負けず嫌いだろう。なら。

「負けを認めるのか?」

「何だと?」

 俺は鼻で笑う。

「だって、そうじゃないか、そんな事しないと勝てないんだろ?真剣勝負だと勝てませんと、言ってる事と同じじゃないか?違うか?」

「何だと?そうか、なら殺さないでやる、殺すのはお前を殺してからだ」

 予想通り、ベルーゼは負けず嫌いだった。

「は?」

 俺は、その光景に思わず声を洩らした。それは、ベルーゼが百体以上現れたのだ。それも全く見分けがつかない。

「どうだ?分かるか?」

 と声が何重にもなって声が、聞こえてきた。

 もちろん、分かるはずもなかった。



「あれは、何だ?」

 と光は驚き過ぎて、声が震えていた。

「あれは、魔術よ、ただ私は見た事も聞いたことも無いわ」

 頭に浮かんだのは、驚愕の二文字だった。

「クリスでも知らないなんて」

「でも、あの魔力まるであんまり戦った事ないように、単純だわ。もしかしたら破壊出来るかも」

 真を救う為なら、神にすら逆らおう。


 ベルーゼが、多過ぎてまともに戦えない。

「苦戦してるみたいだな?今度は同時攻撃だ」

 と言いつつ、一体一体順番に来た。相打ちを防ぐ為だろう。だがほとんど間髪無いので、避けるのも一苦労だ。

 俺は、鳥の様に高く飛んだ。

 だがこれは一時凌ぎに過ぎない。

 その瞬間、ほとんどのベルーゼが消えた。そこで理解した。クリスが破壊してくれたのだと。

「どうやら消えたみたいだな?」

「ああ、そうだな」

 だが、ベルーゼは余裕の笑みを見せている。

「性能理解した。お前はもう一度使う勇気は無い」

 その瞬間、また金色の武器達が現れた。

 デメリットがバレてしまった。

「勇気?そんなもん本当に無いと思ってるのか?笑える」

 俺は嘲笑する。

 もちろん、ベルーゼは怒っている様だ。

「舐めてるのか?そんなに死にたいなら殺してやるよ!」

 全く沸点が低い。本当に行動が読みやすい。

 武器と同時に攻撃された。

「本当に扱いやすい」

 俺は、ベルーゼの武器の何倍の量のグラムを出す。グラムでベルーゼを囲む。

「真似させてもらったよ、ベルーゼ」

 俺は、グラムでベルーゼを刺して斬りまくった。

 だが、何か気付いた様だ。そう、空間移動が使えないのだ。

 簡単な話だ。空間移動は実は使った瞬間に、移動する訳ではない。その為、距離によっては走った方が速くなる。

 では何故出来ないのか、簡単な話だ。移動する前に、時を戻したのだ。

 そして、ベルーゼはまともに戦ったことがない。

 当然だった。素人が敵の罠にまんまと掛かったのだから。避けれるはずがなかった。

 俺はもちろん、全て避けている。こういうのは、百年間嫌と言うほど、練習したのだから。

「真!お前!許さないぞ!」

 ベルーゼが、鋭い目付きで睨んできた。

「そうか、許されなくて結構だ」

 その瞬間ベルーゼが、手に金色のバアル・ゼブルに似た何かを持った。

「アパタイト!」

 バカな、そんな事があり得るのか?一つ考えか浮かんだ。だがその考えをあり得ないと思い、頭から追い出した。

 その瞬間ベルーゼから、白い天使の様な翼を生やした。そして右目のみ赤く光った。

 その瞬間、頭痛を起こした。

 こんな時に、と心の中で悪態をつく。これでもうグラムを増やす事は出来ない。

「殺してやる!」

 ベルーゼが俺と同等の速度でこちらに迫って来た。

 その時ベルーゼが、まるで別人の様に動き出した。

「支配されている。いや、渡したが正解だろう」

「どういう事だ?」

「あいつは、バアル・ゼブルに体を渡したのだ、それ故に戦闘経験が桁違いなったのだ」

「普通に強い!」

 避けるので精一杯だ。反撃の隙が無い。

「グラム何かないか?」

「一つだけある。だが命を賭けなければ無理だ、どうする?」

「今更だろ」

 俺は、グラムの問いに間髪入れずに答える。

「それもそうだな、あいつに一度でも良い我を刺して、その瞬間一気に生まれる前まで戻す、もし長すぎたら確実に死ぬ」

 俺は恐怖しながらも、笑って見せた。

「やってやるよ、そのギャンブル」

 だが、まずこいつをどうにかしなければ。

 まるで機械の様に、正確に最善の一手を出してくるこいつを。

 その瞬間、絶対になってはいけない事が起きた。そう切れてしまったのだ、俊敏倍増が、このままでは死んでしまう。案の定その隙を逃す筈もなく。俺の腹を突き刺した。

 だが俺は自分の体の時を戻して、体力が減った瞬間に戻す。そこから一気に近づいて、肩からグラムをベルーゼに突き刺した。

「終わりだ、ベルーゼ!時よ戻れ!」

 俺がそう言った瞬間、グラムに白色の時計の様な物が浮かび上がり、俺の足元にも同じ時計が現れた。時計が逆回りし始める。目の時計も逆回りする。

