14 体感せよ


 えーと……つまりそれは……。


「集める魔力量のコントロールができなくてもいいってこと?」

「試験まで数日しかないんだ。そんなことまで習得してる時間はない」


 シトアはやれやれとため息をついた。


 あれ?

私って、魔力をたくさん集められるのを理由に瑠璃ねぇが推薦したんじゃないの?


 それを活かさないなら、シトアは何で私の担任になってくれたんだろう。

き、気になる。

でもせっかく良い調子だから……がっかりするような事を言われたら立ち直れないかも。


 弱気になった私は自分で作ったクォーツを見つめた。

初めてうまくできた魔法。

それはシトアのおかげでもある。


「……うん。わかった、頑張る」


 だったら、今はシトアを信じてみよう!

シトアは私が意気込んだのを見ると、微笑んで私が作ったクォーツをポンとなでた。


「まず、これはインクルージョンが多すぎる」


 インクルージョンとは魔法石における不必要な内包物のこと。

それはパーティクルだったり細かいチリだったり、魔法石を作る際に入り込んでしまう異物だ。


「インクルージョンがあることのデメリットは?」

「えっと、魔宝石に込めた魔力に干渉してしまう?」

「そうだ。当然インクルージョンが少ない魔法石の方が高級だし、性能も高い。なら異物を取り除くにはどうしたら良いと思う?」

「え、えっと……ろ過?」


 自信はなかったけど、シトアが頷くから私はホッとした。


「正解。クォーツ草から水分を引き出す時に風の魔法をフィルター代わりにするんだ。つまりどうするかというと、魔力に形を作る」

「え!? そんなことができるの!?」

「それはみかげ次第だ。風の魔法、木の葉の魔力の本質は?」

「”遊ぶ”かなと思ったんだけど……」

「それが分かってるなら簡単だろ。やってみろ」


 えーと、魔力を遊ばせながらフィルターの形にさせるって事なのかな。

フィルターって細かい網目があれば良いんだよね。

遊びながら網が作れるものっていったら、編み物とか?


 また紅葉した木の葉のパーティクルまで集まったら困るから、寒いイメージでやろう。


 例えば、マフラー、セーター、手袋……。

編み物を想像しながら私は木の葉の魔力を操った。


 次第にクォーツ草から水分が浮遊しながら出てくる。

またその場にあるもの全部を使ってしまったけれど今は仕方がない。

水分が綺麗な水球になったところで、私は凝固の魔法をかけた。


「やった! 出来」

「てないな」


 シトアは私が作った乳白色のクォーツを拾った。

角度が変わる度にラメがキラキラしている。


 出来てないけど、クォーツを作るのは出来てるもん。

とは口答えできない。


「これじゃいくらクォーツ草があっても足りないよね?」

「まぁ、そうだな」


 そう言いながら、シトアはおもむろに私が作ったクォーツを両手でぐっと挟んで破裂させた。


 弾け飛んだ破片はふわふわと机の上にある魔力の抜け殻たちに吸収されていって、どういうことか魔法を使う前の状態に戻っている。

私は初めてみる光景に度肝を抜かれた。


「い、今のなに!?」

「魔力の形跡を元に戻した」

「えええ!?」


 そんな事までできるとは。

ザマス先生がシトアに恐れ慄いていたのがなんだか分かった気がする。


「まず、想像力が足りないな。もっと魔力と友だちになった気持ちでやってみろ」

「なんか急にメルヘンな話になってきた」

「文句あるか?」

「ないです」


 気を取り直してもう一度。

今度は毛糸まで想像してやってみよう。


 どんなマフラーが良いかな?

今年の冬はもう終わるけど、次の冬は少し大人ぽいのが良いな。

フューシャピンクのチェック柄で、モヘアみたいな質感だと可愛いかも!


 目を開ける。

完成したクォーツはスライムのようにウニョウニョとテーブルの上で跳ねていた。


「えっ、下手になってる!?」

「うーん」


 シトアは考えるような仕草をしながら、そのバレーボール大のスライムを手に取ってグニグニと弾ませていた。

そして、閃いたようにパッと私を見る。


「魔力を操るセンスがない!」

「ガーーン!!」

「木の葉の魔力に労働をさせただろ?」

「あ、そっか。本質からそれたらダメなんだ」


 シトアが友だちなれって言ったのは、一緒に遊ぶってことなんだ。

魔力にも人みたいに性格があるってことなのかな?


 それが分かったものの何度やっても思うようにはいかず、私は躓いたまま研修期間三日目を迎えた。


 その日も朝から微妙な純度の差のクォーツをひたすら作って作って作り続けて、シトアは私の使った魔力の形跡を元に戻すマシーンと化した。


 一向に変化なし。

何とかせねばと思った矢先、とうとうシトアは私にクォーツを作らせるのをやめた。


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