第42話 アルのお土産 16

 ジュリアンさんの言葉に、アルから殺気のようなものが流れ出はじめた。

 険悪な雰囲気。


 が、いきなり、アルが部屋の外へと出て行った。

 と思ったら、すぐさま帰って来た。


「あの、アル? 一体何をしにいってたの?」

  

「廊下で待機している護衛に頼みごとをしてきた」


 ついつい忘れてしまうけれど、アルは第三王子。

 ここへも護衛の方がついてきている。なので、今も部屋の外で待機しているんだよね。


 すると、執事のジュードがカートを押して部屋に入って来た。


「アルフォンス殿下。護衛の方からお聞きしましたが、ご用意するのは、こちらでよろしいでしょうか?」


「ありがとう、ジュード。ここへ置いてくれ」

と、テーブルの上を指差すアル。


 ジュードは持ってきたものをテーブルに並べた。

 水差しと、半分ほど水が入った手洗い用の器。そして、タオル。


 ええと、これ、何に使うの?


 とまどいながら、アルを見る。

 すると、いきなり私の両手を取るなり、水の入った器へと押しこんだ。


「え? ちょっと、アル? 何してるのっ?!」


「ジュリアンに触れて、手がよごれただろう? すぐに洗わないとな」


 アルは水の中で私の手を洗いはじめた。


「額を押しつけられた手の甲もしっかり洗うからな」


 そう言いながら、今度は私の手の甲にピッチャーから水を注いだ。


「俺は菌か? ……っていうか、やりすぎだろ? 怖いんだけど」

と、ジュリアンさんがあきれた声で言う。


 確かに。アルが変すぎる……。

 あっけにとられている間に、アルは私の両手を器からとりだし、タオルでしっかりとふく。


「これで良し。あとは仕上げだ」

と、満足そうなアル。


 仕上げ……?

 首をかしげる私の足元に、アルが、いきなり、ひざまずいた。


 はあ? アルまで、なにしてるの?


「俺は、ライラに忠誠どころか俺の全部を捧げることを誓う」


 そう言うやいなや、私の手をとり、私の手の甲に唇をしっかりと押し当てた。


 私の思考はとまり、静まりかえる部屋。


 プッとふきだしたのは、ジュリアンさん。


「なに、それ!? 俺に対抗してんの? すごい負けず嫌いで、笑える!」


 そう言って、おなかをかかえて笑いだすジュリアンさん。

 一気に顔が熱くなった。


「ちょっと、アル! なんてことするの!? 恥ずかしいよ!」


 アルは立ちあがって、真剣な顔で言った。


「ジュリアンがライラにしたことを、俺がしていないなんて絶対に許せないからな。上書きした」


「すごい独占欲! 怖い! 怖すぎて笑える……!」

 

 ジュリアンさんが更に笑いころげ始めた。


 と、こんな流れで、精神的に何かが削られた私。


「そろそろ、花の種のほうに集中したいんだけど?」

という私の言葉に、おかしな行動をとる二人も、やっと大人しくなった。


 私の変わった能力については、ジュリアンさんも体験したから、おおよそ察したと思うけれど、一応、簡単に説明する。


 人の邪気が黒い煙のように見えること。それを手で吸い取れること。

 そうすると、私の手の中に花の種がうまれること。それを庭に植えていることなどなど……。


 ジュリアンさんは私の説明を真剣に聞いてくれた。


「で、この花の種がジュリアンさんの邪気から生まれ変わったものです」


 そう言って、テーブルの上に、こんもりと山となった花の種から一つとり、ジュリアンさんの目の前におく。


 全体的に黒っぽい。粉がふいたような感じで、奥にちらちらと赤いものが見える。


 ジュリアンさんは、興味深そうに、花の種に顔を近づけた。


「なんか匂う……」

と、つぶやいたジュリアンさん。


 え? 匂う? 


 すぐさま、私も匂ってみた。


「あっ、ほんとだ。匂うわ!」


 邪気からとれた種で、今まで、匂ったものはない。

 これって、今までになかったタイプの種じゃない!? 

 

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(本編完結、番外編更新中)私のことが嫌いなら、さっさと婚約解消してください。私は、花の種さえもらえれば満足です! 水無月 あん @minazuki8

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