私が虜になった日【ラフィーネ視点】
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爆発に、巻き込まれたとき。
思わずあなたのことを、呼んだけど。
まさか、それで呼び込んでしまったのかしら。
だとしたら、少し申し訳ない。
…………やっぱり、あの時のことで帳消しということで。
経験のない喪女に、好き放題しおって!
本当に好き放題しおって!!まさか経験者か!?
「…………ここ、は」
魔法で眠らせたのだけど、思ったより早く起きて来たわね。
便利よね魔法。当家に伝わるものは、眠りの魔法。
犯罪か、不眠対策くらいにしか使えません。
触れないといけないから、戦いとかでもなかなか役に立たないそうなのよね。
私はそもそも、戦いなんてできないけど。
「当家の馬車です。公国に向かっています」
彼女、ティナは勢いよく身を起こそうとして、失敗した。
後ろ手に縛ってあるのよ。縄で。
仕返しです、仕返し。
「……なぜ。私は」
「先に言っておきますが。
あなたのご両親に話を持ち掛けたのは、当家です」
「!!??」
すごいお顔になってます。ちょっと気分いい。
「あの場は丸く収めた後、戦争が本格化する前に進める段取りでしたが。
あなたが手を出したので、いろいろ早まってしまいました」
「どういう、こと」
「ハッピーが魔王の手先だなんて、知ってるってこと」
「ぇ」
あんまりびっくりするものだから、ちょっと笑顔になってしまう。
「熱心に勧めるんだもの。ちゃんと読んだのよ、小説。
それでいろいろ手直ししたから、遅れに遅れて。
印刷所の持ち込みになったの」
そのことがきっかけで、爆発に巻き込まれるとは。
よかったんだか、悪かったんだか。
いえ、よくは……なかったわね。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
私のこと、理解しようと、してくれていたのに。
ちゃんと私、こっちで幸せになるから。
「それでこっち来てから、いろいろ辿ってみたらびっくりよ。
悪役令嬢の家は、そもそも二つの爵位を持っている。
私の父は、なんとサディード公国の公爵様。
そしてそちらの爵位を授けた主は、昔の魔王。
ああ、公国を今治めてるのは代理よ、代理」
「そんなこと、どこにも!」
「なかったし、調べてもわからないでしょうねぇ。
魔王の手下だなんて、そりゃ内緒だし。かなり昔だし。
ハッピーを王国に入れたのだって、当家よ」
さすがにティナ嬢、呆然としてらっさる。
しかしそりゃ私、悪役令嬢って言われるわよね!
もうがっつり真っ黒だわ。
ゲームのラフィーネとアングレイド侯爵家。
なおハッピーは魔王を憎んでるけど、それは家族を殺されたからじゃないです。
ゲーム本体をやり込むと少し匂わせがあるけど、彼女は被虐待児。
それを復活したての魔王が、救っただけ。
なんで憎んでるかって言ったら、魔王は別の女を妃に選んでるから。
弄びやがって!ってこと。
これは、小説にちょっと想像がつく程度に書かれてる。
「家族を殺されたから」というのは、あくまで他人に向けて語る表向きの理由。
で、いま彼女と組んでる、王国第一王子のカイル様。
母を妾にした上で見殺しにした国王を、そりゃあもう恨んでいるので。
ただいま戦場で行われているのは、茶番でございます。がっつり内応されている。
第二王子と歳が離れてるし、一度王太子になったのは本当なんだけど。
素行を理由に廃嫡されたのは、もっと政治的な事情、らしいわよ?
第二王子の母である正妃が、いろいろやったとかなんとか。第一王子の母の謀殺も含めて。
王侯貴族ってやんなっちゃうわよね。
私は気楽にしてたいわ。ほんと。
「私が全部考えたことじゃ、ないけど。
魔王側にも事情があり、王国側にも悪行があり。
それが複雑に絡んだところに、私はちょっかい出して。
願いを叶えようとしたのよ」
目を通していた冊子を、閉じる。
いろんなフラグやら何やらを書いていた、考察手帳。
紙やペンが普通に手に入るの、ありがたいわねぇ。ビバ乙女ゲーム!なんちゃって中世!
