第七話 村人たちからの冷遇
戦いは数時間も続き、魔族の残党たちが撤退するころには夜中になっていた。
半壊してしまった家もあり、戦いの爪痕が深く残っている。
だけど、どうにか持ちこたえることができた。
ほとんどの村人が殺されてしまうはずだった滅びの村は、今もまだ健在だ。
俺一人じゃ無理だったけど、あの黒い騎士がいたおかげで助かった。
戦いに必死だったし顔が隠れていたので気づかなかったが、あの騎士はオリヴィアというキャラに違いない。
オリヴィアは本来、聖女を狙ってくる敵として常に主人公たちの前に立ちはだかり、何度もバトルすることになる人物だ。
そのオリヴィア自身、聖女は世界の平和を乱す存在だと聞かされ、上からの命令で動いていたにすぎない。
ただ、後々分かるのだが、オリヴィアに命令を下していた彼女の祖国ナイトブライトの王や要人たちも、すでに魔族に操られているのだ。
そのことを知り、最終的には魔族の急襲から主人公たちを救って命を落とす。それがオリヴィアの末路である。
そんな彼女が魔族から村を救うため、一緒に戦ってくれるなんて。これはいったいどういうことだろう。
ゲームでは村が襲われているシーンを見ることはない。
実はオリヴィアが村を守るために戦っていた、そんな裏設定でもあったのだろうか。
「レイさん! よかったです、無事だったんですね」
物思いにふけっていたとき、セレナが俺のほうへと駆けてきた。
「キミこそ、無事だったんだな。本当によかった!」
「レイさんのおかげです。それに、女性の剣士さんが助けてくれたんですよ。今、その人を探しているんですけど、見当たらなくて」
「それは、全身黒い鎧をつけた騎士のこと?」
「え? そんな感じじゃなくて、銀色の鎧だったような……短い金髪で、とても強くてキレイな方でした」
それはもしかすると、オリヴィアの腹心の部下のシャーロットかもしれない。
オリヴィアがいたのなら、その部下がいてもおかしくないもんな。
そういえば戦いが終わって以降、オリヴィアの姿も見当たらない。
「とにかく、どうにか切り抜けられた。村人たちは無事かな」
「ケガ人はいますけど、今のところみなさん無事みたいです。ただ、お父さんが私をかばって戦ってくれて、そのときに大けがしてしまって」
彼は聖女を守るという任務を、必死に全うしようとしたんだな。
傷を負ったのは心配だが、とりあえず死ななくてよかった。
「お、おい! おまえ!」
突然、後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには数人の村人が怖い顔をして立っていた。
「おまえが……あの魔族たちを呼び寄せたんじゃないのか?」
「え? そんな、違いますよ」
いきなりあらぬ疑いがかけられて、焦り出す。
「嘘をつけ! 闇属性を使ってたじゃないか! 魔族の魔法とほとんど同じ属性だって聞いてるぞ」
「やめてください! レイさんは命がけで、私たちを守るために戦ってくれたんですよ!」
セレナが俺の前に立って、村人からかばってくれた。
「それも演技だったんじゃないのか? そもそも魔族が襲ってきたのは、こいつが来た次の日だ」
「それに、セレナちゃんも聞いただろ? 魔族が来る前に、この男が逃げろって言い出したの。なんで魔族が来るってわかってたんだい」
魔族が襲ってきたとき、セレナの横にいたおばさんだ。
シナリオを知っていたから、魔族が来るのを察知できたんだけど。そんな事情を知らない村人からしたら、確かに怪しいよな。
そのうえ、邪悪とされている闇属性だ。
セレナは必死の形相で俺をかばってくれているけど、俺はやっぱりレイヴァンス・モーティス。
こうなることは想定内だ。
だからこそ俺は、絶対に闇落ちなんてしない。村人たちから何を言われようとも、破滅フラグなんて立ててたまるか。
「セレナ、大丈夫。ありがとう。大丈夫だから」
「で、でも!」
「俺はセレナがかばってくれただけで、すごく嬉しいよ」
「レイさん……」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせてから、村人へ向き直った。
「村のみなさん、あなた方が無事で本当によかったです。お世話になりました」
それだけを伝えて踵を返し、俺は村の出口へ向かって歩き出した。
「待って! 待ってください!」
セレナが追いかけてきた。だが俺は、振り返ることなく歩きつづけた。
これでいい。俺ができるのはここまでだ。
あとのことは勇者たちが何とかするだろう。
俺は破滅フラグを立てないよう、実家に帰って引きこもる。それが生きるためには、正しい選択のはずだ。
決心を固めながら歩きつつ、村の出口付近まで来た。そのとき、森のほうから三人の青年がやってきた。
「あぁ? なんだ? 村、滅んでねえじゃん」
まずい!
勇者パーティーのユウダイ、ダイキ、タクヤだ。
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