第3話 江越ガチャの江越視点。
俺の名前は、
昨シーズンは、2軍で生活を送っていた。1軍で何回か、試合に出させてもらったが、やっぱり打てず、成績がガタ落ちした。いつからだろうか、野球そのものが楽しめなくなってきた。周りは、いいバッティングしていて1軍で活躍している。俺も打たなきゃ、結果残さなきゃと。試合に出たしても空振りに終わるばかりだ。
「クソッ!!!!どうして打てないんだ!どうして俺は結果が残せないんだ!!!意味わかんねぇよ!」
江越は、拳でベンチ裏の壁を叩きつけた。
「江越、あんた、焦ってるんとちゃう?」
「谷野さん...」
「はい、焦ってます。周りが成績残し始めているので」
「江越、お前な、焦りすぎて物事や空回りしすぎてるんや」
「谷野さん、だって俺のプロ野球人生が終わるかもしれないんですよ?嫌です、まだまだ続けたいです」
「気持ちはようわかる。ただ、野球の楽しさを忘れてはおらんか?まさかとは言わんが、成績を残すのが必死で野球の楽しさなんてそんなん知らんなんて思ってないやろな」
「それは、その」
「やっぱりか、いいか、よう聞いとけ。どんなに苦しくても野球を楽しめ、自分は凄い位置にいる、誰もがあこがれるプロ野球に所属してるんや、ファンがお前のことをここでも応援していることを忘れるな」
「谷野さん....」
「礼はいらん、俺はたいしたこと言うてないねん」
谷野はベンチ裏から消えた。
オフシーズンの10月、フロントに呼ばれた。
――――球団事務所にて。
「まずはお忙しい中、事務所に来てくれてありがとう。フロントの八重山だ」
「はい」
「江越さんに重要な知らせがある。来季からウインナーズへの移籍が決まった。」
プロ野球選手には、トレード、移籍、人的補償、FA権がある。プロ野球入団後、FA権以外を除いて、拒否権は無いとされている。FA権を行使して、チームに残留することが許されている。
「そうですか、分かりました。」
「そこで書いてほしいものが契約書だ。今月でうちとの契約切って、ウインナーズで契約をする。」
「ウインナーズの契約は、向こうでやるんですか」
「いや、ウインナーズの人が今日来てるんだ、ここで契約する」
「分かりました。」
「失礼、電話だ。」
フロントは、電話で席を後にした。
江越は、下を向いていた。
(俺がウインナーズに移籍か...不安過ぎる)
(でも、ウインナーズに来て結果を残せるチャンスが来るのか)
「すまない、今からウインナーズのフロントが来る。もう少し待っててくれ」
「わかりました」
―――コンコン。
「失礼致します。」
ウインナーズのフロントが来た。
「初めまして、ウインナーズのフロントの村林というです。」
「はじめましてトライガーズの江越です。」
「君は、江越君っていうんだね」
「はいそうです。」
「申し遅れた、ウインナーズの監督の新城です。」
「監督が自ら江越君と話したいというので来たんだ。」
「北海道からここまでわざわざ足を運んで頂き、ありがとうございます。」
江越は、フロントと新城に頭を下げた。
「江越君に聞きたいのだが、どういう野球をやっていきたい?」
「はい、私は、守備が誰よりも得意なので守備固めを中心に野球をやっていきたいです。」
「ほかには?」
「特にないです」
「谷野コーチから江越君は、とにかく打てなくて悔しい思いでベンチ裏で壁を叩いてたそうですよ」
トライガーズのフロントが口を出した。
「八重山さん、どうしてそんなこと知っているのですか?」
「ちょっとな」
「そうですか、村林さん、八重山さん、ちょっと席を外してもらってもいいですか」
「かしこまりました」
「分かりました」
村林と八重山は、席をはずした。
「江越君、打てなくて悔しいのっていうのは本当かい?」
「そうです、周りの選手が成績を残していく中で、僕、打たないと、とにかく打たないとって焦ってしまって」
