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PM9:10 探偵事務所 如月


 みんな食事しょくじを済ませ、書庫しょこ資料しりょうあさる。

 食堂しょくどうから持ってきたウィスキーをたしなみながら、魔術書まじゅつしょを読む。


「この手の『魔術まじゅつ』か?それとも、SNS等の媒体ばいたいで呼び寄せたのか、後者こうしゃなら勘弁かんべんして欲しいものだ」


魔術師まじゅつし』である私は、機械きかいにはとてもうとい。正直しょうじき現代的げんだいてきなやり方はやめて欲しいものだ。


そもそも『魔術師』とは?


 このほし神秘しんぴ具現化ぐげんかしてあやつることが出来る人間達にんげんたちのことを、人は『魔術師』と呼ぶ。

 星の神秘はそれぞれのいろに分けられ、それを用いて何かをすることを『魔術まじゅつ』と呼ぶ。

 ただ、色が何色なんしょくも使えるからと言ったり、1つの色しか使えないからと言って優劣ゆうれつがある訳では無い。

 私達は、日頃ひごろより鍛錬たんれん研究けんきゅうかさねる事で、自身の成果せいかを世に広める事が目的もくてきで動いてるのだ。


 梯子はしごから誰が上がってくる。


「姉さん。セシリアが来たよ」


「わかった。今行く」


 グラスに入ってるウィスキーを飲み干し、私は梯子を降りる。

 階段かいだんをおり、事務所じむしょに入ると、そこにはソファでくつろいでるセシリアが居た。


「もう来たのか。電話でんわくらいかければいいのに」


一応いちおう、かけたのよ。そしたらあなた、全く出ないんですもの」


 私は、ポケットの中に入れ、スマホを取り確認かくにんする。すると、セシリアからの不在着信ふざいちゃくしん結構けっこうあった。


魔術書まじゅつしょを読み漁ってたから気づかなかったよ。悪いね」


 セシリアに詫びながら、私もソファに座る。


「まぁ、あなたがそうなのはむかしから変わらないわ。それより、どう?例の事件じけんは」


残念ざんねんながら、進展無しんてんなしだ。魔術書を読み漁っても検討けんとうが付かない。だが今日、良い収穫しゅうかくが出たよ」


「ほう?それは吉報きっぽうね。どういうのなの?」


警察けいさつ連中れんちゅう直々じきじきにここに来たよ。明日、近くの警察署けいさつしょに行ってくるよ」


 私は、話ながらセシリアと自分の分のグラスにウィスキーを注ぐ。セシリアは、興味津々きょうみしんしんに私に質問する。


「へぇ?何かいい収穫があればいいわね」


「あぁ。それに、出来れば早いうちに手を引いてくれるとなおいいんだけどね」


「日本の警察は案外あんがいしぶといわよ。私も何度も捕まった事あるけど、中々しつこくて面倒めんどうな連中よ」


「君の事だから、殴り合いの喧嘩けんかだろう。それも酔っ払ってる時にね」


「言ってくれるわね。まぁ、ほとんど事実だけど」


 セシリアは、中々酒癖なかなかさけぐせが悪い。

 昔、ロンドンにいた頃は何度も付き合わされたくらいだ。それで何度も酷い目に会いかけたのも懐かしい思い出でもある。

 セシリアは、私にタブレットを渡す。ファイルを開くと、私が追っている事件をまとめたものだった。


「これは?」


「例の事件の資料よ。これまで起こった事件を一通りまとめたやつね。これの為に2人くらい死んでしまったわ」


「なるほど。なら、そいつらの為にも早めに終わらせないとね」


 セシリアは、煙草たばこを口にくわえ、火をつけてけむりを吐く。


失礼しつれい。周りを見ずに一服しちゃって」


かまわないが、窓をかけてからにして欲しい。

 窓開けてから吸わないと、ラスティアに叱られるからさ」


 私は、ファイルを見ながら、セシリアに言う。セシリアもまた、煙草を吸いながら、酒を飲んで私を見つめる。


「ケルンでの自爆じばくテロ?何があった?」


「少し前にね。ケルンで自爆テロが起きたのよ。そのテロによって死傷者計ししょうしゃけい104人、それも昼下がりのデパートを狙った悲惨ひさんなテロよ。問題もんだいは、実行犯じっこうはん全裸ぜんらで立ってそのまま爆弾ばくだん起爆きばくさせたってこと。それに厄介やっかいなのは、実行犯は前日までだって訳よ」


「そう。なら、『魔術』のたぐい洗脳せんのうされて起爆するタイミングで解いたって訳か」


「恐らくね。それからしばらくして、今度は成都せいとで同じような事件が起きた。こっちの死傷者は合わせて381人。それにタチが悪い事に2割は家族連かぞくづれだったみたいよ犯行動機はんこうどうきはさっきのケルンの件と同様どうようね。2つの事件を足すと500人弱の人間が被害にあってるわ」


中国ちゅうごくは人が多いからね。それに、同一犯どういつはん可能性かのうせいはかなり高いな」


「へぇ?さすがはアルね。この資料を見るだけで、犯人は『魔術師』と読むとは」


「当然さ。こんな不可思議ふかしぎな事が出来るのは、私達魔術師わたしたちまじゅつしだけだ。それに、見つけ次第即急しだいそっきゅうころしておかないと手遅ておくれになる」


「なるほど。それは『咎人化たがびとか』する事?」


「それも無くはないが、次の被害を食い止めなきゃ行けないのもある。それに、今は例の病が流行はやってるせいで誰も家から出られない状況だ。

 抑制よくせいが解かれて時が


 周りの人達ひとたちは、行動こうどうを抑制されてしまい、無闇むやみ外出がいしゅつができない。

 だが、私のような魔術師は別で、何かのふしにかかることは無い。まぁ、そう言う体質たいしつだがら、厄介やっかいな事も多々あるが。

 ともあれ、個人的こじんてきにもこの情勢じょうせいにもうんざりしてる所もある。

 変な話、飲食店いんしょくてんでは無いにも関わらず、行政ぎょうせい連中れんちゅうから自粛要請じしゅくようせい要求ようきゅうしてくるが、一方的にこっちから断ってる。


「まぁ、落ち着いたら皆、外へと出るでしょうね。犯人はそれを狙ってる感じ?」


「ビンゴ。出来れば、この情勢下の内には方をつけるさ」


「それはあれ?あなたの得意とくい手段しゅだんを選ば無いやり方で?」


「まぁね。これを終わらせるなら、警察だろうと使えるもんは使うさ」


 セシリアは、グラスのウィスキーを飲み干し、煙草を吸う。


「とりあえず、こまかい事はあなたに任せておくわ。私は執行者しっこうしゃとしての仕事があるからね」


「ふっ。まぁ、何かあったら連絡れんらくしておくよ。それより、この後はどうする?」


「私はホテルへ帰るわ。ここからそう遠くは無いし」


「なら、ラスティアに乗せてもらいなよ。君、だいぶ酔ってるみたいだし」


「えぇ。そうさせてもらうわ」


 ラスティアに頼み、セシリアをホテルへ送らせる。私も、グラスのウィスキーを飲み干し、空を見上げながら煙草を吸う。

 かくして私は、再びグラスにウィスキーを注ぎ、セシリアからもらったタブレットを見返すのだった。

 

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