 その瞬間、ベルーゼの意識が戻っていき、段々体が小さくなっていき。最終的には、無と化した。

「全部終わったのか」

「ギャンブルは、負けだ」

 そう呟いて、グラムがヒビが入って割れて、消えた。

 その瞬間、翼が消えた。

 俺は、まだ猶予がある事を悟って、クリス達の方へ向かう。

「真!大丈夫なのか?」

 俺は、首を横に振る。

「俺はもう直ぐ死ぬ、だから最後に伝えたい事がある」

「そんな、何かないんですか?」

「あったけど、もう無理だ」

 徐々に死に近づいて行ってる事が分かる。俺の髪が戻っていく。

「最後だから良く聞いてくれ」

「分かったわ」

 心なしか、クリスの声が寂しそうだった。

「光が新たな王になって、魔族と友好関係を結んでくれ、クリス達はそのサポートしてくれ、これ受けっとてくれ」

 俺は、魔王について書かれてる、本を渡す。

「お、俺!?無理、無理だって」

 すると、クリスが光を睨み付けた。

「大丈夫だ、魔族は全員生き返らせてるからきっと出来る」

 俺の左目が元に戻った。俺はクリスを見つめる。

「クリス、君の事が好きだった。愛していた」

 すると、クリスはあの時の様に笑った。

「私もよ、千三百万年間ずっと」

「え?」

 俺はその後直ぐに、クリスの唇で俺の唇を、塞がれた。

「お疲れ様、真」

 その言葉を最後に、俺はこの世から消えた。

「ったく、面倒な仕事押し付けやがて、シノ、クリス手伝ってくれるか?」

「当たり前ですよ」

「そうね」

 光は大きく伸びをした。



 真が死んでから三年が経った、俺とシノは結婚して、子供も出来た。

 そして何故か、グノーシス国王は俺達が帰って来た時には、おらず。混乱してる最中、何故か勇者の俺が国王をする事になった。

 それから毎日が大変だった。でも不思議と辛くなかった。無事魔族とも友好関係を築き上げれた。ほとんど、シノと、クリスのおかげだが。何より魔族に死者が居なかった事が、大きかったらしい。

 まだ敵対心を持ってる人達も居るが、時間の問題だろう。

「本当に面倒だ。真、そっちは楽か?」

 俺は窓の外を見上げて言った。もちろん、返事は返ってこない。

 一番面倒なのが、英雄として扱われている事だ。外を出れば色々言われるし、本当に面倒だ。本当の英雄は真だと言うのに。

 俺は、シノと、子供の居る部屋に入る。

 そこにはクリスが居た。

「マコト、元気にしてたか?」

「んあーあー」

 と、理解不能の言語を喋りながら、笑う赤ちゃんが。俺の可愛らしい子供だ、マコト・ユウキだ。ちなみに性別は男だ。

「本当に可愛いわね、これが光みたいにならない事を願うわ」

「クリス、一応私の夫なんだけど?」

 一応とはなんなんのか、不安で仕方ない。

「本人居るからな?クリス」

「分かってるわよ」

 と、当然の様に言った。

「にしても可愛いな」

 俺達三人は気付けば頬が緩んでいた。

「そういえば、クリスあの件進んでるのか?」

「進んでいると思うけど、まさか千三百万年分の知識全部使っても、まだ完成できないとは思わなかったわ、やっぱり難しいわ」

「そうか、まあ、気長にやる方が良いだろ」

 あの件と言うのは、蘇生魔術だ、クリスが言うには、真がこの世界なものではないから、冥界に送られないらしい。そこで、ナナシと言う神が、真が死んだら行く場所を作っていたらしい。

 そこに居る人物は、魔術で生き返らせる事が、出来るらしい。

 理論を昔解説してもらったが、シノも分かっていない様子だった。シノが分からないのに、俺が分かる筈なかった。

 まあ、一度くらいその世界見てみたい。戻って来れないだろうけど。



「真、すまない、我の耐え切れなかったばかりに」

「別にグラムは悪くないだろ。

 それにグラムが悪かったとしても、俺が弱かったのもあるんだからさ、それにこんなに綺麗な星を見れてるんだから、そんな昔の事は水に流そう」

 するとグラムが、少し躊躇ったが「そうだな」と言った。

「ナナシも、そう思うだろ?」

「そうですね、死んでしまったのを後悔しても仕方ありません、誰のせいでもありません、この結果しかあり得なかった、と私は思います」

 と、冷静に淡々とナナシが答えた。

「俺達の最善の結果だった、そうだろ?」

「そうだな、そうだと良いな」

 と、グラムが、珍しく優しい声でそう言った。

 俺達は夜空を見上げて、そのまま黙り込んだ。不思議と気分が良かった。

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異世界の英雄は夜空を見上げる 神木真 @mvj

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