「そうかぁ、江越君、君は僕と同じようなポテンシャルを持っているんだ。当てれば一発がでかい。それに守備もいいし、バックホームへの送球はとても早くてうちの選手でもあの速さは少ない、足も速い。多分だけど、自分の身体能力を最大限に活かせてないだけなんだ」
「3月からキャンプがはじまるし、練習中でも僕が打撃の練習教える。焦らなくていい、もう焦る必要ない。僕が教えるから。一軍でちゃんと使うから」
「わかりました、ありがとうございます。」
江越は新城に対し、深く頭を上げた。
「それじゃ、また会おう。それまで体を鍛えることも忘れずにね」
「はい!」
新城が去ったところで、村林と八重山が戻ってきた。
「うちとの契約金はこのぐらいで~」
「記者会見は、10月25日の13時からだ、12時には、フィールド北海道の入り口で待ってくれ、タクシーがそこまで来てくれる。明後日には北海道フィールドに来てくれ」
「分かりました。」
フロントとの間で契約を済ませた。
「失礼しました。今日はありがとうございました」
(身体能力を活かせてないだけか....この移籍は自分にとってチャンスかもしれない)
「もしもし、谷野さん」
『江越かぁ、自分から電話かけるなんて珍しいやないか』
「ご報告したいことがあって電話しました。」
『なんや、報告っちゅうのは』
「今日づけで、ウインナーズへの移籍が決まりました」
『おぉ~そうか、そしたらチャンスやな』
「チャンスですか」
『あぁ~新城は、もともとこの球団にいたんや、まぁよう打つわ、守り上手いわ、ファンサ凄いわでエグかったで』
「そうなんですか!」
『そんな新城の下で野球できるなんて最高やないか、ワシもそっちでコーチやりたいもん』
『んで、新城にはなんて言われたんや』
「監督からは「君は僕と同じようなポテンシャルを持っているんだ。当てれば一発がでかい。それに守備もいいし、バックホームへの送球はとても早くてうちの選手でもあの速さは少ない、足も速い。多分だけど、自分の身体能力を最大限に活かせてないだけなんだ」「3月からキャンプがはじまるし、練習中でも僕が打撃の練習教える。焦らなくていい、もう焦る必要ない。僕が教えるから。一軍でちゃんと使うから」といわれました」
『そうか、そしたらお前さんからしたらチャンスやな。がんばりや、応援しとんで』
「谷野さん....」
『そしたら切るわ、俺が言ったこと絶対忘れるなよ?』
「はい!今までありがとうございました!」
江越は電話切った。目から涙がこぼれ、唇が震えていた。
ウインナーズ移籍後、入団会見を終え、練習は監督から言われた通り付きっきりで打撃の練習に励んだ。
「バットにボールを当てるだけでいい、とりあえずそれを意識してやってみて」
「はい」
(バットにボールを当てるだけ、バットにボールを当てるだけ)
これを意識続けた。
「そうそう、そんな感じ。」
そんなこともあってか、キャンプ中の試合では、ホームランとまではいかなかったが、バッティングはいい感じだった。ウインナーズの新球場では、紅白戦をやり、ウインナーズ新球場、最初の特大ソロホームランを放った。
その後もバッティングの調子は上がり続けるかと思いきや、空振り三振ばかりだ。
(あっやばい、成績が、俺の野球人生が.....)
試合終えた後のロッカーで頭を抱えていた。
(江越、お前、また野球の楽しさを忘れておらんか。江越君、バットにボールを当てるだけでいい。)
江越の頭の中で今までの苦い打席が走馬灯のように駆け巡る。
迎えた4月のワイヤローズ戦。新城監督からチームの集まりでスタメン発表がされた。
「スタメン発表をする。1番 セカンド 奈良、2番 センター 矢沢、3番 サード 清宮...」
スタメンで呼ばれた選手が返事する。
「7番 指名打者 江越」
「はい!」
(指名打者?なぜ俺が指名打者なんだ?)
