エピローグ

1

AM 11:00 札幌市内某所


 あの戦いから3日たった。ニュースによると、例の事件の犯人は変死へんしした状態で発見されたらしい。

 まぁ実際は、咎人化してしまいそれを私達が倒したのだから当然か。

 ともかく、私の方も事件の整理を終え、それによってできた時間で今はとある所へ向かってる所だ。


「もうすぐ、里塚の霊園れいえんだね」


「そうみたい。ここに、五十嵐さんの墓があるらしい」


 私は今、ラスティアの車で里塚の霊園に向かっている。遺族いぞくの方の話によると、五十嵐さんのご家庭は代々里塚の霊園で遺骨を納められるという。

 五十嵐さんのお骨は、まだご遺族の元にあるが、先に事件の報告に行くため墓前に向かう。

 ラスティアは墓の近くのところに車を止め、私は後部座席に置いていた花束を持つ。

 墓前の近くまでに向かうと、先客がいた。


「キサラギさん……。あなたも、五十嵐さんに」


「望月さん。来ていたんですね」


 望月さんが、先に来ていたようだ。どうやら、私と同じく五十嵐さんに報告するため墓前りに来ていたようだ。

 私とラスティアは花をお供えたり墓を洗い、線香をたて両手を合わせて黙祷をする。


「全部、終わりましたよ。色々あったけど、なんとか」


「………」


 望月さんは、黙っている。何かあったかと心配になる。


「どうなさいましたか?」


「いえ、なんでもありません」


 ラスティアの心配に望月さんは、まだ黙ってる。私達は、近くの休憩所で少し休むことにする。


「あの、キサラギさん……」


「聞いてますよ。警察けいさつ、辞めるんですよね?」


 私の一言に、望月さんは上を向く。


「はい。五十嵐さんを死なせた僕に、警察を続けることなんてできません。第一、僕なんて居なくたって、大丈夫なんですから」


 望月さんは、あの日の事を今の後悔しているらしい。けど、私からすれば、それは違うと思う。

 その行いは、自分から逃げていることと変わりがないのだから。


「望月さん。それは違うと思います。確かに、責任をとって辞めることを別に悪い事じゃない。

 でも、それはかえって自分から逃げることを意味します。五十嵐さんがいなかったら、あの時の女の子は愚か、もっと犠牲ぎせいが出てたかもしれない。

 五十嵐さんのためにも、警察官としていた方がいいと思います。そのほうが、あっちにいる五十嵐さんだって、喜ぶと思いますよ」


「でも、僕は……もう、警官としてやれる事なんて、もう」


「大丈夫です。望月さんなら、やれますよきっと」


 望月さんは、しばらく沈黙する。そして、意を決した望月さんは立ち上がる。


「ごめんなさい。やっぱり僕は警官として戻ることはできません」


「……そうですか。それじゃ私はこれで――――」


「でも、僕はもう魔術で人を死なせたくありません! 魔術師になって、1人でも多くの人を魔術で死なせなようにする。

 キサラギさん。僕を魔術師にさせてもらえないですか!? もう僕は、五十嵐さんや、今回の事件で死んだ人たちのような犠牲者を出したくないんです!

 無理なのも承知の上です。どうか、僕を魔術師にさせてもらえないでしょうか!?」


 望月さんの言葉に、驚きを隠せない。ここまで思いっきりな人だなんて、思ってもいなかった。

 私は迷う。しかし、一般人である望月さんを魔術師にさせることはできない。

 だが、それはすぐに解決する。


「わかりました。けどそれには、ロンドンに行かないといけません。

 何年かかるかもわからないので、色々やらなきゃいけなくなりますが、よろしいですか?」


「はい! ありがとうございます!!」


 望月さんは、喜びのあまりに私の腕を振るう。私は呆れながら苦笑いする。

 しばらくは望月さんに付き合うことにした。



 なんだかんだ時間が経ち、私達は帰ることにした。帰省きせいラッシュということもあり、多少渋滞じゅうたいをしている。


「本当に良かったの?」


「本人の意志だしね。私が反対する権利はないよ」


「姉さんはお人よしだな。まるで、美羽ちゃんの時と一緒だよ、それ」


 ラスティアに、痛いところを突かれる。我ながらそういうのは弱いことを自覚している。


「色々と疲れたよ、今回は」


「そうだね。でも、しばらくは落ち着くよね。きっと」


「多分ね。変な奴が出て来なきゃいいけど」


 しばらく進むと、渋滞が落ち着いてきた。ラスティアは、少しだけ車の速度を上げる。

 車窓を眺めながら、私はつぶやく。


「平和だな、この街は」


「そうだね。この間まで、そんな気がなかったけど」


 マスクをしている人たちが、路上を歩く。例の感染症にかかりたくないためか、万全な状態で外を歩いている。

 それを見届けながら、目を閉じる。


『まさか、これで終わるとも思ってもなかろう』


 頭の中で、奴の声が響く。また変なことを吹き込むのか?


『良いか? これよりも厄介なことが貴様に襲いかかるだろう。だが、貴様なら乗り越えれろう』


 また変なことを吹き込まれようとする。どうせ、何か変なとこを言ってるに違いない。


『まぁせいぜいやってみるといい。貴様のやり方でな』


 そう言い残し、奴の声は消えていった。

 誰かが揺さぶるのを感じる。目を開けると、ラスティアが私を起こしていた。

 どうやら、屋敷に着いたらしい。

 こうして、私の何気ない1日は終わりを告げたのだった。

 

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