4章第2話 レーモンによるチェス勝負

 私はアマクサ王子とゴーケツ、そしてウィンドウとチェスで勝負をしていた。


 私があまりにも強いため、3人は何度勝負しても勝てない。


 朝から晩まで食事休憩を挟み、チェスを続けるも私は強かった。


 これにアマクサ王子は驚く。


「いやあ、レーモンは戦闘だけではなくチェスも強いんだなあ。これはゲームとかギャンブルも強いんじゃないか?」


「ギャンブルはしませんよ。だって大金を失いますし、私は既にお金があります」


「そうか、お前はありったけのお金を持っているんだよな」


「はい、私のような者はむしろ借金でギャンブル好きの相手をするべきです」


 レーモンレベルでは裏カジノを経営する側。お金を得ることなど容易だった。そんなレーモンにウィンドウが提案をしてくる。


「レーモン、じゃあある高級宿でギャンブラーの相手してみない?」


「ギャンブルの相手?」


「そう、ギャンブルをするのではなく、そのギャンブルをするクズ野郎の相手をするの」


「なるほどねえ。面白そうだね。でもそれって出来るの?」


「問題ない。私は元闇組織の人間。未だに闇組織で密かに貧乏ながらも裏カジノを経営している兎耳の亜人がいるから」


 ギャンブルと聞いて兎の耳。まさにセクシーな女の子を想像する。


 楽しみになった私は明日に出発してウィンドウにその子を紹介してもらうことにした。


「行こう。明日にでも!」


 アマクサ王子とゴーケツとはお別れになるが悔いはない。アマクサ王子は握手をして話しかける。


「そうか、行ってしまうのか?」


「今生の別れじゃないです。また暇になったら会いに行きます」


「いつでも来いよ。俺らは触れ合った仲なんだからよ!」


 これには私も顔が赤くなってツンとなってデレる。


「なっ何よそれ! そんな話しないでほしいです! 別に気持ちよかったって思ってないんですから!」


 アマクサ王子の前では時々こうなる。でも悪い事じゃない。アマクサ王子はツンデレが好きだから。


 私はゴーケツにもお礼を言う。


「ゴーケツ、色々とお世話になったわね」


「いえ、俺も楽しかったですぜ。また何かありましたらここに来てください」


「うん。その時は部下も増えているかな?」


「さて、それは分かりませんぜ」


 こんな話をした後、私達は風呂に入って寝る。


 翌日、目を覚ました私とウィンドウはアマクサ王子とゴーケツに別れをつけると、屋敷の車庫に入れてあった馬車に乗って高級宿を目指す。


 その高級宿はスプリング王国にもメサイア王国にもない深い森の中にあった。


 到着は夜。ライトがつく魔法具で灯りを照らし、高級宿へ着く。


 その高級宿は古びたお屋敷のようで、ロビーは広い。お客さんの気配がなく受付に人はいない。部屋の明かりは全てロウソク。


 薄暗く人が泊まっているとは思えない。こんな場所に来る人はいないだろうとは思う。


 私はウィンドウに高級宿について聞く。


「ウィンドウ。ここが高級宿」


「高級宿、だった場所だよ。でもここが森で魔物も多く宣伝をしても客が来なくてさ。魔物はあまり出ないとはいえ、廃業になって闇組織のたまり場になった」


「闇組織にたまり場って……」


「大丈夫、言ったでしょ。私は闇組織の人間。だから問題ない。それに」


すると、部屋から何人かのバニーガールではなく、兎耳のメイドが何人か出てきた。


 メイドはウィンドウにお辞儀をして挨拶をする。


「お帰りなさいませ、ウィンドウ様」


 これに私は疑問に思う。


「ウィンドウってここの主?」


「そう、ストーム王子にこの建物の管理を任されている。でも仕事でここにはあまりいない」


「そうなんだ」


「そこで、レーモンにはしばらくここで私のかわりにこの宿をお願い」


 ウィンドウがこの廃宿を任すのはおそらくストーム王子に会うだけではなく、私のギャンブルの対戦者を連れてくるためだろう。


 私はウィンドウの考えを察する。


「要するに、ストーム王子に会ってこれまでの事を報告した後、私の相手になる人を連れてくるんでしょ?」


「察しがいいね、レーモン。この屋敷とやるゲームは任せる。デスゲームでもいい」


「デスゲームか。元闇組織の亜人だよ。怖いこと言うなあ」


 何故だか分からないが狂った気持ちになりそうだ。ギャンブルで人が苦しんで死ぬところを見るなど普通ありえないこと。しかし異世界に来て大金を持つお姫様になったことで、私は狂ってしまっている。その表情が顔に出ていた。


「レーモン、にやついてる」


「ふぇ? ごめんウィンドウ。おかしかった?」


「いい、むしろそれが対戦相手を恐怖させる。あとここのメイドはレーモンが好きに命令していい」


「ああ、分かったよ」


 それだけを言ってウィンドウは馬車で廃宿を後にした。


 私はまずこの宿に名前があるかを青髪のうさ耳メイドに聞く。


「あのさ、この宿の名前は?」


「名前はありません」


「そうなの? じゃあ私がつけてもいいかな?」


「どうぞ」


「そんな簡単に……」


 私はとりあえず廃宿の名前を付けた。


「じゃあ、この宿は森にあって闇って感じだから……ダークフォレスト」


「ダークフォレスト。良い名前です」


「そうかな?」


 名前を付けるのは得意ではないが、うさ耳メイド達が納得するなら良しとした。

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