イケメンご用意されました!(2)

 商業ギルドに来た私は、大注目からの大歓迎された。さすが商人、私が超高額商品を全身に纏うお得意様候補として即認定したらしい。


「どうぞこちらへ!」


 すっ飛んできたギルド長を名乗る人物直々に、私は別室へ案内されていた。例の飴玉を売るために買い取りカウンターの列に並ぶつもりが、受付場所を確認して一歩踏み出すか踏み出さないかの早業だった。

 部屋の内装からして、ここはおそらく商談に使われる応接室だ。おかしい。私は商談どころか先立つものがないために、手持ちの物を売りに来たはずなのに。とってもふかふかなソファに座らされている。おかしい。


「申し遅れました、私はロドリゲス・グストといいます」

「あ、私は一ノ瀬夏葉です。夏葉の方が名前になります」

「イチノセ様ですな。きっとご出身国では相当名の知れた方なのでしょう。辺境にいるとはいえ知らぬとは、いやはやお恥ずかしい限りです」


 これはあれか。凄腕のトレジャーハンターを抱える名家の人間と思われているのか。

 確かに傷一つ無い、日焼けすらしていないというのは、高貴な人間と見られるだろう。ここへ来るまでに見かけた、肉体労働者の多さから察するに。


「いえ……かなり遠い国から来ましたので」


 ここは否定せず、彼の推測に乗っておこう。遠い国と言っておけば、主にマナーの点で常識から外れてしまっていても大目に見てもらえるかもしれないし。


「して、本日はどのような御用向きで?」

「あ、これを買い取ってもらいたいのですが」


 目に見えて偉そうなおじさまギルド長に買い取りカウンター対応をさせるのもどうかと思うが、こうなっては仕方がない。私はグストさんとの間にある応接テーブルに、すっと飴玉を一つ置いた。


「おお……おおおぉおおおっ」


 途端、グストさんはソファから立ち上がった。

 目はかっと見開かれ、片手は口元、もう片手は胸を押さえているグストさん。はぁはぁと息まで荒い。素人目で見ても極度の興奮状態である。

 そんなにですか。いやまあアイテム説明欄に「伝説の」なんてパワーワードが入ってはいますけどね。


「これは……これは素晴らしい秘宝だっ」


 110グラム128円が秘宝。


「三十年以上鑑定士をやっておりますが、これほど珍しいものを見るのは初めてです。これは値段を付けるのが難しい……うーむ」


 私は唸るグストさんを見て、あっと気付いた。

 あ、これ。アイテム説明欄が見えるのもチートだ。そうでなければ、鑑定士なんて職業は成り立たない。値段を付けるのが難しいという言葉からも判断できる、見えていれば通常売却価格がズバリ書いてあるのだから。


「むむむ……20万ダル……で、いかがでしょう?」


 さすがその道三十年。ドンピシャじゃないですか。


「私の予想とまったく同じでした。素晴らしい鑑定士であるグストさんとご縁があり、嬉しく思います」

「なんと。ご自身で目利きもされるとは。こちらこそイチノセ様のような方とご縁がありましたこと、感謝しかございません」


 私はソファに座り直したグストさんを、じっと見つめた。

 グストさんの鑑定の腕は信用できる。そしてこの建物に入った瞬間から私が注目されたことからして、従業員さんたちの目利きも悪くないとみた。加えて、立派だが豪華すぎない洗練されたギルドの外装及び内装……。

 これはまたとない機会なのでは。私はゴクリと喉を鳴らした。


「もし可能なら……」


 言いながら、私は徐に上着を脱いだ。

 それに対しグストさんが、まさかという顔をする。はい、そのまさかをお願いします。

 脱いだ上着を軽く畳み、私はそれを今し方鑑定してもらった飴の横に並べた。


「すべて買い取り、できますか?」

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