番外編

第24話 アルの悩み 

 無事、ライラと婚約した俺。今週末もライラに会いに行く。

 

 そのために、学園での休み時間、購入したばかりの本を机に積み上げて、片っ端から読んでいた。


「アル、何を読んでるの?」


 顔をあげると、ジュリアンが興味深そうに見ていた。

 

 ジュリアンは筆頭公爵家の嫡男。

 俺の幼馴染で親友、いや悪友か……。


 少したれた青い目に、ゆるくウエーブしている金色の髪。

 いつも笑みをうかべ、甘ったるい雰囲気で人をたらしこむ。

 だが、甘さの奥は、ただの腹黒だ。


 ジュリアンは積み上げていた本を手にとり、タイトルを読み上げる。


「なになに、『初心者にもわかる花の育て方』。次は、『植物を育てるために必要なこと』。こっちは、『丈夫な花のための土づくり』。『尊敬される庭師になるために』って。ブッ……。アル、何、目指してんの!?」


 笑いながら聞いてきたジュリアン。


「笑いたければ笑え。俺はライラの役に立ちたいだけだ」


「ライラちゃんって、花を育てるのが趣味なんだ? さすが、妖精姫だな」


 パトリックの事件で、悲劇のヒロインとして、有名になったライラ。

 あのパーティーの参加者たちから噂がひろまり、ライラは、今や貴族の間では、儚げな妖精姫として知れ渡っている。


 確かに、ものすごく愛らしくて、妖精みたいだというのは、おおいに納得する。


 だが、ライラは儚げではない。むしろ逆だ。

 不気味な花を、たくましく育て、満足そうに笑うライラ。そのまぶしい笑顔を思い浮かべたら、自然と笑みがこぼれた。


 とたんに、ジュリアンが、ぶるっと身を震わせた。


「こわっ! なに、その顔? 腹黒のアルが思い出し笑いなんて、気持ち悪いんだけど!?」


「腹黒は、おまえだろ。俺は断じて腹黒ではない」


「いやいやいや、シャンドリア辺境伯に婿入りできるよう、いろんな手を使って、外堀をうめただろ! 腹黒以外のなにものでもないけど?」

と、ジュリアンが、あきれたように言った。


「絶対手に入れたかったからな」


 俺がきっぱり言うと、驚いたように、ジュリアンが目を見開いた。


「アルにそこまで言わせるライラちゃんかあ。会いたいな……。今週末も辺境に行く?」


「ああ」


「俺も行っていい?」


「ダメだ」


「ちょっとだけ会わせてよ」


「嫌だ」


「顔を見るだけでいいからさ」


「もったいない」


「はあ!? なに、その心の狭さ? 嫌われるよ?」


「そんな心配は無用だ」


 俺はジュリアンを睨んでから、きっぱりと言い放った。


「そうだ! すごく美味しいお菓子を見つけんたんだ。お土産にすれば喜ばれると思うよ? 教えてあげるから、俺も連れてって」


「いや、いい。母上から、ライラの土産に菓子を沢山預かっている」


「コリーヌ様もライラちゃんを気に入ってるんだ?」


「二人で文通するくらい仲がいい。俺には手紙のひとつもくれないのに」


「え、なに、拗ねてんの? 手紙を書く暇もないくらい、アルは会いに行ってるだろ……」

と、笑いがとまらないジュリアン。


 そんなジュリアンを放置し、ライラへの土産を考える。

 やっぱり、ライラは珍しい花の種がとれた時、一番喜ぶんだよな。


 つまり、王都ならではの珍しい邪気を俺がつけていければいいんだが、ライラが言うには、俺には、最近、邪気がついていないらしい。


 辺境伯に婿入りが決まったが、王位継承権は残っているため、第二王子派の貴族たちから、いまだ陥れるべく狙われている。


 そいつらからの邪気なのか、辺境へ行く度、ライラが取ってくれていた。だが、通っているうちに、邪気がつかなくなったようだ。

 

「今のアルは邪気をはねかえすほど、幸せそうだもの。ライラちゃんのおかげね」

と、ライラの能力を知っている母上はそう言う。


 確かにな。邪気がつかなくなった今、俺は心身ともに絶好調だ。

 もちろん嬉しいが、ライラに珍しい花の種を土産にできないことだけは、少し残念でもある。なんだか複雑だ。


 目の前のジュリアンを見る。

 甘ったるい顔で、人をたらしこむ奴。女に関しては更にその能力が発揮される。

 つまり、女絡みで恨まれている可能性は大きい。珍しい邪気がついているかもな……。

 

 よし、ライラへの土産はこれに決めた。


「気が変わった。ジュリアン、今週末、一緒に行くか?」


「え? 行っていいの?」


「ああ。やっぱり、おまえは俺の親友だからな。ライラに会わせたい」


「やった!」


 喜ぶジュリアンを見ながら、俺は土産が決まったことに満足して微笑んだ。

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