第3話 強壮薬
さっき会った大男が部屋に来て教卓のようなところに立ち、皆を椅子に座らせた後研修をしだした。
「研修生である君たちには、解体の仕方や迷宮について解説しよう。まず、このゴブリンを見ろ」
金属と金属が擦れる音がした扉の方を向けば、首に鎖を繋がれている醜悪で少々体の大きさが不釣り合いのゴブリンだった。
刺し傷、焼き傷、あざ、などところどころに傷があり、反抗を企んでいそう顔付きである。
「まず、この小説でも出てくる有名なゴブリンだが、迷宮ではこいつより気持ち悪い奴がうじゃうじゃいる。しかも、こいつは子供みたいな体格ではあるが、一般的な大人と比べても劣らない身体能力があるんだ。………だが、こいつらは最近低階層でも淘汰されつつある。この意味、分かるか?」
昔に聖神と争い魔神は封じ込められて、強大過ぎる
そして、魔術で倒した魔物の力を吸う。しかも、迷宮で冒険者が死ぬと魔物に堕ちて強くなるというどちらが先に死ぬかの悪循環。
これが迷宮内での進化、そして淘汰だ―――。
「分かる奴は、手を挙げろよ」
数秒の沈黙の後、数人が手を挙げだした。
「それじゃあ、イシィ。答えてみろ」
「はい、迷宮内の魔物が強くなりつつあります。そのため大して進化をしていないゴブリンが淘汰されてきたのです」
「正解だ!拍手」
パチパチッと拍手の音が聞こえてくるので、とりあえず自分も拍手をしていく。
「それじゃあ―――」
―――解体は鹿や猪を実践でやらせてもらったが、解体の時間と比べると異常に講義が長かった。
「まじ、だるっ。迷宮行こっかな?」
「何故、そうなる……まぁ、いいんじゃないか?なぁっ、友人」
「うん、私もそう思うな。私も行きたいところだけけど大事な用あるからじゃあね!」
「じゃなっ」
(一緒の道で帰っていってる―――クインが一気にリア充になった。
―――最悪だ。
俺がトイレに行ってたらなんかクインとニィナがめっちゃ近づいててニィナが「―――《ほにゃらららら》どうでしたか?」とか言ってて………三人の時はあんま喋んなかったのに〜)
「やっぱ、コミュ強?イケメンだからかな?」
この研修も数日受けなければいけないので、ユウヤのテンションはかなり下がっていた。
「お前は、新入りか?見ない顔だな」
「まぁ、新入りですね。迷宮の門番さん?早く通してください」
「いや、門番には忠告する義務がある。まず、新入りならば、深く入るな。魔物が強くなってくるし、体に負担がかかるからだぞ。後はむやみに戦闘はするなよ。そして、行き詰まったら仲間を作れ」
「…はい」
聞きやすいように早口じゃないから、普通に数十秒掛かっている。
「今日は魔物を倒しにきた訳じゃないんだよな」
死んだ魔物を見下ろしながら言った。
魔物というのは魔石を取られても、迷宮に吸収されるまでの数日間は死体として残る。そのおこぼれを狙う。
入口で初心者に出会ったりすると、軽く笑われたりするが気にしない。
「流石に金になる魔石は採取されてたか。まぁ、骨も取れたし、血液も採取出来た。同じ個体からは片方しか採取して無いから時間が掛かったな。革の水筒の水を捨てて血を入れたから早く帰らないと」
迷宮の洞窟のような土から生えでた雑草を採っていく。草に関しては何でもいいし、逆に効果がある草だとどうなるのか分からない。俺が持っているポーチの満タンになるまでいれた。
小さいが足音が聞こえてくる。
「Z級(最弱)の出刃ネズミか……」
歯が十センチまで伸びており、ネズミの大きさは二十センチなのでかなり異様だ。
出刃ネズミが飛び込んでくる。
雄也はすんでのところで避け、逃げずに短剣を構える。
「まぁ、ターン制じゃないよなぁ。こいつの方が速いだろうし、やるしかない」
