天空王国カタストロ

「あ、あれ?」


 天人族のプレイヤー、ラテはとても困惑していた。

 天空大陸にいるラテは、地上でのプレイヤーイベントに参加できない。だから羨ましく思いつつも、掲示板での実況解説、リアルタイムの動画などを見ながら自分なりに満喫していた、そんな矢先。

 突如として、王宮の方が騒がしくなったからだ。

 異変を感じたのは自分だけではないらしい。

 周りを見渡すと、何故か近くの住人全て、いつもラテがお世話になっている狩人、いつもラテのいる王宮周辺の町を見回る衛兵、はたまたいつもラテが食べにいくパン屋の女将さんまで。皆が王宮へ向けて膝をつき、なにかを待っていた。





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 ここ、天空大陸は非常に特殊な場所である。そも天に浮いていること自体が特殊なのだが、そういう話ではない。

 天空大陸。広さにしてざっと400万平方kmあるこの大陸で、天人族は、かつて現王族家のシュトロメイ家が統一するまで多くの部族に別れて生活していた。


 当時の文明は、第一次世界大戦前といったところだろうか。勿論、魔法があるため、実際の第一次世界大戦前当時のヨーロッパの人々よりも遥かに良い暮らしをしていた。

 多くの部族に別れていながらも、その文明力を保ち続けていたことから、天人族がいかに優秀かが分かる。


 ただ、優秀であるだけ。非常に傲慢かつ、他人を見下す性格。他者との協調性のなさ。それらが全て、発展を邪魔していた。

 また、寿命の長い種族。ゆえ、人口も少なかった。


 広大な天空大陸という土地を持っていながら、自ららの領土に固執し、一部地域でしか生活していなかったことも、停滞の理由だろう。


 変わったのはシュトロメイ家によって統一された後。

 シュトロメイ家の長女、ホワイルによるとある一大公共事業が発端だ。南極に存在する大陸に住む、この世界最高の技術者集団の技術力。それをこの公共事業を通して、天人族は学び、取り入れたのだ。


 天人族は元々、知性、魔法共に優れた種族。取り入れた技術を自ららの生活に生かすのは造作もないこと。地上と比べ、再び大きく引き離すレベルの技術力を得た。


 また、天人族はシュトロメイ家の元に募った。バラバラだった集落は解体され、王宮を中心とした一つの街に終結した。これが、街に住むラテが王宮の様子を知れた理由である。なにせ、元々王宮に寄り添うように計画され、作られた街だ。王宮が騒がしくなればわからないわけがない。






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「ど、どうしよう」


 戸惑ったラテは、近くにいた、普段お世話になっている物知りな近所の初老のおじさん、パースに尋ねた。


「私どもが王宮へ平服する理由かい?そんなことは赤子でも知って、、、いや、そうか、確かお嬢さんは王女殿下と同じ異邦人だったね。」


 ひれ伏した状態から顔を上げたパースは、両目から涙を滴らせていた。


「す、すいません」


「なにを謝っているんだ。知らないことを知ろうとするのはいいことだよ。そうさね、一つ、むかし話をしようか。これは、30年と少し前。私がまだと呼ばれていた頃の話だ」


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 ダンッ


「うぐっ」


 天龍により腹を踏みつけられ、襟首を掴み持ち上げられたパースは、うめき声をあげた。


「なぁ?お前ら、恥ずかしくはないのか?部族がなんだの、しきたりがなんだのと。お前らは、お前らの言うゴミども人間の遥か上空で、そのゴミどもの真似事をしているのだぞ?」


 顔を引き寄せ、目を細め、言い募る。


「下らん礼節。下らん伝統。嗚呼、確かにお前らの技術力は高かったのだろう。昔の話だがな?私の艦隊を見ろ。今を生きろ。どうだ?お前らが停滞している間に、下のゴミどもは此処まできた」


 目を見開き、さらに顔を近づける。


「どうだ?悔しくはないのか?恥ずかしくはないのか?だったら天人族を名乗るな。だったら人をゴミと見下すな。いいか?私は此処天空大陸を統一する。天人族としてのあるべき姿支配者を取り戻す為にッ!」


