4章第6話 締め付けチェス

 サーキュに説明を終えたところで、サーキュは激怒する。


「何なのよこれは? デスゲームなんて聞いてないわよ」


「あれ? ウィンドウはちゃんと説明してなかったのかな?」


「こんなのごめんよ。締め付けられてあばら骨を折られて内臓に心臓をやられて死に至るってわけでしょ」


「そういうこと。でももしあなたが私に勝てたらもらっていきなさい。大金、金貨1000枚!」


 私はうさ耳のメイドさんに金貨1000枚を見せるように指示を出し、サーキュを驚かせる。


「嘘でしょ。もらえるってこと?」


「勝てたらね。でも負ければ死ぬわよ」


 サーキュは動揺する。サーキュの人生は借金とニート。もし1000枚の金貨を得られたら借金はなくなり一生ニートで暮らしていける。もちろんそれは勝てたらの話。負ければ死。


「本当なのね」


「もちろんだとも。でも気を付けたほうがいいよ。駒を取られ過ぎたら、チェックメイトを待たずにあなたは死ぬことになる」


「どういうこと?」


「簡単なこと。普通人間も亜人も、体をこの拷問道具で滑車一回転につき20回分ロープで締め付けられれば死ぬ。つまりホーン全てと、クイーンを取られれば19点。ルーク2個とクイーンで20点。それらを取られるだけで終わる。もちろんホーン全てとナイトとビショップをとられて16点分の駒を取られた場合でも、人は正常ではなくなり、血液に酸素が回らず呼吸困難となって終わる。もはやチェスどころではない」


 これは、か弱い女の子のふりをした悪魔を排除するためのチェスゲーム。締め付けチェス。


 勝てば幸福、負ければ地獄のデスマッチ。普通の人はこういうチェスはやらないだろうけれど、サーキュはやるようだった。


「やるさ、お金が手に入るならやってやる」


「その勇気は認めるよ。でも、果たして生き残れるかな?」


 脅しをかけるも動じないサーキュ。私はそんなサーキュの精神がいつまでもつか、このチェスを楽しもうと思う。


 まずは先攻のサーキュから。最初にサーキュは私から見て左側のナイトの前にあるホーンを2マス前に動かす。


 これはビショップやナイトを動きやすくするための良い手。


 それに対して私は私から見て左側のナイトを動かす。


 サーキュはこの動きは何なんだと思った。


「(何だこの動きは? ナイトをおとりだって? じゃあホーンでとってやる)」


 サーキュはナイトを狙ってホーンを動かし始める。私はナイトをあえて確実に取られないマスに移動させる。


サーキュもそれを狙ってホーンを動かしたり、ナイトにビショップを動かす。


 右側の私のナイトも動かし私のナイトをちらつかせサーキュに取らせる。


 サーキュは喜んでいたことだろう。ここでクイーンを動かしてキングを取り早めに決めてしまおうという事を。


 しかしサーキュは勘違いしている。クイーンを敵陣に移動させることはこのチェスでは危険。


 クイーンでナイトを取ったサーキュだったが、その位置にはもう1個の私のナイトの駒で取れる位置。


 クイーンを取られてもその位置であればビショップで取れると思っているのだろう。


 私は容赦なくナイトでクイーンを取った。


 この時に私はサーキュに話す。


「まんまと罠にかかったね」


「罠だって?」


「罠だよ。初めからこれが狙い」


「どういうこと?」


「私の狙いは初めからクイーン。ナイトを動かしていたのはサーキュがクイーンを取るための誘導。誘って取るつもりだったの」


「しかし、レーモンは私のクイーンを取ったことを代償にナイトを2つも失ったよう。これは痛いんじゃない?」


「どうかな? それはクイーン9点分の痛みを受けてからだねえ」


 うさ耳のメイドさん達がそれぞれの滑車を9回、ゆっくりと回した。


 むしろここからが本番。このデスゲームを舐めた痛みを味わってもらう。


「うう、痛い。お腹がきつい……」


 余裕な感じを見せていたサーキュが、うさ耳のメイドさんに滑車を1回転ロープで回し締め付けられただけで焦りだした。


「まだよ。あと8回分そんな思いをしてもらうから」


 うさ耳のメイドさん達は手を緩めず、滑車を回す。


 ゆっくりと締め付けられていく恐怖は恐ろしく、サーキュは暴れ狂う。


「いやあああああ! 苦しい! 痛い! 助けてえええ!」


 暴れまわっても縛られている状態では取り押さえる必要もなく一石二鳥。


 むしろ暴れ狂いながら発狂し、もがき苦しむ姿を見るのは私にとって裕福。それが若いのにクズの女の子であるならなおのこと。


 美しさを武器に人を陥れたり、自らの欲のために人を殺める者はこのような拷問を受けて当然の結果だ。


「レーモン、いやレーモン様! お願いします! もう許して……お金いらない……」


「何を言っているの? まだクイーンを取られただけじゃない。あなたにはまだ勝機はある。大金である金貨1000枚を得ればあなたは助かるんだよ。痛い思いもしないし命も助かる」


 滑車9回転分締め付けられたサーキュ。すでに腹も足も赤くなって血が少しずつ出てきている。


 しかしまだ息はある。


「はあ……はあ……」


 息はある。しかし、クイーンをとられた分の痛みと未だに9回分ロープで締め付けられた状態のままはまともに呼吸が出来ない。考えて駒を動かせるかの問題だった。

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