第7話 話します
「母上、大事な話があるから、人払いをしてくれ」
アルが、コリーヌ様に頼むと、コリーヌ様は、楽しそうに目を輝かせて言った。
「アル。ライラちゃんと結婚したいなんて言うのは、まだ早いわよ」
「違うっ!」
むきになって叫ぶアル。
普段は、年より大人びた様子のアルも、コリーヌ様の前では、年相応の少年に見えるね。
が、それよりも、私たちを見るメイドさんたちの生暖かい視線が痛い……。
「ほんとに全然違います。そういうのは、これっぽっちもないですから」
たまらず私も否定した。
「それは残念ね」
コリーヌ様は、笑いながら答えると、すぐに人払いをしてくれた。
私たち三人だけになったとたん、アルが真剣な顔でコリーヌ様に言った。
「今から、ライラの特別な能力のことについて話す。俺と母上を信用してくれて話してくれるんだ。絶対に黙っていて欲しい」
コリーヌ様は少しだけ驚いたような表情をしたが、すぐに、うなずいた。
「私が聞いても良いのなら、もちろん、絶対に秘密は守るわ」
きっぱりと言い切ったコリーヌ様は、さっきまでの優し気な雰囲気に威厳が加わって、さすが、側妃様という感じ。
なんだか、緊張してきたな…。
私は、大きく深呼吸をしてから話しを始めた。
「私は人に黒い煙みたいなものが見える時があるんです。それは、邪気なんだと思います。何故だかわかりませんが、それを私は手で吸い取ることができるんです。しかも、吸い取ると私の手の中で、その邪気は花の種に生まれ変わるんです。なんか手品みたいなんですけどね」
緊張のあまり、早口で一気に説明した私。
信じられないような話なのに、コリーヌ様は笑うこともなく、興味深げに聞いてくれている。
ほっとした私は、少し落ち着いて、話を続けた。
「実は、コリーヌ様には、頭のところに黒い煙が見えていて……。玄関からこの部屋に来るまでの間に、後ろを歩きながら、少しだけ黒い煙を吸い取りました。勝手にすみません……。それで、これが、その時、私の手のひらで生まれてきた花の種です」
私は、ドレスのポケットから小さな花の種をとりだすと、手のひらにのせて、コリーヌ様のほうへ差し出した。
息をのんで見つめる、コリーヌ様。
「こんな珍しい種、見たことがないわ。変わった感じね…」
コリーヌ様は、言葉を選んで話されてるけど、見慣れていない人にとったら、不気味だと思う。
というのも、この種は、赤に黒で何か模様みたいなものが浮きでているから。
「人の邪気からできるせいか、変わった色や形が多いんです。文字や図形が浮きだしてくるものもあります」
「ライラはそれを庭に植えてるけど、どれも不気味な花が咲くんだ」
と、アルが口をはさんだ。
「え? 植えているの? ライラちゃんは触っても大丈夫なの?」
と、心配な様子で聞いてくるコリーヌ様。
私は、大きくうなずいた。
「はい! もとが邪気でも、自分の手の中で生まれ変わってるんで、不気味でも、なんだかかわいくて……。もちろん、かぶれたりもしないんですよ。アルもすごく心配してくれるんだけど、大丈夫です!」
「そうなのね……。それで、その花たちは、また次の年も咲くの?」
「それが、一度きりなんです。どの花も咲き終わると、跡形もなく、茎もすべてが消えるんです。なんか、その様子が、邪気が浄化されていくような気がして、嬉しいんです。だから、どの種もすべて植えます。ひとつも同じ花はないんですよ!」
私は興奮気味に説明した。
「花として生まれ変わって、全うできて、ライラちゃんに感謝してるんでしょうね。
そういえば、ライラちゃんの瞳って、きれいなグリーンよね。やっぱり、植物に縁があるんでしょうね。まぶしいほどの金色の髪の毛は太陽の光みたいだし、妖精みたいだわ」
と、優しく微笑んだコリーヌ様。
「妖精だなんて! とんでもないです!」
ぶるぶると頭を横にふる私を、おもしろそうにコリーヌ様が見つめる。
お世辞とは言え、そんな風に言ってくれるなんて、やっぱり、女神様は優しいね。
しっかり、黒い煙を吸い取ってしまわないと!
うん、力がみなぎってきた!
私は心をこめて、コリーヌ様にお願いした。
「今日、コリーヌ様についている黒い煙を全部吸い取りたいんです。さっきは、少ししか吸い取れてないけど、頭痛がましになったのなら、病気じゃなくて、邪気がついてるだけかもしれないですから。変な能力で、信用できないかもしれませんが、今より悪くなることはないです。だから、私にやらせてください!」
「ありがとう、ライラちゃん。あなたのことは信用してるわ。なんといっても、この用心深いアルが信用しているのだもの。それに、私の頭痛、いろんなお医者さんに見てもらったけれど、原因がわからないの。どこも異常はないそうなの。それでも、治らないから療養に来たのだけれどね……。お願いしたいけれど、ライラちゃんは、その能力を使っても大丈夫なの? 疲れたりしない?」
「それは、大丈夫です! それに、このお部屋、花が沢山あるし……。もし、力を使いすぎたとしても、花に癒されたら、すぐに元気になりますから、ご安心ください!」
アルが、心配そうな顔で言った。
「母のことを頼む、ライラ」
「うん! 全力で吸い取るから!」
私は力強く答えた。
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