プレイヤーイベント戦@南方1

「よーしよしよしよし」


「グゥゥゥッ♪ガウガウゥゥッ♪」


 時刻1時59分。イベントのために集まった私は、これから戦うであろうサンドドラゴン・ハウトが、飼い主にじゃれついている姿を見せられていた。

 目を細めて飼い主に頬を擦り付ける姿はまるで、猫みたいだった。こうして見ると、可愛いかもと思える。

 、、、はっ!いけない。こうして情を植え付けるあの死霊術師の策略にはまるところだった。


〔提示。定刻をお伝え致します。本日の実況は当機、エーデルヴァイスが〕


〔解説は黎明王こと厚焼きプリンが送る〕


「ん?時間みたいだねー。じゃあサンド(サンドドラゴン・ハウトの名前。さっき適当に付けられた)、頑張ってよ」


 バイバイと言い残して、死霊術師が離れて行く。私には聞こえなかったけど、多分アラームかなにかが聞こえたんだと思う。実況解説があるって聞いてたからそれかもしれない。


「グルァァァァ!!!!!!!」


 大きなサンドドラゴン・ハウトの叫び声と共に、砂嵐が舞う。戦いの始まりだ。

 私は走りだし、、、突然止んだ砂嵐と、首のなくなったサンドドラゴン・ハウトに驚いて立ち止まった。


「えっ、、、なに?」


〔提案。想定外の事態が発生。早急な対応が必要かと思われます。〕


〔だな、、、〕


 なに?何があった。わからない。他のプレイヤーも驚いている様子から現状を把握できていないのは私だけではない。じゃあサンドドラゴン・ハウトのほうに問題が?確認を、、、


 すぅーーー、、、はぁーーーー。


 落ち着いて、私。深呼吸はした。思考はクリアになった。じゃあ、次に私に求められてるであろう役割をする。

 それは何?簡単。探索。なら、それに集中すればいい。

 確認だのなんだのは後。やるべきなのは状況の把握じゃない。元凶の探索。

 さ、集中集中、、、





 いた。


 アインの街の防壁、監視塔の屋根上に、誰かが立ってる。


〔提起。無名の探索者について〕


〔みなまで言わなくていいぞ。切り替えも発見も異様に早かったよな。あの領主剣星さんはあまり得意ではないとはいっても、隠行していたってのに〕


〔是〕


「おーい。領主さーん。僕らのイベント邪魔されると困るんだけど?」


「あん?邪魔なんざしてねーよ。聞いた話じゃ、今回のイベントになんて書いてないんだろ?」


 腰に剣を佩いた赤髪の男装の麗人。それがアインの領主様。屋根上に立ってたのはその領主様だった。

 領主様と死霊術師の会話が聞こえたことで、ほとんどのプレイヤーの視線が二人に向かったことがわかる。我ながら恐ろしくなる探索能力。ふふん。


「いやまぁそうだけどさ。領主さんレベル1000だっけ?2000だっけ?こっちのサンドはレベル30なんだよ。空気よんでよ」


「空気読め?オレはアインの領主だぞ?街侵略されてんだぞ?空気読んでる場合じゃねぇんだよ」


 そういえば、これ、侵略イベントだった。相手が死霊術師のペットの一匹だったから忘れてたけど、確かに、街の人からみたら、普通に滅亡の危機。領主様、ぐう正論。


「いや、大丈夫だって。みんな強いから、街に入る前に倒


「信用ならん」


「ええっと、、、あっ!ほら、街入る前に止め


「信用ならん」


「ええっと、、、制約s


「何度言わすつもりだ?」


〔フーリンが正論で滅多打ちされてて笑える〕


〔是(笑)〕


 領主として、相手がどれだけ、なんと取り繕うとも侵略しようというなら止めに入る。当たり前。むしろ、それでもごり押しで実行しようとしている私たちが間違っている。


「ああ、もう!大丈夫だって!勝てるから。止めるから!はいっ!これ制約書。これで絶対にサンドは街に入れない!!」


「だからそういう問題じゃねぇんだっ、、、っつ!?」


 ええ、、、押し通すの?

 気配でわかる。周りのみんなも同じ顔してる。もち呆れ顔。


「『召喚サモン』!終焉酷致之告淵龍タピオカ!!」


「あ"!?テメェ!!」


 黒髪の少女が現れ、辺り一帯にが広がる。立ってられない程の威圧。それが近くに存在するというだけで背筋がぞわぞわする。肌がピリピリする。

 この感覚、知ってる。サービス開始初日、死霊術師が乗ってきた龍と同じ、、、!


「マスター!お呼ばれですね。タピオカ、参りました!要件は何ですか?乗り物飛行デートですか?料理形容しがたいナニカですか?それともわ・た・、、、ああ戦闘お掃除ですか」


 いやんいやんと体をくねらせていたタピオカ、、、さん?の雰囲気が、臨戦体制の領主様を見て変わった。

 周りの圧が一切消え去り、目が虫に集られる死んだ魚みたいになる。圧はない。けど、直視しちゃいけない異質なものを感じる。


『SAN値が低下しました』


 、、、なに?このメッセージ。


お片付け捕縛・無力化ゴミ出し惨殺か、、、周りを見る限りお片付け捕縛・無力化ですね。さっさと終わらせちゃいましょうか。『ショゴス』」


「ちっ!正統性はこっちにあんだぞ!?」


 触手が領主様に襲い掛かる。領主様は、剣で応戦してるけど、じり貧。だんだんと押されていってる。


「ぐほっ」


 私でも感知できない速度?技術?で周りこんでたタピオカさんが、領主様のお腹を一発殴った。それだけで、領主様は気を失って、倒れてしまった。


「よし。マスター。お掃除、終わりました」


 倒れた領主様を触手で縛った後、タピオカさんは目が笑っていない笑顔でそう死霊術師に告げた。


〔なあ、今さらだがエーデル。お前、こうなること知っていただろ〕


〔、、、否定いたします〕


〔じゃあ言い方変えるな?お前、フーリンに『剣星と交渉する』とか、『南方だけ開催方法変える』とか、そっち方向に意識が向かないように仕向けただろ〕


〔、、、是〕


〔理由は?、、、ああいいや。話さなくていい。だいたい分かった。分かったが、エーデル。終わったら剣星に謝りに行くぞ。フーリンも連れてだ〕


〔、、、了承致しました〕


「よし!サンドも生き返ったし!少し遅れたけど始めるよ!」


 、、、この空気のなかで?









───────────────────


中央→領主がプレイヤー

北方→実況の権力

西方→金

東方→了承済み

領主に了承を得ないで始めたのは南方だけです。





ランキング100位以内記念に3話分13時間毎に投稿します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る