えーっとそれで。
うちは主君の魔王が復活したので、ずっと潜伏してた王国で蠢動開始。
もちろん、あの令息令嬢は魔王時代から関係のある家の者たち。
彼らと共に、いろいろ進めて来た。
内からはもちろん、外からの二正面作戦を強いて、王国を滅ぼす気だった。
ゲームではたぶん、その動きがばれて、先に粛清された。
私が本当に頑張って防ごうとしていたのは、
一応、自分の方もだけどね?王国内の足掛かり潰されると、後が大変だし。
ティナに見事に負けたけど。
しかしほんと……予想外の動きだったわぁ。
ハッピーがヒロインと現れなかったときは、本気で驚いた。
その時は、まさか、と思ったんだけど。
後で人づてに、ハッピーはカイル様とのつなぎをヒロインに作られたと聞いて、ピンときた。
ヒロインが、私の知ってる子だって。
それから、確証……はないから、確信を得たくて、行動を少し変えた。
学園で彼女に接触しなかった本当の理由は、それ。
私が接触せず、手の者に様子を観察させた。
案の定、彼女はゲームと違う行動をとり続けた。
これで、最低でもゲームを知る人間だと断定できた。
確信をもった私は、彼女が何らかの意図を持った味方だ、と身内に吹聴。
男爵家ごと拾い上げることに、なんとか成功した。
私の勘の通りなら、そりゃ失いたくないもの。
時間ぎりぎりだった。本当に危なかった。
しかも本人にさらに余裕を削られて。間に合わないかと思ったわ……。
よもや、破滅回避潰しを仕掛けてくるとは。
しかも私が欲しいからやと?
ある意味結果的には良かったけど、いろいろ御破算になるところだったわよ???
証拠があると言われたときは、焦ったけど。
さすがに、そんな手抜かりをする者たちではないわ。
あれはゲームを知ってるこの子の、ブラフね。
王子たちは、魔王内通の件を強く疑っていて、それでティナの提案に乗ったのでしょう。
不仲で政敵の第一王子と近い女よ?
彼らがティナのこと、信用してるわけないって。
ほんと、この子。危ないことするわねぇ。
「ラフィーネ、様、の、望み?」
普通に、名前で呼んでもいいのに。
ああでも、人がいるときについ出ちゃったら、大変かしら。
あー……愛称ってことにしましょう。いずれ落ち着いたら、だけど。
で、ご質問のお答えはぁ、ですねぇ。
私はにやり、として。
「あなたが欲しかったのよ」
やり返してやった。
「は、はぁ!?」
勢いで身を起こしながら、ティナが結構大きな声を上げた。
「最初は、尊い百合ップルを愛でようと思ってただけ。
でもハッピーがいなかったから、ねぇ。
とにかくあなたを保護する方向に切り替えた、わけだけど」
あなたは私が自身のことを、自覚したきっかけ。
でもあなたは、きっとそうじゃないって、そう思ってた。
ずっとずっと、一緒にいた、友達、だったけど。
こんな異世界までやってきて、あなたの方から、踏み込んで、くれた。
「そばに置くだけでいいかな、って。
普通に友達として、でよかったし。
少し退屈で殺伐としたこの世界も、きっと楽しくなる」
もちろん本心を言えば、その。
恋しくて、たまらなかった。
もしかしたらティナはあなたかもって、すぐにでも確かめたくて。
でもこう、腐れ縁、みたいなものだし。
嫌じゃないかな、とか。思ってましてね?
異世界に行ってまで、一緒、とか。
私はそうしたいけど、あなたはそうじゃないかもって。
ずっと悩んでた。
そうしたら、ご覧の有様ですよ。
「でも。傷物に、されちゃった。
貴族の娘としては……責任、とらせないと」
ちょっと悪戯っぽくほほ笑む、というやつをやってみた。
「どどどどどどどどうするっていうの!?」
そこまで動揺するくらいなら、我慢すればよかったのでは???
