おどろかせ方

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おどろかせ方

 いつも通りの帰り道。


 今日は、僕と男3人で心霊スポットの廃屋を数軒回った。その様子は、持ってきていたカメラで撮られており、助手席に座っている男が確認している。


「いやー、今回のはバリ怖かったわ」

「それな! ちょっとした音にもビビりまくりだったわー」


 今見ているのは、壁にかかった額縁を僕が落としたところだ。


 驚かせてみんなの反応を見ることが大好きだから、いつも調子に乗って物を落としたり、椅子を動かしたりして音を立てる。


 人数が多いほど色んな反応が見れるから楽しかったんだけど、少しやりすぎてしまったとも思っているので軽く謝った。


 罪悪感は全くないんだけどね。


 その後も、動画を見返しては盛り上がっていた。どうやら今回は収穫が多かったらしく、動画を編集して投稿するつもりらしい。


「つーかさ、お前めっちゃ荒らしてたよな」

「あー、まあ廃屋だし。使われていないならいいだろ」 


 確かにあれはやりすぎだと思った。


 さっき見ていたのは一軒目だったのだが、二軒目で調子に乗ったのか床材を踏み抜いたり、落ちている人形を蹴り飛ばしたりと、何とも罰当たりな行動をとっていた。


 それに対して別に止める気はなかったから、何もやっていない。


「なあ、何か寒くね?」


 突然隣にいた男が訳の分からないことを言ってきた。


「はあ? 何言ってんだよ」

「別に俺らは寒くないけどよ。風邪ひいた?」

「んな、すぐ風邪ひくかよ。気のせいなのかなぁ……」


 隣にいる男は首を傾げながら腕をさすっていた。僕も寒さは感じていないため、前の男たちと同じ反応を取っている。


 罰当たりなことをしているわけだし、その報いがきたと思えば自然なことのような気もする。


 ふふっ。


 なんだか嬉しくなってきた僕は思わず笑ってしまった。


「……なあ、今な……って、うわ!?」


 運転していた男は前の車とぶつかりそうになり、急ブレーキを踏んだ。僕は飛ばされないように踏ん張ったが、間違って窓に手を置いてしまった。


「あっぶねえな! お前! どうしたんだよ」

「い、いや男の子の笑い声が聞こえたような気がしたから……」

「はあ? お前までイカれたのか? とりあえず近くのコンビニで休むか?」


 深夜ということもあり、疲れがたまってきていた体に休憩を入れようとコンビニに向かうようだ。


 とりあえずこの張り詰めた空気に乗っかって、僕も黙っているとしよう。




 程なくしてコンビニに着いた男たちは、一度下車して外の空気を吸いに行った。

 僕もずっと車の中にいるのは飽き飽きしていたため、外に出た。


「なあ、さっきの笑い声とかどうかってなんのこと?」

「……いや、さっきよ。俺の後ろから『ふふっ』ってちょい甲高い男の子の笑い声がしたんだよ」

「んなわけあるかよ。お前の後ろっていったら俺の隣だろ?」


 男は面白おかしく笑い始めた。


 僕は何が面白いのか分からず、ただその男の隣に立ち尽くした。まだ悪寒がするのか、腕をさすっている。


「なあ、ちょっとこれ見てくれよ」

「んー? ってナニコレ!? 手形!?」

「……お前、これ、中にないか?」


 男たちは僕がいたほうの窓を見て目を見開いていた。


 まあ、僕は色んなものを触っていたわけだし、どれも汚かったからその汚れがついちゃったんだけどね。驚いてくれたなら良かった。


 じゃあ、おまけに。

 えいっ。


「ひっ!? 車の後ろから何か音しなかった……? ボンってさ!?」

「ああ、俺も聞こえた……」

「俺も……」


 男たちは恐る恐る車の背後にまわり、『ソレ』を確認すると一目散に車に乗り込んだ。


 声を荒らげながら力強く開けられるドアに僕は思わず大笑いしてしまったが、それはエンジン音でかき消されているようだ。


 僕はコンビニの前にひとり取り残される形になってしまった。ここから潜んでいる場所までは遠いのだが、もう慣れた。


 あーあ、今日も楽しかった。


 たまに、僕の姿がもいるから困るものだよ。


 ほら、コンビニの店員さんが僕と目があったらすごい形相をしちゃって、腰が砕けたように座り込んじゃったよ。


 さーて、次の迷惑者おきゃくさんはどうやって懲らしめおどろかせようかな。

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