第17話:BSS(僕の方が先に好きだったのに)

「なにすんの!? やめてよっ!」

「僕はキミが好きだっ! 僕と付き合ってくれ!」


 公園に入ると、笑川が黒いパーカーを頭まで被ったやせ型の男と揉み合ってるのが見えた。急いで二人に駆け寄る。


「あ、あんた誰っ?」

「今までずっと、キミを遠くから見ていた。なのに最近キミは変な男と一緒に歩いてるのを見た。僕の方が先に好きだったのに! もう我慢できない! 僕と付き合ってくれ!」


 もしかして変な男って俺のことか?

 いやいやいや!

 圧倒的に変な男に、変な男認定されちゃいましたぞ俺。


 ──って言うか、ストーカーは湯上さん以外にも、もう一人いたのか。

 あの口っぷりからすると、今まで駅から自宅の間でストーキングしてたのはコイツっぽい。


 湯上さんは学校だけのストーカー活動だったんだ。

 先入観で、一人だと思い込んでいた。くそっ、俺って間抜けだ。


「おいお前、笑川の手を離せ!」

「あっ、ホムホム!」


 俺の声に振り向いた笑川は、恐怖に歪んだ顔をほころばせた。


「くそっ、変な男が来やがった」


 だから圧倒的に変なのはお前だろ。

 やっぱコイツムカつく。


「変な男はお前だよ!」

「引っ込んでろカス。この子は僕のもんだ」


 ムカつく。殴ってやりたい気持ちになるけど、変に近づいて笑川に危害を加えられたら厄介だ。だから迂闊なことはできない。

 じりじりと距離を詰めながら、まだ手の届かない距離で男に言葉をかける。


「その手を離せ。この変態ストーカー野郎」

「は? 僕を変態扱いしたな。ムカつく。お前、痛い目に合わせてやる!」


 ストーカー男の目つきがギロリと変わった。

 コイツの怒りのツボを押してしまったみたいだ。ヤベ。


「ヤバいて! ホムホム! あたしのことは置いて逃げてよっ!」

「そんなことできるはずが……」

「おりゃぁっっ!」


 ──うわっ、なにすんねんっ!?


 ストーカー野郎が突然笑川の手を離して、ボクシングのようなフォームで俺に殴りかかってきた。

 なんとか見切れるパンチのスピードだ。身体を斜めにずらしてパンチを避けながら、相手に向かって一歩踏み出す。


 そして腰を落として、正拳突きをバシッと繰り出した。

 ……ただし顔面への寸止めで。


「ふわぅっ!」


 突然の反撃に驚いたストーカー野郎は、腰砕けになって尻もちをついた。

 見下ろしてキッと睨みつける。


「警察に行こう」

「お願い! もうしませんから許して!」

「ホントか?」

「ホントです!」


 俺は腹の底から搾り出すような迫力ある声で脅しをかける。


「二度と彼女に近づくな。もしもまた変なことをしたら、今度は本気でお前をブッ潰してやる」

「わわわ、わかりました。ごめん! ホントにホントにもうしないから許して!」

「ホントか?」

「ほ、ホントです!」


 身体中がガクガクと震えているし、まあ信用できそうな感じだ。


「わかった。じゃあ身分証明書を見せろ」

「身分証明書……?」

「嫌なら警察に突き出す」

「は、はい、わかりました!」


 男はズボンのポケットから財布を取り出して、中からカードのようなモノを取り出した。

 受け取るとそれは大学の学生証だった。


 俺はそいつの大学名や名前を記憶して、学生証を男に返した。


「早くどっか行け」

「は、はいっ!」


 男は慌てて立ち上がって、そのまま早足で駆けて行った。

 これでひと安心か。


「ホムホムありがとうー! すごいね!」

「いや、たまたまだよ」

「んなことないって。もしかしてホムホムって空手やってた? 身のこなしが経験者って感じだし」


 うわ、バレた。

 笑川ってやっぱ鋭いな。


 俺は小さなころ身体が弱くて、鍛えるために小学生の頃から近くの空手道場に通ってた。


「まあな」

「やっぱりね」

「あ、そうだこれ。返すよ。たまたまそれを渡しに来たんだ」


 笑川に和田の手紙を渡した。


「どう処分するかは笑川に任せるから」

「わかった。ありがとう」



 そこから笑川の家まで送って行って、玄関先で別れた。


「じゃあな」

「うん。じゃ、また明日!」


 笑川は玄関先に立ったまま、俺が自宅に向けて歩くのをずっと見送ってくれていた。


 これで今度こそ本当にストーカー事件も解決だな。


 ──あ、そうだ忘れてた。

 ふわり先生にも報告しなきゃいけないな。


 明日学校で報告しよう。

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