13-2


「え? でって?」

「宿題はどうした?」

「あっ、えーとそれは、あとここに凝固の魔法を使うだけなんだけど……」

「失敗するのが怖くてできないのか? 過程だけで評価できるほど世の中甘くないぞ」


 シトアは淡々と言って私を見下ろした。


「ウッ。わ、私だってこれで良いなんて思ってない。でもオパールみたいですっごく綺麗だったから、シトアにも見せたかったんだよ!」


 って一所懸命主張したけど、部屋着のままで言うとすっごくダサい。

この感じだと「そんなのどうでもいい」とか言われるのかな。


 と思いきや、シトアは少しキョトンとした後意外にも優しく笑った。


「みかげ」

「え、なに?」


 急に名前を呼ばれて少しドキッとする。

そういえば今までお前って言われてたっけ。


「その心意気は嫌いじゃない。特別に次の魔法のヒントをやろう」

「ほんと!?」


 水球を見せたことでシトアが心を開いてくれたのかなぁ?

美しいものはみんなを幸せにするってこと?


 シトアが部屋の中に向かって手をかざす。

何かが放物線を描いて飛んでくるとシトアの手のひらにおさまった。

相変わらず何もないところから魔法を使うのには驚かされる。


「石は個体じゃない、集合体だ。よく観察してみろ」


 シトアの手の中にある薄緑色の綺麗な石。

私は覗き込んで言われるままにじっと見つめた。


 シトアって生命線長いなぁ。

……ってそうじゃない、つい手相が気になっちゃったよ。


 気を取り直して、シトアから石を受け取って観察してみる。

よく見てみるとところどころ白や茶色が混ざっているのに気づいた。


 ”石は、集合体”

シトアの言葉を頭の中で繰り返す。


 そうだ。

石って元々、マグマだったり砂や生き物の死骸が長い時間をかけて固まって生まれたものって理科で習ったな。

だから色んなものがくっつき合っているだけなんだ。


 果てしない年月を旅してきたものが巡り合って、寄り添って、一つのものになる。


 自分の第六感のようなものが握っている石の中をかき分けるような感覚がして、私は無意識に呪文を唱えた。


 すると目の前の水球が突然うなりを上げて底の方から凍てつくように六角柱に成り代わる。

てっぺんまで固まりきった時、それはゴトっと音を立てて床に落ちた。


「うわぁッ!? これ、クォーツ……!?」

「そうだな」

「課題クリア? クリアだよね!?」

「まぁ俺の始業まであと十分あるし、ぎりぎり良しとするか」


 シトアは腕時計を確認した後、小さく笑って私を見た。


「言われたことを期日までにやり通すってことは、大人でもできない奴はいるからな。ひとまずやる気だけは認めてやろう」

「ありがとうシトアー!!」


 シトアの手を取って大袈裟に振り回した後、私は巨大なクォーツを持ち上げて抱きしめた。


 すごいすごい、魔法を使ってこんなに達成感があるのって初めて!


「早速着替えてきまーす!」


 私はシトアにそう叫びながらトイレに向かった。

ボディーバッグの中を開けるとデニムのジップアップワンピースが入っている。


 靴は厚底のスニーカーを履いてきたし、ボディーバッグとの相性も抜群。

琥珀ねぇ、ありがとー!


 着替え終わってシトアの部屋に戻ると同時にチャイムが鳴る。

いつの間にか机の上にクォーツの材料がたくさん用意されていて、シトアはその前に立って私を待っていた。


「それじゃ、次の課題だ」

「待ってました! なんかシトア先生ぽいね!」

「いや、ぽいじゃなくて先生だから」

「あ、そうだね」


 昨日が自習だったから忘れてた。


「次の課題は……”風の魔法のコントロールを完璧にすること”だ」

「おお、おおおおお!!」


 きたー!

これは期待大だ。


 だって私の一番の問題は魔法のコントロールが効かない事だから。

ザマス先生は魔力をたくさん集められるのは魔宝石作りにおいて特別じゃないって言ってたけど、そんなことないよね?


 集める魔力量の調整さえできれば、米粒くらい小さいクォーツとか、家くらい大きいクォーツが作れるってことだし。

それって今まで見たことない私だけの武器な気がする!


「他のクラスじゃクォーツに魔力を込める練習をしている所だろうが、俺たちはむしろひたすらクォーツ作る」

「やっぱりシトアもそう思う!?」

「ああ。なぜなら、試験でみかげの可能性を見せるために必要なことは」


 シトアはそこで話すのをやめると、手を宙にかざして何か魔法を使う仕草をした。

瞬く間にシトアの手の上にクォーツが生まれる。

シトアはそれを人差し指と親指で掴んで私に見せた。


「完璧な魔宝石の土台にこだわる。つまり、これくらい純度の高いクォーツを作れるようになる事だからだ」

「うわぁ、きれい!」


 シトアの作ったクォーツは輪郭しか分からないほど透き通っていて、感動して思わず拍手をした。


 すごいな、私が作ったのと全然違う。

でも私のもラメがいっぱいでミルキーな感じがして可愛いけど。

だって初めて作ったクォーツなんだもん!

愛着湧いちゃったな~!

……って。


「え? 純度? 色んな大きさのクォーツを作ったりしないの?」

「そんなの今はどうでもいいだろ」


 チョット何イッテルカワカラナイ……。


 シトアはふざけているようには見えない。

だから余計に私の思考は停止したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る