『主人公』の愛の告白(4)

 魔法で足元だけを照らしながら、私は森の中を進んだ。

 街から程近いこの辺りは、魔物が少なくて採取物が良く取れる人気のスポットとなっている。さすがに今のような深夜には人っ子一人見当たらないが。


「灯台下暗しって奴ね」


 秘密の入口という先入観から、冒険者ギルドのメンバーは建物の陰などしやへいぶつを中心に探していることだろう。こんな昼間は人通りが多いような場所に作られているとは、夢にも思うまい。ここに存在していると知っている私でさえ注意して見ないとわからないくらいの違和感なのだから、なおさらだ。

 ほんの少し景色が揺らいでいる場所へと、慎重にを進める。ぎりぎりまで近づいて、足元を照らしていた魔法を消す。

 それから私は、忍び足で『茨の監獄』へと足を踏み入れた。


「……っ」


 目の前の景色が瞬時に変わり、驚きに上げかけた声を慌てて手でふさぐ。次いで、私は目に入った近くのていぼくの陰へと身を隠した。

 「そう来たか」というのが最初の感想。空間が異なるとは聞いていたけれど、まさか真昼のように明るいとは思いも寄らなかった。

 最近はずっと同じ街にいたのでOFFにしていたミニマップを、久々にONにする。可視範囲にエネミー反応は無いし、突然現れたはずの私に騒ぎになっていないあたり近辺に人はいなさそうだ。それでも低木の陰から、私は周辺の様子をうかがった。

 この場所を一言で言い表すなら、『庭園』だろうか。私が隠れた低木を始め、至る所で花が咲いている。池の中を泳ぐ魚が跳ね、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 そんな何とも幻想的な場所に、不気味な雰囲気をかもし出している箇所が一点だけあった。

 光の差さない大穴……いや、穴ではなくうろと呼んだ方が正しいのか。超巨大な樹の根元が、人間が数人余裕で行き交えそうな大きさの洞になっている。どう考えても、この目立つ大樹が『茨の監獄』に違いない。


「この場合、あれってたぶん植物の根で形成されているダンジョンよね」


 呟いて、自分の言葉にげんなりする。

 この手のダンジョンは、歩いているうちに地形が変化したり、足を踏み入れた生物の養分を吸い取ろうと根やつるが襲いかかってきたり……。ダンジョン自体がモンスターというパターンが存在する。


「で、今回はズバリそのパターンの可能性が高そう……」


 先程ミニマップをONにしたときチラッと見えてしまった情報に、私は改めて目をった。


「いつの間にか名称が『激怒した茨の監獄』って。何故に既に怒っているの……」

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