紫煙に染まる
⚠︎BL、誘い受け、行為匂わせ、颯真×蒼
冷たい夜風が通り過ぎてゆくベランダで一人寂しく煙草を燻らしていた。愛する恋人の蒼は煙草が嫌いなため、なるべく換気の良いところで吸うが、冬の強く吹き付ける風に体を震わせた。上着を着てくればと後悔しながらも、まだ長い煙草を見て勿体なく思い寒さを我慢した。街の輝きと喧騒をボーッと眺めていると後ろから窓の開く音がして、背中が少し暖かくなる。首を少し動かして見ると、ブランケットを羽織った蒼が俺を抱きしめていた。
「こんな寒い日に外にいると風邪引きますよ。」
「ありがとう。」
煙草が嫌いなはずなのに俺のことを心配して来てくれたことに嬉しくなる。抱きしめてあげようかとも思ったが片手には火のついた煙草があるし、紫煙が漂い煙草独特の匂いがしている。
「もう戻った方がいいんじゃないか? 煙草嫌いだっただろ。」
優しく促すが一向に離れる気配はない。何故だろうと考えていると煙草を持っている手に蒼の手が被さる。細く綺麗な指は俺の肌を滑り、煙草を掠め取った。俺は驚きながら振り返ると蒼は吸い途中だった煙草を吸っていた。焦る俺を見て嬉しそうに笑うと俺の顔に向けてふーっと煙を吐いた。
「颯真さん、いつ俺が颯真さんの煙草が嫌いって言いましたか?」
そう言う蒼は悪戯な笑顔を浮かべていた。煙草が嫌いと前に言っていたことがあったから嫌いだと思っていたが違ったのか?
「颯真さんの吸う煙草が嫌いだったら付き合っていませんよ。だって颯真さんの匂いになっているんだから。」
今更ながらに理解した。今まで換気のいいところで吸えば平気だと思っていたが、実際は服や髪に匂いが付けばあまり意味はない。そして匂いに染まった俺と一緒に蒼はよく居てくれた。逆に吸った後の方がくっついてきたような……。
「ほら、煙草はおしまいですよ。」
「そうだな、折角のお誘いを無駄にするのは勿体ないからな。」
「やっぱり知っていたか……。」
俺が嬉しくてニヤニヤして言うと、蒼は少し悔しそうにしていたがその口元には薄っすらと笑みが溢れていた。
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