―――この世界初めての戦闘だ。
出刃ネズミがが飛び込んでくるが、雄也はそれを回避してばかりいる。
意外と早く飛んできやがる。短剣で突き刺したいところだが、失敗すればただじゃすまない。
「チ‘‘ュ‘‘〜!」
出刃ネズミの体が赤く変化する。おそらく、魔法かスキルを使っているのだ。だが、それが何かまでは分からない。
自分の体を中心として、飛び出た歯で回転斬りをしてきた。
「避けきれん!」
「チ‘‘ュッ」
ちょうどよくネズミに短剣で突き刺そうとするが、失敗して短剣が歯に連続で当たり吹き飛ばされ、額に傷がつく。
「じんじんしてきたけど、余裕だな。なんでだろう」
どちらかといえば、興奮しているように思える。
出刃ネズミも連続で短剣が当たった影響で軽い脳震盪を引き起こしたのか、簡単に短剣を拾えた。
「今のうちに……」
「チュ」
ただでは終わらないといった表情をしていて下手に攻撃を仕掛ければ反撃されそうだ。
警戒を続けていると一人の冒険者が通りかかる。
「お、初心者の戦闘かぁ。懐かしいな。あいつは基本直線にしか動けないから、それ覚えておけよ」
ユウヤに向かって、忠告したかと思えばすぐにさってしまった。
「出来れば手助けでもしてもらいたかった」
ユウヤは爪の間に土が入りながらも、土を掴み取って出刃ネズミに向かって投げた。
目に土が入って苦しそうにして、歯を振り回す。
そして、直線で俺がいたところに飛び込んだが、当たらない。
「横からだ!」
先輩の言葉をちゃんと受け取ったからである。
まず、攻撃を仕掛けられたら厄介なので最初に出刃ネズミの足を切った。そして、トドメは刺さずに手をこまねいている。
一緒に研修を受けていた子が通ってきた。
「これ、やるよ」
「え?……うわっ!」
投げ飛ばされた出刃ネズミを見て驚くと、おとしてしまい死んでしまう。
じんわりと頭や心臓が熱に侵されたかと思えば、その熱はゆるく体全体に流れ、癒着する。
「本当は経験値も譲ろうと思ったのに……まぁ、その歯は売った方がいいよ。出刃って言ってるくらいだしね」
雄也は研修の子の言葉なんか聞かず、何事も無かったかのように去った。
当然だが名声も上がらなかった。
(どうして、変な反応したんだろう?善意でやったはずなのに………)
ユウヤは不思議そうにしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺がやりたかった調合の時間だ。名声集めやすいし、金も手に入るしな」
魔物から取り出した骨を砕いていく。どんな魔物でも良いが、完全に粉にする必要がある。
そして、魔物の血を入れる。これは同じ個体だと成功出来ない。さらに魔物の血と人間の血を混ぜて陣を描く。あくまで、陣なので複数の血が入った同じ血でも関係ない。
最後はすり潰した雑草を入れる。
「熱ッ!」
熱を放ったかと思えば、焼けるような音が調合した物からしてくる。熱が冷めるまで待つと、そこには白い粉が残っていた。
「成功だ!!」
「何が成功したんだ?」
「うわっ!……クインか、鍵あっただろ」
「合い鍵渡したのはユウヤだろ」
クインが複数の鍵がついてるリングを回して遊ぶ。
―――そこまで、思い出せない。
「なんでだっけ?」
「俺は家の事情で忙しいって言ったよな?それでサボるために借りてるってわけ」
「あぁ、そうだったな!それで出来たのが、まぁただの強壮薬だな」
クインが一瞬険しい顔をするが気にしない。
雄也は粉の一部を飲み込んだ。
「え?今飲むの?」
そんな言葉も気にしない―――。
ただの強壮薬と言ったが、あれは嘘だ。心配されないためにそう言ったに過ぎない。強化薬ではデメリットが激しい物が多いからである。
