『主人公』の愛の告白(1)

「ロシェス?」


 夜中に喉が渇きキッチンまで来た私は、ロシェスに呼ばれた気がして後ろを振り返った。

 しかし、誰もいない室内に気のせいだと――思うのはよくあるシチュエーションなわけで。


「大体、こういった場合には気のせいじゃないのがお約束なのよね」


 喉を水で潤した後、私はロシェスの部屋へと向かった。扉の前まで来て、彼が寝ている可能性を考えて控え目にノックをする。

 数秒待っても返事がないことを受けて、私はそっと扉を開いた。

 室内にある家具類はここへ入居したときのままで、それどころか私物らしきものさえ見当たらない。初日と変わっているのは、ベッドの位置だけだった。

 対面に配置換えしてあったそのベッドへと近づく。寝ているだけならそれを確認だけしてすぐに出て行くから、そう心の中で言い訳をして。


「……いないみたいね」


 ベッドの膨らみが見られない時点で予想は付いていたとはいえ、私は信じがたくて空のベッドのそこかしこを叩いた。当然、ロシェスの身体ではなく肌触りの良い掛布の感触しか返ってこない。

 これはどう考えてもお約束展開だろう。最近、ロシェスが毎日のように出かけているのは知っているが、日付が変わる時間帯までに帰ってこなかったことはなかった。

 プライベートなことなので、行き先は聞いていない。ロシェスの容姿は目立つから街で聞き込みをすれば所在がわかるかもしれないが、こんな時間だ。まともな目的情報を聞ける住人より、暴漢、人攫い、その他諸々の悪党に出くわす可能性の方が断然高い。実害があってもなくても実行したことがバレた日には、彼に大目玉を食らうこと必至だろう。

 チートな聖女スキルを使えば悪党に遭っても大丈夫そうではあるが、それを隠したくてのロシェスの存在なわけで。スキルを当てにした対策もまた、やはり彼に叱られそうである。

 それならどうするか。


「……そういえば、人捜しの依頼ってあったよね」


 ふと、私は冒険者ギルドに行ったときのことを思い出した。

 各種依頼がボードに貼ってあり、如何にも冒険者ギルドだなと思ったのを覚えている。その中に森ではぐれたパーティーメンバーの捜索依頼があり、当日中にそのメンバーが無事に見つかったという話も耳にした。

 捜索依頼は受注に人数制限を設けておらず、対象を連れ帰った者に報酬が出るという。ロシェスがいなくなったのはおそらくこの街中でのことだから、経験の浅い冒険者でも受注してくれるかもしれない。


「私が闇雲に探し回るより、そっちの方がずっといいはず」


 敢えて声に出して言いながら、私は着替えるため自室へと戻った。

 上から被るだけで完了のシンプルなワンピースを着る。それから私は、先程から駆け出したくてそわそわしていた自分の脚にGOサインを出した。

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