2章第10話 東の町を目指す

 居酒屋でワインを飲んだ後、私はストーム王子と港町の高台へ行く。


 そこは4階の屋上であり、スプリング王国だけではなく様々な場所を見渡すことが出来る。


 ストーム王子は東の方を指さす。


「あの場所、メサイア国は数日前に魔物達の活性化で滅んでゾンビ系の魔物が多く集まるとかで廃墟のようになったんだ。


「国って魔物に滅ぼされるんですね」


 生まれた時から村や国が魔物に滅ぼされるなんて話はよく聞く話。そのためストーム王子はスプリング王国がそうならないように警戒していた。


「跡目争いとか内紛で魔物が好機と見て襲ってくる。実は俺も従弟と跡目争いの最中だ」


「そんな」


 このような現実を突きつけられ私は悲しくなる。もしスプリング王国の跡目争いに巻き込まれたら私はストーム王子の味方をするべきかどうかも悩むところだ。


「でも今は大きな争いごとはないし、こうやって遊んだり新しい温泉を見つけたりしているわけだ」


「ですが、本格的な争いになれば私はどっちに味方すればいいか」


「気にしないでよ。そうはならないと思う。かわいいお姫様を跡目争いに巻き込むなんてやってはいけないことだ」


 本物の王子様にかわいいお姫様と言われて私の心臓はドキドキする。そして顔が赤くなる。


「お姫様……」


「レーモン? どうしたの?」


「うれしいのです……本物の王子様に……お姫様って言われたのは」


「何言っているんだ。女の子なんて誰だってお姫様だよ」


 ストーム王子から卑怯な言葉を言われて泣いてしまう私。これにはストーム王子も焦る。


「ああ、どうしたの? 泣いちゃって」


「だって……そんな言葉……私なんかが聞く権利なんてないです」


 思えば転生前は男で、お姫様好きなあまりにそういったグッツを買いあさる変態で小さな女の子がいれば着せ替え人形のように楽しんでいた。


 そんな男をストーム王子のようなイケメンでまともな青年は気持ち悪がって当然だ。


 しかしこの世界で女の子になってお姫様の格好をしているだけでストーム王子からお姫様として見てくれるのだからこれ以上に嬉しい事はない。


「この夜景を見よう。海と言いその先のスプリング王国の町の夜景は綺麗なんだ」


 タワーなどで見る夜景よりは地味でも、今の夜景は美しすぎる。


 この建物は一般市民でも入れるがこの夜景はお姫様でなければ見れない夜景だと思っている。


 何しろストーム王子と夜景を眺めているのだから。


 今はこの町にいようと思う。しかし最初にストーム王子が言っていたメサイア国も気になる。


「今は夜景を見ていたいです。その後、ストーム王子が言っていたメサイア国にでも行ってみます」


「そこは危険だよ。何よりもゾンビ系の魔物が危険だ」


 ゾンビ系の魔物はがいこつにミイラ、そして死体の魔物。ランクはEランクで大人の一般市民でも武器があれば勝てるほどの敵だが、仲間を呼んで集団で集まれば危険。


 しかも敵はゾンビ系の魔物だけではなく、巨大なハエの魔物。おおハエに大きなねずみの魔物であるおおねずみなどもいる。


 しかも素早く行動できるゴキブリの魔物であるデビルコックローチなど様々な魔物がメサイア国の廃墟に潜んでいた。


「お姫様になる夢は達成しました。次にやりたいことは何もなくて文明が滅ぼされた町で自由に暮らすことです」


「どうかしているねえ。それに何もないとか言ってさっきも言ったように魔物が多いんだ。どう考えても人が住んでいい場所ではないよ」


「だからこそいってみたいです」


「そうなんだね……」


 私の熱意にストーム王子も呆れたが、私の事を心配しての事だろう。


 お供としてウィンドウを同行させることにした。


「その時になったらウィンドウを同行させるよ」


「ウィンドウを?」


「彼女は元闇組織の亜人で結構腕がいいから、頼りになるよ」


 元闇組織の人間というのは驚きだが、亜人なら理解できなくもない。このストーム王子は闇組織の人間であっても能力や才能があれば自分の部下にして重用している。


 ストーム王子は今日出会ったばかりの私にも優しく接するし民にも優しい。


 こういう人が跡目争いをしているなら勝たせてあげなければいけないと私は思った。


 私はストーム王子の案内でストーム王子の宿泊先の宿へ行き、特別にウィンドウと同じ部屋で寝ることになった。


 2人部屋でベッドが2つあることや海の長めがいい。


 ウィンドウと同じ部屋で寝る理由はストーム王子が私とウィンドウが仲良くなれるようにするためなのと、ウィンドウに私を護衛してもらうという狙いがあった。


「じゃあ、これからよろしくね。ウィンドウ」


「まあ、ストーム王子の命令なら仲よくしないこともない」


 銭湯では体を触れ合った仲なのだからきっと仲良くできる。私はそんな風に考えていた。


 一方でウィンドウも私が専用のパジャマに着替えると、つられて自分のパジャマに着替える。


 私のパジャマは普通の黄色と白のボタン付きパジャマで下も長ズボン。


 ウィンドウは黒いワンピース。


 一緒に寝れば意外にも私がウィンドウに百合感覚で支配されそうな感じだ。

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