突如、耐え難い痛みとレベルアップ以上の不快感がユウヤを襲う。
「ごっ、ぶっ!」
「だ、大丈夫か………粉が気管支にでも入ったのか?そんな感じでポックリ逝かないでくれよ」
クインがユウヤの安否を心配して背中をさすってくれた。数分も経てば何事も無かったかのように元気になる。
「調合失敗か……」
「どういうことだよ?!心配させないでよ!死に急ぐ行為なんか、するなよ」
「……魔力に作用する物を使って魔力操作の感覚を掴もうとしたんだ。後は、成功しても物の割合が違うと副作用が出るから飲んだまで。成功まで続ける」
「えぇ、俺もてつ」
「手助けは無、よ、ぅ〜ん、袋くれない?粉入れるためのさ」
「?それじゃあ、今持ってるぞ」
クインは急いでバッグの中から、手に収まるほどの大きさの袋を取り出した。袋の中には何かあるようで飴のような物を取って飲み込んで渡してきた。
「甘味?」
「ん? ふふ、違〜う。それ以外で何か必要?」
「いや、もう大丈夫だ。ありがとう」
「分かった。もう時間かなり経ったし帰るわ」
ユウヤは雑草を足しながら、調合を続ける。
そして、クインの冒険に付き合いながら、一日をかけて完成させるとスラムへ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
スラムの家はテントのような物で、排泄物もそのまま置いてある状態だった。
しかし、ゲームの場合はもっと酷かった。排泄物は描いていないが家と呼べる物すらなく、魔物に蹂躙されていたはずだ。
「外に魔物はいないのか……クインも俺が知ってたのとは違ったし、ただ、世界の法則は変わってないからあせる必要は無いだろう」
スラムで一番冒険者ギルドに近い道に座って、強壮薬を出した。
これが一番最初にすべき事だ。名声集めと金集め、スラムでも冒険者なら金は持ってる。
十二、三の少年が通ってくる。
「君、珍しいね。その格好、冒険者かい?いい薬を知ってるんだ。もちろん◯麻じゃないよ。強化薬さ。冒険が終わったところなら、飲むかい?君の潜る頻度は?」
「二日に一回。あぁ、冒険は終えた後だな。それで、その粉はどんな効果なんだ?」
「これは一時的に全能力を引き上げてくれる。難点は、使用した後の効果が続いている間に得た経験値は意味をなさないところだ。なるべく、その時に強壮薬を飲まない事だね。ほんの少量だが、飲んでみれば分かる」
「あぁ……」
少年がサッと粉を水無しで飲みこんだ。
こういう奴がカモになるんだろうな。住人にしては純粋だし、最近スラムに堕ちたのかな?
「純粋だね。スラムの奴でも基本飲まないよ」
「ゴホッゴホッ!何入れた!」
少年が咳き込んだかと思えば、剣を突き立てる。
「あぁ〜、今のは君の性格の事を言っただけだよ。それで効果はもう感じてるだろ?……どうだい」
「少し飲んだだけなのに、いい感じだ」
「そうか、それは良かった。使わなくても、一ヶ月は持つ。二日に一回はこのくらいかな?」
ユウヤは慎重に作業をしながら、保存をすることの出来る葉に小さじ二杯ほどの量を包んで渡した。
「金は、いくらだ?」
「…初回は無料さ。次回からは小銅貨三枚。これから都合が悪い日以外は毎日来るから皆にも広めるといい。ただ、この粉を入れられる袋があると私は嬉しいよ」
何故か覚えていなかったはずの小銅貨という言葉がすぐに出てきた。その事に対してユウヤは一抹の不安を覚えるが、少年にはそんな事は気が付くはずも無いのですぐに去っていく。
―――名声のところを見ると、16になっていた。
「やっぱ、スラムにいる奴じゃこういうのは買えないよな」
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