ほんと、頭はいいのにあほの子なんだから。
「魔王が魔王と呼ばれたのは、強大な魔法の力もあるけど。
そもこの大陸の宗教勢力に、反発したからよ。
逆らった点は、いろいろあるけれども。
その一つは――――魔王が女である、こと」
これが、私が大幅改稿に走った理由。
魔王は妃がいる。これはゲームにも出てくる。
でも自身の性別に明言がない。竜の姿でしか出てこないし。
ところが、小説でその記述があった。はっきりと、ではない。
世継ぎに言及する、家臣のセリフから分かるのだ。
魔王が、産む方だと。
公式百合かよむっはー!!すげぇ供給だ!!!!ってなって。
今もなってるわけです。
「魔王の国では、それは認められるということ。
意味は……分かるわよね?
私の恋しい幼馴染。
瞳と髪の色が、前とは違う……けど。
確かにあなたを思わせる、その顔が。
驚きと――――歓喜に、染まっていく。
「ぇみ、と……………………ぶっ」
なんで鼻血吹いたの!?
はんか、ハンカチ!えっとどこに……。
彼女から視線を外した、私は。
いつの間にか、縄を解いたティナ――――瑠衣に気づかなくて。
頬に、手を、添えられて。
顔が、近づいて。
目を、つぶって。
歯が、激しくぶつかった。
「んがぁ!?」「っつぅ~~~~」
揺れる馬車内でやるこっちゃないし!
というか鼻血まみれでやんな!
ついてる!この服安くないのよ!?
「ぷっく……ふふ、くくくく……」
ティナが、いい勢いで笑い出した。
そんな楽しそうにすると、怒れない。もう。
やっと見つかったハンカチで、顔を丁寧に拭う。
くすぐったそうにしている彼女の、透き通るように白い肌が。
ほんのりと、赤い。
目の端に、涙が浮かんでいて。
泣きたいのは、こっちだっていうのに。
ハンカチをしまい、汚れの残りを見るフリをして。
彼女の顔を、手で押さえて。
少し渇きを覚えてきた、私の唇を。
その水分で、湿らせる。
「ぁ、その」
ためらいがちに、彼女が私の目を見てくる。
「私、ひどい、こと」
今更そこに罪悪感覚えるの???
「悔しかったけど、嫌じゃないわよ。
私、ちゃんと良いって言ったでしょう」
強引ではあったけど、不同意ではございません。
「それは、まぁ。何かこう、諦めたのかな、と」
えぇ~……。
そんな大人しい女じゃなくってよ。
知ってるでしょうに。
「だったら、あなたが触れた瞬間に魔法を使ったわ。
納得できない?」
「……した」
そもそもドムッツリだからあんな本書いてんだよ!!
最高でした!体力なくてすごい大変だったけど!!
まだ膝が笑いそうです!!
でも正直興奮しました。またしていただきたい。
その機会は、作るから。
ティナの耳元に、口を寄せる。
少し震えるように、囁くように。
その耳元で、そっと。
……異世界に来る前からの、長年の思いを、告げる。
「ずっと好きだった」
彼女が、頬を摺り寄せてくる。
腕が、腰に、背中に回る。
「『だった』?」
私を少しさぐるような、その手が。
言葉に反して、疑いなく思いを受け取ったことを、示していて。
「そこはその、いまは、ですね。
ぁぃしてるって、やつですよ。
わかってよ」
つい、恥ずかしいセリフを、続けてしまった。
「もう一回言ってくれたら、わかってあげる」
よぉしそれはわからせを煽ってるということだな??
私は馬車の中で、無茶をしようとして。
いろんな意味で、返り討ちにあった。
ティナは、時に涙が出そうなほど笑い。
時に綺麗な声を、聞かせてくれた。
公国の屋敷に、なんとかついてからも。
いろいろなお話もそこそこに、部屋に引き上げまして。
その。続けて。二人そろって、調子に、のって。
今、私の隣には。
悪役令嬢なら今、私の隣で寝ている~破滅回避に失敗し、私に捕えられた貴女~ れとると @Pouch
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