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PM 10:50 中島公園


 中島公園なかじまこうえんに、愚者グール大群たいぐんが押し寄せてくる。そして、その大群を私とセシリアのみで食い止めようとする。

 その数は約30体。多勢たぜい無勢ぶぜい。この言葉が似合う状況というのは、まさにこれである。

 しかしながら、私とセシリアはそんな事を感じることはない。なぜかと言うと、愚者グールの群れなんて大したことでは無いからだ。


「来たわね。そんじゃ、一番槍いちばんやはいただくわ!」


「好きにして。私は勝手にやらせてもろう」


 セシリアが飛び出すと、挨拶あいさつがわりと言わんばかりの踵落かかとおとしを披露ひろうした。


 バチバチバチッ!!ドゥオオオン!!!


 セシリアは、地面じめんにクレーターが出来る程の強烈きょうれつな一撃を放つ。それにより、愚者の群れが空中に舞い上がった。

 それを見た私は、セシリアの背後はいごおそ愚者グール魔術まじゅつ迎撃げいげきする。


「血よ」っと術式をかけ、血の針を愚者グールに命中させる。その瞬間しゅんかん、血の針は愚者グール脳天のうてん貫通かんつうした。

 ブチュッ!と言う音と共に、愚者グールの脳天を撃ち抜かれ、腐敗ふはいした脳みそが黒い血と共に飛び出た。


「あら? 温情おんじょうのつもり?」


「どうかな? ただの露払つゆはらいなのかも。それより、相変わらず、『ミョルニル』の威力はすさまじいね」


 私はセシリアの魔具まぐを、褒める。しかし、セシリアは気にもせずに愚者グールの群れを次々と殲滅せんめつする。

 私も、小杖タクトを携えて愚者グールの群れを次々と倒していく。


 ――――――――――――――――――――――


 そもそも、魔具というものとは、なんなんのか?

 それは、私達魔術師まじゅつしにとってなくてはならないものだ。これを無くして、魔術師を語れない言わば必需品ひつじゅひんだ。

 基本的には、剣、弓、杖の三つからになるものだが、伝承でんしょうに名高い道具も魔具として、現世げんせに留まる事もある。

 セシリアの持つ『雷鎚 ミョルニル』はそれにあたる。

 しかし、魔術師のほとんどは伝承が語り継がれる魔具を持つことができず、通常の魔具しか持たない。

 伝承が語り継がれる魔具は、それほどじゃじゃ馬で、そして強力なのだからだ。

 ちなみに、私の持つ小杖も魔具の一種である。

 

 ――――――――――――――――――――


 それはともかく、この愚者グール共はどこか微妙みみょうにおかしい。

 本来に愚者グールは目に映るものを見境みさかいなく襲うが、こいつらは統率とうそつが取れている。

 ピンポイントに私たちを、執拗しつように狙ってくるからだ。


「微妙だわ、こいつらは。これじゃ、愚者グールじゃないわね!!」


「あぁ。これほどまで統率が取れてるとは、奴も大したものだ」


 私とセシリアは、話をしているとまた愚者グールの群れがおそいかかる。それを私とセシリアは迎え撃つ。


「少しだけ、暴れるとしよう」


 私は不敵な笑みを浮かべると、愚者グール亡骸なきがらに手を添える。


「『二重術式にじゅうじゅつしき 中級造形術式ちゅうきゅうぞうけいじゅつしき・『血創作ちそうさく』【血剣ブラットソード】』」


 小杖タクトの周りに、血が集まり一振りの剣となる。そして、複数体の愚者グールをまとめてほうむる。

 セシリアに集中していた愚者もまた、私のところに向かう。

 すると、セシリアを見逃すまいと、愚者の群れを足技で撃滅げきめつする。


 バチバチバチッ!!

 

