断罪【ラフィーネ視点】

<ラフィーネの見た光景> 




「アングレイド侯爵令嬢、ラフィーネ・セレプト!


 数々の非道、許しがたい。


 私はセンシル王国王太子として、その所業を断罪し!


 お前との婚約を破棄する!!」



 やっと来たわね!



 王立魔法学園の悪役令嬢断罪イベント!


 断罪されるのはこの私、前口まえぐち 恵美えみことラフィーネ!!


 年は内緒です。聞かないで。



 乙女ゲーム『Sentence・Illusion』。


 そのゲームの、百合同人本を書いていたのだけど。


 大幅改稿になって、ぎりぎりになっちゃって。



 やっと原稿あがって、慌てて印刷所に持ち込み。


 冬の即売会間に合ったわよかったーと安堵したその時!



 たぶん隣の工場が大爆発!


 巻き込まれてアグレッシブに死んだ私!


 で。気づいたらそのゲームの悪役令嬢、ラフィーネ(4歳)になっていたのよ。



 ち が う そ の 子 は 私 の 推 し じ ゃ な い 。



 私の最推しはヒロインの親友、ハーピー。平民。通称ハッピー。


 小動物系で可愛らしいのだけど、時々ヒロインに対する感情が重い!


 覚悟決まってて湿度がお高い!しかも見た目に反して有能親友キャラ!



 こんなやつ現実にいねーよwwwwwってなりながら。


 それでもそこでしか補給できない栄養素を、摂取しておりました。


 つい滾ってハッピー×ヒロインを書いてしまった。



 しかも、即売会終わったらハッピーのアンソロやりませんか?って呼びかけたら。


 なんか結構反応よかった。


 深夜のテンションで、ハッピーセットとか名付けるんじゃないわよ私。



 私自身は、主に見て愛でる方なのだけど。


 百合はいい。


 とてもいいものです。



 でもそのハッピーが……いなかったのよ。



 自身の破滅の回避を準備しつつ、10年の貴族生活に耐え。


 やっと来た学園での、ヒロインとの遭遇イベント。


 その横にいるはずのハッピーがいなかったときの、私の絶望といったら……ッ。



 悪役令嬢ほどほどにしながら、ヒロイン・ティナとハッピーの絡みを見られる日々が!


 楽しみにしていた生ハッピーセットが!!



「――――聞いているのか!」



 おっと王太子がご立腹だ聞いてませんでした。


 ハイン王子はゲームキャラらしく、振る舞いが大仰だ。


 必要もない身振り手振りで、いろいろアッピールしてくる。



 金髪碧眼の優男、すらっとした長身、顔はもちろんとってもいい。


 中身もしっかりとした第二王子。


 第一王子は問題があって廃嫡されたので、この方が王太子だ。



 好みだが萌えない。生ハインはなんか違った。


 ちょっと大げさで、お近づきになりたくない。


 正直婚約破棄ばっちこいです。望むところだおぉん?



 彼はヒロイン、ティナ・バジール男爵令嬢をかばうように立ち、私を指さしている。


 現代ならマナー違反だけど、ここじゃ私の方が不敬なのよね。



「拝聴いたしました」



 嘘だけど。


 まぁ内容は覚えてるし。ゲームで。



「ですが事実無根です。


 ティナ嬢とはわたくし、関わったことがありませんもの」



 そう。ゲームでは婚約者を奪われそうになり、嫉妬に狂った悪役令嬢。


 ヒロインを苛め抜いて、王太子に婚約破棄される。


 そして家ごと没落して、破滅するのだ。



 だから私は、徹底的に彼女を避けた。



「残念でしたわね!


 わたくしは潔白です!


 オホホホホホホホ」



 思わず令嬢笑いでちゃいました。



 ふふん。フラグ管理は完璧なのよ。


 ただやっぱりイベントの発生そのものは、さすがに回避できないわよねぇ。


 そういうものでしょ?こういうのって。



 だからとにかく、対策をがんばりました。


 発生してしまった時に備えて、孤立しないように味方も作ったわ。



 先ほどから私の少し後ろに控える、コール伯爵令息のマイル殿。


 タイル子爵のご令嬢、リィン嬢。


 平民ですが商家のエィンリア・ゴーツ嬢。



 いずれも、当家と関係深い頼りになる者たち!


 ヒロイン・王太子にも宰相や騎士団長のご令息がついてるけど、負けはしないわ!!



 そして私は、油断しない。


 我が侯爵家は仮にこの国で没落しても、安泰よ!



 あれでも。


 王太子、断罪とおっしゃったような。


 ……つみ?何かしら。いじめで婚約破棄ではなく??



「何の話だ。ティナは関係ない」



 へ?


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