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AM 11:25 北海道警察 中央警察署


 五十嵐いがらしさんに案内あんないされ、遺体安置室いたいあんちしつに向かう。薄暗うすぐららされている廊下ろうかを歩くこと数分すうふん、五十嵐さんはとびらけた。

 安置室に入ると、警官けいかんらしき人達ひとたち敬礼けいれいをし、五十嵐さんは遺体いたいが置かれている場所ばしょへとわたしを案内する。

 ドラマで見るような台に、白い布でおおかぶされたそれは、素足すあしにタグがつけられその素肌すはだからは生気せいきすらかんじなかった。


「これが今朝けさ、うちにはこばれた遺体いたいだ。法医ほうい連中れんちゅうが言うには、死後しご2日経過かけいかしてるそうだ」


 五十嵐さんが布を取ると、全裸ぜんらよこたわる10代の女性じょせいの遺体があらわれる。見た目から判断はんだんして、女子高校生じょしこうこうせいと見て間違まちがいないだろう。

 くびのあたりには、刃物はもので切ったあとがくっきりと見えてる。おそらくは、こっちがころした方で間違いないだろう。

 遺体を観察かんさつしていると、胸部きょうぶなにかのあざがある。本来ほんらいなら、あるはずのない痣がなぜあるのだろうか?


「この痣は?」


鑑識かんしき調しらべだと、関連かんれんしてる事件じけん被害者ひがいしゃの胸部にらしい。何をあらわしてるのかは全く分かってないんだそうだ」


 五十嵐さんが言うには、鑑識でもわからないものらしい。当然とうぜんだ。これは魔術まじゅつによってけられたものだからだ。

 被害者は、これを付けられては、のままにあやつられ、ようが済んだら自殺じさつさせたのだろう。

 私は、かばんから道具どうぐを出す。すなが入ったびんを取り出し、コルクを開けてそれを左手ひだりてにつける。

 五十嵐さんたちは、私の動作どうさを向ける。私は、それを気にせずに作業さぎょうつづける。

 小杖タクトを持ち出し、砂だらけの左手に向けて魔力まりょくを込める。

 すると、左手にまとわりついてる砂が反応はんのうし、遺体の痣に纏わりつく。


なんだこりゃ? 手品てじなかなんかか?」


「砂に魔力を与えて痣を調べさせているところです。もうそろそろ、こたえが出ますよ」


 私は五十嵐さんにそう説明せつめいしていると、痣がてきた。浮き出たそれは、『藍色あいいろ』の烙印らくいんだった。

 それをた2人は、呆然ぼうぜんとそれを見つめる。


 ――――――――――――――


 そもそも、魔術とは何なのか?

