第5話 夢か幻か

 チュートリアルを終えて、始まりの町に降り立った時。


 既に空は赤みを帯びて、中央広場の尖塔の陰が細く長く町を横切っていた。漫画やアニメ、映画くらいでしか見たことのない欧風の石造りの街並みを、見慣れない形の服や靴、見慣れない……奇抜な色合いの髪色で、剣や弓矢などの武器や防具を帯びた人たちが、次々と正門から中へ足早に歩いていく。そんなふうに見回していると、自分と同じような服装で、同じような困惑を表情に浮かべて周囲を見る男性がいた。

 目が合った、より先に、視線を振りほどいて、彼もまた周りに溶け込むように町中へと消えていってしまう。ああ、と少し残念に思った。



 ――あなたも今日からですか? わたしも今日からなんです――



 お友達を作るチャンスを逃してしまった。


 どの世界であろうと、一人で戦い続けることは厳しいのが現実。

 できるだけ早く、何かの集団に属したほうがいいだろうと思う反面。

 この世界のどこかにいる、あのひとだったなら……あのひとは、この最初の時に、何をどのように選んだのだろうか、とふと考えて、苦笑する。

 きっと、テスターで仕入れた予備知識を基に、ガンガン前に進んでいるに違いない。現実世界リアルで顔を合わせても、すぐに部屋に引きこもってしまうし。この幻界ヴェルト・ラーイのどこかというか、きっと最前線にいるのだろうと予測がつく。


 空が闇色に近く、どんどんグラデーションに変化していく。誰かがスイッチを入れたのだろうか。街灯が、正門から流れるように奥に向かって灯り始めた。道行く人たちが、足を止める。その視線の先、広場を突き抜けた更にその先には、浮かび上がるように照らされた、ひときわ大きい神殿があった。そこで光の流れは止まる。



 ――探そう。



 ウェブサイトやチュートリアルの最初で見た光景に、胸が高鳴る。ここから、始めるのだ。新しい、これからを。



 そして、わたしは、始まりの町へ足を踏み入れた……。

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