6 段違いで、屈服させる実力
さっきまでの和やかな空気とは一変して 薄暗い空気と視線が突き刺さる。
「どういうこと?」
「退学なんて前代未聞だわ」
「本当に三日月さんの妹?」
「よく魔法省に来れたな」
周囲はざわついていて、急に悪者になったような感じがする。
ふと、人だかりの中にいた赤いリップの女性と目が合った。
あの人は……昨日、伝令魔法でハーブキッチンの口コミをしてくれた人だ。
女性は私から目を逸らし、無表情でどこかへ去って行ってしまう。
もしかして、魔法省はエリート集団だから落ちこぼれに拒否反応が出てるの!?
撤回しようとしたって事実だけど、何か弁解したくなるような視線が刺さってくるよーー!
「お言葉ですがーー」
瑠璃ねぇが何かを言いかけた瞬間、それは何かが弾ける音に遮られた。
驚いて注目すると私が作ったハンバーガーが木っ端微塵になって宙を漂っている。
たぶん、何かの魔法だ。
その魔法の主は注目を集めるように大きく息を吸った。
「これ、返しますねぇ〜。食べたらバカがうつるかもしれないじゃないですか」
「確かになぁ。僕も食べる気が失せたよ」
「俺も」
何人かの男たちが同調して、笑いながら同じようにハンバーガーを魔法でぐちゃぐちゃにして私の元へ投げてきた。
それは私のスニーカーすれすれに落ちて、火の入れ方にこだわった半熟の卵がべったりと地面についている。
唖然として何も喋れないでいる私を、男たちはせせら笑った。
「魔法でも使って元に戻したらどうでしょう? ま、うまく使えればですがね」
いつの間にか集まっていた野次馬の中でも男達の行為を非難する人はいない。
それどころか一緒に笑っているくらいだ。
「みかげちゃん、ことが落ち着くまでここから離れましょう」
私は瑠璃ねぇに背中を押されて外の方に歩き出した。
でも、納得できない。
食べ物を粗末にするなんて。
魔法省で働いている人が悪いことに魔法を使うなんて。
「……みかげちゃん?」
むしゃくしゃしすぎてフラフラと窓際のテーブルに手をついた私の顔を、瑠璃ねぇが覗き込む。
その瞬間、ハッとして瑠璃ねぇが私の手をテーブルから勢いよく引き剥がした。
テーブルは木製だ。
私が手を置いていた所に芽が生えてきているのが視界に映った気がするけど、そんなの今はどうでも良い。
「絶対、絶対、許せなーーいッ!!」
私がそう叫んで、勢いよく男たちを振り返ろうとした時。
エントランス全体が柔らかい光で数回光った。
「うわっ!?」
「ぐえ!?」
それと同時に聞こえてきた悲鳴。
なぜか男たちの口には綺麗に元通りにされたハンバーガーが入っていた。
え? これをやったのは私じゃない、
一体何が起きたの?
みんなの目の前を、月の光みたいにキラキラしたオーラを放つ人が通った。
その人は注目を集めながら男たちの前まで行って、かざしていた手を下ろす。
「し、シトアさ……!? むぐ、もが!?」
「悪い、無理やり食べさせるつもりはないんだよ。でも勝手に魔法が効いちゃってさぁ」
「な、なんでっぶへ!」
「ああ、昨日そいつが作ったランチを食べたから魔法のコントロールが下手になったのかも。お前らの言う通りだな?」
と言いながら、突然現れたシトアさんは宙に浮いている最後の一つのハンバーガーに手をかざす。
するとハンバーガーは一口サイズに切り分けられて、シトアさんはそのうちの一つを自分の口に放り投げた。
どう見ても、確かに、何かの魔法を使っているはずだ。
でもステッキが見当たらないし、魔力の元になるような物も手にしていない。
何も使わず、何もないところから魔法を使うなんて聞いたことがない。
シトアさんって何者……?
「なんだ、普通に美味いじゃん。何が問題なわけ?」
そうシトアさんに詰め寄られた男たちは何も言い返せずに口をぱくぱくさせている。
「いや……あ、あの。そ、そうだ仕事に戻らないと! な、君たち?」
「あ、ああ。それじゃ、失礼しまーす!」
男たちは最終的にまごつきながらそそくさと消えて行った。
野次馬の人たちも急に用事を思い出したかのように退散して、その場に残ったのは私と瑠璃ねぇとシトアさんの三人。
シトアさんは私のことをじーっと見ると「あぁ」と言って少し目を見開いた。
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