第4話 はじめてのぶきづくり

「おおっふ……こんな感じか……」


 経験はないのに、頭の中に説明書だけをインストールされたようだった。モンスター別の血抜きだとか剥ぎ取りの仕方だとかが流れ込んでくる。俺はそれに従って機材を手に取った。


 ヘクトスライムは初級のスキルでもギリギリ解体ができた。その代わりに無駄にしてしまう部位が増えて手に入る素材数は減ってしまったけど。もっと上質なスキルを手に入れれば稀少な部位も手に入る。


 『粘着剤(h)』『柔らかい外皮(h)』が手に入った。


「Hだ……」

 

 ヘクトのHね。

 たった二つだけど、ヘクト級のモンスターの素材だから、もうすでに一般人には中々手に入らない領域にある。


 基本的にダンジョンでヘクト級に遭遇するのは、そのダンジョンの階層をいくつかクリアして、ダンジョン内のモンスターの通常種をすべて倒してからだ、と政府のホームページで公開されている情報に書いてあった。


 この素材で日用品をつくるか武器をつくるか迷ったけど、武器を見てみたい気持ちが勝った。


「こいつでつくれるのは、すらむすてぃっく……」


 棒の先に粘着剤の塊がついていて、棒を振ることでそれを伸び縮みさせて敵を掴まえ、叩きつけるというのがスラムスティックの使い方だった。

 棒の部分はじいさんの遺した部品につかえるのがあるからそれで補った。


 鉄パイプの先にスライムが引っ付いたような棒ができあがった。


「……これダメージは俺の筋力次第じゃね?」


 この武器は、素材の良さがスライム部分の粘り強さだとか強靭性に関係しているらしい。重たいものを持ったり力を込めて振り回してもちぎれないのはありがたいけど、あんまり想像していたような強さではなかった。

 狙ってスライムを飛ばすのなら、その練習もしなければいけない。

 戦闘用のスキルをとればまたやり方は違ってくるだろうけど。


「まあ今日は寝るか」


 俺はスラムスティックを枕元において眠った。


 次の日、起きて朝ごはんを食べると、俺はさっそくダンジョンに潜った。


 じいさんの葬式から一週間分有休を消化したので、時間はたっぷりある。もちろん有休届けを出したときは上司にめちゃくちゃキレられたけど、その日の俺はいつもと違ってじいさんの死で気持ちが平静じゃなかったから上司は無視できたのだ。


「おーし、やるか」


 ビニール袋に小分けした回復薬、それを入れた麻袋を片手に、寝てる間に思いついたアイデアで自分なりに改造したスティックをもう片方の手に、俺は庭の石扉に触った。

 すると、階層を選んでください、という声が頭に響いた。

 

「お?」

「該当する階層がありません」

「……あー、二階」


 あのほこりっぽい臭いに囲まれた場所に立っていた。さっきの声はダンジョン側のシステムが発したものだったんだろう。至れりつくせりだ。


「てか俺その程度の知識でダンジョンに挑んでるのか……」


 まあ暇つぶしだし。チュートリアルだし。大丈夫だろ。


 言い訳しながらずんずん進むと、あの小空間とその中央に座っている影が見えた。

 俺はその影が立ち上がる前に、スティックを両腕で振った。


「先制攻撃だ!」


 投げ釣りのときの感覚を思い出して、先端にコンクリートブロックをくっつけたスティックを振ると、ブロックは一直線に飛んでいって影に激突し、影ははじけ飛んだ。


「あれ……?」


 ばらばらになった肉片は動かない。一撃で倒してしまった。


「うわあ……」


 麻薬カルテルの報復を録画したスナッフフィルムみたいな有様にドン引きしつつ、俺は死体を調べた。牙とか獣の足が転がっている。


「わからん。レコード」


 図鑑が更新されている。


「ガルガル……そんなモンスターいるんだ……」


 狼のような犬のようなモンスターだった。その素早さを活かして襲い掛かってくるらしい。


「これ、俺近寄られてたら死んでたな……」


 レベルは2。経験値は次のレベルまでの半分くらいしか溜まらなかった。


「次からは慎重に行くか。慎重に先制攻撃」


 ガルガルの牙だとか手足の爪だとかは加工できそうだったので、俺は拾える範囲で拾った死体を麻袋に詰めると、先へと進んだ。


 今度は一体で終わりではないようで、次の広間にもなにか影がいたので、俺はまたもコンクリートブロックを叩きつけた。コンクリートブロックが壊れてしまったものの、モンスターは一発で死んだ。


 大型犬くらいの亀みたいな敵で、甲羅にコンクリートブロックが陥没してしまっている。


「……レコード」


 デカメという名前と説明があった。


「22口径マグナムに至近距離で撃たれても死なない……」


 俺はスティックを見た。


「おかしくね?」

 

 コンクリートブロックの一撃は強力だけども、マグナムで撃たれるよりも高い威力なんて持つだろうか。


 俺はしばらく考えたあと、一つの結論に達した。

 

 俺が武器を加工した結果、ヘクト級のモンスターの素材でつくられた武器の品質が、コンクリートブロックの一撃にまで影響している。


 つまり、ヘクト級なのは武器の伸縮力だけのはずだったのに、俺がいじくったせいでそれが威力にまで及んでいるのだ。


 だから、ガルガルもデカメも、たかがコンクリートの激突で死んだ。


「……これやばいな」


 ゲームで考えてみてほしい。第1ステージで出てくる敵のレベルは1から10としよう。そして第2ステージで出てくる敵のレベルは10から20とする。

 俺は進化スキルによって第2ステージの敵の素材を得て、その素材で武器をつくり、第1ステージに挑戦している。


 俺はコンクリートブロックの代わりにデカメをスティックにくっつけながら、背筋に走るぞくぞくとした感覚を抑えられなかった。


「無双できちゃう……」


 

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