ベンチでは円陣を組んでいた。
「江越選手、ひとことお願いします。」
チームメイトから声かけがあった。
「昨日も勝ちましたが、今日も勝てるように緊張感を忘れずしっかりと持って油断は禁物です。絶対勝つぞ!さぁ行こう!」
選手一同「おぉぉ!!!!!」
試合開始前、ベンチで話かけたのは、ウインナーズ選手会長の松本だった。
「江越さん、指名打者起用なんてめずらしいですね」
「そうですね、なんか不思議な感じです」
「でも監督はなんかしらの期待があるんだと思います」
「僕も去年打率の成績残せなかったですけど、監督が色々と声かけてくれたり、いろいろしてくれたりしましたから」
松本は笑顔でそう言っていた
「あっ、そろそろ僕らの番ですね、お互い勝てるようにがんばりましょう」
「はい!そうですね!、チームのためにも先発投手のためにも」
――――8回裏。
4番の忠誠が1、2塁間を抜けたヒットで1塁に進塁、5番の虎井がセンター前ヒットを放ち、ランナーは2塁、1塁となる。6番の松本が相手投手から10球粘って、フォアボールを選んでランナーは満塁となった。会場はウインナーズチャンステーマの大声援でチャンスとなった。
「7番、指名打者、江越ぃぃぃ大我ぁぁぁぁぁ!!!!」
場内のアナウンスで名前が呼ばれる。
江越は右バッターボックスに入る。相手は、山岡だ。
(ここまで打線を繋いだチャンスは、さすがにやらないと)
(ここで打たないとチームが逆転できない)
谷川が初球で投げた、見送ってボール。
(集中しろ、俺)
『行け打て!いーまだこーのチャンスで燃え上がれ』
会場内は、ウインナーズのチャンステーマで響き渡っている。
谷川が2球目を投げた、これも見送ってボール
(2アウト2ボールか、ここで終わらせてたまるか)
谷川が足を上げて構えて3球を投げた、打ったがファールボール
(バットにボールを当てるだけ、バットにボールを当てるだけ)
谷川が足を上げて構えて4球目を投げた、打った。ファールボール
谷川が5球目を投げた、打った。ファールボール。
(打線を繋がないと。打線だ。)
谷川が6球目を投げた、見送ったボール。
(フルカウント、打たないと終わらせてたまるか)
谷川が7球目を投げた、打った。ファールボール。
(ここにきてまで空振りとかゴロにさせたくねぇなぁ...)
2アウト3ボール2ストライク。谷川が8球目を投げた。
(これなら!)
江越は、谷川が投げた球を全力でバットを振った。
(いけぇぇぇぇ!!!!!!)
江越が打った打球は、まっすぐにライトの守備の頭を超え、客席にボールが入った。
(よし入った!)
江越は、ガッツポーズしながら塁をまわる。
会場は喜びに包まれた声援だ。
「やりましたね!江越さん!」
ホームベースを踏んだところで、松本が笑顔で待っていた
「はい!やりました!」
江越と松本はハイタッチした。
ベンチでは、喜びに包まれていた。
「よくやった、江越くん!」
監督にもハイタッチをした。
――――試合終了後。
こうしてウインナーズは、なんとか逆転勝ちできた。
ヒーローインタビューにも呼ばれた。
「放送席、放送席、会場にいるウインナーズファンの皆さん、そしてテレビやラジオでウインナーズを応援している皆さん。ヒーローインタビューです。今日は、5回裏、満塁の場面でホームランを放ち、逆転勝ちした江越大我選手です!」
俺の目の前には、カメラとアナウンサーがいる。会場は、ウインナーズファンがいて、応援が凄かった。
「ありがとうございますー!」
「まずは、初ヒーローインタビューに選ばれた気持ちをお聞かせください」
「はい、まさか自分がヒーローインタビューできるなんて考えてなかったので最高です」
「今日は、いつもと違って指名打者起用でした。率直な感想を教えて下さい。」
「はい、不思議な感じでした。監督からのスタメン発表でそれを言われたのでビックリしました。でも指名打者起用ってことは監督からの何らかの期待があるんだろうなとも考えました。」
「5回裏、満塁の場面でホームランを放ちました、どんな思いで打席に立ちましたか?」
「そうですね、あの場面は、チームのみんなが打席を繋いでくれたので俺も打たないとって思って気持ちで打席に立ちました。」
「そんな中、ご自身、移籍後初の第1号ホームランとなりました。ホームランを打った気持ちを教えて下さい」
「はい、2アウト満塁って場面は気持ちとしてはすごく重かったんですけど、とにかく粘って粘ってで、自分がこれなら打てるんじゃね?と思ってバットを振ってみたらホームランになってくれたので監督の前で期待に応えることできてよかったです。」
「ウインナーズはこれで2連勝目となります。明日からもまたワイヤローズとの試合が始まります。ファンのみなさんに向けてひとことお願いします。」
「はい、僕はあくまでも守備が売りの人間なのであまり打てない場面が多く、顔を苦くするような場面がありますが、僕もたまには打つのでこれからも見守っていてほしいです。明日も勝てるように精進してきますのでこれからも応援よろしくお願いします!」
「今日のヒーローは、江越大我選手でした!ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
江越は帽子を取りファンに向けて頭を上げた後、手を振った。
ロッカーにて
江越はスマートフォンでメールを見ていた。
「谷野さん?」
『あんた、チャンスをものにしたな、見てたで。やっぱあんた凄いわ。よかったな』
谷野からメールだった。
「ここぞっていう場面で打てて良かったですと」
江越は谷野から送られてきたメールを返信した。
プロ野球ラジオ実況してる僕、なぜかリスナーからの評判がいい 無才能 @Shinkinada1473
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