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AM 9:40 探偵事務所 如月


 シャァァァァァ。シャワーを浴び、体を洗った泡を落とす。

 体にムダ毛がないか確かめ、シャワー室を出る。体についた水滴すいてきを拭き、バスタオルを巻いて脱衣所だついじょを後にする。

 ラウンジに入ると、ラスティアがコーヒーを用意してくれたので、それを口に運ぶ。

 コーヒーを飲みながら、テレビを付ける。流れてくるニュースは、政府せいふによる制限の緩和かんわについてだ。


「姉さん。髪から水滴が垂れてるよ」


 ラスティアから、髪の手入れを忘れていることを指摘してきされる。

 どうやら、うっかりドライヤーをかけ忘れていたみたいだ。どうりで髪から水滴が落ちてると思ったらそう言う事だったみたいだ。

 やれやれと思ったのか、ラスティアはドライヤーで私の髪を手入れし始める。

 私は、髪の手入れされながら、テレビを見続けた。

 しばらくテレビを見ていると、スマホから電話がかかってきた。

 電話の相手は、望月もちづきさんだった。何やら、急な要件が出てきたらしい。


「もしもし」


『もしもし。望月です。今って大丈夫ですか?』


 電話越しで、望月さんは要件を言う。私はいいよう伝えると、望月さんはさらに続ける。


「えぇ。構いませんが?」


『は、はい! ではお伝えしますね。先日、襲ってきた学生についてですが』


 望月さんが、電話越しに先日のことを言う。どうやら、この間襲った学生の取り調べが終わったみたいだ。


『取り調べた所、です。何やら、SNSで見た儲け話についての投稿を見た後に、集合場所に集められた後の記憶がないんだそうです。

 それで、気がついたら取り調べ室にいたとのことです。本人、かなりパニックになってましたが』


「なるほど。それで? 五十嵐いがらしさんはその後どうしたんですか?」


証拠不十分しょうこふじゅうぶんで、返しましたよ。これ以上拘束するわけにはいかないって言って送っていきました』


 どうやら、証拠か掴めずそのまま返したそうだ。魔術まじゅつが絡んでる事件だから、五十嵐さんも無闇むやみに言えないのだろう。


「わかりました。私の方でもまた何かあったら連絡れんらくしますので、引き続きよろしくお願いします」


『わかりました。僕から五十嵐さんによろしくと伝えておきますね』


 そう言って、望月さんは電話を切る。そして、コーヒーを飲む。

 何か違和感いわかんを感じ、鏡を見る。すると、ラスティアが私の髪を勝手かっていじっていた。


「何してるの?」


「ご、ごめんね。姉さんの髪を見てたら髪型かみがたを弄りたくなってつい」


 私が電話中に、ラスティアが勝手に髪をアレンジしていたみたいだ。

 ラスティアには、悪いくせがある。それは、私の髪型を勝手にアレンジしたくなる癖だ。

 私自身、自分の髪型にはこだわりがないが、この髪がいいのかラスティアは良くアレンジしたがる。

 今は、髪は左右に二つの束に分けて結ばれてるようだ。いわゆる、ツインテールってやつだ。


「ラスティア。その髪型はやめてって言ってるでしょ。早く下ろして」


「ダ〜メ! 姉さんこの間、私の服を血まみれにしたでしょ? そのお詫びで今日はこれで過ごしてもらうからね」


「そ、それはごめん」


 私はラスティアに頭が上がらない。だいたいの服は、ラスティアが用意してくれるものだからだ。

 あの後に、血まみれになった服を見てすごく怒られたのだ。愚者グールの血が付きまくったらしいので、完全に綺麗きれいになるのに3日かかったそうな。

 私とぎゃく明日香あすかは、ラスティアの服を好む。今来ている服もラスティアが選んだ服なのだから。


「それはね。君のために選んだ高い服だもん。怒るのも無理ないよ」


 明日香は、呆れながら私の方を見る。何を笑ってんだ、この野良猫のらねこが。


「姉さん、今日は休みにするの?」


「日曜日だしね。そうするつもりでいるよ」


 今日は、特に予約よやくは入っていない。それなら休みにしようという考えである。

 ラスティアは、私が飲んでたコーヒーを片付ける。


「姉さん。今日は買い物に行こうよ」


「別に構わないけど、どこ行くの?」


「駅前かな? しばらく服とか買ってなかったし」


「ほとんどは今日から営業再開みたいだしね。私は別にいいけど」


「やれやれ。2人がどうしてもと言うなら、行くとしよう」


 2人は、支度したくを始める。私はいつもの服を着ようとしたときだった。

 ラスティアに捕まり、私は連行れんこうされる。


「ダメだよ、姉さん。たまにはオシャレしないと」


「えぇ〜。別にこれでもいいんじゃ……」


 こうしてラスティアは、私が拒否権きょひけん行使こうしさせる気もなく、ラスティアの部屋に連行したのだった。


 ――――――――――――――


 数十分後 札幌駅西口


 地下鉄を使い、札駅に到着する。制限の緩和もあり、人が多い。

 明日香とラスティアは、エチケットと言うこともあり、マスクをしている。

 もちろん私もしている。正直、私には必要ないが、これもマナーだから仕方ない。

 それよりも、今知りたいのは――――


「なんでこの格好なんだ!?」


「? 別にいいじゃん。だいぶ似合ってるよ」


 明日香は、私の服装ふくそうを見て、ニヤついてる。

 今の私の服装は、ベージュのセーターのノースリーブのワンピースに、白のカーディガンという格好かっこうだ。

 周りの視線が、こちらを見る。正直かなり恥ずかしいから、やめてほしい。


「まぁまぁ。でも、一度着せたかったんだよね。それ」


「私は着せ替え人形か! ともかく早く行こう」


 2人は、微笑みながら、すぐ横のステラプレイスに入る。それにしても、周りに視線が気になってしょうがなかった。

 それからというもの、ステラプレイスに中の服屋を中心に回った。もちろん、ラスティアは私の服とは別に、明日香の服まで買う。

 休憩きゅうけいがてら、昼食ちゅうしょくに入ると、明日香はかなりの量を注文する。私はコーヒーだけにし、ラスティアも明日香ほどではないが、料理を注文した。

 そこからも、私たちは買い物を続け、気がついくと夕方になっていた。


「今日はすごく買ったね。春のトレンドも買い占めたし」


「そうですね。思った以上に奮発ふんぱつしちゃったし」


「奮発って、払ったのは私のカードでしょうが」


 ラスティアは、手がいっぱいに袋を持つ。それを見た明日香は、亜空間あくうかんにそれを入れた。


「さて、帰りますか」


 明日香がそういうと、私たちは帰路きろに着く。

 その途中とちゅう、窓越しに何かを見つける。私は、それを見て嫌な予感を感じる。

 黒のコートを着た少女が、それは脱ぎ、爆弾ばくだんらしいものを起動させる。

 私たちは、それを止めるため、外に出る。


「やめるんだ!!」


 私は制止せいしするように、小杖タクトをもちその子の影をしばる。

 なんとか止める事ができたが、それでも様子ようすがおかしい。


「たす……けて……。ころして……」


 何を言っているのかはわからないが、嫌な予感がする。まさかこれは。

 女の子の姿が変わる。元の肉体は溶け、新たな体になる。


「仕方ない! 2人とも、行くぞ!」


 ラスティアは結界けっかいをはり、周囲の人間が消滅しょうめつする。

 こうして、私たちの楽しい休日は終わりを告げ、悲しき戦闘せんとうが始まった。 

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