第15話

 なんか、久々に外の空気を吸った気がするな。周りはレンガばっかだけど、空気はうまい気がする。

ユッキーと山に向かってた時も、こんな空気だったな。

なんだか、ここが穴の中なんてうそみたいだ。

穴、そうだった。俺、じーさんに伝えないと。


「なあ、じーさん。穴から出ちゃダメっていうのはわかったけどさ、せめて友達と連絡をとりたいんだ。何とかできないの?」


「うむ。それについては、おぬしが眠っておる間に色々と考えておった。

 だが、やはり難しいと言わざるを得ぬな。その友達が、今どこにおるのかわかれば、まだ手はあるのだが」


「そんなのわかるわけないじゃん。てか、方法はあるんだな」


「うむ、しかしそのためには、外の世界からの干渉が必要なのだ。

 つまり、外からもにコンタクトを取ろうとする者がおれば、何とかなるかもしれぬ」


「え、じゃあユッキーが俺のことを今も探してくれてれば、連絡できるってことか?

 でも、もうかなり時間経ってるよな。もう家に帰っちゃってるかもしれないな」


「儂も、もう少し考えてみよう。ところで、おぬしはもう外の世界に戻る気はないのか?」


「ないわけじゃないけど。でも、もう穴を開けるのはまずいんだろ?

 もし穴を開けることで、この中がダメになるっていうんなら、俺はずっとここにいるよ」


「そうか。それは、儂にとってもありがたい判断だが、本当に良いのか?」


よかないけどさ。俺が外へ出たせいで、じーさんやおっさん達が死んじまうってんなら、その方が絶対嫌だっての。

それに、他にも鳥とか自然がいっぱいだしさ。ここで暮らすってのも、悪くないよな?飯もうまいし。

母ちゃんは、怒りそうだけどな。セイドー行けって言ってたし。でも親父は、けっこう放任主義だしな。

息子が選んだ道なら、なんだかんだ否定はしないだろうな、きっと。

みんなは、どうだろう。ユッキーは、どう思うかな。わかんないや。


「うん、まあ、できれば定期的に連絡は取りたいけどな。でも向こうがそれをする気がないんだったら、俺も連絡は、もういいかなって。だからどっちにしても、俺はかまわないさ」


なんか、じーさんは難しい顔をしてる。テレパシーで俺の心を探ってんのかな。

でもこれは俺の本心だしな、うん。いや実は俺自身も、よくわかってないのかもな。

 

「気晴らしにでも、野原に出てみるか。おぬしも、ここで暮らすなら、この辺りのことは知っておいた方が良いだろう」


あれ、いつの間にかおっさんもいっしょにいるな。家の外で待ってたのかな。とりあえず、じーさんについて行こう。

相変わらず迷子になっちまいそうだもんな、俺。


「そういや、なんでこの街ってレンガばっかなんだ?ちなみに俺たちの住んでる場所は、木材建築が多いんだ」


「うむ。今は知らぬが、当時のおぬし達の世界では、ケイ素が最も潤沢にあったからな。

 奪い合うことになる可能性が最も低いと判断し、遠慮なくたくさん、この中に持ち込まさせてもらったのだ。

 要するに、管理をするための街をつくり上げるのに、レンガは最適な物質だったのだよ」


ケイ素、ってなんだっけ。すいへいリーベにあったかな?えーっとたしか、


「H、He、Li、Be、B、C、N、O、F、Ne、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、Ar、K、Ca、だっけ?ちょっと自信ないけど。この中にケイ素なんてあったっけ?」


「うむ、その中のエスアイがケイ素なのだ。土や石の元となるものだ。

 レンガも、主に土で出来ておるからな。生成や加工が比較的楽で、温度や湿度を基本的に一定に保っておるこの世界においては、レンガとはこれ以上なく、儂らにとって便利なものなのだ。

 だが、シー、炭素は違う。様々なものに利用出来る一方、数が非常に少ないのだ」


「ふーん。でも、俺たちにとって一番重要なのって、やっぱ酸素なんだろ?酸素ないと、息できないし」


「うむ、確かにその通りだ。だが、意外かもしれぬが、土や石にも大量に酸素が含まれておる。

 儂がこの世界に持ち込んだのは、大半がこの石なのだが、これを原子の状態に分解すれば、ケイ素と共に多くの酸素を抽出することが可能なのだ。

 儂にとっては、酸素よりも炭素の方を、管理をする上で重要視しておったよ」


「なるほどなー。木とか草も、炭素がもとだもんな。おっさん達や俺も、炭素なんだよな?」


「まあ、そうだな。もちろん単なる炭素ではなく、複数の種類の原子が組み合わさって、構成されておるがな。

 髪の毛一本でも、貴重な資源だ。この世界においては、特にな。

 おぬしが来たことによって原子の総量が変化しているので、こう見えても儂は今も、頭で計算を続けておる。

 おぬしの体から出る老廃物や、生理現象のことも考慮してな。

 それらは全て回収して、今も資源化の作業を彼らにさせておるよ」


「えー!?なんかやだな、そういうの。なんつーか、気持ち悪いっていうか」


じーさんは大笑いしてる。いや笑い事じゃないっての。


「きっと、おぬし達の世界でも行われておることのはずだ。ある程度はな。

 おぬしの心を探った時、それらしい記憶が見つかったのでな」


「なあ、前から思ってたけど、テレパシーが使えるんならさ、こうやって会話なんてしなくてもいいんじゃないのか?」


ちょっとトゲトゲしく言ってやった。今のは、俺の本心じゃないけどな。


「いや、それだけでは駄目なのだ。無論、テレパシーが不要なものとは儂は思っておらぬがな。

 実際に、相手の目を見て、相手の事情を汲み取ったり、口調やたたずまいを確認して、意思の疎通に取り組もうとする意欲が大事なのだ。

 それらを重視するあまり、相手に呑まれてしまうことは避けねばならぬがな。

 テレパシーだけでの対話では、本当の意味でコミュニケーションを取れているとは限らぬのだ」


うーん?なんかじーさんも、さっきと言ってることがびみょうに違うような。

 

「わかったよ。コミュニケーションってやっぱ、難しいもんなんだな」


「儂自身、言っておること、思っておること、やっておることが全てバラバラで、自分の中で取るべき行動を整理できておらぬなと感じたことがある。

 儂があの部屋で語ったコミュニケーション云々も、おぬしに本音を口に出させるための、言葉の綾だ。

 何事も、本気にせぬよう心掛けぬと、いつか儂のような口先だけの悪いやつに、ダシにされてしまうぞ」


「ははっ!なんだよ、それ。だいたい、俺はここで暮らすんだから、そんな悪いヤツなんて、周りにいねーって」


「お、やっと笑ったな。おぬしの笑顔、儂は初めて見たぞ」


え?そうだっけ。俺、自分ではけっこう笑うほうだって思ってたけど。

そういや昔、がっこーでも全然笑わないヤツがいて、つまんねーって思ったことがあった気がする。

あれ、でもそいつって、ユッキーだったっけ。今じゃあいつ、すげー笑うから、今まで思い出せなかった。


なんだろ、なんか、全部が懐かしく感じる。

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