親友との再会(6)

 帰宅した私は、キッチンへと向かった。流し台へと行き、腕の傷口を洗い流す。テダは治療しておけと言っていたが、勝手に店の薬を使うわけにもいかない。

 それに感覚的に、悪化はしない類いの怪我だと判断できた。流血も一時的なもので、ここへ来る間に止まっているだろう。そう瞬時に過去の経験から照合できてしまうというのも、皮肉な話だが。

 仕事着の方も袖は手首まであるので、傷を隠すことは可能だ。

 そう思いながら傷の状態だけ確認しようと腕を見て――私は目を疑った。


「傷が……消えている?」


 流血が止まっているのは、予想通り。しかしこれは最早、そういう次元でない。

 傷痕はおろか、炎症も見られない。言うなれば、傷を負ったこと自体無かったことになっている……といった表現が正しい。

 こんな不可解な現象が起きたのは、初めてだ。ナツハ様と出会って以来、不思議なことが相次いで起こっている。

 首を傾げながら自室へと足を向けて。

 そして階段を上りきったところで、私はハッとなった。


「! そういうことですか」


 そうだ。ナツハ様と出会ってからその現象が起きているなら、それが答に決まっている。

 里でかけられた呪いが解けていたのも傷が治ったのも彼女の力であり、そしてその力のありについて心当たりといえば当然――

 私は自室へと入り、すぐさまその場で懐からナツハ様のポーション瓶を取り出した。


「まさかポーションを使わず持っているだけでこの効果とは。これを失敗作だと思っておられるのだから……」


 今回のことで、わかったことがある。

 おそらくナツハ様の鑑定は、ナツハ様本人に対する効果が表示されている。だから『ナツハ様の聖力が他人に与える影響』については、正しく表示されなかったのだ。


「これは『初級HP回復ポーション+1』も+1どころではなさそうですね」


 登録した際にもらった商業ギルド発行の鑑定書を、私も一度見せてもらった方がいいだろう。なまじ鑑定ができるナツハ様は、登録申請が通った事実にしか注目していない可能性がありそうだ。

 私の予想ではおそらく、聖力が得意とする治癒に呪いの解除、それから精神に関する異常を緩和する効果がある。

 持ち歩いているだけで怪我が治るなどの効果が現れるのは、幸いナツハ様が直接作られた私が持つこれのみだろう。だが、店で売っているものにもナツハ様の鑑定結果に加えてその類いの効果が少なからず付いているはずだ。


「高レベルとなる呪いの解除については、市販のものは予防程度と思われますが……」


 商業ギルドで登録する際に『免疫力が付く』以上の効果が見られたなら、ギルド員……下手をすればギルド長がすっ飛んでくるだろう。そうなっていない辺り、何とか通常よりレアな効果が付いているポーションのはんちゆうに収まっているようだ。

 それでも商業ギルドが初級HP回復ポーション+1を大量に注文した辺り、価値の高いレア効果に違いない。


「ポーションについては、今後も初級以上のクラスを店頭に並べない方がいいですね」


 明日、鑑定書を見せてもらいたい旨を伝える際に、この私の推測もナツハ様に話しておいた方がいいだろう。

 そう考えながら私は寝衣へと着替え、ベッドへと向かった。

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