1章第8話 宿で宿泊

 料金を両替した私は、身分証明書を発行するために役所へ向かう。


 そこの手続きで役所のおじさんが笑顔で私に話しかける。


「レーモンちゃんっていうのな。10歳にして両親もいないのに文字の読み書きが出来るなんてな」


「本を読んだり書いたりは趣味だよ」


「そうかいそうかい。将来は立派な学者さんかなあ?」


 そう言って喜ぶ役所のおじさんは私を見送る。


 そろそろ日が暮れてきたので私は宿屋に入る。


 受付の看板娘がテンション爆上がりで話してくる。


「いらっしゃいましー。宿屋スカイマリンの看板娘、マリアンとは私の事だよーん」


 服装は宿屋の娘らしいバンダナとメイド服のような作業服を着た高校生くらいの子。


 私はポカンとする。


「どうしたのかなお嬢ちゃん。迷子かなあ?」


 突然のテンションの高い挨拶で上手く返せないが、私は宿泊できないかを聞く。


「宿泊したいの。出来れば1ヶ月。家が手に入るまで」


「ほほう、不動産予約をねえ。小さい子供が不動産は珍しいねえ」


 この世界では歳はいくつであっても家を買うことが出来る。しかしそれはお金があればの話でなければ買えない。だからこの世界でも大人が家を買うという常識になっている。


「でもこの宿屋で一カ月連泊出来るほどの余裕があるってことだね。もちろん受け入れるーよ」


 1ヶ月の連泊は金貨30枚だった。私は金貨30枚を出してマリアンちゃんに部屋を案内される。


 そこはごく普通の1人部屋。ベッドがあって夕食も普通にある。


 風呂場がないのは残念でも、どこかでまたドラム缶風呂に入ればいいと私は考えていた。


 夕食の時間となり私は夕食を食べて寝る。


 次の日、起床して朝食を食べ終えた私は図書館へ向かうために朝から出かけるとマリアンちゃんが声をかける。


「待って。家探しかな?」


「あー、それもしたいんだけど、昼までは図書館へいこうかなと」


「そうなんだ。お昼は私とお出かけしようよ」


「でも看板娘の仕事は?」


「そんなの私よりも年下の子に任せればいいの。今日私午後は休みなんだ」


「うん……じゃあ宿屋で待ち合わせね」


「私が図書館に行くよ」


「行ってくれるの?」


「当り前じゃん」


 私はマリアンと待ち合わせの約束をした後、図書館に向かって調べものをした。


 こういう時の図書館での勉強は役に立つ。


 重要な情報は図書館で購入した記録ノートで記録。書くペンは羽ペン。


 羽ペンは文字を書く練習をしていた時から使っていたから使い慣れていた。文字を消せるアイテムはない為文字を間違えたら新しく書き直すのが厄介だった。


 しかし記録ノートは私専用なのでそんなことは気にしない。


 ここでもポーションの作成や、この世界の歴史など様々なことを学んだ。


 もちろん小説や説明文も読む。


 そんなことをしているうちにもう昼となりマリアンちゃんが図書館にいる私を探していた。


「レーモンちゃん」


「ああ、マリアンちゃん」


「もうお昼だよ」


「そんなに?」


「勉強熱心だね」


「私の楽しみはこれくらいしかないから」


「本は借りれるから宿で読んだら?」


「うん」


 マリアンちゃんの言葉を参考に私は使えそうな本を借りてレンタル料として10冊の本を1週間借りるのに銀貨1枚必要だったため、私は銀貨1枚を出して10冊の本を借りる。


 そしてマリアンちゃんと出かける。


「本なんて読めないよ。文字が読めるレーモンちゃんはすごいね」


「そう……ですか?」


「ところで文字ってどうやって覚えたの? 生まれてからじゃ分からないじゃん」


「ああ、それは」


 確かに生まれた時、言葉は分かってきても文字は分からなかった。両親も文字は分からなかったようだが、文字を覚える本を買った私は基本的な文字を解読した。


 それは私のような子供でも分かりやすいものだった。


 基本の言葉を解読した私は応用なんかも読めるようになり、やがていろんな本や言葉を知るようになった。


 私はそのような話をマリアンちゃんに説明する。


「それもう才能というか天才だよね」


「そうなのかな?」


「自覚ないって怖い」


 多分才能なのかもしれない。私はそう思った。


 マリアンちゃんは昼食でマリンブルンのレストランに案内した。そこの料理がおいしいようだ。


「ここはこの町の三ツ星レストランなんだ」


「そうなんだ。何を食べれるの?」


「まぐろだね。ぷりぷりとした大トロが一番なんだよ」


 このレストランは海鮮料理がメインの店で特におすすめなのはマグロの大トロの刺身のようだった。


 転生前にも私は、大トロは味わったことがあるが高いもの。


 この世界にもまぐろがあるのは驚きだが、どんな味なのかを体感した。


 その味はほっぺが落ちるほどに美味しかった。


「すごくおいしい」


 両親に見放されて心がもやもやしていたのが一気に消えたような感じだ。


「良かったよ。レーモンちゃん、あんまり元気じゃない感じだったから。おいしいものを食べれば元気になるんじゃないかって」


「ありがとう。このお礼は必ずするよ」


「お礼なんていいよ。それにレーモンちゃんはこれからこの町で暮らしていくんでしょ? だったら仲良くなろう」


「うん」


 私はこの世界で初めてのお友達と呼べる人を手に入れた。

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