第2話 『拝啓、国王様 勇者は殺されました。』

俺たちは逃亡を始める前に、さも辺境を探索してくるだけであるかのように王と会話を済ませ、国の外へ出た。


「ここからはテレポートで移動するぞ」

「はい、お願いします」


俺はシーファの手を握り、唱えた。


「<テレポート>!!」



光に包まれて数秒後、光が止んで目を開けるとそこには昨夜<夢我無駐>で見たのと同じ辺境の村があった。

これから、俺はここでシーファとのんびり暮らすのだ。誰にも邪魔はされてたまるものか。


「あの、レオン様。そろそろ手を放してもっらってもいいですか?」

「あっ、ああ、すまん」


せっかく手を握ったのだからその感覚をもっと楽しめばよかったと思いつつ、俺は手を離した。


「別に、私は勇者であるレオン様にだったらいくら手を握ってもらってもいいんですけどね」

「それ、どういう意味だ?」

「別に変な意味で言ってるワケじゃないですよ。ただ、守ってもらう為に手を握ってもらえるならいいかな、とは思うけど」

「つまり?」

「…。まあ、簡単に言うと守ってくれるなら何してもいいってことですよ」

「つまり?」

「…。鈍感すぎやしないですか?つまり、私を守ってくれるならキスだろうと子作りだろうと好きにしていいってことです」

「そ、そうか。いや、俺は付き人である君に対しては過去の勇者みたいな酷いことはしないから」

「その為、付き人を傷つけない為に国王に付き人を用意しないでくれって言ったんでしょ?でも、国王はどうしてもレオン様に付き人を連れてかせたかったから、レオン様のタイプとして私が用意されたらしいですね」

「聞いたのか」

「まあ、他の聖女はみんな死にたくないとか言って付き人になりたがらなったから私としては都合がよかったんですがね」

「つまり?」

「…もう勘違いしてくれてたっていいでしょ?ここまで鈍感だとはなぁ」

「その、シーファに都合がよかったっていうのは?」

「私も、レオン様のことが好きなんですよ。レオン様が私を好きなように」

「…」

「なんでそこで黙るんですか」

「いや、これって運命だったのかな、と」

「運命、ねぇ。私も聖女になったのは勇者の嫁になる為だったからね。それで、本当にレオン様のタイプは私だったの?」

「まあ、見た目はド直球だし、喋り方も俺の推しに似てるし…」

「おし、って何?でも、私を他の誰かと比べないでほしいな」


拗ねる顔も可愛い。ああ、神よ。俺をこの世界に召喚してくださり誠にありがとうございます!!


「結局、私たちは両想いってことでいいんだね」

「まあ、そうなるな」

「でもさ、こういうのって勇者であるレオン様から動くべきだと思うんだよね」

「つまり、もう告白したも同然なのに告白しろってことか!?」

「私、まだ誰にも告白されてないからさ。レオン様に、キミに告白してほしい、です」

「分かった…」


久しぶりの告白、しかも超タイプの付き人にだ。本来は主従の関係にあるはずだし、俺が告白してしまえば…。

ただ、俺はウソを吐くことが二度とできない。その呪いの所為にして、もうここは全部言う勢いで告白してしまおう。


「シーファ。俺はお前が好きだ。その艶のある純白の髪も、その黄金に輝く瞳も、その顔も、その仕草1つ1つも、喋り方も…」

「も、もういいですよ!言われて嬉しいですし、ウソが吐けないことも承知してはいるんですけど、そこまで長くなくてもいいです」

「あ、さっきから敬体と普段の喋り方がごちゃ混ぜになってるから普段の喋り方でいいし、むしろそっちの方が好きだ。それと、俺のことはレオンって呼び捨てにしてくれて構わない」

「分かったよ、レオン。じゃあ、カップルとして成立したワケだけど、実は勇者と付き人の両想い恋愛はご法度で、国王にバレると死刑っていうルール的なのがあるんだ」

「それ、先に言ってほしかったな。どちらにせよ、勇者としての使命から逃げるには死んだことにする必要があるから死んだことにするのは都合がいい」

「でも、レオンはウソが吐けないからそういうことにするのは無理なんじゃないの?」

「だから、シーファには国王に向けて俺が死んだことにする手紙を送ってほしい」

「分かった。そうすれば、もうレオンは私だけの勇者様だね」

「そうだな」


不意に肩をそっと叩かれ、振り向くとそこには1人の老人がいた。


「さきほどから村の前でイチャイチャされておりますが、野次馬が通行の邪魔になっているので場所を移してもらえませんかね?」

「「あ、はい」」



2人が国を旅立って2日後


「国王陛下!!大変なものが送られてきました!!」

「どうした、そこまで慌てて」

「それでは読み上げます。

『拝啓、国王様

勇者は殺されました。

恐らく、殺してきたのは魔王軍の幹部と思われます。

付き人である私がいたにも関わらず勇者を死なせてしまい、不甲斐ない限りです。

罪を償う為に私、シーファ・イシナミは自害します。

この手紙が国王様に届く頃には私も既に死んでいることでしょう。

シーファ・イシナミ』」

「ば、馬鹿な…。勇者が新たな魔王軍の幹部を1人たりとも殺されずに死んだ例はこの何世紀で初めてだ」

「まあ、召喚から1日も経っていないのですから仕方なかったのではないですか?それに、あの<スキル生成>は勇者のみに付与されるスキルの中では最弱でしたから」

「すぐに新たな勇者を召喚しろ!!」



翌日、魔王城にて


「ほう、新しい勇者が早々にくたばったと。これは、今が世界征服のチャンスかもしれんな」


そして、魔王軍は動き出す。

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