第27話 竜源刀使いすぎるとすぐに倒れるんだよ僕。だから温存してんの。

「何でスナオにおんぶされてるのよ! そんなんであたしと戦えるとでも思ってるの!? 思ってるのね! またあたしのことを馬鹿にしてるんでしょ!」


 と、ネネカは憤慨しながら竜源弓を発動させて走っている。


 思ってねえよ。

 ネネカと戦いたいとも思わない。


 彼女の言うとおり、僕はスナオに背負われていたけど僕はこれでも大真面目だったし、九の字に竜力の枯渇について話したときも、「戦闘が始まる前にそこら辺に倒れこむよりもずっといいよね」と言われていた。


「竜源刀使いすぎるとすぐに倒れるんだよ僕。だから温存してんの」

「はあ!? 軟弱もの!! あたしと手合わせしたとき倒れなかったじゃない!」

「あの時だってふらふらだったよ」


 ユンデたちまで現れて大変だったんだから。


 また現れるんだろうか。


 中央にある堀のそば、僕が二日前に真っ赤な魔動歩兵を討伐した船着き場に九の船はたどり着いたものの、そこから先は急な川しか存在せず下ることはできても登ることはできなかったために、こうして船を下りてヨヒラ島の中心にある小竜の墓までえっちらおっちら行軍中。


『小竜の墓』はその名前の通り、小さな竜が眠っていて、竜墓山と同じように際限なく竜の血があふれだしている場所だった。


 僕はその場所を見たことはないけれど、話によれば湖のようなところで、中央には島があり社が鎮座、そこへ続く七つの橋が架かっているらしい。


 九の字たちはすでに先行していて、道中の魔動歩兵を切り裂きながら進んでいるらしく、中央地域の道には黒いシミが散見された。


 ネネカは深く溜息をついて、


「討伐数の勝負ができると思ったのにさあ、九の字たちが先に倒しちゃうし、あんたに至ってはスナオに背負われてるし! あんた、ほんとに師匠に教わってたの!? 船から船にも跳べないし! 走れないし!」

「仕方ないだろ、跳んだり走ったりは慣れてないんだよ。戦闘特化で瞬間的な戦闘力は出せるけど、すぐに竜力枯渇するんだから」

「なんなのその戦闘法。ほんっと不器用よね。入りたての訓練生だってもっとうまくやるわよ」


 竜源刀を使い始めて三日目の僕は、じゃあ、訓練生なら落ちこぼれの部類なのだろう。


 ネネカがふんと鼻息を漏らしている隣で今度はユラが口を開く。


「…………でもあんなに速く動ける守護官見たことない。訓練生時代でも、今も」

「竜源刀使うと吐いて戦闘不能になる奴だって見たことないわよ!」


 いつでも吐いてるわけじゃないんだけど。


「とにかく! 竜源刀発動しなさいよ! あたしと勝負しなさい!」


 話ちゃんと聞けよもう。


 ただ、課題があるのは確かだった。


 ネネカとの手合わせで判明したことを整理をすると、


 ナキに完全に戦闘を任せれば、僕には思いもつかないような身体遣いと戦術で、敵を圧倒してくれる、代わりに、竜力の消費が激しく短期間しか戦えない、そして竜源装の力は半減以下になる。


 対して、僕が竜源装を全力で使えば、爆発的な威力を発揮して突進、敵を置き去りにできる、代わりに、竜力を結構消費して、おまけに吐いて戦闘不能になる。


 ナキが僕の腕など体の一部だけを遣い、僕が他の部分を動かすという折衷案をとれば、竜力は長持ちするが、決め手には欠ける。


 結局、一番の問題は竜力が枯渇することで、節約しながらある程度の成果を出すというやり方を未だにできていない。


『使い始めて三日でそれをやれというのも無理があると思いますけど』


 ナキが溜息交じりに言う。


 そうだよなあ。


『ところで主人様。いつになったら飴玉を食べさせてくれるのですか。早く取り憑かせてください』


 僕の話ちゃんと聞いてたのか?

 万全の状態で妖精の華の討伐に臨みたいって言ってんの。


『でもでも! 取り憑くだけなら問題ないでしょう? 別に身体を動かすわけではないのですから! お預けなんてひどいですよお! ねえねえ! 早くぅ! 早く早くぅ! 早く早く早く早く早く早く!!』


 耳元でナキにガンガン叫ばれて僕は顔をしかめた。

 わかったわかった。ったく僕も甘いなあ。


『飴玉だけに』


 黙ってろ。

 僕が胸元から紙に包まれた飴玉を取り出すとナキが耳元で叫んだ。


『うっひょーーーーーーーーーーーーーーー!!』


 飴玉一個で興奮しすぎだろ。


『当たり前じゃないですか! を初体験できるんですよ!! 何年も何十年も目の前でおいしそうに料理もお菓子も食べる所有者たちが羨ましくて羨ましくてもう仕方なかったんですから! それが、今、妾にも体験できるんですから! 興奮しない方がおかしいですよ!』


 僕は懐から取り出した飴の包み紙を開いて、ネネカたちにバレないようにこっそりと刀を握り、発動させる。またもや全身に冷たい感覚があって、ナキが取り憑いたのがわかるや、彼女は、右手の人差し指と親指で飴玉をつまむと太陽に透かした。


 うっとり。


『ああ、やっと食べられるんですね。美しい。なんて綺麗なんでしょう。まるで宝石のようです。この素晴らしき菓子を発明した方と、まさにこの飴玉を作ってくださった方と、それを妾に届けてくださった九の字と、そして、この感覚を味わわせてくださる主人様と、海と自然と大地と、全ての生命に感謝して――――いただきます』


 竜にも感謝しろよ。守ってもらってんだから。


 というか、大げさだった。

 僕がバレないようにしているのが無意味なくらい、


 大げさすぎた。


「何あたしを無視して飴玉食べようとしてんのよ!!」


 ネネカの殴打が僕の脇腹に的確に当たった。


 うぐ!


 瞬間、僕がつまんでいた飴玉がちゅりゅうんと飛び出して宙を舞う。


『くっ、逃がすか!』


 親を殺した仇がさらなる殺人を目の前で起こし、馬に乗って逃げようとするのを見たかのように言ってナキは飴玉を睨みつけ、竜源刀を発動させることこそしなかったが、素晴らしい反射で飴玉を掴んだ。


『あぁあ妾の飴玉ちゃん!』


 と安堵の溜息を漏らすと、ナキは僕の身体でキッとネネカを睨み、


「この、ぺったんこ! 次、飴の邪魔をしたら容赦しない!」

「ぺ、ぺぺぺ、ぺったんこおおぉお!? あるもん! あたしにだってあるもん!」


 涙目のネネカ。結構気にしていたらしい。


 まずいことを言ったな、

 ナキが。


 と言うか僕の口で勝手に喋るな。


 当の本人であるナキは飴玉に埃が付いていないか確認して、


『ああよかった。救い出すことができました。妾の初体験が地面の砂やら埃やらにまみれてしまうかと思うと気が気ではありませんでしたからね』


 そう言ってまたうっとりと眺めたあと、


『さて、ではいただきます』


 彼女は飴玉を口へ運ぼうとした。






 果たして、それは叶わなかった。


――――――――――――――


次回は明日12:00頃更新です。

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