第4話 また明日。


その日から少しずつだけど、俺の日常は変化しつつあった。


「おはよ…」


少し顔を逸らしながらでも、確かに聞こえたその声に俺は反応が遅れてしまう。


「…あ、おはよう?」


「何で疑問系なのよ!早く行かないと遅刻するわよ」


由ちゃんが朝、挨拶をしてくれるようになった。高校に入ってから再開したが、9年という長いようで短い間に生まれた溝はマリアナ海溝くらい大きいと個人的に思っていたのだが…先日の手繋ぎ教室ダイブでその溝は埋まったのかもしれない。

(授業に遅れそうで手を繋いだまま教室に飛び込んだ時の事。※康ちゃんは遅刻になった)


でもそのせいで在らぬ噂などを立てられてしまった。俺は別に気にしないのだが、由ちゃんに迷惑のかかるような事は避けたい。


そんなことを考えていたのだが…


「仁太、一緒に帰りましょ」


「えっ…」


放課後になり、まだ生徒が在住しているこの空間で由ちゃんは話しかけてきた。一瞬にして他のクラスメイトの注目の的になる。


「えっ、て何よ!私と帰るのが不満なわけ!?」


「いやいやいや、そうじゃなくて!びっくりして…うん、帰ろうか?」


「そうしなさい」


先に教室を出ていく由ちゃんを追いかけて俺も教室を後にする。その直後、教室から盛り上がる声が聞こえるが聞こえないフリをした。


帰り道。


「あの、何で急に誘ってくれたの?」


「べ、別に。今日はたまたま一緒に帰ってる子が部活だって言うから1人で帰るのもなんか、あれだし…」モジモジ


なるほど、俺はその子の代わりと言うことだ。年齢も上がり大人びた印象を帯びた彼女、でも相変わらず寂しがり屋な所は変わっていないようだ。少し、ホッとした。


「なら今日は少し寄り道でもしていく?」


「わ、分かったわ。(これは…放課後デ、デートと言うものかしら!?)」


俺は彼女の前を歩く。時々後ろを振り返り付いてきているか確認する。が、由ちゃんは考え事をしているのか時々立ち止まったりしゃがんだりと落ち着きがない。

俺は周りを確認し意を決して彼女の手を引く。


「え、仁太!?」


「由ちゃん逸れる」


「そ、それは仁太の方でしょ!?で、でも今日は私の手を引くことを許可するわ」


「ありがたやぁ〜」


昔とは真逆のやり取り。それは懐かしさを帯びており俺も彼女も少し昔に戻れたのかもしれない。その後、俺たちは何でもない話をしながら帰路についた。


「今日はありがと。楽しかったわ」


「どういたしまして〜」


彼女を家の前まで送り届け俺も自分の家へと足を向ける。


「じ、仁太!」


後ろから声が聞こえ振り返る。


「また明日学校で!」


「うん、またね〜」


その後俺は家へと帰った。

次の日、また明日学校でと言う彼女の言葉は嘘へと変わった。

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