第23話 大忙しです。
文化祭当日。二年に一度ということもあり大盛況の中、幕を開けた。俺たちの制作したクラスの出し物プラネタリウムは人気で開店と同時に行列のできるほど人が集まった。想定しているよりも多くの生徒、生徒の家族、OB、外部からの来賓で廊下が埋め尽くされたことでクラスは大慌て。急遽作った整理券を配る羽目になり、由ちゃんとゆっくり話の出来る状況ではなかった。
「いやーこんなに賑わうとは想定外だったな~」
クラス委員長の…えっと名前忘れた。クラス委員長も言っているとおり、俺たちもプラネタリウムがこんなに人気が出るとは思っていなかった。学生が文化祭で作った出し物といっても出来はいい方だが…
「まあこの近くにプラネタリウムなんて施設ないしな」
「面白半分で来てる奴が大半でしょ」
クラスメイト達はそう言っていた。が俺たちは思い知る。
文化祭二日目。一日目と同じ点はお客さんが来たこと。違う点はお客さんが昨日よりも増えたことと。だが、一日目よりもクラスメイト達は慌てていない。一日目での経験とクラス委員長の見事な采配により、二日目も無事に乗り切ることができた。
そして迎えた文化祭最終日。ここまで由ちゃんと何度か話す機会はあったのだが俺は誘えずにいた。「一緒に回らない?」の一言が喉につっかえて口から出なかった。最終日は二日目よりも落ち着いていてみんなの成長を感じる。いや、順応と言った方がいいのかもしれない。
「お前まだ藤咲さん誘えてないのか?」
休憩時間になり、ぼーっとしているところへ康ちゃんが話しかけてくる。
「うん…」
「いつものお前なら由ちゃ~ん文化祭一緒に回ろ!って普通に話しかけるだろ。何かあったか?意識し始めちゃったか?」
「ぐっ…」
「おい、マジかよ。ついにか。ここまで長かったぜ。お母ちゃんは嬉しいよ」
「康ちゃんに産んでもらった覚えはないよ」
「俺だってねえーわ」
軽口をたたきあっていると由ちゃんがスタッフルームへと入ってくる。
「あれ、仁太休憩行ってなかったっけ?」
「今からだよ~」
「藤咲さん休憩行ってきていいよ。俺係変わるし」
「え!?」
「それじゃあー」
そう言い康ちゃんは俺の肩を叩きそそくさとその場を後にした。これは康ちゃんの気遣いだと分っている。誘うなら今だよって。
「由ちゃん一緒に回らない?」
「やっと言ってくれた」
「え?」
「ずっと待ってたんだよ仁太が誘ってくれるまで」
驚く。由ちゃんは分かっていたのだ。俺が誘いたがっている事を。分かったうえで俺のからその言葉を聞くまで。最悪文化祭が終わるまで言えなかったかもしれないのに。
「ほら、早くいくよ」
そう良い、彼女は俺の手を引く。この時俺の中で初めて文化祭が始まった気がした。
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