初稿で気をつけるべきことは、流れ。

 前回の「マスカラまつげ」の冒頭を書いてみる、をオレンジ11さんがなんと挑戦してくださいました!

 思わずこの場にコピペ! したいところですが、ぜひオレンジ11さんのページに飛んでみてください。コメントにも載せていただきましたが、オレンジ11さんの連載、おすすめです。


 https://kakuyomu.jp/works/16817330661679189333/episodes/16817330663062119430


 やはりそれぞれの個性が出ますね。ありがとうございます!

 他にも書いてみてくださった方がいらして、個性が出ていて面白いですね。


 テレビのトーク番組で、俳優の高畑淳子さんがお話しされていたことを、いまだに覚えています。高畑さんはその番組で、同じく俳優の古田新太さんをベタ褒めしていました。稽古をしていて、なんでそんなふうに自由でいられるんだろう、と驚かれたそうです。テレビによく出るようになる前から古田さんを知ってる自分としては、まったく接点はないけど誇らしい気分。古参アピール乙です!

 あるとき高畑さんは「なにを考えて芝居をしているの?」と古田さんに訊ねられたそうです。そのときの古田さんの言葉が、

「流れっすかね」

 とのこと。

 テレビを見ていて、勝手にガーン! と稲妻が落ちたような気分になりました。

 そう、流れ、なんです。ほんとうに、何事も、流れているか否か。


 作品を書いていて、詰まってしまうことがあります。ちょっと日を置いてから取り掛かろう、再考してみようとします。歩いている間も風呂に入っている間も、はたまた働いている間も考えてしまう。うまく打開策が見つかればいいのですが、見つからないと、「初めっから直すしかないのか」などと考え、どんどんPCの前に座るのが億劫になってくる。


 小説は、完結させなくてはなりません。

「たくさん書いています」という人の話をよく聞いてみると、未完の作品が原稿用紙換算で千枚を超えている、なんて言う。

 途中で投げ出したものは、書いた枚数には入らない、と思います。残念ながら。作品としてカウントすることはできません。

 とにかく最後まで、どうにかして書き終えなくては、あるいは連載中でしたら書き終わる意志を(異世界転生では難しいかもしれませんが、いちおう)持っておいたほうがいい。

 Webで書く場合、コンテストを意識した長編だったら10万文字、中編だったら2万文字以上書かなくてはならない、なので、物語が広がりすぎて横道に逸れたりしているうちに軌道修正して元の話に戻れなくなくなってしまう、なんてことも聞きます。

 そこで「流れ」を意識する必要があります。

 ゴールを設定します。これは具体的な出来事のことです。

 ラスボスを作って倒すために頑張る、あの人に振り向いてもらえるまで頑張る、お仕事小説だったら、チームが一致団結する、とか。

 書き始めたら物語は自動的に、終わりへと向かっていきます。作中の時間が縮んだり伸びたり省略したりしながら、最後まで至る。

 べつにハッピーエンドまで考えなくてもいいです。僕は個人的に、ハッピーだろうがバッドだろうが終わりかたは気にならない。たしかに、ずっとイチャイチャしていたカップルを読んでいて、最後別れてしまったら、読者はショックを受けるでしょう。「そんなものを読みたくなかった」と言われてしまうかもしれない。

 あるいはあなたがプロで、「この作品は最後はハッピーに」と担当から提案されるかもしれない(僕はそういう担当に会ったことがないけれど、そういう意向だってあるかもしれない)。

 さまざまな忖度や目論見があるかもしれません。

 ですが、そんなことは後で考えればいい。初稿が完璧、なんてことはまずないのです。改稿は必ずしなくてはなりません。場合によっては大手術だってあるでしょう。

 まずは自由に、とくに初稿は書いているうちに人物たちが彼らなりに動いて向かった結末まで、書いてみたほうがいい。


 漫画家で小説家の内田春菊さんのコミックで、何度もドラマ化された『南くんの恋人』という作品があります。突然小さくなってしまった恋人と、男子高校生が周囲に隠しながら一緒に暮らす話です。この作品は原作では、読者全員がショックを受けるラストが待っています。僕もびっくりしました。あとがきにありましたが、あんな最終回はひどい、と読者からたくさんの手紙がきたそうです。そのとき春菊さんは思ったそうです。

「でもゾクゾクしたでしょ?」

 たしかに、読者からすれば、思いもよらない展開の結末。でも、作品は不条理な設定の物語を残酷かつ切れ味抜群に締められた。だからこそ名作になった、ともいえます。

 作者にとって「紋切り型の流れ」を断ち切った真摯な終わりかただった、とも言えるのではないでしょうか。作者が最後にああしようと思って描いていたとしたら、さすがだな、としか。


 終わりが見えないことから、流れが滞りだす。どう決着をつけるかの一歩手前まで、ぼくらは意識をしておいたほうがいいのかもしれません。そのためにも、前回のように「骨」をざっくりと作っておいたほうがいい。横道に逸れても戻ってこれる地図。見知らぬ場所でとりあえずグーグルマップを開くように。


 古田新太さんは、台本を読まれ、稽古をしながら、「こうすれば面白い」とさまざまなアイデアをぶつけるのでしょう。書かれていない部分を相手役とのやり取りで作っていく。常識からでなく、こうしたら面白いんじゃないか? 本気の遊びです。

 小説のキャラクターだって、作者(舞台では劇作家・演出家)の想像を超えた動きをしてくれたほうが、面白くなるに決まっています。

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