第39話 華麗なる学園の王子様



 空は雲ひとつない快晴だった。彼は空までも見方につけて、今日という晴れの日を演出しているかのようだった。

 午前中の早い時間の電車内は、まだ乗客はまばらで、スーツケースを抱えて空港を目指す外国人観光客や、ビジネスマンが電車に揺られている。先頭に近い車両のあたり、若い数人の学生集団の中に、座席に腰掛けて電車の窓から見える景色をぼんやりと眺めながら、物思いにふける、風変わりな風貌の少女がいた。


 重たそうな黒い綿地のティアードジャンパースカートの裾には、白いトーションレースがふんだんにあしらわれてスカートの裾をぐるりと縁取っている。薄いブラウスの胸元には薔薇モチーフの大きなケミカルレースのリボンを飾って、お揃いの大きなリボンを頭に載せている。まるで絵本の中から出てきたような少女。


 私はまみやちゃんたちクラスメイト数人と、電車に揺られて千葉県にある空港へと向かっていった。


 結局、昨晩は一睡もできずに、彼に伝える言葉を考えてきた。衝撃の初対面と、それから数々の人には言えない際どい体験を経て、私は今ここにいる。まずは、これまでのこと。波乱の毎日ではあったけど、楽しかったことを正直に伝えようと思った。それから、急に告白してしまったこと。たとえ彼の思いは私とは異なっていたとしても、私が彼に伝えた気持ちは事実だったし、それは今も変わらないということを伝えたかった。


そんなことを思っているうちに、電車は日本の玄関口、成田空港へと差し掛かる。

地下鉄を降りて搭乗ロビーの方へ上がっていくと、これから世界へ向けて飛び立つ沢山の人たちが行き交っていた。


 チェックインに間に合うように余裕を持って到着したつもりだったけれど、集合場所には既にICクラスを含めて大勢の見覚えのある生徒たちが集まっていた。


 そして集団をよくよく目を凝らせば、見送りに来たたくさんの生徒たちに囲まれるようにして、一団の中心に王子がみんなからのお別れの言葉を受けてみんなに笑いかけているのが見える。


 遠巻きに見つめるだけでは、彼に思いは伝えられない。

私はもう、彼が向こうから気にかけてくれる私ではなくなってしまったのだから。

 そう思って、勇気を出して一歩前へ踏み出したとき、不意に彼が私の方を振り返ったかと思うと、一団を離れて一人こっちへ歩み寄ってきた。そばにいたまみやちゃんたちや他の何人かの生徒達は、それに気を使ってか、私達から距離を取って橋に避けていく。


「神崎くん。」

 目の前に対峙した彼はいつもの、あのいつもの微笑みを浮かべてこっちを見下ろしている。


「神崎くん。私、色々あったけど、あなたと過ごせてとっても楽しかった。あの夜のことはごめんなさい。でも私の言った言葉に嘘はなくて、離れてしまっても、これからもあなたのこと忘れな___。」


 最後の言葉を言いかけたとき、不意に彼が私の方へかがみ込んできた。いつかみたいに、片手で私の顎を掴んで、上に向かせて、半開きになった私の唇に彼の唇が重なる。


「俺も君に謝らなくちゃいけない。やっぱり君を諦められないよ。

 ____俺も好きだ。かれんちゃんのこと。」


「だからどうか悲しまないで、必ずまた君の元へ戻ってくるよ。」

もう一度よく顔を覗き込むようにして、彼ははにかんだ。


「え? 」

 しばらく何が怒ったのか理解できずに私は放心してしまった。見上げると、彼はまたいつもの意地悪な微笑みを浮かべてこっちを見下ろしている。


「本当だよ。僕を信じて。 じゃあねかれんちゃん。元気で。」

そう言うと、彼は踵を返してみんなにも最後にお別れの挨拶をすると、そのまま数人の職員とともに搭乗口の方へ消えていった。


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花園かれんの秘密~夢見るロリィタ少女×いじわる王子様の秘密の共同生活!?~ おださわ @sawa-oda

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