 このほし神秘しんぴ具現化ぐげんかしたものを、『魔術まじゅつ』と呼ぶ。

 星の神秘の具現化には、使用者しようしゃてきしてる『色素エレメント』が必要ひつようとなる。

 そして、使える魔術も使用者の『魔素マナ』に依存いぞんすることになる。

 基本的きほんてきには、『赤 青 黄 緑 橙 藍 紫』と区分くぶんされるとかんがえられている。

 これを『原色フロントカラー』とび、人類じんるいはこの7色から基本的には一つは適してるそうだ。

 中には2つ以上いじょう適応てきおうする者のいるんだとか。

 反対はんたいに、『白 黒 灰』に区分されてるものを、『無色ロストカラー』と呼ばれる。

原色フロントカラー』に相反あいはんするもののためか、これをあつかうものはそうそういないほど、これらはきらわれているくらいだ。

 そして、これら星の神秘を具現化できる連中れんちゅうを人は『魔術師まじゅつし』と呼ぶ。

 まぁ、大抵たいていは自分の私利私欲しりしよくで動くろくでもない奴らしかにいないのだが。


 ――――――――――――――


 と言うわけで、犯人はんにん断定だんていした。間違いなく首謀者しゅぼうしゃは魔術師だ。

 何かの媒体ばいたいで人をあつめ、実験じっけんのためにこの烙印を胸部に付けさせ、被害者に犯行はんこうをさせたのだろう。


「こ、これが魔術ですか!? すごい! 初めて見ましたよ、これ!!」


「テメェは黙ってろ!! お嬢さん、これがあんたの言う魔術って奴か?」


「はい。これはまぎれもなく魔術によるものです。首謀者はこれを被害者に付けさせて、犯行におよばせたにちがいないでしょう。

 しかし、疑問ぎもんのこることはまだあります。やつか。それさえ分かれば、後は楽でいいのですが」


 五十嵐さんは、ひらいたかの様に私に質問しつもんする。


「それじゃ、あれも同じ手口てぐちってわけか」


「あれとは?」


札幌近郊さっぽろきんこう刑務所けいむしょで、囚人しゅうじん失踪しっそうする事件も発生しているんですよ。しかも、二箇所合にかしょあわせて30人程度ていど失踪したそうです」


「それもこれがからんでるんじゃないかってことさ。しんじがたいが、全部ぜんぶことになるな」


 どうやら、他にも奴は関与かんよしているらしい。しかし、なぜ囚人たちがえるのか?

 一体、何のために囚人たちを連れ去るのか? ますますなぞが増えるばかりだ。

 魔術の実験だったら、同じ手を使えばいいのに、そんな手間てまをしなくてもいいはずだ。


「とにかく、もう時間だ。早く出ねぇと鑑識に怒られてしまう」


 五十嵐さんの声と共に、片付けを始める。私は、烙印を移した砂を紙に乗せる。

 私は、五十嵐さんに案内されるように、エントランスに向かった。


色々いろいろとありがとな。また何かあったら頼むな」


「いえ、こちらこそ。では、失礼しつれいしま―――――」


 警察署をろうとした時だった。魔力をかんじ、振り向くと学生がくせいたちが警察署にしよせて来た。

 見るからに、男子校生だんしこうせいらしい。しかし、を見るとうつろな目をしている。

 私は、彼らが手に持っているものを見て、いやな予感を感じた。五十嵐さんは、学生たちを追い払おうとした時だった。


 フォンッ。ボッ!!


 五十嵐さんは即座そくざに避ける。なんと、学生から火球かきゅうが放たれた。

 もう1人の学生は、ペットボトルのふたを開けて、飲み物を落とす。すると、水は地面じめんに落ちずに私たちにおそいかかる。

 放たれた水は、望月さんを襲う。だが、私は火球を放つことでまぬれた。

 学生たちは、もう一度魔力を込める。私はそのすきねらい、火球を放つ。

 火球は学生のつえを落とし、それを持っていた学生は倒れ込む。学生たちは逃げ始める。しかし、そのうちの1人が逃げ遅れる。

 私は、その隙に学生のかげに向けて魔術を放ち、学生を拘束こうそくする。


「誰の差し金だ?」


 私は、質問しつもんをするが、反応はんのうがない。学生はもがくが影が拘束されて動けれない。

 私は小杖タクト解呪かいじゅを魔術を唱え、小杖タクト先端せんたんを学生の胸部に付ける。


 ジュゥゥゥッ。


「ギャァァァァッ!!!」っと悲鳴ひめいを上げる。しばらくすると、学生は泡を吹いて気を失う。


「キサラギさん!? 今、何を!?」


「これの先っぽに、魔力を与えて解呪をおこなってるところです。付けたがわの魔力がく側より魔力がひくいと解けるはず」


 五十嵐さんは、私の行動に何かをさとる。

 

「どうやら、俺らはみ入れちゃいけねぇところに足を入れたみたいだ。それも、あんたがいないとダメなやつに」


「そうらしいですね。五十嵐さん。彼を頼みます」


「分かった。おい望月! こいつを運ぶぞ!」


 望月さんは、あわてて五十嵐さんと共に警察署に戻る。

 私は、2人を見送った後に事務所に戻るのだった。

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