第3話 ここ掘れ鉱脈!

 ダンジョンとは未だ謎に包まれた洞窟の事を指す。

 突然現れては魔物を排出する神出鬼没の魔窟である。


 これがなぜ、どこに、どうやって現れるかは定かではない。

 世界中でなお研究が続いているらしいが、まったくの正体不明だそうだ。


 でも、それがもう数千年も続きさえすれば誰しも慣れもするだろう。

 おかげで今では攻略するのにもそれほど緊急とはならないらしい。

 時々魔王だとかが出現するものの、勇者達が倒して事無きを得ている。


 ついでに道中のお宝を漁り尽くして。


 ダンジョンには魔物だけでなく宝も置かれている。

 それを勇者達が独占し、市場に売りさばいているのだ。

 無から出てきたものなので元手はタダだし、人では作れない珍しい代物ばかりなので高く売れる。

 おまけにそれとは別に攻略報酬が出るから相当に儲かるらしい。

 うらやましい話だよ。


 俺もそんな勇者になりたくてがんばっていたんだけどな。

 それが今は最底辺の採掘士だなんてまったく、世知辛い世の中だ。


「よしダンジョンに着いたぞお前ら! さぁどんどん進め! ノルマを達成できるまで外に出られると思うなよ! 我ら〝モンタラー〟が監視している事を忘れるな!」


 そうこう思い悩んでいる間に目的地へと辿り着いたようだ。

 俺達のまとめ役である監視者――モンタラーの怒声ばりの叫びが響く。


 すると仲間達がこぞって馬車から飛び降り、ダンジョンへと走っていった。


「私達も行こう」

「ああ。途中まではいつも通り一緒でいいよな?」

「ええもちろんです」


 だから俺達も大きいリュックとマトックを背負い、「表だけ」走ってダンジョンへ。

 中に入ってしまえばこっちのもので、いつも通り歩を緩めて先導者についていく。


 とはいえ現場に着くまで緊張だけは解けないが。


「いいかハーベスターども。俺の印から外れたら生きて帰れると思うなよ? お前達が安全に帰れるのはこの〝ポータラー〟様のおかげだと覚えておけ!」


 それは俺達の次に位の低いこの道標者――ポータラーがいるから。


 彼等だけが扱える道標魔法のマーカーがあるから、道の入り組んでいるダンジョン内でも迷わずに済む。

 またマーカーに触れれば一瞬にして外に出られるのも大きい。

 それなので彼等は俺達にだけいばり散らすのだ。自尊心を満たすためだけに。


「あいつはチビなのに随分とがデカいな」

「プッ、聞こえたらどうすんだ」


 ただし彼等のやる事は表の監視者と同じで、ただ「案内し、帰す」だけ。

 優秀なポータラーは勇者と共に前線へ赴くらしいが、ここにいるって事はそれほどの実力者ではないのだろう。

 なら同じ穴のムジナで威張るほどでは無いと思うのだが。


「うちら種集士だからここで別れるぞ」

「こっちは虫取士なので、ここで」

「窟森エリアが見えたから伐採士の私達は行くわ」


 進んでいくうちに仲間達が次々と別れていく。

 彼等には彼等の役目があるからだ。


 この遠征の目的はダンジョンに存在するあらゆる資源の採集。

 そこでハーベスターに分類されたあらゆる才能の持ち主が集められた訳で。


 対象は鉱石、原石、木材、草材、栽培種、錬金術素材から純水などなど。

 表では枯渇して採れない特殊素材をダンジョン産でまかなうのである。


「ここが最奥部だ。あまり遠くに行くなよ? 探すのも死亡報告も面倒だからな」

「わかっていますとも。よしヤーム、ラング、行こう」


 そして俺達採掘士の職場は主にダンジョンの最奥地。

 奥であればあるほどレアな鉱石などが掘れるのだ。


 そこで俺達はランタンに火を付け、三人でさらに奥へと進む。


 マーカーの輝きがもう届かない。

 暗闇と不安が俺達を包んだ。

 それでも突き進む。いつもと同様に。

 

 そうしてまた分かれ道が現れた時、俺達は静かに頷き合うのだ。


「ここで別れるぞ」

「ああ、もし良い採掘場があったらぜひ教えてくれ」

「ははっ、まかせな。掘り尽くした後に教えてやるよ」

「あらぁ! じゃあお弁当はどうしようかなぁ~?」

「う、それはちょっと惜しいなぁ……」


 もう二年もこんな事を続ければ慣れもする。

 最初は怖かったが、今ではこんな暗闇なんて屁でも無い。

 おかげで俺達は笑いながら別れる事ができた。


 これは決して永遠の別れとはならない。

 俺達はまた笑って再会できると信じているから。

 必ず目的をやり遂げて、お金を稼いで明日の糧を得るのだと。


 それがハーベスターとして生きる中で産まれた気概であり、絆の証なのだから。


「さて……この辺りが良さそう、かな?」


 それからものの数分ほど歩いた所で良さげな場所を見つけた。

 輝晶石に照らされた、比較的明るい岩場を。


 この輝晶石がある場所にはよく鉱脈があるとされている。

 つまり俺達採掘士には狙い目の場所という訳だ。


 ただ実際に掘ってみないと何があるかはわからない。

 それなのでひとまずはルルイ達を呼ぶ前に掘ってみる事にしよう。


「よいせっ! そらさっ!」


 買ったばかりの鉄マトックを奮い、さっそくと岩を砕く。

 思ったより岩質が柔らかい。さくさく掘れるぞ。

 さすが鉄製だな、銅製とは段違いだぜ!


「へいっ! うりゃあ!」


 なかなかに気持ちいい!

 これならどこまででも掘っていけそうだ!


 この調子でレア鉱脈よ、こぉぉぉい!!!


「そりゃあああ!!!!!」


 そう調子に乗って全力でマトックを振り下ろした、その瞬間だった。


 突如、「バキンッ」という音と共にマトック鉄部だけが弾かれ、後ろへ跳ね飛ぶ。

 木製の柄がへし折れてしまったのだ。


「んなにぃ!? 俺の自慢のマトックが――うっ、なんだ眩しい!?」


 しかも掘った跡からいきなり強い輝きが放たれた!

 眩し過ぎて目も開けていられない!


 一体何が起きたっていうんだ!?


「ま、まさか……超レアな極虹鉄を掘り当てたとかない、よな……!?」


 こんな事は初めてだ。

 ここまで眩しく輝く鉱石なんて聞いた事もない。

 じゃあこの光の元は一体なんだってんだ……!?


 でも強い輝きも一瞬の事で、徐々に光が収まっていく感じがする。

 そこで意を決して目を見開いてみたのだけど。


「え……」


 しかしそこで俺は信じられもしない物を目の当たりにした。

 良質の鉄でも掘り当てたのかと思っていたが、まったく違ったのだ。


 ただ、どうして〝それ〟が埋まっていたのか疑問しか生まれなかったが。




「ケツだ……人のケツを掘り当てちまった……!」




 なんてこった……!

 勢いあまって掘り当てたのが鉄ではなくケツだったなんて!


 ……どうやら俺は本格的に頭がおかしくなってしまったらしい。

 勇者にもなれず、採掘士として屈辱を受け続けた結果がこれなのかよぉーーー!?

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