12 魔力の本質


 大惨事の室内を前にあわあわと立ち尽くす。

シトアは泣きそうになっている私を見て、髪をかき上げながらため息をついた。

今はそれどころじゃないけどイケメンはその仕草が絵になる。


「ハァ、まぁいいや。とりあえず片付けて続けろ」

「え……? え!? いいの!? また爆発しちゃうかもよ?」

「成功するまでやらないでどう習得するんだよ」


 それは確かにそうだ。

でも、ロイヤル魔法学校にいた時は危ないから練習なんてさせてもらえなかったのに。


 もっとやってもいいんだ!?


 それが嬉しくて、私は急いで部屋の中を片付けた。


「よーし、続きをやるぞ!!」


 綺麗になった部屋を見て気合を入れ直す。

が、さっきまであった大事なものが手元にないことに気づいた。


「……あのー、シトア」

「シトアせ、ん、せ、い」

「シトア先生」

「なんだよ」

「魔法石辞典が木っ端微塵になって消えちゃったんですけど……」


 図書室にあったのは一冊だけ。

ショックすぎて言葉が出ない。


 シトアはやれやれという顔をすると、カラーボックスから何かの本を取り出してきた。

金の装飾が施されている紫色の綺麗な本だ。


「特別に俺のを貸してやる。これは再生の魔法がかけてあるけど、大事な本だから粗末に扱うなよ」

「え!? ありがとうー!!」


 超優しいじゃん!?

シトアってやっぱりなんやかんや根は良い人なんだ!


 ーーそして、その後はというと。


 何度か挑戦はしたけれど毎回クォーツ草は溶けるし魔法は爆発するしで帰る時間までにクォーツを完成させることはできなくて、結局課題は宿題として持ち帰る事になった。


「ただいまー」


 へとへとになりながら玄関を開ける。

そこには琥珀ねぇの靴だけあって、瑠璃ねぇのものはまだなかった。

それに少しほっとしてしまった自分が情けない。


 私、瑠璃ねぇに酷いこと言っちゃったよね。

今まで言い争いすらしたことないし……どうやって謝ったらいいんだろう?


 ため息をつきながら靴を脱いでいるとリビングから足音が聞こえてきて、琥珀ねぇが廊下に顔を出した。


「おー、おかえりみかげ。ご飯買ってきてあるぞ」

「え? ほんと?」


 そうだ。夕飯のこと、すっかり忘れてた。


「今は試験に集中して、家のことは全部あたし達に任せてよ」

「えー! ありがと琥珀ねぇ!」


 私が感激したように顔の前で手を組むと、琥珀ねぇはニコッと歯を見せて笑った。


 リビングのテーブルには私の大好きなパスタが並んでいて、それをたらふく食べた後はお風呂に入ってリラックス。

残された時間は少ないから、早速課題にとりかかろう。


 私は髪が邪魔にならないように簡単にポニーテールにくくって、机の上にクォーツの材料を並べた。


 木の葉も石も外に出ればいくらでもあるけれど、クォーツ草は持ち帰るのを許可されたのは五本だけ。


 本当はもっと持って帰りたかったけど、植物は根を離れれば魔力を作れなくなって死んでしまうから制限されるのも仕方がない。


 つまり五回以内に成功しなければいけないということだ。


「慎重にやらなくちゃ。とりあえず今日の復習からしようかな」


 シトアに借りた魔宝石辞典を表紙からめくって、まずは目次に目を通す。


 そうだ。

他の項目だって何かのヒントになるかもしれないし、読み込む幅を広げてみよう!


 家にいるからか自分がリラックスして取り組めているのが分かる。

私はひとつひとつの意味を大切に、メモを取りながら辞典を読んだ。


 はじめは、もう何度も読んだクォーツの作り方。

次に魔力を物質へ込める方法、魔力の混合について、その相性……。


 ページが進むごとに内容は難しくなっていく。

余白にはシトアの字と思われる書き込みがぎっしりと詰め込まれていた。

全部に目を通せたのは日付が変わった頃だ。

私は手を震わせながら辞典をそっと閉じた。


 す、すごい。

すごいよこの辞典……!


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