《零》と俺の代理戦争

@bokuu

第1話

僕には母がいた。父が他界してから1人で僕を育ててくれた。そんな母を僕を尊敬しているし愛している。こんなこと母さんには言わない。いや、言えない…だったか。だってもう…俺が殺したから。


1週間前、僕はある公園を見つけた。その公園にはブランコや滑り台といった遊具はない。あるのは断ち切るかのように流れている川とその川にかかる小さな橋だけだ。ただ、この公園には僕にしか見えていないゲートが存在している。川にかかる橋、それはその真ん中にある。

「やっぱりいつ見ても綺麗だな…」

赤…というより紅のような色をしているそれは僕にとっての宝物だ。だが、どうやら他の人にはこれが見えていないらしい。ゲートを見ても、触れても無反応。見えているのは僕だけ。その謎が僕の心を揺さぶる。綺麗、だがどこか不気味で近寄れない。本能があれに触れるなと叫んでいる。

「ふぅ〜…やっぱりあれってなんなのかな…」

ふと時計を見る。時刻は17時。そろそろ辺りが暗くなってくるだろう。

「次の休日は母さんも連れてこよう」

そう言い残して帰宅する。ゲートが不自然に揺れていることも知らずに。


「ただいま」

「おかえり〜■■■」

台所の方から母さんの声が聞こえる。

「なにか手伝おうか?」

荷物を置き、制服姿のまま僕は尋ねる。

「ん〜…もう夕食の準備は終わってるからね〜。あっ、じゃあお風呂入ってきて。ちょうどさっき湧いたはずだから」

「了解。じゃあお先に」

そう言って僕はリビングを後にし、風呂場に向かう。風呂は良い。一日の疲れを帳消しにしてくれる。

「はぁ〜…今日も疲れた。」

浴槽に浸かりながらそうつぶやく。

(ゲート…公園…僕にしか見えていない…それとも僕じゃなく同じ血が入ってる母さんも見えるのかな?やっぱり次の休日は母さんも連れていこうかな…いやでも…)

そんなことを考えていると母さんの悲鳴が聞こえた。

「!」

僕はすぐに風呂場から出てバスタオルを巻き、リビングに向かう。

「母さん!大丈夫!?」

「あ〜…えっと〜…ちょっと不注意でお皿を割っちゃった…てへっ」

「…」

「ごめんなさい…」

「はぁ〜…まぁいいよ。手切ってない?切ったなら怪我の近く抑えて心臓より上に持っていくんだよ。」

「大丈夫よ。ふふっ」

「…なに?」

「いや〜ね?■■■もしっかりしてきたな〜って。成長してるって思ったらなんか嬉しくなっちゃった。」

「はいはい。俺もう風呂上がるから母さん風呂入ってきて。片付けはやっとくから。」

「ありがとね。じゃあ入ってくるわ」

そんないつもと変わらぬ会話をし、その後、風呂から上がった母さんと夕食のカレーを一緒に食べる。母さんは僕が守るんだ。


次の休日、僕は母さんと共に、ゲートのある公園に来ていた。と言っても僕にしかゲートは見えないのだが。

「どう?珍しい公園でしょ?」

「そうね〜。本当に遊具もない、しかも川だけポツンとあるなんてね。」

やはり母さんにもあの紅く光るゲートは見えていないらしい。でもなにかおかしい。いつもよりゲートが大きく見える。

(気のせい…だよな)

「あっ橋がかけられているのね。渡りましょ!」

そう言って僕の手を取る母さんはとても楽しそうだ。手を引かれ、歩を進める。母さんちょうどゲートに触れたところで僕は異変に気づいた。

「あれ…?どうしたの?」

急に母さんが止まったのだ。しかも握られた手に込められた力がだんだんと強くなっていってる。

「お前、私のことが見えているのか?」

「え…?ど、どうしたの?」

その瞬間、母さんの雰囲気が変わった。なにより一人称が違う。今まで母さんが"私"なんて使ったとこ見たことない。だからそこから導かれる答えは…

「お前は誰だ?母さんはどこだ…?」

「ほぉ…意外と頭がきれるな。…でも、お前は1つ勘違いをしている。これは正真正銘、お前母親だ」

「つまり、お前が母さんを乗っ取ったってことか?お前はだれだ?」

「私はそこゲートから来た。名前は無いが《零》の称号を持つ悪魔だ。」

(…待て。こいつは今なんて言った?零の称号?悪魔?いや、そもそもとしてゲートの先に世界があるのか…?)

「…仮にお前の言うことが本当だとして、母さんはどうなった?」

「ん?お前の母親ならここにいると言ったではないか」

「違う!乗っ取られたあとの母さんの記憶、魂はどこにいったって聞いてんだ!」

「あーそれのことか。消えたぞ。」

こいつは何を言っているんだ?母さんが消えた?

「…は?」

「元より人間の器に入る魂の数など1つに決まっている。悪魔の私とお前の母親、どちらの魂が強いかなんて聞かなくても分かるだろう?」

「…」

「肉体は同じなのだ。そう悲しむこともなかろう。」

消えた…?どうして?俺がここに連れて来なければよかったのか?俺は守れなかった?なんで母さんが?こいつが殺した?殺した?殺した?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?

あぁ…もうめんどくせぇ。




"こいつが死ねばよかったんだ"




そこからはあまり記憶が無い。一心不乱にそいつを殴って…何か喋っていた気がするが覚えてない。そして…俺はそれを殺した。母さんをこの手で殺したのだ。

「雨か…」

いつの間にか辺りが暗くなり、雨が降っていた。もう誰も隣にいない。声も聞こえない。ただ、1つのものを除いて。


"参加資格を取得しました。ゲートにお入りください。■■■様"

残り23:59:00


もう何でもいいよ…巻き込まないでくれ…1人にさせてくれ。俺は家に帰ろうとする。


"ゲートから100m離れると参加資格が無効となりますがよろしいですか?"


…参加資格?つまりまだ悪魔がいる?いや、そもそも何の参加資格だ?俺にまだ用があるのか?もし俺が拒否すれば他の誰かがまた犠牲になる?…めんどくさい。

あぁ…どうやらもう戻れないらしい。俺はゲートに向き合い告げる。


「参加だ。俺がお前らを根絶やしにしてやる」


"承認が確認されました。ではルール説明をご確認ください。"


<代理戦争>

1、《零》から《陸》の悪魔はそれぞれ1人の人間を代理として選び、戦わせる。

2、選ばれた人間は何かを対価として捨てなければいけない。

3、何を捨てるかによって与えられる支給品が変わる。

4、最後の一人になった時、代理戦争は終わる。


「零から陸…つまり7体の悪魔…そしてそれぞれが代理を選ぶってことは7人の人間が戦うってことか。」

いや、それよりも問題はこの2番だ。おそらく大切なものほど支給品が良くなるってとこだろう。俺が大切なもの、それと同時にもう必要のないもの。

「あぁ…1つある」

そう、ついさっきいらなくなったもの。


「ゲート。俺は"自分の名前"を捨てる」


"承認されました。ゲートにお入りください。"


その声とともに母さんの方から携帯のアラームのような音が鳴り響く。俺はそれが何を意味するか知っている。

(あぁ…そうか。もう0時なのか)

そして振り返ることなくゲートに入る。17歳の誕生日、俺は全てを失った。

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