優しい嘘
「カーディナルを頂戴」
洒落た雰囲気のバーで女が静かに言うと、バーテンダーは「分かりました」と短く返す。カクテルを作る音や洋楽が女の心を落ち着かせた。少しすると、頼んでいたカーディナルが目の前に差し出された。一見赤ワインに見えるそれを女はグラスを揺らして見つめた。鮮やかな赤と深い赤がグラスの中で踊る。満足したのか手を止めるとグラスを傾けて少し口に含み、微笑んだ。だけどその笑みはどこか悲しげだった。
「何故それを選んだのですか」
静かに佇んでいたバーテンダーが零した言葉に、女は少し目を伏せた。女は小さく息を吐くと顔を上げてバーテンダーを見つめた。
「振られたのよ。彼女がいるからってね。」
女が口にしたのはただそれだけだった。でもバーテンダーはすぐに理解した。カーディナルの意味と『彼女がいるから』と言う言葉で一つの物語が浮かんだ。なんて罪深い男なんだろうと顔を知らぬ男にバーテンダーはそう思いながら、注文されていないカクテルを作り、女に差し出した。
「どうぞ、フロリダです。」
鮮やかなオレンジ色のカクテルが輝く。ありがとうと女は感謝を述べると飲み終わったグラスを置き、差し出されたグラスを手にした。カーディナルとは違う柑橘系の爽やかさが女の心を癒した。
そしてバーには洒落たひと時が静かに過ぎ去っていった。
カーディナル「優しい嘘」
フロリダ「元気」
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