 天龍の腕がパース襟首から離れた。そのまま屈めていた体を起こし、パースを見下す。


「もう一度言う。私は此処を統一する。天人族ならば従え。そうでないのであれば好きにの垂れ死ね」


 くるりと踵を帰すと、天龍は去って行った。他の部族へと向かうために。






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「嗚呼。今思い出しても実に素晴らしい演説だった。そして、王女殿下はこの大陸の統一を、実現なさられた。嗚呼。なんと不屈で、誇らしいお方なのだろう、、、」


 バースは、再び涙を流しだした。


「あ、あのー。その、せ、制圧されたときの話じゃなくて、もう少し詳しく聞きたいんですが、、、」


「おお。そうか。すまんの。私が一番魅力的だと感じた時の話だけをしてしまった。最近の若者は老人の長話を嫌うでな。詳しい話は後で話してやろう。今は、」


 相変わらず戸惑い続けるラテに、バースはニヤリと笑いかけた。


「ホワイル様の名の元に造り上げた、私らの技術の結晶を見てからだ」


 再び跪き出したバースを尻目に、ますます混乱したラテは、情報を求めて、掲示板への書き込みを行った。






 そして






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「退け」


 王宮を闊歩する天龍は、非常に苛立っていた。理由は単純。ホロン・シュペイリー号の主砲の一撃でちゅどんできると思っていた乙姫に防がれるどころか、ホロン・シュペイリー号ごと撃墜されたからだ。

 乗っていたのが高速移動船だからといって、墜落される積もりは天龍には一切なかった。


 だからこそ苛立ち、どんな手を使おうと仇を取る積もりなのだ。


「王女殿下。どこへ行こうとなされているのですか?そちらには浴室もサロンも私室も執務室も庭園もございませんよ」


 さっと、燕尾服をまとった男が天龍に立ち塞がる。


「見れば分かるだろ。操縦室だ」


 ゾッとする程の威圧を撒き散らし、天龍が燕尾服の男を睨み付ける。


「左様にございますか。しかし、一度動かして分かったでしょう。他国からの追及が、非常に煩わしいということを。全て王女殿下が対応なされたことを知っております。ですので言います。今ならまだ間に合います。どうか、お引き返しくだ


「煩い。責任は私が持つ。この国の全権私が持つ。逆らうな」


 王族たる圧倒的威風。例え理由が乙姫気にくわないというものでも、その姿は燕尾服の男を引き下がらせる程度の力はあった。


 以後、何度か似たやり取りを繰り返し、天龍は操縦室へとたどり着いた。


「カタストロフィ、『起動』」


 キュィィィィィィィンンンン!!!!


 天空大陸中からモーター音が鳴り響き、突如、ガコンッと動き始めた。


『Hello world.行動シーケンスを獲得。外部情報を獲得。大陸融合型要塞、カタストロフィ。起動致しました。マスター、お会いするのは二度目ですね。今回の役目はこの星を消し去ることでしょうか』


「冗談はいい。わかっているだろ。さっさと行くぞ」


『了承致しました。対象、乙姫。座標を認識。移動致します』


 ガコンッガコンッガコンッガコンッ


 天空大陸の横から、金属製の翼が生え、大陸上部の陸地を囲むようにして、円状のシールドが張られた。


『飛行を開始致します』


 パンッ


 初速、マッハ20。音を置き去りにして、大陸が進みだした。


『捕捉。200km先、対象です。対象と街との距離を確認。主砲では巻き込むと判断。副砲に切り替え。装填。完了致しました』


 僅か、数分。たったそれだけの時間で、高速移動船でも数時間かかる距離をこの大陸融合型要塞は移動して見せたのだ。


『対象の情報を確認。現在、水属性に対し大幅に耐久が下がっている模様です。弾種を変更致しますか?』


「必要ない。ぶちかませ」


『了承致しました』


 ちゅどんっっっっ


 光に匹敵する程の速度で、カタストロフィから放たれたは、乙姫ごと、半径1kmほどをすべて消し炭にした。


「、、、ふむ。満足」


 操縦席にて、満足そうにふんぞりかえる天龍の機嫌は、完全に元通りとなった。

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