「よそ見してると、死ぬわよ。『二重術式 中級連撃・雷神脚らいじんきゃく』!!」


 セシリアの華麗な足技により、愚者グールの足を粉砕ふんさいする。

 しかしセシリアは、容赦なく追撃を行う。


「続けて行くわよ! 『派生連撃・電旋脚でんせんきゃく』!!」


 軸足を上手く利用し、魔術を纏った回し蹴りで愚者グールの群れを一掃いっそうする。

 これにより、愚者の身体は胴体が真っ二つになった。

 私もまた、左手に魔術をこめ愚者を爆散させる。


「『二重術式 中級展開・『大火球だいかきゅう』!!」 


 ドカァァァァァン!!っと言う爆音と共に、数体の愚者グールを灰と化す。そして、私は立ち止まっていた愚者グールの首を血の剣で斬る。

 プシャァァァっと首から噴出する血を被り、顔についた血を舐める。味については、クソがつくほど不味い。


「不味い。これならラスティアの血の方が全然美味だ」


「随分と血を被ったわね〜。それにその服、ラスティアの物でしょう」


 セシリアはドン引きをしながら、私の方を見る。当然な事だ。返り血を被った挙句あげくにその血を舐めているのだから。

 そして、残る愚者グールの数はおおむね10体。30はいたはずの大群ももうこの数となった。

 だが、私の持つ血の剣は砕け、元の小杖に戻る。触媒しょくばいとなる血が自分のものではない為かすぐに脆くなったみたいだ。

 先ほどの愚者の死体を見る。見るからに、まだ乾いていないらしい。


「――――これなら、いけるな」


 私は、それを使える事を確信かくしんする。そしてセシリアに、時間稼ぎをするよう頼む。


「セシリア。時間を稼いでもらえるか?」


 セシリアは私が何をするのか分かってたようなので、それを了承りょうしょうする。


「別にいいけど、全部倒されても知らないわよ?」


「それは困るな。せめて半分は残してもらえると嬉しいな」


「冗談よ。まぁ時間は稼いで上げるわ」


 セシリアは、愚者グールどもを惹きつけるように、群れの中に突撃をする。

 その間に、私は愚者グールの死体の血の溜まりに、自分の血を入れるよう手首を切る。

 ポタッポタッと血を流し、左手に自分の血をつける。

 そして、術式を唱えるように、詠唱えいしょうを開始した。


「『星よ 我が声に応じよ 汝 星の怒りを代弁せし 代行者也』」


 詠唱を開始すると、血溜まりは液状えきじょうから物質ぶっしつ変換へんかんされ、6本の槍のような物になる。


「『我が血を糧とし 我が呼び声に応じ 穢れし肉塊より 魂を解放せよ』」


 2小節目しょうせつめ。それによって、6本の槍は炎を纏い、より一層破壊力いっそうはかいりょくを増していく。

 そして、私は最後となる3小節目を唱える。


「『今此処に 血と炎が交し武具を用い 星に仇なすものを一掃せん』」


 3小節目が唱えられた。6本の槍は、血の油を触媒とし、その刃に炎を纏う。

 そして、私の呼び声と共に、その槍は放出された。


「『三重術式 上級造形術式・『炎血融創具えんけつゆうそうぐ』【焔爆血投槍えんばくけっとうそう】』!!

 こいつはとっておきだ。冥土めいど土産みやげにくらうがいい!!」


 6本の槍は愚者グールに向けて、一斉に放出される。

 愚者の群れに向けて、降り注がれた槍は突き刺さると同時に爆散ばくさんした。

 そして、激しい爆炎ばくえん土煙つちけむりが晴れると、黒く焦げた愚者グールの死体が徐々に露わにあった。

 それを見ていたセシリアは、唖然あぜんとしながらその光景こうけいを眺めた。


「ほんっと、容赦のない創作魔術そうさくまじゅつね。」


「あぁ。加減かげんができないからさ」


 私とセシリアは、この凄惨な光景の中を歩き、残りがいない事を確認する。


 ――――――――――――――――


 創作魔術とは、一部の魔術師が扱える術式だ。

 本来の魔術師は、魔術書に記載されている魔術を扱うのが一般的である。

 しかし、その中には自己流にアレンジして魔術を扱うものもいる。

 それが、私やセシリアが使っていた創作魔術だ。

 しかし、創作魔術は術式の調整が必要であり、地位の高い魔術師でも扱うものは少ない。

 なぜなら、創作魔術は術式の調整次第で魔力量が変動するからだ。

 私とセシリアのような、創作魔術を多用するものはかなりのレアなのだが。


 ――――――――――――――――――


 かくして、愚者グールの炙り出しをしていた私たちは、もういないことを確認し、事務所じむしょに戻る。

 お互いの魔具を封印することで、帰路きろに着く。

 魔具は、使用していないときは、保有者ほゆうしゃのアクセサリーなどに擬態ぎたいする。

 セシリアの『ミョルニル』は、封印していると彼女のヒールに擬態するのだ。


「おかえり、2人とも。どうだった?」


「えぇ。全滅ぜんめつしたことを確認したわ。もうあんなに来る事もないでしょう」


「マジそれ? 私とラスティアの出番ないじゃん」


 明日香あすかは、残念そうに報告を聞く。終わりを確信し、事務所に戻ろうとしたときだった。

 なんと、愚者の一体が私に襲い掛かろうとした。私は、魔具を用意するが、間に合わない。

 万事休すかと思った時だった。襲いかかった愚者はなんと、空中で凍りついたのだ。


「全く。姉さんはそういうの雑なんだから」


 ラスティアは、冷気を纏った刀を鞘に収める。セシリアのまた呆気を取られる。

 こうして、割と長かった夜は終わり、私たちは事務所に戻るのだった。

   

 

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